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日常サイエンス!!  作者: たかべー
19/23

二位じゃダメなんですか?

五月も下旬に差し掛かり、一週間後には二年になって最初の中間テストが行われる。そのため、部活をしばらく休みにしようか、ということを話し合ったのだが、元々そんなに人も来ないし、テスト前なら尚更来ないだろうということで、部室で勉強会をすることになった。

勉強会と言ってもほとんど各自で行っていて、たまにわからない問題があると、お互いに教えあったりしている程度だった。

翔はいつもこの時間は読書をしており、質問されたときだけ答えるようにしていた。

そんな風に過ごしていたある日、部室のドアをノックする音が響いた。翔たちはドアの方に視線を送ったあと、お互いに見合った。みんな驚いた顔をしていたので、おそらく翔と同じ考えをしていたのだろう。翔は誰かのイタズラだろうと考えていた。なぜなら、今はテストが近いので、こんなときに相談に来るはずがないからだ。しかし、ドアの透明ガラスの向こう側には人型のシルエットが見えたので、誰かがいるということはわかった。

如月は翔を見た。翔は何も言わずに頷くと、如月は「どうぞ」と言った。すると、ドアがゆっくりと開き、一人の男が姿を現した。

その姿を見た霜月が「紫苑!」と言った。如月とベルも彼を知っているような反応だった。しかし、翔は彼のことを知らなかった。

「まさか本当にここで部活をやっているとはな!」

おそらく紫苑という名前の彼は、周りを見渡しながら部室に入ってきた。

「どうしたんだ? 紫苑。何か用か?」と霜月が言った。

霜月の聞き方がフラットだったので、おそらく結構仲が良いのだろう。

「ああ」

彼はそう言って霜月を見たあとに、翔を睨むような視線を向けた。

「そっか。わかった! ちょっと片付けるから、そこの椅子に座って待っててくれ」

霜月がそう言って片付け始めると、如月とベルも机に出していた勉強道具を片付け始めた。翔は読んでいた本を鞄に入れた。そして彼は向かいの椅子に座った。

それから、彼の相談を聞くことになったが、なぜか、ベルが目をキラキラさせて、やる気に満ちているようだった。おそらくベルにとって初めての相談者だからワクワクしているのだろう。

「じゃあ、まず学年とクラス、名前を」と如月が尋ねた。

「俺は二年C組、神無月紫苑かんなづきしおんだ」

神無月は真面目に答えながら、なぜか翔を睨んでいた。

「ありがとうございます。では、今日はどういった相談ですか?」

「そうだな……俺ってカッコイイだろ?」

それを聞いた四人は呆気に取られた。おそらく、みな同じことを思ったのだろう。

(いきなり何言ってんだこいつ?)と。

たしかに、神無月はカッコイイ。紫苑カラーの髪色に整った顔立ち、背が高く、霜月と同じくらいイケメンの男だった。

如月が戸惑っている様子だったので、霜月が「まぁそうだな」と答えた。

「そうだよな! 俺ってカッコイイよな!」

神無月は翔たちにも同意を求めるかのように聞いてきた。カッコイイというのは事実なので翔は「そうですね」と同意し、如月とベルも頷いていた。

「そうなんだよ! 俺ってカッコイイんだよ………でも……一番じゃないんだ」

神無月は最後の方の言葉を噛み締めて言った。そして霜月の方を向き、指をさして、大きな声で叫んだ。「この学校で一番人気のイケメンはお前なんだよ! 時雨!!」

「そんなことはないと思うけど…」

霜月は謙虚なのか、面倒だと思っているのか、どちらかわからないようなトーンで言った。

神無月はどうやら学校で人気ナンバーワンになりたいのだろう、と翔は推測した。たしかに、神無月はイケメンだが霜月もイケメンである。どちらがよりイケメンかと問われれば迷ってしまうくらいだ。しかし、神無月は何を根拠に言っているのだろうか? 統計を取っているならわかるが、噂程度なら信じるほどでもない。翔はそこを追求してみることにした。

