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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策7 幻世に根差す神咒

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19-神霊セフィロト

『はぁ、はぁ……ウィステリア、ユスティー、カルラ……!!』


地獄の王としての力を存分に振るっているエンが、無理やり従えている死者たちの軍勢と暴れ回っている中。

あまりのことに動けずにいた蜜柑は、眼下の樹界を見つめて苦しげに大切な家族の名前を呼んでいた。


死んでしまった人間と会うなんてことは、この神秘の時代にあっても普通できることではない。

場合によっては、喜ぶべきことであるとさえ言えるだろう。


しかし、当然それもちゃんと生前のままに、何の揉め事もなく話すことができる場合に限る。

今回の場合は、エンによって首輪をつけられている上に、敵と戦う捨て駒までされているのだ。


少し微笑みかけられたくらいで、ほとんど会話などができなかったこともあり、蜜柑は目に見えてキレていた。


(あの男、ウィル達の死を何だと思ってるの……!!

だけど……本当は彼の言った通りだ。自分がわかってないと、どうしょうもない。私はちゃんと彼らを愛せていたのかな。

存分に愛ではしたけど、私はいつも一歩引いていた。

転生してラノベの主人公みたいにはなったけど、これは私の物語じゃなくて、私から見たみんなの物語。

やっぱり私は、自分自身を切り離して大切にしていた。

失っても自分のことだと認識しないように。

もう、悲しまないように)


手に張った水を目に押し当て、崩れ裂けた目の治療をしている彼女だが、タルトの力によって視界は確保している。

シャイターン達と並んでウィステリア達が暴れている光景は、はっきりと見えていた。


太陽は森を焼き、歌は樹木を消したり弾き飛ばしたり、不発に終わらせたりしており、契約は逆に操っている。


それでも、樹界の中はクリフォトの体内も同義だ。

たとえ公平な力関係にしたとしても、物量で無理やり押し込められてしまう。


(でも、エリスにあの子達が殺されかけた時、私はちゃんと悲しんだ。彼女に煽られたからって部分もあるはずだけど、それでも暴走して、愛しているんだって明言された)


クリファだった者達は、多少威力は落ちるにしても同じ力を持っているため、より簡単にやられていた。

シャイターンは神秘をかき消す力を相殺され、セファールは飲み込んだ木などを操って内から食い破られていく。


(あの時は夢か何かかだったけど……今回は本当なんだろうなと思ってしまったから、ベラやアオが壊れちゃったから。

私はまだ、倒れちゃいけないと思った。ちゃんと壊れずに、あの邪悪を殺さなきゃいけないと思った)


シャイターン達が消えてしまえば、次は当然ウィステリア達だ。そのままの勢いで力をかき消され、飲み込まれ、取引の影響で契約も切れて殺される。


心臓を抜き取られて念入りに潰され、首と胴体を切り離され、ズタズタの肉塊として消えていく。

しかし、その表情は最後まで優しく、空にいる彼女のことを見守るような目つきだった。


(でも、殺したいならなおさら私は感情を抑えてはいけないんだ。この感情は私という力の本質であり、方向性。

死後も利用され、冒涜されるあの子のために。

私は、ちゃんと悲しんで、怒って……あの精霊を、恨もう)


ウィステリアが2度目の死を迎えたことで、今度こそ蜜柑は、感情を誤魔化したり押し込めたりすることなく、本当の意味で能力を解放する。


決して涙は流れない。ガーベラやアオイのように、自分の身に起きたことだと認識して狂い、暴走したりはしない。

それでも、疲れ切った彼女はたしかに悲しみ、怒り、恨んでいた。


眼下には再生を始めているクリフォトの樹界。

まだ生きているドルチェにまたもや心神喪失になって倒れるジエン、そして確信犯的に笑うエンの姿が。


それらを見つめる蜜柑の瞳には、いくつもの世界を内包しながらも、若干暗い光が混じる輝きがあった。


"生誕せよ、生命の樹(セフィロト)"


