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日常サイエンス!!  作者: たかべー
17/23

ブラコンの妹など現実には存在しない!!

ベル、如月と別れてからの帰り道、水無月は晩ご飯の材料を買おうと思い立ち、スーパーに寄った。

水無月が家に帰り着いたとき、玄関に妹の靴がなかった。どこかに出掛けているのだろう。いつもは手を洗って、すぐに夕飯の準備をするが、今日は疲れていたので手を洗ったあと、スーパーで買った食材を冷蔵庫に入れてからそのままソファーに直行し、少し休むことにした。

水無月がソファーで休み始めて五分程経ったとき、玄関の方から「ただいまー」という声が聞こえた。どうやら妹のつゆりが帰って来たようだ。


今、この家には、翔とつゆりの二人、それと猫のうめあめの二匹、計四人で暮らしている。元々は父と母、翔、つゆりの四人で暮らしていた。

四人が暮らしている家は庭付きの一軒家である。一階はリビング、ダイニング、和室、キッチン、トイレ、浴室があり、二階は翔、つゆり、両親の部屋がある。壁や天井近くには、キャットウォークがある。

母は翔が小学三年のときに病気で亡くなっている。父は翔が中学三年まで一緒に暮らしていたが、高校に進学すると「家とつゆりを任せた!」と言って、どこかに行ってしまった。毎月お金は振り込まれているので、どこかで仕事はしているようだった。

父が家に帰って来ることは年に一回あるか、ないかだ。だけど、毎年、母の命日にはお墓に花が供えられているので、案外近くにいるのかもしれない。連絡をあまり取らないから、父が今どこで何をしているのか、翔は全然知らない。おそらく、つゆりもそうだろう。

父は昔から放任主義なところがあったが、まさか放浪者になるとは予想外だった。それでも翔は、父のことを嫌いじゃない。特に好きでもないが…。

梅と雨は、父が出ていく前に自分の代わりということで、保護猫を引き取ってきた。ちなみに名前はつゆりがつけた。翔は二匹合わせて梅雨猫つゆねこと呼んでいる。

つゆりは、翔の二歳年下の妹である。現在中学三年生で、翔とは正反対の性格である。明るく元気で、友達は多く、生徒会長をやっているらしい。さらに、成績も良く、学年トップらしい。運動神経も抜群で部活はテニス部。全国レベルの実力があるらしいが、翔はつゆりのプレーを見たことない。

つゆりは母親似で整った顔立ちをしている。髪型はいつもツインテールで服装もオシャレだ。翔は父親似で不愛想な顔立ちだが、つゆりは母親に似て良かった。翔たちの母は結構キレイな顔立ちだった。つゆりはその遺伝子を多く受け継いだのだろう。成長するにつれてだんだん母に似てきている。

しかし、つゆりと翔はあまり仲が良くない。むしろ、つゆりは翔のことを嫌っている。翔は心当たりあるが、自分からそのことに触れないようにしている。

翔とつゆりは、一緒の家に暮らしているが、ほとんど会話することがない。翔が「おはよう」と声を掛けても基本無視。いや、頷いて返してくれることはある。

晩ご飯は基本翔が作っている。何が食べたいかつゆりに尋ねると、メモ用紙に書いて、リビングの机に置いて知らせてくる。当然、晩ご飯は別々に食べている。ご飯ができたら、翔は自分の分を準備してから、二階の自分の部屋で食べている。その間につゆりはダイニングで食べている。早く戻ると、まだつゆりが食べているかもしれないので、食べ終わってもすぐには片付けないようにしている。

晩ご飯の後片付けも翔の仕事である。時間を見計らってキッチンに行くと、つゆりの食べ終わったあとの食器が流し台に置かれているので、自分の分と一緒に洗っている。

食器を洗い終わったあとは、風呂の準備をする。ほぼ毎日二〇時頃に準備するため、わざわざつゆりに知らせなくても、時間になれば一人で風呂に入りに来るのである。そう、一番風呂はいつもつゆりなのである。その間、翔は自分の部屋で読書をしている。

洗濯は別々にしている。翔は朝にしているが、つゆりは夜にしている。年頃の女の子だからこれは仕方のないことだろう。兄と同じ洗濯機で服を洗うなんて、変なにおいが移るかもしれないので嫌なのだろう。翔はそんなに臭くないと思うが。そんな感じで、翔とつゆりは同じ家に住んでいるが会話することはないのである。

よくラノベやアニメでブラコンの妹が登場するが、そんなものは現実には存在しない。現実はもっと冷めているのである。翔たち程ではないにしても、兄妹なんてものは、普段あまり干渉することはない。だけど、正直な気持ちを言うと、少しはコミュニケーションを取りたいと思うことはある。しかし、翔には過去に負い目があるため、自分からは話しかけにくいのが現状である。


