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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策7 幻世に根差す神咒

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16-聖邪の決戦

『お待たせ、じゃあ決着をつけようか』

『いいでしょう。私はセフィロトを打ち倒し、終末装置としての機能を果たすとします』


空が生命を表したような晴れやかなものと死を表したような禍々しいものの2つに裂け、その間から決着を見届けるような宇宙からの視線が突き刺さる中。


両者は静かな殺意を滾らせて互いを睨む。

セフィロト側には強者であるエンとベルゼビュート。

クリフォト側には無力なフュイール1人。


パッと見の戦力差は凄まじいものながら、決して勝ち誇ることはなく、威圧されることはなく。完全に対等な対立だ。


いつかの夜と同じく世界を滅ぼす宣言をするクリフォトに、蜜柑はいくつもの世界を内包した瞳を輝かせながら、全力の一撃をお見舞いしようと手を振りかぶる。


『もちろん、させないよ!

たとえあの子達がいなくなったとしても……私は!!』


その手に纏っているのは、炎や風どころか破壊のひび割れ、秩序だった鎖、軽やかな旋律まで含まれたいくつもの世界だ。


これまで得てきた能力、これまで失ってきた家族のすべてを込められた11の小宇宙は、逃げ場を奪うように広がって敵に向かっていく。


"セフィラ・コスモス"


"インストール・サタン"


だが、あらゆる方向から殺到した世界は、決してクリフォトには届かない。彼の体からは神秘を打ち消す黒い波動が放たれ、そのすべてをかき消してしまう。


もちろん、シャイターンが使っていたものに比べると、その出力はかなり下がっている方だ。それでも……あの悪魔を眷属にし、その呪いを還元している邪悪の樹は鉄壁だった。


『貴方がたでは、決して私をー……?』


他の影響を受けないフュイールを除き、彼の周囲からは一切の神秘が消えている。はずなのだが、いくつもの世界をかき消した彼は急にぼんやりとし始めた。


明らかに周りに意識が向いていない。

トロンと鈍くなった思考はもちろん……


"愚鈍なる教育者(ベルゼブブ)"


「あなたのそれは、長くないでしょ?

隙を作るのは俺がやるよ」


黒い波動が消えた一瞬を突いて彼の思考を鈍化させたらしいベルゼビュートは、いつの間に口から取り出した双剣を手に襲いかかっていく。


ついさっきまで名実ともに主だった相手のはずなのに、殺すことにまったく躊躇がなかった。

漆黒の翼で急接近したピエロは、素早く双剣を構えるとその首に刃を向ける。


『俺は興味ねーけどさ。流石に壁にくらいはなるぞ』


その間に割って入ってきたのは、もちろん最後の眷属であるフュイールだ。誰の影響も受けない彼なので、ただスッと間に立つだけで自分の首で剣を受け止めてしまった。


とはいえ、敵側に残っている時点でそれもわかりきっていることである。ピエロは下をペロッと出すと、そのまま振り抜いて彼を地上に叩き落とす。


「わかっとらい。ワタシの狙いは最初から君さ。邪魔やけんちょっと退いとってね」

「好きにしろ……って言いたいところだけど」


"センセーションエラー"


落ちていくフュイールは、ダルそうにしながらも何も映っていないかのような瞳を輝かせる。

瞬間、彼を叩き落としていたベルゼビュートの動きはいきなり鈍くなり、素早く身を翻すことで刃を回避してしまった。


「一応、セファールの代わりなんだ、俺。

生死はとうでもいいけど、ここに立った以上は抗うぜ」

「んん〜、視覚、聴覚、触覚……全部消えてしまったか。

夢の中より夢らしい。これは困った、ね!!」

「……!?」


どうやらあらゆる感覚を遮断されたらしいベルゼビュートだが、何事もなかったかのようにフュイールに斬りかかる。

彼の目は見えていないし、彼の耳は音を拾っていない。


おまけに今いるのは空中で、敵味方問わずにすべての人物が立体的な距離感にいた。


それなのに、刃は狙い違わずフュイールの首に。

今度はいきなり感覚が消えた驚きもないため、そのまま地上に叩き落としていく。


「おまっ、何も感じなくてなんで動けるんだよ……!?」

「ワタシは千年以上生きた神業ピ〜エロ!

