本当の天才、ギフテット!!
普段、翔は学校を休んだり、遅刻や早退もしたりしているが、テストの日は遅れずにしっかり受けている。なぜなら、世の中のテストの多くが朝早くから始まるからである。大学入試然り、資格試験然り。それに慣れておくため、学校のテストは時間通り受けるようにしている。そして特に今日は、いつも以上にやる気に満ちていた。
中間テストは四日間行われるので、それなりに集中力と体力が必要である。テストを終えたときの感触は、結構できたんじゃないか、と言う感じだった。あとは結果を待つだけだった。
そして数日後、中間テストの結果が掲示板に貼り出された。今までは気にしていなかったので見たことなかったが、今回は神無月との勝負(半ば強引に決められた)があったので、結果を見るのに少し緊張していた。
翔はゆっくりと一番上の名前に視線を送った。そこに書かれていたのは、第一位、水無月翔、八八六点。それを確認した翔はホッとした。
そして、その下に書かれている名前に目がいき、翔は驚いた。
第二位、ブルーベル・エイプリル、八八二点。ベルが第二位だったのである。
「ハァ~、二位デスか。水無月サンに四点負けてしまいまシタ」
翔の隣でベルが少し悔しそうに言った。
「いや、ベルさん、八八二点って! まだ日本に来て一ヶ月くらいだろ。それに覚えたての日本語でこの点数って!」
翔は少し早口になっていた。そのくらい驚いていたのである。
「いえ、ワタシはまだまだデス」
ベルは謙遜した。そのときの表情は、あまり嬉しそうには見えなかった。ベルも二位だから悔しいという、あの気持ちになっているのだろうか、気になったので聞いてみた。
「ベルさんも一位じゃないと嬉しくないのか?」
「いえ、ワタシも水無月サンと同じで、あまり順位は気にしまセン。今回の点数も今の自分の実力と思って満足していマス」
「そっか。でもビックリしたよ! ベルさん勉強得意だったんだな!」
「いえ、ワタシはまだまだデス。ワタシよりできる人はたくさんいます」
「えっ、もしかしてイギリスの学校だと、ベルさんより勉強できる人そんなにいたのか?」
「いえ、イギリスでは一位でシタ」
「なっ、やっぱりベルさんすごいじゃないか! 謙遜しすぎだよ。ベルさんよりできる人なんて、そうそういないぞ」
「そんなことないデス。ワタシはただ必死に食らいついているだけデス。本当の天才には敵いまセン」
「ベルさん、本当の天才に会ったことあるのか?」
「ハイ。というより身近にいマス。ワタシの弟デス」
「弟!?」
天才が誰かというより、ベルに弟がいることの方が驚きだった。
「ハイ。ワタシの弟は天才デス。たぶん、ギフテッドだと思いマス!」
ギフテッド、それは先天的に非常に高度な知的能力を持つ人のことを言う。言い換えると天才のことだ。その能力はまだ幼い子どもにも関わらず、難解な数学の問題を解いたり、一度聞いただけですべての内容を覚える記憶力を持っていたりする。ベルは弟のことをギフテッド、だと言った。ここまで勉強が得意なベルが言うことだから、おそらく本物の可能性が高い。翔も会ってみたいなと思ったのだった。
「ギフテッド!? それはすごいな。弟さんはどんなことができるんだ?」
「そうデスね。弟は特に数学と物理が得意デス! フラッシュ暗算とか三桁の掛け算も暗算ですぐに答えることができマス! 今一五歳なんデスけど、飛び級して大学で博士号も取りまシタ!」
「え…」
予想以上の凄さに言葉が出てこなかった。
(一五歳って俺より年下だぞ! そんな子が博士号だと!)