「あの、ちょっと聞いていいですか?」と翔は言った。

「なんだ?」と神無月は鋭い目つきで翔を見た。

「その、霜月が学校で一番人気っていうのは、どこ情報ですか? もし噂ならそこまで信じなくても、キミの方が人気かもしれ…」

翔がそう言いかけたところで、最後まで言う前に神無月に反論された。

「ちゃんと確認したんだよ! ……友達に頼んで、二年の女子全員に誰が一番カッコイイかを聞いてもらったんだ!」

神無月がそう言ったとき、如月が口に手を当て「あ、そういえば!」と何かを思い出したかのようなことを言った。

「そっ、そうだったんですね。で、どうだったんですか?」

翔はそこまでやっているとは思っていなかったので、素直に驚いた。そして結果も気になったので聞いてみた。

「結果は残酷だったよ。二年女子の六〇%が霜月、三〇%が俺(神無月)、残りの一〇%がその他や無回答だった。正直、ここまで差があるとは俺も思っていなかった。おそらくこの差は他学年に聞いても、そんなに変わらないだろう」

神無月は涙目で悔しさを抑えきれない様子で言った。

「そんなことないだろ。紫苑はカッコイイって」と霜月は言った。

霜月はおそらく励ますつもりで言ったのだろうが、その言葉は神無月にとって慰めにも何にもならなかった。というより、逆に心にダメージを与えていたようである。

そしてまた、神無月の自分語りが始まった。

「だから俺は必死に努力した。人気ナンバーワンになるために運動や筋トレ、食事内容も気を遣った。美容も勉強した。そして、誰に対しても優しく接するように気を付けた。それでも俺は二位だった! どうしても時雨には勝てないんだ」

 神無月は感情を込めて訴えていたが、『相談部』の誰も話について行けずに共感していなかった。それでも神無月は続けた。

「それに、SNSのフォロワー数でも俺は時雨に負けている。時雨は学校でもSNSでも俺より人気があるんだ」

「つまり、キミの相談は、人気ナンバーワンになるにはどうすればいいのか? ということですか?」

翔はこれ以上神無月の話を聞くのも面倒だと思ったので、話をまとめて確認をした。

「いや、違う! 俺がそんなちっぽけなことで悩むと思ってんのか?」

神無月の返事に翔は少しイラっとしたが、冷静さをなんとか維持した。

「ん? じゃあ、今日は何の相談で来たんだ?」と霜月が改めて尋ねた。

「俺って頭いいだろ。こう見えて勉強は得意なんだ」

(今度は勉強自慢か)と翔は内心ため息をついた。

「そうだな。いつも成績上位だよな!」と霜月が言い、如月も頷いていたので神無月の成績を知っているようだった。ベルは「そうなんデスね」と言っていた。ベルは転校してきたばかりなので知らないのは当たり前だが、翔も知らなかった。

「でも……一番じゃないんだよ」

神無月は悔しそうな顔で言葉を噛みしめながら言った。この発言を聞いた翔はこのあとの流れを察して嫌な予感がしたのである。他のみんなも同じように察しているようだった。なぜならテスト結果の上位一〇人は、毎回掲示板に貼り出されてみんなが知っているからだ。

そして神無月は翔の方を向いて、指をさして大きな声で叫んだ。

「この学校で一番勉強ができる奴はお前なんだよ! 水無月翔!」

予想通りの展開だった。神無月は今度、翔に対して悔しさをぶつけてきたのだった。

「それって、どこ情報ですか?」と翔は適当な態度で言った。

「いや、みんな知ってるだろ!」と神無月は言った。

「そんなに順位って気になりますか?」

翔は率直に思ったことを尋ねた。なぜなら、翔は順位というものを気にしたことがないからだ。翔はいつも自分がどのくらい成長したのか、自分の実力がどの程度なのかを知るためにテストを受けている。そのとき、翔は過去の自分と比較している。周りと比べたところで何の意味もないと思っているからだ。他人の点数が上がろうが下がろうが翔の点数は変わらない。自分が精一杯努力し、その成果がわかればそれでいい。

だから、翔が意識しているのは自分の点数であり、順位は気にしない。他者と比較して劣等感を感じても害になるだけである。

「そりゃ気になるだろ。俺は去年一年間、お前に勝つために必死に勉強したんだ。友達との遊びの約束を断ったり、好きなゲームをする時間を短くしたりして、勉強時間を増やした。それでも、お前には一度も勝てなかった!」

