ファッションで築く第一印象!!
水無月とベルがレディース専門のアパレルショップで買い物をしていると、そこに如月がやって来た。
「Oh! 如月サン! 奇遇デスね!」
「そ…そうだね。というより、ふっ、二人は…こっ、ここで…なに…してるの?」
「なにって、買い物だけど…」と水無月が答え、ベルが「デス!」と言った。
「あ、そっ、そうなんだ…。この前、水無月くん、休みは一人で過ごすって言ってたから、一緒に出掛けるのが嫌なのかと思ってたんだけど……。そういうわけじゃなかったんだね。ごめんね。タイミング悪いときに声かけてしまって…」
如月は申し訳なさそうな態度をしていた。おそらく、水無月とベルが買い物をしていたところに来てしまったから、邪魔したと思ったのだろう。しかし、そんなことはないので、水無月は今までの流れを如月に説明することにした。
「いや、本当は一人で過ごす予定だったんだけど、家を出たらなぜかベルさんが目の前にいて…。それで、俺について来るって言うから、仕方なく承諾して、今に至るってこと」
「デス! たぶん、水無月サンは誘っても断るタイプだと思ったので、強引に行ったら上手くいくかもしれないと思いまシタ。作戦成功デス!」
「そうなんだ。水無月くんは強引に行った方がいいんだ」
如月が小さな声で呟いたのを聞いて、水無月は背中に寒気を感じた。
「いやいや、強引にされたら怒るからな。今回はたまたま機嫌が良かったから受け入れたけど、普段なら突き返しているか、無視してるから」
「そんなこと言ってー! ワタシ、水無月サンが優しいこと知っているので、騙されまセン!」
「いや、優しくないし、本当だからな」
「あれ!? ベルさんは水無月くんについて行ってるんだよね?」
「そうデスよ!」
「じゃあ、なんでレディース専門のお店に来てるの?」
如月が問い詰めるような冷淡な目をして水無月を見た。それに少し動揺したが、そんな状態の如月でも可愛さが残っており、あまり怖くはなかった。
「あー、それは、午前中ずっと図書館に付き合ってもらったから、なんか申し訳なく感じて。…それで午後はベルさんに付き合おうかな、と思って」
「そうだったんデスか!?」
「あれ? 言ってなかったか」
「聞いてまセンよー」
「ということは、やっぱり水無月くんは強引に弱いんだね」
如月が小さな声で呟きながら顎に手を当て、一人納得した様子だった。
「ところで、如月サンもショッピングに来たのデスか?」
「うん! 暇だったから、ちょっと見ていこうかなと」
「そうデスか! それなら、このあと時間ありマスか?」
ベルのこの発言を聞いたとき、水無月は嫌な予感がした。
「うん、どうしたの?」
「今から水無月サンの服を買いに行こうと思ってたんデス! 一緒に…」
「行く!」
ベルの誘いを聞き終わる前に、如月は即答した。
「決まりデスね。じゃあ行きまショウ!」
嫌な予感は的中し、水無月はベルと如月と一緒に、なぜか水無月の服を買いに行くことになった。
小さいとき、人を見かけで判断してはいけないと教わったことがある。そう言った人はおそらく、外見に捉われず、中身を大切にしなさいということを教えたかったのだろう。たしかにそれは大事なことのように思える。しかし、これはとても難しいことだ。なぜなら、人は視覚から最も情報を得ているからだ。
初対面の相手について何の情報もないとき、人は見た目で判断してしまう。顔や髪型、服装などを見て第一印象を決めているのである。そして人には、初めに抱いた印象をできるだけ変えないようにしようというバイアスがあるため、相手の行動を自分の解釈に当てはめてしまう。たとえば、良い印象の人が意見をはっきり言うとしたら、しっかり者や頼りがいがあるなどポジティブに捉えられる。一方、悪い印象の人が同じことをすると、傲慢とか自己中などネガティブに捉えられるのである。
そのため、第一印象を良くすることはメリットが大きい。そう考えると、イケメンや美女は生まれながらに有利である。実際にイケメンや美人は、性格が良い、知的能力や音楽的センスがある、と思われることが多いらしい。たしかに、霜月や如月は性格が良いと思う。これは、水無月が最初に抱いた印象を変えないようにしているのか、それとも今まで一緒に過ごした中で判断しているのかはわからない。
しかし、イケメンじゃない水無月みたいな人でも心配する必要はない。まだ挽回はできるのである。ファッションで好印象を与えることもできるのだ。たとえば、フォーマルな服装は真面目でできる人、想像力が高いなどの印象を与えることができる。アーティスティックやドレッシーな服装は天才肌に見えたり、威圧感を与えたりする。そして、クラシックなファッションは最も印象が良いらしい。
