表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策7 幻世に根差す神咒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

188/205

7-あなたの礎は、何ですか?

第九世界――基礎のイェセド。壁などから伸びてくる触手や、地を駆け回る肉食動物が支配している中、白銀の翼を広げるガーベラはセファールに挑む。


元より格上の相手だが、臆したりはしない。

世界に分断されたことで繋がりが切られたウィステリアと、それでも隣に立っているために、彼女は勇敢に戦う。


だが、当然のようにセファールは攻撃をいなしている。

この世界と同様に、彼女が意味するのは貪欲なのだ。

どれだけ氷を放っても、どれだけ変幻自在の剣で斬り刻もうと、すべてを飲み込むセファールは健在だった。


「くっ……!! あなたには、何も効かないっていうの!?」

「えぇ、(わたくし)には何も効きませんわ」


今も変幻自在の白銀剣で腹部を貫かれていたセファールは、構わず肉を切って接近してくる。体の傷は既にない。

貯蓄された傷は彼女という呪いの中にしまい込まれ、無傷の神秘は貯蓄された筋力を以てガーベラに殴りかかっている。


"ジーヴルラフゥネートル"


千年以上も生き、けがや病気以外にも筋力などを貯蓄して続けていたセファールの力は凄まじい。

たとえ神器や腕で防御したとしても、最近生まれた神秘である彼女が受けてはただでは済まないだろう。


しかし、当然無抵抗でやられるというのもあり得なかった。

ガーベラは氷で窓のような四角を数え切れないほど作り出すと、何枚も割られながらぎりぎり止める。


さらには、最終的に受け止めた窓はセファールの拳から全身を凍りつかせ、割られたことで舞った氷の破片も操って攻撃に転じていく。


氷片自体も敵の肉に食い込むが、メインは光。

数多の氷片は光を反射し、枝分かれしている白銀剣にも反射することによって火力を高めて降り注ぐ。


"ソルグラディウス"


すべてを貯蓄するセファールに襲いかかるのは、数多の氷片と白銀剣、そしてそれらに反射された光の剣だ。

基本的には体一つで戦う彼女に防ぐ手段などなく、艶やかなドレスに包まれた四肢はズタズタになっていた。


「うふ、うふふふふっ! やっぱりあなたは美しいわ!

この傷も、(わたくし)の血肉となるというのに……

それでもなお、貴女はこうして勝利を目指すのですもの!!」


"エコノミー"


氷片や白銀剣に斬り刻まれ、光の剣に貫かれていたボロボロのセファールは、呪いの力によって瞬時に美しさを取り戻す。


しかも、吸収・貯蓄したのは傷だけではない。

彼女の身に触れていた白銀剣や、食い込んで埋まっていた氷などはもちろんのこと、まだ触れていない付近の氷まで次々に飲み込んでいた。


すべてを受け入れる彼女は、絶世の美女。

危険のない氷の粒が舞っている中、美麗に微笑んでいる。


「ちょっ、わたしの剣まで吸収しちゃうのっ!?」

「いい傷をありがとう。お返しいたしますわ」


"アントルギフト"


傷を治したセファールは、怪しく光り輝きながら手を彼女に向ける。すると、その光は伝播するようにガーベラを光らせ、気づいた時には直前までの大怪我を再現していた。


「くぅ……!? 傷が、わたしに……!?」

(わたくし)の力はご存知の通り、吸収と貯蓄。それが貪欲な"すべてを取り込む欲(アドラメレク)"。だけど、当然貯蓄するなら放出もできる。そのダメージはあなたに差し上げますわ」

「こんな、もの……!!」


"プルウィア・ブレッシング"


全身を氷片や白銀剣に斬り刻まれ、光の剣に貫かれたようなズタズタの姿になったガーベラは、血の香りによって地上の肉食動物が騒ぐ中で重い腕を上げる。


その手に握られているのは白銀の剣。

光り輝くそれは段々と霞んでいき、触手の天井に閉じられた空からは神秘的な雨が降り始めた。


恵みの雨は世界を濡らす。

邪悪な触手は苦しげにのたうち回り、ボロボロになっていたガーベラの傷は少しずつ治っていく。


「はぁ、はぁ……わたし、は……!!」

「気持ちのいい雨ね。これも少し貰おうかしら?」

「ウィル……」


両手を広げて気持ちよさそうに雨を浴びているセファールに、ガーベラは苦しげな目を向ける。

傷は治った。もう、今すぐにでも攻撃はできるだろう。


だが、どんな攻撃やダメージも吸収してしまう相手に勝ち目はあるのか。一体、どんな攻撃ならば彼女を倒せるのか。


そして何より、この場にいるのはガーベラ1人だ。

自分自身が、誰にも頼ることなく求められるままの強さを発揮しなければならない。


……強さを、眩しさを求められていた。

故郷を離れながらも、貴族であることには変わりない彼女が苦しんできた孤高の輝きを。


地上にいる肉食動物達もまた、別種の期待を見せていた。

速く死んで食わせてくれという、真逆の期待ではあるが……

どちらにせよ、ガーベラという少女にとっては何よりも重い期待というものを、持っていた。


「……あら? 貴女、どうかいたしましたの?」

「一方的に守られたい訳じゃない。無理にか弱い乙女になろうとしている訳ではないのよ……わたしは、わたしも輝きたい。わたしだけが輝くのは、辛すぎるから……」

「……なるほど。あなたも魔人ですものね。

聖人は決意によって成るもの、魔人は負の感情によって成るもの。あなたの呪いは、あなたを形作るものは、今の貴女が直面している状況に耐えられないのね。

であれば、あなたの末路は暴走。

最後の輝きを見せてくださいな、孤高のお姫様♡」


セファールに負けてはいけない。逃がせば家族に被害をもたらし、また自分の死は家族を悲しませるのだから。


ウィステリアの隣に立ちたい。少女は少年の存在に救われ、初めて頼ることができたのだから。


2つの願いは絶対だ。生き残るためにも、大切な人を守るためにも、ガーベラは強く在らなくてはならない。


しかし、この場にいるのは彼女1人。強く在る彼女は、幼少の頃と同じく孤独に輝きを求められる。

彼女を形作るものは、呪いという形になった彼女の方向性は、支え合う存在を見失ったことで狂い始める。


"呪神モード-ガブリエル"