この話を聞いて、当初思っていた神無月という男の印象は少し変わり始めていた。

最初はただの面倒くさいナルシストだと思っていたが、神無月は努力型のナルシストかもしれない。


ナルシストには三つのタイプある。

一つは攻撃型タイプだ。このタイプは高圧的で、他人を操ったり、利用したり騙したりする。自己評価が高く、思いやりがないのが特徴だ。

二つめは気が弱いタイプだ。情緒不安定で心配性、批判的で嫉妬深い。高い目標を抱いて、完璧主義になりがちだ。

三つめはハードワークタイプだ。競争心が強く、目立ちたがりで、カリスマ性があり、権力を手に入れたがる。それにエネルギッシュで、コミュニケーションが上手く、自己実現のための努力を惜しまない。この三つめのタイプは、実は経営者やアーティスト、知識人に多いと聞く。

前者の二タイプは関わると面倒そうだが、後者のタイプは嫌いじゃない。神無月紫苑という男はこのタイプかもしれなかった。人気にしろ、勉強にしろ、理由はどうあれ、一番を目指すことは大変なことだ。その努力ができる人は個人的に好きだ。

翔の中で少しだけ神無月に対する好感度が上がった。


そんなことを考えていると、いつの間にか神無月の語りは過去編に入っていた。

「俺は中学までは完璧だったんだ。人気も一番、勉強も一番、おまけに運動も得意でバスケ部ではエースだった。俺はすべてを持っていた。何不自由なく理想的な中学三年間を過ごした。…でも、高校に進学して俺は生まれて初めて挫折した。この学校には俺よりも人気者がいた。正直、時雨は俺から見てもカッコイイと思う。いろんなことを試したが人気はそう簡単に変えられない。だから、俺は勉強で一番を目指した。しかし、そこにも大きな壁が立ち塞がった。どんなに勉強しても水無月翔に勝つことはできなかった。そして俺はこの学校のナンバーツーになったのだった」

「二位じゃダメなんですか?」

翔は話を聞いている途中で面倒くさくなったので、半分本心、半分からかいのつもりで聞いてみた。

「あ、それ聞いたことあるぞ!」と霜月が乗ってきた。

「二位じゃダメなんだ! 一位を取っているお前に、俺のこの悔しい気持ちはわからないだろうな!」と神無月は悔しそうな顔をして噛み締めた口調で言った。

たしかにスポーツの研究でも、銅メダルの選手は喜んでいるが、銀メダルの選手は悔しい気持ちの方が強いと聞いたことがある。銅メダルの選手は、メダルが貰えるか貰えないかで頑張った結果のメダルだから嬉しいのだろう。一方、銀メダルの選手は、あと一歩で金メダルというところで負けてしまったのだから悔しい気持ちが強いのだろう。神無月も似た気持ちなのだろうか、と少し共感的に考えることにしたのだった。

「まぁそうだな。半分はからかうつもりで言ったけど、もう半分は本心言ったつもりだ。話を聞いている限り、キミは凄い努力家だ。人気や勉強で一位になるためにいろんなことを試したり、必死に努力したりできるところは素直に尊敬する」

「そっ、そうか!」

神無月は顔を赤くして照れているようだったので、褒める作戦を続けることにした。

「逆に俺は羨ましいけどな。そんなにイケメンで勉強も得意で他人に優しくできるところが。それに努力家なところも」

「そうだな。俺も紫苑はすごいと思う!」

霜月が翔の作戦を察した様子で続いた。

「そうだね。私もそう思う。神無月くんを応援するよ!」

如月も流れに乗った。

「そ、そうだよな! 俺ってすごいよな!」

いい流れができていた。神無月は明らかに褒められて有頂天になっていた。最後はベルで丸く収まる……はずだった。

「そうデスね! 努力し続けることは素晴らしいことだと思いマス! ……でも、結果が伴わないと悔しいデスよね」

この瞬間、翔と霜月と如月は一斉にベルに視線を送った。おそらく三人は同じことを心の中で叫んでいたのだろう。(ベルさん、なんてことを言うんだ!)と。

「ハッ、いけない。危うく乗せられるところだった」と神無月は我に返った。

「チッ、あと少しだったのに…」翔は思わず本音を漏らしてしまった。

「とにかく、俺はこのまま二位でいるのは嫌なんだ!」

「じゃあ、人参たくさん食べればいいんじゃないか。顔の血色が良くなってモテるって研究があるから」と翔は適当に答えた。

「そうなのか!? わかった。やってみる!」

「おっ、おう」

神無月が素直に受け入れたので、翔は少し戸惑った。

「で、紫苑は結局どうしたいんだ?」と霜月が改めて尋ねた。

「そうだな。とりあえず、優先順位をつけることにした。去年は同時に欲張ったことで失敗したのかもしれないからな」

「そうだな。で、どうするんだ?」

「人気で一位を目指すのはしばらく保留にしようと思う。もちろん、何もしないわけじゃないが、何かしたところですぐに成果が出るわけじゃないからな。とりあえず人参を食べる」

