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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策7 幻世に根差す神咒

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4-第十世界マルクト

『う、うぅ……』


洗濯機の中に入れられたかのような、世界をかき混ぜられるかのような感覚の後、蜜柑はふらつきながら起き上がる。


城塞の中であるかのように木に囲まれてから意識が途切れていたが、どうやら無事に干渉はできたようだ。

頭を押さえながら起き上がる彼女に、攻撃を仕掛けてくるような者はいない。


周囲に人の気配こそあるものの、同じように倒れている気配だったので、彼女は焦らずゆっくりと起き上がっていった。


『ここは……?』


どうにか体を起こした彼女の視界に映るのは、木の洞の中のような場所だ。城塞のように滑らかな木ではなく、ややゴツゴツした加工されていない木そのもの。


ただ、城塞と変わらないくらいに広くはあるらしく、樹木の世界はどこまでも広がっていた。

まずはキョロキョロとこの世界を見回していた蜜柑は、やがて難しい顔つきで口を開く。


『……ううん、わかる。ここはセフィロト……生命の樹。

最下層の第十世界、王国のマルクト。

私が唯一クリフォトから奪うことのできた世界』


ドルチェは彼女に、クリフォトが後から創るものの主導権を乗っ取れと言っていた。実際にその乗っ取りは試みられて、こうして世界を奪っている。


だが、彼女が乗っ取ることに成功したのは、あくまでも10個ある世界の中の1つだけだ。


より正確に言えば、隠された1もあるにはあるが……

少なくとも、奪い取れた世界が1つだけであることに変わりはない。


第十世界――王冠のマルクトを見回している彼女の華奢な背中には、成功と同時に理解できた圧倒的不利がのしかかっていた。


『……でも、そうだ。私はこの世界を乗っ取るだけじゃなくて、同じチームになっていた家族を連れてきたはず』


しばらく厳しい表情で考え込んでいた蜜柑だったが、やがてどうにか気を取り直すと、移動を開始する。

目的は当然、クリフォトの盤面操作からどうにか外すことのできた仲間と合流すること。


ここが生命の樹を模した世界で、本当に残り10個の世界があるのならば、のんびりしている暇はない。

蜜柑は急ぎ足でシンプルな木の洞の世界を横断していった。


『あっ、いたいた!』

「ううん……? あ、蜜柑!」


少し歩くと、視界に飛び込んできたのは年相応の可愛らしい服装に身を包んだタルトだ。同じように気を失い、倒れていたらしい彼女は、蜜柑に気がつくとパッと起き上がって抱きついていく。


『ちゃんと近くにいてよかった。能力は使える?

アオイやドルチェとは、念話が繋がらないんだけど』

「目は、見える。テレパシーはてきの支し配下では無理みたいだけど、千里眼は関係ない。蜜柑も、かん元してる」

『そういえばそうだったね。私が使えるのは、みんなよりも少し弱まってはいるけど……』

「なら、し覚を共有する。いっしょに見よう」

『うん!』


蜜柑の腰辺りに抱きついた幼い少女は、頭を撫でられながら千里眼を発動する。すべてを見通すかの如く星空のような瞳はひときわ輝き、同じような瞳に変化する蜜柑と共有した視界には、他の世界の様子が映し出される。




~~~~~~~~~~




蜜柑達がいる第十世界――マルクトの真上。

第九世界――基礎のイェセド。


3つに枝分かれした中でも、特に近い場所に位置しているこの世界は、マルクトとは違って完全にクリフォトの支配下だ。


もはや木の洞のような世界ではなく、壁からはすべてを喰い尽くすかのような触手が生え、そこら中に肉食の動植物の姿がある。


ここはセフィロトの第九世界――基礎のイェセドから変わり、クリフォトの世界――ケムダー。

その言葉が意味するのは、貪欲。


中央では、お嬢様然とした綺麗な洋服を身にまとった金髪の少女――ガーベラと、大きくスリットの入ったドレスを着ている絶世の美女――セファールが対峙していた。


「こんにちは、ガーベラちゃん♡

以前見かけた時から、美しいなと思っておりましたの。

ドルチェちゃんの代わりなのは申し訳ないですが……

仲良くしていただけると嬉しいですわ。楽しみましょう」

「ウィルと一緒でも倒せなかったあなたと、1人で……

っ……!! いいわ、彼に頼らなくても、勝ってみせるわっ!!」


美しく微笑むセファールに対し、ガーベラは白銀の鎧と剣を装備しながら覚悟を決める。敵は格上。勝機は薄い。

それでも……銀色の翼で羽ばたく彼女は、ウィステリアの隣に立つ者として、決死の戦いを挑み始めた。




~~~~~~~~~~




蜜柑達がいる第十世界――マルクトの左上。

第八世界――栄光のホド。


この世界も第九世界と同じで、もう完全にクリフォトの支配下だった。壁も床もただただ白く、どこにも何も無い。

何も感じることのできない果てなき白は、人の心をとことん破壊して狂わせてしまうようである。


ここはセフィロトの第八世界――栄光のホドから変わり果て、クリフォトの世界――ケムダー。

その言葉が意味するのは、無感動。


中央で対峙しているのは、和服姿で片手に開いた扇子を持つ少女――アオイと、服どころか、髪も肌も、目すらも真っ白い青年――ディアボロスだ。


「やはり、あなたなのですね……ディアボロス。

初めて出会ったクリファであり、協力者でもあった人。

とても不思議で、優しく、悲しい縁です。

一応、聞いておきますが……あなたは私と、戦うのですよね?