もう逃さない。そのような意志を感じさせる容赦のなさで、彼女は再生しかけているクリフォトの樹界に介入する。


ウィステリアやジエンに破壊されていた樹界には隙間が多く、周囲の環境を上書きされる前に乗っ取るのは簡単だ。

のたうち回るヘビのような樹木に差し込み、神秘的で雄大な神樹を生やすことで、主導権の取り合いを開始した。


同時に、彼女は自らの格を自覚して受け入れる。

そこらにある1本の樹ではない。

固有の名詞がある、有名な樹でもない。


彼女は樹という概念そのものであり、それが生み出す環境。

一時的に変化させるだけでなく、その気になれば星を上書きして環境を定着させることすらできる、正真正銘の神。


"呪神-セフィロト"


神霊と成った蜜柑は、今まで得てきた眷属たちの力をすべてその身に宿し、クリフォトが潜む不完全な樹界を見下す。


木々と岩石によって創られた足場に立つ姿は威厳に満ちており、精霊の神秘的なオーラは黒く染まっていた。


『わかるよ、クリフォト。あなたの位置情報』


叩き落されたエンが何やら叫ぶ中、蜜柑はなんの感情もない声色でつぶやくと、空中からかき消える。

次の瞬間、彼女が現れたのはまだ半分ほど樹界を保っている地上……クリフォトが潜んでいた木の真横だ。


『っ……!?』

『壊れようか、一旦』


間にあった空間を破壊し、風による加速も含めた高速移動を行っていた蜜柑は、不自然にギシギシと動いた木に手を添える。


すると、その木を含めた辺り一帯はたちまち破壊され、中に隠れていたクリフォトは無様に転げ出てきた。

彼は長く生きてはいるが、未だ精霊。

まともに戦う場合、神霊と成った蜜柑に敵う相手ではない。


とはいえ、クリフォトの精神性自体は、なかなかに完成されているものだ。元々、植物に意志が宿ったものであるため、生死についてもまともな感性などないのだから。


眷属達から厄介な能力を還元しているため、戦い方によってはまだ拮抗できることもあり、落ち着いた様子で体勢を立て直している。


『くっ、やかりやすく強い力は厄介ですね』

『あなたが還元してる力は、無神論、愚鈍、拒絶、無感動、残酷、醜悪、色欲、貪欲、不安定、物質主義。

ほとんど搦め手になるから、使いづらいだろうね。

世界を滅ぼすなら、より確実だろうけど』

『私の情報を、見ないでくれますか……!!』


素早く距離を取ったクリフォトは、完全に見通されていながらも強気に樹木を操る。


一部を分捕られたとはいえ、大部分はまだ彼の樹界だ。

彼女を貫くべく、四方八方から木を向かわせていく。


だが、蜜柑もそれを理解していないはずがない。

軽く足を踏み鳴らすと、それだけで周囲に絶対的な防御力を持った木を生やし、テント状のそれで完全に防いでしまう。


クリフォトの木には無神論、愚鈍、不安定などの力が込められているのだが、それすらも遮断していた。

唯一突破できているのが、他の影響を受けない拒絶な力が込められた木なのだが……


『見えてるよ、その木の軌道』


拒絶は影響を受けないだけの力でしかなく、ただの木同士でぶつかり合うだけだ。ゆっくりとねじ込まれることになり、蜜柑には軽々防がれたようだった。


直後に三角錐は激しく燃え始め、触れていたクリフォトの木にも次々と引火していく。


『でしょうね。私が得た眷属の力は、敵と直接戦う力などではないのですから。我々は星を呪い殺すモノ。

親に望まれるままに、神に見放された恨みのままに』


クリフォトの攻撃はすべて燃え尽きた。

ついでのように周囲の樹界も破壊され、この場には生命の樹が根を下ろす。ここはもう、蜜柑の世界である。


しかし、肝心のクリフォトは既にこの場にいない。

ドス黒いオーラに誘われるように空を見上げると、そこには背後に光輪を顕現させている彼の姿があった。


もちろん蜜柑は監視し続けて知っていたことだろうが、間の空間を破壊する準備は必要だ。行き過ぎないよう、正確な角度で飛べるよう、しっかり調整している。


『距離を取ったって……』


"インストール・ベルゼブブ"