神無月はさっきの翔の意見を採用してくれたらしい。

(こいつ純粋だな)と翔は思った。

「じゃあ勉強に集中するってことか?」

「あぁ。だから俺は、今日宣戦布告に来たんだ。お前を超えるためにな。水無月翔!」

神無月は翔を指さしながら大きな声で叫んだ。そして最後に「俺と勝負だ!」と宣戦布告をしてきた。

「いや、俺、勝負するつもりないんだけど…」

「お前にはなくても、俺にはある!」

 神無月の目の奥は燃えていて、打倒水無月翔を掲げているようだった。

「それ、面白そうデスね!」となぜかベルがワクワクしていた。

「そうだな」と霜月は他人事のように言った。

如月はどうなるんだろう? といった顔をして見守っていた。翔と似て競争心があまりないのだろう。

「勝負は一週間後の中間試験。この日、俺はこの学校でナンバーワンになってみせる!」

神無月は天井に腕を伸ばし人差し指を立て誓っていた。

「この勝負、水無月サンが負けたら何かあるんデスか?」

「そっ、そうだな! うーん…」

神無月は腕を組んで考え始めた。この反応からして罰ゲーム的なことは特に考えていなかったようだ。

そして神無月は少し考えて込んでからハッと思いついた顔をして「そうだな。水無月翔に俺がナンバーワンだってことをみんなに広めてもらおうかな」とニヤリとした顔で言った。そう言われて、翔は背筋が震えた。そんなこと絶対したくなかったからだ。

「じゃあ、神無月サンが負けたらどうするんデスか?」とベルが尋ねた。

「おっ、俺が負けるはずないだろ!」

「勝負に絶対はありまセン」

「そ、そうだな………そのときは、この部活に入部してやるよ!」

「あ、いや、もう部員は間に合ってるんで、結構です」翔は懇切丁寧に断った。

「そんなこと言うなよ!」と神無月は寂しそうな顔で言った。

「それ、面白そうデスね!」

なぜか、ベルが一番楽しそうにしている気がするのは、翔の勘違いなのだろうか。ベルはこういう勝負事が好きなのかもしれないということがわかった。


神無月は最後に「一週間後の中間テストでお前に勝ってみせるからな。覚悟しろ!」という捨て台詞を吐いて帰って行った。

「どうするの? 水無月くん」と如月が言った。

「別にどうもしない。いつも通りするだけだ」

「だよな! 翔はほんとブレないな!」と霜月がワクワクした様子で言った。

そうは言ったが、翔は内心少し燃えていた。普段なら順位なんて気にしていないが、勝負を持ちかけられた以上、正直負けたくない。こう見えても負けず嫌いなのである。今回のテストは、いつも以上にやる気が上がったのだった。


その日の帰り道、霜月、ベルと別れて、翔は如月と二人になった。そのとき、ふと思い出したことがあったので如月に聞いてみた。

「そういえば、神無月が女子全員に誰が一番カッコいいと思うか聞いてたみたいだけど、如月さんは誰って答えたんだ?」

「えっ、わっ、私!?」

如月は急に聞かれて焦っているようだった。

翔は聞いておきながら如月の答えはわかっていた。おそらく如月は霜月と答えたのだろう。なぜなら、如月が霜月に告白しているところを見たからである。あのあと霜月がなんと答えたのか知らないが、二人は仲良さそうなので、付き合っているのかもしれない。もし、まだ答えをもらっていないとしても如月が霜月のことを好きだということは間違いないだろう。さあ答え合わせだ。

「私は……内緒。そういうことを女の子に気軽に聞いちゃいけないんだよ!」

結局如月にはぐらかされてしまったので、まだ確信を得られなかった。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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