表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策7 幻世に根差す神咒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

195/205

14-分かたれた翼

"ディザスターエクスプレス"


ずっと考え込んでいたことで、アオイからも迫る蜜柑からも少し離れた位置にいたユウリだったが、彼は空気を破壊して進むことで一瞬でその間に現れる。


破壊的急行列車を止められるものなどいない。

聖人ユウリは、すべてが手遅れになった中で、さらなる悲劇が生まれることのないよう主の前に立ち塞がった。


「悪いなー、蜜柑。ちょっと待ってくれ」


人格が治っている彼は、もう今までのぼんやりとしたユウリではない。アオイが出会った当初の、ウィステリアと3人で敵を追っていた頃のやや軽薄な態度をした彼だ。


本当のユウリとの面識はあるものの、その時はかなり丁寧な口調だったためほぼ初対面である蜜柑は、いきなり現れた彼の変化に戸惑い、目を泳がせる。


『うぇっ……!? えと、あなた、ユウリで合って、る?』

「合ってるぜー。……ついさっき、人格が治ってさ」

『そうなんだ。よかったね……?』

「……おう。もっと早く、戻ってきたかったけどな」

『……』


軽い調子ながらも、やや重いニュアンスを含んだ彼の言葉に、蜜柑は内弁慶と気まずさなどを併発して黙り込む。

しかし、もう困った時に頼れるウィステリアはいない。


何度か深呼吸をすると、意を決したように真っ直ぐと相手の目を見ながら問いただした。


『それでー……これはどういうこと、ですか?』

「天使ちゃんを……アオイを殺すのは待って欲しいんだ」

『もう、戻ってこられないのに?』

「断言できるのか」

『うん、私はグプトさんの力も還元してるから。

あの人より時間はかかるし、すべては見通せないけど』

「そっか。それでも、殺すのはやめて欲しい」


吹雪を取り込んだ狂風が吹き荒れる中、彼女達は特に揉めるでもなく冷静に話を続ける。クリフォトは動かない。

蜜柑と同じように飛んできていたエンも、今回ばかりは空気を読んで止まっているようだ。


『それは、あなたは彼女が好きだから?』

「そうだ」

『……私だって、あの子のことが好きだよ。

この世界でできた、大切な家族だから』

「だから、余計君に彼女を殺させたくない」

『ウィステリアは死んじゃった。ガーベラは眠りについた。

アオイは暴走しちゃってて、死ぬか厄災として世界を滅ぼすかの2つに1つ。ほんと、酷い話だよね。

私も、もう正常に生きていける自信がないよ。あの現人神と会って、神ですら摩耗すると聞いた。大切な人を失った私も、多分このまま生きると狂った舞台装置になる。

そうなる前に、まだ被害が出てなくて、私がまともに動けるうちに止めるべきじゃない? その方が、マシだよ』


いくつもの世界を内包した瞳は、その中にあるいくつかの色を霞ませながら絶望を彩る。その輝きは今にも壊れてしまいそうだったが、まだクリフォトがいることでギリギリ正常を保っているようだ。


蜜柑はアオイのことを大切に思っているからこそ、彼女が意思に反した殺戮をする前に止めたい。

ユウリもアオイのことを大切に思っているからこそ、彼女を誰にも殺させたくないし、単純に生きていて欲しい。


どちらもそう思って当たり前で、どちらも否定してはいけない気持ちだろう。


悪意のある言い方をすれば、前者は危険な存在になったから切り捨てる。後者は本人の意思を無視し、自分がどんな姿でも生きていて欲しいから生かすということになるのだ。


既に彼女はいないのだから、どちらも本人の意志など汲んではいない。より余裕がないから殺す、まだ回復したばかりで余裕があるから生かす。


立場や状態の違いから意見は対立し、お互いにアオイのことを大切に思っているからこそ、話し合いは停滞した。


「ガーベラは、眠りについたんだろ?

アオイにだって、まだ鎮める方法があるかもしれない」

『……正直言うと、あの子を鎮める手段に心当たりはあるよ』

「なら……!!」

『だけど、この先の未来を見届けられない私には、その選択はできない。あくまでも対処療法でしかないし、多分その後に何もしなければ結末は変わらない。たとえ抑え込めても、その方法に飲み込まれてあの子は世界を滅ぼす』


鎮める方法があると聞いて語気を強めるユウリに、慣れてきた様子の蜜柑は冷静に言葉を続ける。


見届ける者が必要である、抑え込んだ後になにか行動を起こさなければいけない、厄災にさせないように立ち回らないといけない。


既に壊れかけている瞳は、彼に覚悟を問うていた。

今になって自分を取り戻したあなたに、この先ずっと彼女を見守る覚悟はあるのか……?と。


その問いを聞いたユウリは、目を閉じて薄っすら微笑む。

次の瞬間、彼女を真っ直ぐ射抜く彼の瞳に宿っていたのは、何よりも強く輝かしい覚悟の光だ。


「ふん、見守り続けるやつがいればいいんだろ?