「あああああっ……!!」


悲痛な叫び声を上げるガーベラは、結晶のように儚くも眩い輝きに満ちた瞳を、凶暴に脈動させる。

瞳は刺々しく、白銀の鎧に包まれた体には霜が降り、綺麗な金髪は水のように波打っていく。


"アナイアレイション・ディルビオ"


瞬間、この世界を覆い尽くしたのは、すべてを破壊し尽くす大波だ。暴走した神秘には制御できない規模の、世界に死滅をもたらし、都市に壊滅をもたらすような大洪水。


神の怒りに触れた肉食動物たちは、彼女を喰らいたいという期待を抱えて溺死する。空を飛んでいるセファールには届かないが、獣の期待は欠片も残らず消え去った。


「うふふ、荒波の中心に浮かぶ美少女。とっても美しいわ」

「あああああっ……!!」


地上を洗い流した大洪水は、そのまま水かさを増して空中の堕天使に向かっていく。直接飲み込まれるより威力は落ちるが、逃げ場をなくす高波は十分に脅威だ。


だが、セファールは余裕を崩さない。全身に悠久の蓄積をまといながら、微笑みながら突き進み始める。


「でも、あなたに(わたくし)は止められない。

あなたの格は、所詮暴走で得た一時的なものだもの……!!」


千年以上も蓄積した力で以て拳を振るうセファールは、眼前に迫る高波を一撃で吹き飛ばす。道は開かれた。

漆黒の翼を翻す堕天使は、荒波を圧倒した代償に痺れている右腕を庇うように左腕を……


"アブソリュートゼロ"


荒波には穴が空いたが、飛沫はかかっている。

そもそも雨にも濡れており、気がついた時にはセファールは一瞬で凍り付いていた。


凍って落ちていく彼女に、荒波は氷像を砕くかのように押し寄せていく。岩石すら破壊できるような圧力はセファールを押し潰し、それもまた絶対零度の氷に閉じられた。


世界は完全に凍りつき、聞こえてくるのは我を失っている少女の悲痛な叫び声だけだ。


"すべてを取り込む欲(アドラメレク)"


泣き声以外は何も聞こえなくなった寂しい世界に、氷を砕く凶悪な轟音が響き渡る。暴走中のガーベラは我を失っているため、荒波を生み、凍りつかせる以上のことはしない。


ほとんど抵抗できない相手に向かって、凍りついた体を無理やり起こしてきたセファールは向かっていた。


「うぐ、あ、はぁ……はぁ……!!」


氷塊を叩き割って出てきたセファールも、決して無事であるとは言えない。四肢の末端は芯まで凍りついていたらしく、既に砕けてトゲトゲした断面を見せている。


髪も凍るか、脱出の時に引き千切られて見る影もない。

胴体には熱が多く残っていたのか無事な部分は多いが、それでも皮膚が剥がれている箇所ばかり。

美しかった顔も、半分以上が抉り取れた状態だ。


そんな状態になっても、セファールは未だに荒れ狂う高波を弾き飛ばし、凍りつく体を引き千切りながら目標に向かう。

ダメージを内側に貯蓄することなど、間に合いはしない。

常に体が抉れた状態の彼女は、血すら凍りつかせながら少女に肉薄し、殴り飛ばした。


「けふっ……!!」


胸部を殴られたガーベラは、心臓付近を貫かれて氷塊の中に突っ込んでいく。鼓動はギリギリ止まらない。

四肢がないセファールと同じで、血は凍りついていた。


「カヒュー……カヒュー……」

「はぁ、はぁ……暴走とはいえ、流石は神ね。

本気で、死ぬかと、うっ……!!

後はあなたに任せてもいいかしら、アイシャ?」


足が砕けてないため、氷しかないこの世界では降りることもできないセファールは、息も絶え絶えに背後に語りかける。


するとそこにいたのは、ドルチェの絶対的な価値を持つ銃で足を吹き飛ばしていた少女――アイシャだった。


『はい、お姉さま。できれば、シャイターン様の加勢に』


セファールに呼びかけられたアイシャは、恭しく頭を下げながらも控えめに救援要請を出す。

どうやら、第六世界を経由してからこの世界に来たらしい。


特別焦っている様子でもないが、すぐさま彼女を呼びに来るくらいにはシャイターンは劣勢のようだ。

それを聞いた彼女も、ふらつきながらもまっすぐ第六世界へ向かいながら頷く。


「わかりましたわ。彼女はもう満身創痍だとは思いますが、決して油断はしないように」

『わかってます、お姉さま』


蜜柑が動き出したことにより、下方にある世界の戦況も移り変わる。ガーベラとほぼ相打ちのような状態のセファールはさらに上に。彼女のトドメはアイシャに一任された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