翔はこれからもこの状態が続くのだろうと思っていたが、今日は少し違った。

つゆりはいつもだと、帰って来て手を洗ったら、すぐに二階の自分の部屋に向かうのだが、今日は翔に近づいて来て、話しかけてきた。

「ねぇ、お兄ちゃん。疲れているようだけど大丈夫?」

「え!? あ、あぁ。大丈夫だよ」

久しぶりに話しかけられたことに驚いて、声が裏返ってしまった。

「そっか。よかった」

翔はつゆりが自分のことを心配してくれていると思い、それが少し嬉しかった。

「ところでお兄ちゃん、今日はどこに行ってたの?」

「今日? いつも通り、図書館だけど…」

「ふーん……図書館だけ?」

「いや、そのあと街の方に買い物に行った」

「街に買い物に行ったんだ。珍しいね。それ買ったの?」

つゆりは翔が横に置いていた袋を指して言った。

「あぁ。服一式買って来た!」

「そうなんだ! あれ? お兄ちゃんってファッションに興味あったの?」

「まぁ、たまにはいいかなと思って」

「ふーん……で、一人で買い物してたの?」

「いや、途中で同じ部活の人に会ったから一緒に行動したけど」

「そうなんだ。ていうか、お兄ちゃん部活入ってたんだ」

「あぁ、まだ仮入部なんだけど、知り合いに誘われて」

「そういえば、お兄ちゃんこの前から少し帰りが遅くなってたもんね。そういうことだったんだ」つゆりは呟くように小さな声で言った。「何の部活に入ったの?」

「『相談部』っていう部活なんだけど、人の悩み相談に乗って、一緒に解決しようって感じの活動をしている」

「ふーん……いいじゃん! お兄ちゃんに向いてそう」

「そうか?」

翔は笑われると思ったが、つゆりは笑わなかった。

「部員何人いるの?」

「今は俺を含めて三人だけ」

「他の二人ってもしかして女子?」

つゆりの声が少し大きくなり、早口になった気がした。

「いや、一人は霜月っていう同じクラスの男子で、もう一人は如月さんっていう同じクラスの女子」

「その如月さんってどんな人?」

なぜか、つゆりの質問の圧が少しずつ強くなっている気がした。なんとなく誘導尋問されているような気がしたが、それよりも話したいという感情が勝っていたので、あまり気にしなかった。

「どんな人って、いい人だよ」

「そうじゃなくて。見た目を聞いてるの!」

「見た目? そうだなぁ、黒髪ショートヘアで…」

「あの人か!」とつゆりが呟いた。

「ん? つゆり、如月さんを知ってるのか?」

「えっ、い、いや、しっ、知らないよ!」

つゆりは目を逸らして、明らかに動揺しているのがわかったので、おそらく嘘をついているのだろう。だけど、つゆりは如月をいつ知ったのだろうか。翔も四月に知り合ったばかりなのに、と思ったが、それ以上追及しないことにした。つゆりが困るだろうと思ったからだ。それに、つゆりが如月を知っていたとしても翔には関係ないことだ。つゆりは外向的だから、翔の知らないところでもたくさん活動しているため、そのときに出会ったのかもしれない。

「それにしても、今日はやけに話しかけてくるな。どうしたんだ?」

「えっ、べっ、別に普通でしょ。これくらい。兄妹なんだから!」

(今まで話しかけても無視していたのは誰なのかな)と翔は心の中で呟いたが口に出さなかった。

「そっか。ところで、つゆりも出かけてたみたいだけど、どこに行ってたんだ?」

今度は翔がつゆりに質問する流れを作ろうとした。

「私? 私は……って、何でお兄ちゃんにそんなこと教えないといけないの?」

「え!?」

「そんなこと教えるはずないでしょ!」

「えーー!」

つゆりは強い口調で拒否した。

(俺はつゆりの質問に全部答えたのになんで?)と翔は心の中で泣いていた。

「それより、お腹すいたんだけど、今日のご飯はまだ?」

つゆりは翔を睨みながら言った。

「そっ、そうだな。今日はつゆりの好きなチーズハンバーグにしようと思ってたんだけど、どうだ?」

「ふっ、ふーん。いいじゃん!」

一瞬つゆりの表情が緩み、すぐに不愛想な顔に戻ったが、表情を崩さないように我慢しているのがわかった。どうやら翔の作戦は成功したらしい。元々、チーズハンバーグを作る予定ではなかったが、つゆりの機嫌を取るためにとっさに変更したのである。材料もあるので問題なかった。

「じゃあ、今から準備するから、ちょっと待ってて!」

「うん!」

それから翔は、キッチンでご飯の準備、つゆりはリビングでテレビを見始めた。いつもだと翔がご飯を作っている間、つゆりは自分の部屋で過ごしていたのだが、今日は違うようだった。

ご飯の準備ができたことをつゆりに伝えてから、翔は自分の分を分けて部屋に向かおうと階段に足を一歩掛けたとき、つゆりに声をかけられた。

「お兄ちゃんどこ行くの?」

「え? どこって、部屋だけど…」

「もうそれ面倒でしょ。今日からここで食べれば」

「えっ、いいのか?」

「いいもなにも、ここは私とお兄ちゃんの家なんだから、どこで食べてもいいでしょ! それともなに? 私と一緒に食べるのが嫌っていうの?」

「いや、嫌じゃない!」

翔とつゆりは、久しぶりに一緒にご飯を食べた。特に何か話すということもなかったが、翔は嬉しかった。それから、片付けをするときも、お風呂の準備をするときも、つゆりはリビングでテレビを見ていた。

なにがあったかはわからないが、つゆりなりに翔とコミュニケーションを取ろうとしているのかもしれない。もしかしたら、つゆりは翔のことを許してくれたのかもしれない、と思った。

今日一日は、なんだかいつもと違う日常で、翔にとっては新鮮だった。一日でいろんなことを経験したし、新しいことも学んだ。楽しかったけど、すっごく疲れた。今日はぐっすり眠れるだろうと思いながら、翔は布団に入った。


翌日、翔はいつも通り、朝の六時に目覚め、モーニングルーティーンをこなした。身体的には回復していたが、精神的な疲労がまだ残っていた気がしたので、今日は学校を休むことにした。

朝の散歩から帰ると、パジャマ姿のつゆりが目を擦りながら階段を下りてきた。翔は「おはよう!」といつもより元気な声で言ったが、当然のように無視された。もしかして、昨日の出来事は夢だったのかもしれないと思ったが、そのあと小さな声で「おはよう」というつゆりの声が聞こえたのだった。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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