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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策7 幻世に根差す神咒

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10-彼こそは聖神

第九世界のガーベラVSセファール。

第三世界のカルラVSライラ、クリフォト。


第四世界のユスティーVSサラ、フュイール、さらに増援として現れたリデーレに第三世界の勝者たち。


多くの世界で、クリフォトの思い通りの盤面でマッチアップさせられたセフィラ達は、そのほとんどが劣勢を強いられている。


ガーベラはまだ生きているが、カルラなどはすでに死亡し、セフィロト側にだけ死者が出ている始末だ。


しかし、もちろんクリフォトの思惑に反してセフィロト側が優勢になっている世界もあった。その数は少なく、圧倒しているとまで言えるのはたった一つだったが……


第六世界――美のティファレト。

一度はセフィラをたった1人で壊滅させた、クリフォトの眷属で最も強大なモノと対峙しているウィステリア。


彼だけは、この圧倒的に不利な状況にあって、目の前の怪物を圧倒していた。


「ブファッ……!? くっ、何だ貴様!! 何だその強さは!?」


金色の炎に焼かれながら吹き飛ぶシャイターンは、いくつもの神像の中に頭から突っ込んでいく。


それと相対しているのは、金色の翼で羽ばたいている聖神(せいじん)――ウィステリアだ。彼は頭上に輝かしい太陽を浮かべながら、切り傷だらけの化け物を見下ろしている。


燃える像の山の中で、頭を振りながら起き上がっているそれに威厳などない。これまでセフィラを圧倒してきたとは思えないほどに無様だった。


「何って、聖神(せいじん)だよ。一時的ではなく、完全なる神。

ここにある炎ではなく、炎という概念そのもの」

「フハハハハ!! 無論、そんなことはわかっている!!

その上で聞いているのだ!! たとえ概念にまで至ったとしても、貴様やその炎が神秘であることに変わりはない!!

それなのに、我がかき消せないとはどういうことだ!?」


神像を砕き、踏みつけながら立ち上がったシャイターンは、叫びながら4本の腕すべてに黒い波動を纏い、飛び上がった。

背中に生えた漆黒の翼は燃え尽きてはいないので、空にいる敵にも十分接近可能だ。


地上で燃え盛る炎をかき消しながら、彼が纏っている金色の炎や彼自身の神秘もかき消すべく、飛翔していく。

いつも使う波動の膜ほどの広範囲ではないが、直接殴られてしまえば神秘はかき消される。


今までのウィステリアであれば、容易く神秘をかき消されて背中に生えた金色の翼も消えていただろう。

しかし、彼は変幻自在の黄金剣を広げて受け止め、余裕の表情で口を開く。


「君はたしか、ぼくよりも長生きなんだよね? だったら、もう答えはわかっているはずだよ。神秘とはこの星の大自然そのもの。わかりやすく言えば、大自然に発生する自然現象そのものだ。それが神ともなれば、大自然の環境そのもの。

ぼくがその気になれば、環境を上書きできる。

君という現象は、環境をかき消せる? ぼくに類似するものであれば、火山地帯。君はそれを、かき消せる?」

「……流石に、無茶だな」

「そう、無理なんだ。もちろん、一部はかき消せると思う。

けど、完全にすべてかき消すことはできない。

だから、ぼくの神秘を弱められることはあっても、かき消すことはできない。君が長年、現人神を殺せなかったように」

「ククッ、クハハハハッ!!

痛いところを、突いてくれるなッ!!」


"バチカル"


真正面から言葉を投げかけられたシャイターンは、無理やり理解させられた上に、弱い部分を容赦なく刺された。

週に3回は神殺しに向かっても実現できなかった彼にとって、神との格差は何よりも悔しい事実だ。


彼は豪快に笑い飛ばしながらも、酷く苦しそうに顔を歪めると、拳の波動をより強めながらもなお殴りかかる。

だが、どれほど至近距離であっても、ウィステリアと彼の間にある格差は埋まらない。


もちろん相手にならないほどではないが、決して致命傷を与えることは叶わずに一方的に燃やされてしまう。


「グアァァァァッ……!!」

「はぁ、はぁ……もちろん、ぼくも楽に君を倒せるというほどじゃない。まだ君が生きているのがその証拠。ぼくはまだ、アークレイさんやエリスレベルの強さじゃないんだ。

だからこそぼくは、容赦なく、全力で……」


シャイターンを燃やしながらも、ウィステリアは口から血を流しながら天を仰ぐ。彼は炎の神秘であり、ある程度ならば熱などへの耐性はある。


だが、たとえ炎に耐えられるのだとしても、それを出し続けること自体が楽になる訳ではない。

天上に煌めく疑似太陽を維持し続け、手などからも金色の炎を放出している彼も、相当な負担となっていた。


それでも……聖人どころか聖神(せいじん)にまで至った神秘である彼は、"守護者の炎(ミカエル)"という名を持つ強大な神秘は、決して止まらず邪悪を討ち滅ぼす。

たとえ、自らの身が滅ぶのだとしても。


"スカージフレア"


