ヒナの悩みは……
わたくしが暮らすグランタル聖王国は北大陸の西側に広大な領土を持つ北大陸屈指の大国ですの。
その首都、聖都ネオシュバルツはアストラル世界最大の都市でありまして、ディーテ教の総本山がある聖地となっております。
「はぁ、どうしてピンク色の髪に生まれてしまったのかしら?」
手鏡を眺めながら、わたくしは嘆息していました。悪役令嬢になりたかったというのに、ヒロイン感丸出しの桃色をした髪が気になっているのです。
「金髪か、せめて黒髪が良かったですわ。ピンク髪では縦巻きロールにしても似合いませんし。ブルーの瞳は期待通りなのですけれど……」
悪役令嬢と呼ばれないのは見た目の印象もあるだろうと、わたくしは考えております。
アストラル世界に髪を染める習慣はありません。髪色は神が与えた個性であり、染め直すなんて神への冒涜だとされているからですわ。従って、わたくしが染め直しなんてできるはずもなく、現状を嘆くだけであります。
わたくしが意味もなく髪を触っていると、
「お嬢様、お祈りの時間です」
専属メイドのエルサが現れました。どうやらディーテ様に祈りを捧げる時間みたいですね。
「エルサ、ありがとう。今向かおうと思っていたところよ」
エルサに礼を言い、わたくしは馬車へと向かう。朝と夕方のお祈りは欠かしたことがありません。お試しではありましたが、転生させてくれた感謝をわたくしは忘れておりませんの。
馬車での移動中、溜め息を吐くわたくしにエルサが話しかけてきます。
「お嬢様、自費出版されました書籍ですけれど、貴族や上級市民を中心として、多くが買い求めてくれました。なかなか好評を博しているようですよ?」
彼女が話すように、わたくしは小説を書いていました。悪役令嬢とは何かを世に知らしめるため、読み漁った漫画を思い出しながら物語にしています。
不意に知らされた話は吉報です。何しろ、それは悪役令嬢となるための布石。聖女というイメージを一変しようと書きしたためたものなのですから。
「エルサ、まずは世の認識を変えねばなりません。世間に悪役令嬢を認知させるためですから、たとえ白金貨が一万枚必要だろうと重版してください」
「お嬢様、重版はいたしますけれど、金貨でも充分です」
今世ではブラックカードは持っておりません。しかしながら、わたくしには何でも買えると聞かされている白金貨がございますの。正確な価値は分かりませんが、お父様から大抵のものは買えると伺っておりますわ。
「とにかく世間に悪役令嬢を認知させるしかないのです。お願いしますね?」
悪役令嬢ロールをするだけではいつまで経っても変わらないのです。目的を遂げるための一歩として、悪役令嬢とは何かを知ってもらわねばなりません。
「いやでも、ますますお嬢様の評価が高まっておりますけれど? 聖女であるだけでなく、文才までお持ちとは流石だと……」
え? どうしてなの?
あの物語は思いつく限りの悪行を詰め込んでおりますのに。どうしてか聖女という認識は固定されたままで、わたくしと悪役令嬢を結びつけてはもらえないようです。
「じゃあ、わたくしはどうすればいいのです? なぜ聖女などと呼ばれるのでしょうか?」
「お嬢様、失礼ですが執筆されたあと読み返されましたか? 私の印象でも聖女としか思えませんでしたが……」
どうも内容に聖女成分が含まれていたみたいね。かといって、わたくしは校正も兼ねて読み返しており、わたくしが知る悪役令嬢がそこには綴られているはず。
「どういうシーンでしょうか? 精一杯に悪役を演じさせたつもりなのですけれど」
物語の主人公は公爵家のご令嬢ですの。名前こそ変えていましたけれど、読者にわたくしが悪役令嬢だと分かるように書いたつもりですわ。
「お嬢様、あの内容は絶対に悪ではありません。せめて下級貴族を叱責する場面はもっと冷酷に処置すべき。主人公は全ての罪を許すような印象ですし、そもそも公開説教に至ったのは彼らが犯罪行為をしたからです。主人公の取り巻きも明らかに善人ですし、お嬢様に悪の素養がないことだけが浮き彫りとなっていますね」
わたくしだって頭の中では分かっているわ。しかし、いざ書いてみると厳しすぎるような気がして、気付けばエルサが指摘するような内容になっています。
「しかもですね……」
「まだあるのですか……?」
苦い顔をするしかありません。力作だと考えていたというのに、感想を聞くと正反対の物語となっていたようです。
「王子様に断罪されるシーン。主人公は無実であり、罠であったことを知っていました。けれど、下級貴族を庇うように罪を認めております。大勢がこの断罪シーンで涙したという話を私は耳にしていますよ」
エルサの文句ともいえる指摘が続く。既にわたくしの精神力はゼロであったというのに。
「王国を追放されたあともそう。僻地で食べることすら苦労していましたが、それでも弱者に施しを与え、自身は痩せ細っていました。餓死寸前の少年を助けようと神に祈るシーンは聖女そのもので、私も思わず目頭が熱くなってしまいましたね……」
「いや、そこは悪評を覆すためのシーンですし……」
「そもそも悪評など存在しましたか!? 首尾一貫、聖女だったでしょ!? 恐らく物語の読者は悪役令嬢を誤解しているはずです!」
反論しようと思うも、即座に否定されてしまう。完全に逆効果であったことを、わたくしは知らされていました。
「そんなぁ……」
「ま、まあお嬢様はそれで良いのです! 泣き顔はやめてくださいまし! 美しいお顔が台無しですから……」
泣き出しそうなわたくしに、エルサは宥めるようにして言葉をかけてくれます。
わたくしは溜め息を吐いていました。
現状は聖女としての評判が高まるばかり。でも、それじゃ駄目なのです。わたくしは悪役令嬢となるために、転生していたのですから……。
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