できることなら、戦いたくありませんが」

「ワタシは、ここにいろと言われた。

敵が来たならば戦えと言われた。それだけだ」

「どこまでも真っ白で、不自由なあなたに。

どこまでも軽やかで、自由なる救済を」


無感情に、無表情に、無頓着に、無感動に。

まるで主体性がなく、言われた通り、流れのままに殺し合いの宣言をするディアボロスに、アオイは覚悟のこもった言葉を紡ぐ。


決して自分から攻撃してきたことのない彼に。

一度も自分の意思で殺していない彼に。

結局、ほとんど危害を加えられたことのない彼に。

せめて、救いが訪れますように……と。




~~~~~~~~~~




蜜柑達がいる第十世界――マルクトの右上。

第七世界――勝利のネツァク。


やはりクリフォトの支配下になっているこの世界は、他よりも原型をとどめている世界だった。


壁は木の洞というほど自然ではないが、木製。

漂う空気がぼんやりとしてしまう甘いものであることを除けば、ただの家のような空間だ。


ここはセフィロトの第七世界――勝利のネツァクから変わり、クリフォトの世界――ツァーカブ。

その言葉が意味するのは、色欲。


その中央では、白いふわふわしたゴスロリワンピースに黒い蝙蝠傘を差した少女――ドルチェと、元娼婦だったとは思えないくらいに清楚な服装の少女――アイシャが対峙していた。


「あちゃ〜、蜜柑も流石に私までは手が回らなかったか。

まぁ、仕方ない。ちゃちゃっと片付けて向かおうかな♪

案の定あなたがぶつけられたことだしね☆」

『あなた、痛い。わたし、あなた』

「あなたにできるのは、所詮足止めだけ……

この私を、あなたはいつまでとどめておけるかな☆」


まだ声に慣れておらずテレパシーで言葉を紡ぐアイシャに、ドルチェは気負わず言い放つ。これより行われるのは、両者に生まれる傷を耐え抜く我慢比べだ。




~~~~~~~~~~




第九世界――基礎のイェセドの真上、生命の樹のど真ん中。

ほとんどすべての世界と繋がっているのが、第六世界――美のティファレトである。


ここを支配しているのは、2人の神秘。

片や、3メートル近い巨大に4本の腕、青い肌に角まで生えた怪物――シャイターン。片や、背に金色の翼を生やした銀髪の少女……の格好をした少年――ウィステリア。


早くも激突する両者の周りに散らばっているのは、数え切れない程の神像や仏像など、信仰の対象になるものだった。

すなわち、美のティファレトを上書きしているクリフォトの世界とは、バチカル。その言葉が意味するのは、無神論……


「フハハハハッ!! 貴様は神に……聖神(せいじん)に成っているな!?

であれば、我の鏖殺対象よ!! 成長前に殺してくれる!!」

「そうだね、僕は聖神(せいじん)に成ったはずなんだ……

だから、もう遅れは取らない。君はぼくが殺すよ」


シャイターンが放っている黒い波動を、神炎で背後に光輪を生み出したウィステリアは金の鎧と剣で弾き、切り裂く。

神秘としての格ならば、既に彼の方が上だ。


変幻自在の剣は枝分かれするように怪物を囲み、容赦なく牙を向いていた。




~~~~~~~~~~




『っ……!! みんな、もう戦ってる。みんな傷ついてる……

だけど、みんな近くだ! 助けに行こう、タルト!!』


近場からいくつかの世界に視線を飛ばした蜜柑は、それぞれの世界で見た光景に苦しみながら必死に呼びかける。

同じように視線を飛ばしていたタルトは、彼女の言葉を聞いて無理やり戻ってきたのか、軽く目を押さえていた。


「蜜柑、と中で切ったね。残りの世界はいいの?」

『見なくてもわかるよ、全員一対一で対峙してるんでしょ?

だったら、今はいち早く向かわなくちゃ!!』

「……うん。ここから行けるのは、3つ。9か8か7。

ガーベラ、アオイ、ドルチェの誰から助ける?」

「おい待て!! 情報が足りてねぇぞちび助!!」

『……!?』


ブレインがいない状態ながら、彼女達が優先して合流するべき仲間について考え込んでいると、唐突に荒々しい声がかけられる。


驚いて振り返ってみれば、そこにいたのは騎士服を着ている青年――ジエン。当初蜜柑と同じチームになっていて、彼女に連れてこられていた最後の一人だ。


「ユスティー様は、どこにいんだよ!?」


少し離れた位置から、洞の中に声を轟かせながら走り寄ってくる彼は、相変わらずユスティー信者だ。

鬼のような形相で空を飛び、木を叩き割るような勢いで2人のそばに着地してくる。


「第四世界――慈悲のケセド」

「なら、答えは簡単だ!! イメージは入ってきてたし、話を聞いてて構造もだいたい理解した。ケセドへの直行は勝利のネツァク、ドルチェのとこだけだろ?

あいつはシャイターンへの切り札でもある。

さっさと向かって、けが一つなくあの怪物にぶつけんぞ!!」

『わ、わかった』


タルトの言葉を聞いたジエンは、すぐさま方針を決めて2人を急かす。コンコンと剣を木に打ち鳴らす音を聞いた蜜柑は、すぐに納得して立ち上がっていた。


目標は第七世界――勝利のネツァクを上書きしたクリフォトの世界、色欲のツァーカブ。切り札であるドルチェの奪還だ。



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