任せとけって、俺が全部まとめて引き受けてやるから。

アオイも、氷樹になったガーベラも、これから眠りにつくであろう君のことも、全部。ウィステリアの代わりに、さ」

『……君にできるの? 下手したら、何百年も続くのに』

「もう気がついてんだろ? 俺は魔人から聖人に成った。

人からじゃねぇ。負の感情に支配されているはずの魔人からだ。0からどころか、マイナスを乗り越えた覚悟が折れるもんかよ。俺は、お前らすべての守り人になってやる」


若干疑わしそうな視線を受けても、聖人ユウリの覚悟は揺るがない。真っ直ぐに主の視線を受け止め続け、蜜柑もすぐに疲れたように笑って肯定した。


『そっか、ありがとう。私の君への第一印象は、物腰丁寧な復讐鬼。再会してからは、燃え尽きてぼんやりした人だったけど……本当の君は、誰からも愛され、世界からも祝福されるような心優しい人だったんだね。後のことは、任せるよ。

私が知ってる心当たりは……』




蜜柑からの信頼と情報を受け、ユウリは単独で嵐の中心へ。

完全に壊れて、暴走しているアオイの眼前に迫っていく。


「んぐっ……!! なんつー……風だよ、天使ちゃん」


彼という神秘は破壊であり、近づく危険物は尽くが破壊されて消えてしまう。そう簡単に突破できる守りではない。

だが、吹雪を取り込んでいる狂風は、一時的にではあるが神と同等のモノになっていた。


迫る風はすべて破壊されることはなく、中心にいるアオイに近づこうとするユウリの体を、少しずつ切り裂いている。

血は細く飛び散り、凍りつく。傷跡は風圧を受けてギザギザに。そのすべてを無理やり破壊して、彼は突き進んでいた。


「はぁ、はぁ……!! 風の音が聞える。オレの欠片をかき集めてくれていた、彼女の痛み。俺の中で循環していた、慈しむような風の音。俺の人格を組み上げてくれてた、天使みたいに優しい彼女の苦しみが……!!」


伸ばした手は引き裂かれ、瞬時に凍りつくことで実に奇妙なモニュメントへと変化する。凍てつくそれを、刺々しく芯に届きかねない鋭い痛みを、彼は破壊するこおで元の形に無理やり元の形に戻してしまう。


傷など、苦しみなど、苦痛など。すべてを失った今のアオイが感じている絶望に比べれば、どうってことはないものだ。

彼は神々しい模様にひび割れた瞳を輝かせながら、少女がいる嵐の中心に到達した。


「あぁぁぁあぁぁあぁああぁぁぁ……!!」


嵐の中心とはいっても、台風のように無風な訳では無い。

風はアオイから生み出されているのだから、中心に近づけば近づくほど風は強くなる。


ユウリの体はより一層激しく切り刻まれ、ついに四肢は切り飛ばされていく。それでも、彼は飛ばされた手足を破壊して操り、無理やりとどめていた。


彼は破壊そのもの。しかし、他の何よりも優しい破壊だ。

裂かれても、壊れても、彼の翼は決して止まることはなく、その無惨な両腕は少女を包み込む。


「アオイッ……!! 泣いてもいい、叫んでもいい、どんな感情でも好きなだけぶつけてくれていい!!

だけど、それは俺の胸の中だけにしといてくれよ……

絶対、誰も傷つけさせねぇから……!!」


嵐は戦場から引き離される。彼女が大切にしていたものを、決して傷つけさせないように。


嵐はここまでの道のりで得た破壊の粒子によって、包みこまれる。間違っても彼女が意思に反して誰かを傷つけないように、何よりも誰も彼女を傷つけないように。


少しずつ小さな世界に押し込まれていく嵐は、狂気に飲まれた魔人の成れの果て。あまりにも危険で、もし放置していれば厄災として世界を滅ぼしかねないもの。


そんな、大自然の化身のように強大な神秘の進行方向には、臆さず眺めている2つの影があった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