何となくでできるさぁ、こんなこと!」

「会話成立してんのおかしいって……!!」

「hahahahaha!! この状況で話すことなんてわかりきっているだろう? 会話くらいお手の物だとも」


他の影響を受けないフュイールは、決してベルゼビュートが勝てはしない。だが、彼自身にも相手を倒す方法などなく、ピエロは何となくで会話までこなしてしまう。


首に剣を押し付けられている美少年は、斬られることはないが回避もできず、邪魔者として戦場から引き離された。


当然、彼らがそうして揉めている間にも、思考が遅れているクリフォトを取り巻く環境は激変している。

彼の背後には錫杖を煌めかせるエンが構えており、眼前には炎とひび割れを両手にした蜜柑が浮かんでいた。


『あの人、敵対しなくて本当によかった……

圧倒的な強さはないけど、なんか、ヤバい』

「なーっはっはっは!! 俺様は戦ってみたかったぜ!!」

『無茶を言うな、エン・フィールド!!

さっさとクリフォトを落としてよ!!』


ベルゼビュートにドン引きしている蜜柑とは対照的に、エンはワクワクとした表情で豪快に笑い飛ばす。


とはいえ、彼らが離れていっても仕事をサボるつもりはないので、素直に従って深淵をまとった錫杖をクリフォトに突きつけた。


"ダアト"


先端に黒いオーラが纏わりついた錫杖で押し出された彼は、またも視線を遠くに飛ばしながら前方へ。

体勢を崩した無防備な状態で、蜜柑の射程範囲に入っていく。


"インストール・ミカエル"


"インストール・カマエル"


『あなたにフュイールの力があるように、私にもドルチェの絶対的な価値がある。このまま消えて、クリフォト!!』


首を差し出すように前屈みに倒れ込むクリフォトに、蜜柑はより一層両手を輝かせていく。


ウィステリアの太陽ほどではないものの、体全体を包み込める規模の炎球に力を高め。ユウリのすべて破壊するひび割れほどではないものの、触れた範囲であれば十分に破壊できる威力の力を高め。


炎に乗って伝播していく破壊的な一撃は、クリフォトの頭に容赦なく叩きつけられた。


『炎神の崩拳、的な!!』

『ぐう……!!』


周囲の状況に意識を向けられなかったクリフォトは、燃えてひび割れたことでようやく我に返る。

だが、その時にはもう手遅れで、彼はうめきながらもなにもできずに地上へ叩き落されていった。


『手応えアリ! だけど、流石にあれじゃ……』

「死なねぇだろうなぁ。

即死レベルじゃなきゃ貯蓄しちまうだろうし」

『だよね』


クリフォトは間違いなく蜜柑の一撃を受け、地上に叩き落された。下では凄まじい地響きがなっているので、それなりのダメージにはなったことだろう。


しかし、彼も蜜柑と同じように複数の世界を内包する神秘の樹木だ。おまけに、精神体であって本体でもないため、より重大な損傷を与えなければ消えはしない。


短時間で意思疎通をした彼女達は、落ちたクリフォトを追いかけて空を切る。彼が体勢を立て直してしまう前に、彼が辺り一帯を飲み込んでしまう前に。


"降誕せよ、邪悪の樹(クリフォト)"


だが、最悪とはたいていの場合は訪れてしまうものだ。

彼女達が半分ほど距離を詰めた頃。ひび割れた地上の一点からは、禍々しい樹木がとめどなく溢れて暴れ出した。


その樹はベルゼビュートの警告通り、辺り一帯を飲み込んでいく。何も無い荒野を瞬く間に覆い尽くし、隔離された世界ではないものの、彼という樹木の体内に押し込めてしまう。


常に動き続ける樹は、半円のように盛り上がった部分で高所も阻み、ヘビのように這い回って入り組んだ迷宮を作り出す。


地上で見守っていたタルト達は、まだドルチェの意識がないこともあって、すぐには逃げられない。

感覚がないまま暴れるベルゼビュートもろとも、蜜柑達以外の全員が脈動する大森林に囲まれていた。



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