蜜柑は相手に隙を与えないように、ほとんど間を置かず飛び立った。だが、クリフォトも直接的な戦闘で勝てないと理解しているからこそ、こうして距離を取っているのだ。


勝つために動いており、その結果の行動がこれなのだから、ちゃんと迎撃が成功しないはずがない。

正確無比な一撃は腹部にクリーンヒットし、燃えながらひび割れているが、同時に蜜柑は思考力を失って落ちていく。


『ぐふっ……ここに木はありません。高速移動してきたばかりでは、さっきの足場のように創ることもできないでしょう。

有利なのは、搦め手ばかりの私の方ですよ……!!』


スピードの乗った一撃をモロに食らい、かなりのダメージを受けているクリフォトだが、彼には傷すらも貯蓄する貪欲の力がある。


蜜柑が水で癒やすよりも素早く全快し、落ちていく彼女にさらに追い打ちをかけるべく手を伸ばしていた。


"インストール・サタン"


真っ先に使用するのは、シャイターンの力。

蜜柑の神秘はほとんどかき消され、ただの人間として落ちていく。


絶対的な価値も、還元したものでは確実な守りにはなり得ない。樹木に付与するのならばともかく、蜜柑自身が常にその価値を得ることなど不可能なので、失われた思考力で抵抗もできずに彼女の神秘は消えた。


"インストール・アスタロト"


続いて、ディアボロスの力。

ただでさえ思考力を奪われている蜜柑ではあるが、油断することなく人格が破壊されていく。


もちろん、神秘である以上すぐさま廃人にはならないだろう。しかし、少なくとも今の彼女は人格が壊れていた。


"インストール・ルキフグス"


"インストール・アスモデウス"


"インストール・リリス"


さらに追い打ちをかけるように、彼女は強制的にすべての感覚を拒絶させられ、脳裏には残酷な夢が映し出される。

もはやまともな人格すらないはずだが、慎重に慎重を重ねた結果、心身の状態も不安定にされていた。


『父は、世界に滅んでほしいと願っている。

愛する者が死んだ世界など、美しく感じられないからと。

母は、世界に滅んでほしいと願っている。

1人残された世界には、何一つ希望など持てないからと。

だが、彼らは共にこの世界を大切に思っている。

愛する者が、美しいと言っていたのだから。

大切な仲間達と共に、守った世界なのだから』


蜜柑が人形のように空気に揉まれながら落ちていく中。

いくつもの世界を内包した瞳を虚ろに輝かせるクリフォトは、何かを求めるように虚空に手を伸ばしてつぶやいた。


明らかに生死に興味がない精霊が。

一見、あまり我を出さないように見える穏やかな神秘が。

不自然に世界滅亡を望む舞台装置が。


何も無い空っぽの洞だからこそ、より狂気的に見える様子で願望機としての機能を語る。


『おまけに彼らは、自殺どころか素直に殺されることすらできないと言う。この美しい世界を、代わりに見届けないといけないのだから。仲間達に生きろと言われたのだから。

だから、相反する願いを持つ心は私という終末装置の存在を願ったのだ。たとえあなたが父の差し金であったとしても、私は乗り越えて世界を滅ぼす。そのために、取引を』


すべてを語り終わったクリフォトは、一転して冷静な様子で手を打ち鳴らす。落ちていく蜜柑にも届くほどの音量。

世界は不気味に響き、拒絶を貫通するように揺れていた。


『この情報を対価に、あなたは自力で脱出できない。

さらばだセフィロト。クリフォトである私の、最大の敵』


"インストール・ナヘマー"


ありとあらゆるデバフの締めに、蜜柑はある取引を交わす。

時と場合によっては何よりも有用な、この星に関する取引を。


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