「それに、マルチリンガルで五ヶ国語、話すことができマス! 英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語」
ベルは指を折りながら一ヶ国ずつ数えて教えてくれた。
「すっ、すごいですね!」
翔はあまりのことに語彙力が低下していた。すごい以外に当てはまる言葉が思いつかなかった。そしてベルはまだ続けた。
「それと、芸術の才能もあるみたいで、この前、弟の描いた絵が富裕層の間でオークションになり、五万ドルで売れてまシタ!」
ここまで聞いて翔は、ベルがテスト結果を見てもあまり嬉しそうに見えなかったわけがわかったのだった。今の話を聞く限り、ベルの弟は本物のギフテッドだ。そんな天才が身近にいれば、自分がどんなに頑張っても惨めに感じてしまうだろう。もし、自分が同じ立場だったら劣等感に苛まれて潰れてしまうかもしれない。
親や教師はどうしても天才の方に注目してしまうだろうから、自分の存在価値を疑ってしまうこともあるかもしれない。いつも明るく元気な印象だったが、そんなベルも、なにかしら抱えて過ごしてきたんだろうな、と改めて思った。
「そっか。それはすごいな! 俺も一度会ってみたいな!」
「そうデスか。ぜひ会って欲しいデス! 弟はとても優しくていい子なんデス!」
ベルのテンションが急に上がった。それにこの発言を聞いて安心した。ベルは弟と仲良くしているようだったからだ。
翔が教室に戻ろうとしたときに、後ろで神無月が白い抜け殻のようになっているのを見つけた。そういえば、神無月の順位を見ていなかったので、改めて掲示板を見た。
第三位、神無月紫苑、八七八点。
翔は神無月の肩に優しく手をポンと乗せ「今回も俺の勝ちだな」と言ってから教室に戻った。
放課後、翔たち『相談部』四人は、部室でテスト結果の話をしていた。
如月は八位、霜月は二五位だったらしい。二三五人いる中で、『相談部』にこんな上位が集まるとは誰が予想できただろうか。
ちなみに以前、勉強のことで相談に来た芙蓉は、無事英語の点数を上げることができたと如月が教えてくれた。それを聞いて、翔は嬉しい気持ちになった。
そんな話をしていると、ドアをノックする音がした。如月が「どうぞ」と言うと、神無月がドシドシと一歩一歩踏みしめながら部室に入って来て、翔の目の前で立ち止まり、机に右手で持っていた紙を勢いよく置いた。その紙は入部届だった。
「今回は俺の負けだが、次は必ず勝つからな」と神無月は涙目で言った。
「別に入りたくなければ、無理に入らなくてもいいんだけど…」と翔は答えた。
「俺みたいな奴は、この部活にも必要ないと」
翔は気を遣ったつもりで言ったのだが、逆効果だったらしい。神無月は心にダメージを負ったようだった。
「いや、そうじゃなくて。この部活はちょっと特殊で、人の悩みを聞いて支援する活動だから、嫌々されても困るんだよ」
「嫌々じゃなければいいんだろ?」
神無月はおそらく一度自分で決めたことは曲げないタイプだ。だから勝負に負けた時点で入部するという覚悟は決めていたのだろう。
「それなら、これは部長に渡してくれないか?」
「お前が部長じゃないのか?」
「違う」と翔は言って如月に視線を送った。
神無月は翔の視線の後を追い、如月を見てから、再び入部届を手に取り、如月の目の前に移動してから机に置き、「俺が入部してやるよ」とカッコつけて言った。
「う、うん。よろしく」と如月は言った。
「ヤッター! じゃあ、歓迎パーティーをしまショウ!」
そう言ってベルは、バッグから二リットルのジュースと紙コップ、お菓子を出した。突然の提案だったが、なんとなくみんなのその流れに乗り、中間テストお疲れ様会&ベルと神無月の歓迎会が始まったのである。
「一〇〇歩譲って水無月に負けたことは受け入れるけど、なんでエイプリルさんにも負けてるんだよ!」
神無月が悔しそうな顔をしてベルに突っかかった。
「ソウイエバ! 水無月サンに負けたら、部活に入るってことでしたけど、ワタシに負けたら何をするのか決めていませんでシタね!」
ベルは何かを企んでいるような笑みを浮かべて神無月に言った。それを聞いた神無月の顔は青くなっていた。
「え、いや、今回は俺と水無月の勝負で、エイプリルさんは関係ないというか…」
「『ベル』って呼んでください!」
「あ、はい」
「でも、ワタシにも負けたのデスから、何かペナルティがあるのは当然じゃないデスか?」
このとき初めて、ベルがS気質だと翔は知ったのだった。これが自分に向かなくて良かったとホッとしていた。
「ちっ、ちなみに……どんなペナルティですか?」と神無月は恐る恐る聞いた。
「そうデスね。これから神無月サンの呼び名はナンバースリーということでどうデスか?」
「お、いいね! ナンバースリー」と翔は悪乗りした。
「よろしく! ナンバースリー」と霜月も流れに乗った。
「よろしくお願いします。ナンバースリーさん」と如月は純粋に言ったつもりらしいが、それが神無月のとどめになってしまった。
神無月はあまりのショックに魂が抜けそうになっていた。
「アハハハハ。ジョーダンデスよ!」
ベルはそう言って笑っていたが、如月は「え!?」と困惑して周りを見ていた。
「で、できれば、もっと他のことでお願いします」
神無月が最後の力を振り絞ってベルに懇願した。
「そうデスね。デハ、神無月サンの席はワタシの右隣にします!」
「へ? そんなことでいいの?」
「そんなことではありまセン! 大事なことデス! 水無月サンの隣はワタシと牡丹で埋まってマスので、空いている席は霜月サンの隣かワタシの隣だけデス! なので、ワタシの隣にしマス!」
翔の知らないところでいつの間にか席順が決まっていたらしい。翔はあまり気にしていなかったが、ベルにとっては結構大事そうだった。
こうして新たに神無月紫苑が入部して、『相談部』は五人になったのだった。
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