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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策7 幻世に根差す神咒

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201/205

20-絶対的な勝利を

エンが戦い、蜜柑が戦っている間。

意識のないドルチェを守り続けているタルト、グプトの2人は、延々とのたうち回る樹木から逃げ惑っていた。


ある程度破壊されたとはいえ、樹界の中はクリフォトの体内と言えるような場所だ。

何となく一緒についてきているディアボロスも、能力を使うと全員を巻き込んでしまうため役立たず。


状況としては、それなりに不利な状況である。

しかし、彼女達は狙っている場所などの情報を知り、危険を素早く察知して、ついぞ一度もまともに食らうことなく避け切っていた。


「はぁ、はぁ……!! おじさん、あたしたちの位置じょうほうって、かくせないの?」


ドルチェをおぶっているタルトは、2人分の危機察知をしなければいけないため、かなり辛そうにグプトに声をかける。

危険な場所やタイミングがわかっても、彼女はそれがわかるだけ。


蜜柑とは違って、他に防御に使える能力はない。

避けるのはすべて生身でこなさないといけないので、段々と激しくなってきた攻撃に相当参ってきているようだった。


「スハァー……何度もやってる。だが、クリフォトと俺達じゃ格が違うようでな。割と隠蔽も突破されちまう。

それでも、エンのお陰で弱ってるからマシな方だぜ。

単純な物量で押し切ってきてやがる」

「じょうほう、意味ないじゃん。やっぱ役立たずだな」

「数撃ちゃ当たるになってる分、楽になってる方なんだぜ。

どちらにせよ、俺達に必要だったのはその小娘が起きることだったからな。ほれ、勝ちに行くぞ」


頼りない返答に毒舌で返すタルトだったが、彼に促されたことでおぶっている自称姉を振り返る。

すると、視界に飛び込んできたのは絶対的とは程遠い寝起き顔を晒している美少女の姿だった。


「ドルチェ、やっと起きたんだ」

「ん〜……タルト、今どういう状況?

周りが森になっているし、足がすごく痛いんだけど」


彼女に声をかけられたことで、ようやくはっきりと目を覚ました様子のドルチェは、少し体を起こして問いかける。


腹部など多くの傷は治っているが、なくなっている足は蜜柑では治せない。寝ている間もうめいていることが多々あったので、やはり相当痛むようだ。


彼女が起きたことで、タルトは先程よりもアクロバティックに回転して避けながら情報共有を行う。


「ウィステリアが生命の樹を完全にもやしつくした。

ここは外。閉じられてはいない、クリフォトの森。

欠そん部位の再生は蜜柑じゃできないから、そのまま。

敵はあと、クリフォトとフュイールだけ」

「なるほどね〜……結局、あの騎士は裏切ったんだ♪

うん、状況は大体わかったよ。じゃ、終わらせよっか☆」


本当に必要最低限のことしか伝えられていないはずなのに、ドルチェはすぐにそれ以上のことを理解して美少女を迸らせ始めた。


足がない状態でも動けるように消えていた純白の翼を広げ、自分の役割を果たすべく仕込み傘を空に向ける。


すべてを拒絶するフュイールは、他の影響を受けない。

精神系も普通の攻撃も、すべてを防ぐ最強のタンクだ。


もちろん神と成ったウィステリアであれば、それも無視して倒せただろう。だが、彼が死んでしまった現在、蜜柑以外であの防御力を確実に貫けるのは彼女しかいない。


ベルゼビュートに引き離された彼と、彼の力を還元しているクリフォトに、致命傷になるような手痛い一撃を与える。

それが、ドルチェの果たすべき役割だった。


「スハァー……位置情報に関しては任せろ。

ベルゼビュートの誘導、お前が銃を向けるべき方向、タルトが観察すべき対象の位置。すべて送りつけてやる」


"クラッキング"


煙草を吹かしながらその様子を眺めていたグプトは、彼女の結論に複雑な表情を浮かべながら口を開く。


伸ばした手からは、暗号化されたような文字列が煙と一体化するように流れ出て、2人の少女、そしてどこかにいるピエロをめがけて飛んでいった。


「おっとっと、クリフォトはこっちだったんだね」

「照準はあたしが合わせる。うまってないなら見逃さない。

クリフォトには、ぜったいに当たるぞ」


"危険は常に目の中に"