天に掲げられる手の先で、疑似太陽は渦を巻く。

それはまるで、フライパンの中でかき混ぜられる卵のようで。トロリと溢れ出した金色の炎は、散らばっている神像の成れの果てもろとも、地上の一切を焼き尽くす。


当然、その軌道上にいたシャイターンも同様だ。

ウィステリアの手から放たれる炎に焼かれ、苦しみから逃れられずに悶えていた彼は、避ける間もなく飲み込まれる。


もはや、4本腕の青い巨体の姿など見えはしない。

ただの黒い影となり、それはやがて地上に落ちていった。


「うっ……」


クリフォトの眷属の中でももっとも厄介で、かつその肉体によって最強を誇るシャイターンを落としたウィステリアは、軽くうめきながら頭を押さえる。


目立つ傷はなく、結果は完勝だ。しかし、やはりその消耗は馬鹿にならないレベルだったらしい。

地上は炎の海であるため降りられないが、フラフラと今にも倒れ込みそうになっていた。


「っ……!? 何これ、まさか負けたのですかシャイターン!?」


すると、その数秒後。

もはや無神論を意味するクリフォトの世界――バチカルでも、セフィロトの世界である美のティファレトでもないこの炎獄に、明らかに焦った声が響く。


なおも綺麗な響きだが、内容的には間違いなく敵だった。

つらそうにしているウィステリアは、荒い息を吐きながらも油断なく声のした方向に目を向ける。


視界に映るのは当然、下にある第九世界――基礎のイェセドからけがの貯蓄を終えてきた絶世の美女――セファールだ。

彼女を見ると、ウィステリアは瞬時に呼吸を整えて表面上は平静を取り繕い、口を開く。


「君は、たしかセファールだったかな。貪欲な吸収、貯蓄、放出……連戦するには厳しい相手、だね」

「あなたは……ガーベラちゃんのパートナーですわね。

とても強く、美しかったウィステリアくん」

「……? 今、何かマズイと思ったりした?」

「……なぜ?」

「今この世界はぼくの炎で包まれている。

色々と感じ取りやすいから、何となくそう思ったんだ」


表面を取り繕ったウィステリアは、同じく瞬時に落ち着きを取り戻したセファールの内面を探る。


彼女も漆黒の翼によって空を飛んでいるが、地上のすべてが燃えているのだから、熱気はこの世界を包んていて意味はない。彼の炎は的確に隠された内面を暴いていた。


「別に。ただ、あなたの相手は厳しいと思っただけですわ。

良くて相打ち、悪くてこちらだけが死ぬ。

とても喜べる状況ではありませんもの」

「……君が配置された世界には、ガーベラがいた?」

「……」


動揺を誤魔化すように現状に言及するセファールだったが、ウィステリアは誤魔化されることなく問いかける。


表情は変わらない。だが、その沈黙は明らかに問いを肯定するようなものだった。彼は誰よりも大切な人の勝敗を察し、ガーベラのような輝きを持つ炎が揺らぐ瞳を、今まで以上に輝かせていく。


「そっか。じゃあ、君は絶対に‥」


ウィステリアという神秘は、何かしらの決意や覚悟によって神秘と成った聖神(せいじん)だ。

もちろん、ジエンのように1人に傾倒しすぎて反転するようなこともない。


精神崩壊しかけている騎士やガーベラとは違って、より強い決意を秘めて炎を輝かせていた。

しかし、その力がセファールに襲いかかる前に、地上からは凄まじい轟音が響き渡って彼の言葉を遮ってしまう。


先ほど彼が言及した通りの火山地帯。それとほとんど変わりない規模で、業火の海となってしまった地上。

その中からは地面を砕いているような音と炎が吹き上がる音が鳴り、巨大な青黒い物質を吐き出す。


「きみ、まだ死んでなかったの……!?」

「あら、あまりにもタフですわね。

まぁ、それでこそ最強といったところてしょうか」


驚く2人の前に、それは現れた。

地上はもう完全に壊されてしまったのか、炎は抜けた世界の床からさらに下の世界へ落ちていく。


下にあるのは、満身創痍のガーベラとトドメを狙うアイシャがいる第九世界だが、彼らにそれを気にする余裕はない。


息も絶え絶えのウィステリアの前まで飛び上がってきたのは、あまりにもタフな怪物……すべてを飲み込む深淵のような瞳を輝かせる最強の敵――シャイターンだ。



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