ドルチェがクリフォトの方向に銃口を向けると同時に、隣を飛ぶタルトも能力を使う。

すべてを見ている星空のような瞳を輝かせると、仕込み傘を握るドルチェの右目にも似たような模様が。


大体の位置情報だけでなく、少し動いただけでも位置の変化を読み取れる力を付与した。


「オッケーオッケー☆ あとはベルゼビュートがフュイールをこの軌道上に連れてくれば……」


たとえ1ミリズレただけでも、狙うべき場所は正確にわかる。

それだけ正確な場所がわかる以上、その攻撃は必中だ。


やや拡大解釈にはなるが、そう組み立てられた式は絶対的な価値を確実に邪悪の樹へ叩き込むことだろう。

今や世界は、華々しい道化師の到来を待ち望む。




「くっそ、マジでこいつは何なんだ。何にも感覚がなくて、ちゃんと当たってるかもわからなくて、何でこんなにずっと俺を追ってこられるんだ……!?」


ドルチェが的の重なるタイミングを待っている中。

延々とベルゼビュートに斬られ続けるフュイールは、流石にうんざりした様子でぼやく。


他の影響を受けない神秘で、斬られてもただ弾くだけとはいえ、やはりひたすら追われて剣で叩かれるということには、無関心を貫けないようだ。


影響を受けない防御力以外に戦闘能力がない彼は、されるがままになって段々と空に打ち上げられていく。


「たしかに斬れないけど、クリフォト様の壁になるのが君の厄介さだからね。ちゃ〜んと止めるよ」

「もうちゃんと話だって通じてねぇのに……!!」


首を斬られても弾くだけ、手首を斬られても弾くだけ。

ただ斬撃の勢いで吹き飛ばされるだけの美少年は、静止することもできない全自動斬撃ピエロに苛立ちを隠せない。


口では内面的にも影響は受けないと言っていながら、今では位置どころか感情にも影響を受けていた。


そんな拒絶も、ついにクリフォトとドルチェの間に繋げられた射線の中央に。すべてを完全に把握されたことで、必中の弾丸に心臓を一撃で貫かれてしまう。


「……は? なんで、俺は影響を受けないのに……」


他人を受け入れず、常に何もかもを拒絶していた孤児院育ちの少年は、ついに絶対的な少女にハートを撃ち抜かれる。


誰に撃たれたのか、なぜ撃たれたのか、どうやって自分の力を貫いたのか。何一つわからないまま、彼の命は尽きて地上に落下していった。




『……は? 一体どこから……いえ、わかりきっていましたね』


フュイールが心臓を貫かれたのと同時に、そのさらに上空にいたクリフォトはやはり心臓を貫かれて目を見開く。

しかし、彼とは違ってすぐに落ち着きを取り戻すと、傷を貪欲に貯蓄して地上の樹界を操り始めた。


生命の樹は、蜜柑の意識が消されたで倒れている。

ほぼ完全に地上を掌握しているため、もう隠せる情報はないし危険を察知しても避ける隙間がない。


『ぐふっ……場所を移動しても、まだ的確な銃撃を……!!

なるほど、これは見ているようですね』


圧倒的な物量で地上の敵の殲滅を始めるクリフォトだったが、彼の体には再び数発の弾丸が直撃する。


少し避けてもその場所に、素早く動いても先読みするように。あまりにも的確な銃撃をされ続け、彼もすぐに見られていることを察して能力を使った。


"インストール・サタン"


"インストール・リリス"


千里眼を遮断するように神秘をかき消し、少し離れた場所で見ていてもブレるように不安定にする。

デバフ能力ばかり備えているので、対策は万全。

もう当たることはない。はずだったのだが……


"幻奏のシンフォニー-運命"


『ぐあぁっ……!? 何ですか、この歌声は……!! 正確な位置がわからなくても、撃てば運命力で当たるとでも……!?』


正確な情報が失われても、世界が奏でる旋律に沿った銃撃は運命の調べで敵を穿ち続ける。

怒りや悲しみを表すように増えた弾丸は、次々にクリフォトへ命中して手足を吹き飛ばしていく。


もう彼に逃げ場はない。決してトドメにはならないものの、消耗して飛行はままならなくなり、能力も切れていた。


『不味い、彼女にかけた能力が……!!

セフィロトの神秘や人格が復活してくる……!!』

『……』


瞬間、ズタボロになったクリフォトの背後には、静かに怒りを燃やす蜜柑の姿が。

再び炎や木の王冠、可視化された旋律やひび割れなどと共に光輪を顕現させ、冷たい目で彼を見下ろしている。


『……はぁ、これは流石に無理ですね。諦めましょう。

できれば世界を滅ぼしたかったのですが……

まぁ、今度は本人達に頑張ってもらいますか』


それを見たクリフォトは、もうすっかり諦めた様子で力を抜く。やはり生死には興味がないらしく、与えられた目的も放棄して死を待っていた。


『ありがとう、ドルチェ。

そしてごめんなさい、タルト、グプトさん』


もう抵抗するつもりがないと理解すると、蜜柑も焦らず瞑目する。失った大切な人達に思いを馳せ、自分の不甲斐なさのせいで犠牲になった家族に思いを馳せ。


その右手に、絶対的な死の契約を結ぶような、破壊的な炎の結晶が吹き荒れる力を込めていく。

まだ拙い旋律は樹木に乗ってクリフォトを縛り、動きと同時に能力の使用も封じていた。


彼女はセフィロト。11の世界を内包した生命の樹。

そのすべてが公平に混ざり合った一撃は、対極にある邪悪の樹をいとも容易く消し飛ばす。


『せっかく神秘に成ったなら、人みたいに愛されたかった。

道具ではなく、ちゃんと息子になれていたらなぁ……』


神聖な輝きは、この星への呪いを優しく解いていく。

嘆きは神秘の奔流に流され、邪悪の権化たる精霊は、いくつもの世界に飲み込まれて永い眠りについた。


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