だが、注意も必要だ。自分のキャラクターや年齢と合っていない服装、手抜きで無難な服装をすると、逆に悪い印象を与えるのである。
水無月はそんなことを知りつつも、流行について行くのを諦めた身だ。だから水無月が意識しているのは、ファッションセンスより、着こなしや清潔感を大事にしている。汚れていたり、ヨレヨレシワシワだったりしないように気を付けているし、あまり派手な服装はしないようにしている。それが水無月のキャラクターに合っていると自分では思っている。なので、今から女子二人と服を買いに行くのが不安である。
ベルの服を買った店を出た瞬間、水無月は強い殺気を感じた。すぐに周りを見渡したが、怪しい人はいなかった。今日はなんだかおかしい。いつもと違うことをしているせいで、感覚が麻痺しているのかもしれない。そう思ってため息をついていると、「水無月サーン! 行きマスよー!」とベルが笑顔で手を振りながら、水無月を呼んでいた。そして、その隣で如月も待っていた。水無月は「あぁ、今行く!」と答えて小走りで二人に追いついた。
「水無月くんって、どういう服が好みなの?」と如月が言った。
「うーん、そうだなぁ。ファッションにそこまで興味がないから好みかどうかわからないけど、ほとんどいつも今日みたいな服装をしている」
「そうなんだ! そういえば水無月くんの私服、見たの初めて。なんだか新鮮! 似合ってるね!」
褒められて嬉しいのは水無月のはずなのに、如月を見るとなんだか嬉しそうな顔をしているようだった。
「そう言われればそうだな。今まで休日に誰かとこうして出掛けることなんてなかったからな。そもそも知り合い自体そんなにいないけど…」
「知り合い…」と如月は呟いて少し暗い顔になった。
「じゃあ、水無月サンが如月サンの私服を見るのも初めてってことデスね!」
「そうだな」
ベルにそう言われて水無月は如月に視線を送った。
今日の如月のファッションは、黒のトップスに白のパンツスタイルだった。いつも目にしている制服のときの印象とはまるで違った。さらに、髪型も少し違い、いつもは真っ直ぐな髪を今日は結んでいた。耳にはイヤリングもつけていた。
如月は前髪を触ったり、身なりを整えたりしていた。見られて恥ずかしいのか、少し顔が赤くなっていた。
「どっ、どうかな?」と如月が言った。
「似合ってると思う」
「ほっ、ほんと?」
「あぁ」
「良かったぁ。ありがとう!」
如月は胸に手を当てホッとした様子だった。そしてなぜか笑顔で感謝してくれた。
そんなやり取りをしながら三人はしばらく歩いていた。
「ところでベルさん、水無月くんの服をどこで買うつもりなの?」
それは水無月の知りたかったことだったので(ナイス! 如月さん!)と思った。
「そうデスねー。どこがいいか探しているんデスけど、なかなか見つかりまセン。でも、とりあえずユニクロ以外にしようと思ってマス」
「え、なんでユニクロ以外なの!?」
(なんでユニクロ以外なんだ!?)と水無月も内心抗議していた。
「水無月サンは普段ユニクロの服を着ることが多いらしいので、せっかくなら、違うブランドの服を選びたいなーと思ったんデス!」
「そうなんだ。そうだね!」
如月はあっさり納得したようだが、水無月はあまり納得できなかった。
この二人は、ユニクロの良さに気づいていない。今からユニクロの凄さを説教してやろうか、などと考えていると、ベルが急に立ち止まった。
「ここ見てみまセンか?」
「そうだね。見よう!」
如月が賛同して、三人は店の中に入った。
そこは明らかにファッション好きが集まりそうな、ストリート系の服がたくさん並んでいた。水無月も前に気になっていた時期はあったが、今はもう何も感じていない。水無月はカラフルな色は目に悪いと思っている。それに似合うはずないとも思っていた。水無月は着る服はほとんどがモノトーンの無地である。
「ヨーシ! では、如月サン! どっちが水無月サンに似合う服を選べるか勝負デス!」
「望むところだよ! 負けないからね!」
いつの間にかベルと如月の勝負が始まろうとしていた。
ルールはこんな内容だった。ベルと如月がそれぞれ水無月に似合いそうな服を選んでくる。それを水無月、ベル、如月の三人で審査して、全員が納得のいく服を選んだ人の勝ち。水無月の服選びなのに自分だけが気に入っても買えないルールはどうなのかと思ったが、そんなことは気にも留めないベルのスタートの合図で、勝負が始まってしまった。
それから、ベルと如月が選んだ服を水無月が試着室で着て、三人で評価し、一人でも納得しなければ戻して、また新しい服を持ってくる、ということを何度も繰り返した。
水無月は何度か試して気づいたことがあった。ベルは派手な色が好みだということだ。ベルが選んで持ってくる服の色は赤や緑、蛍光カラー、チェック柄など、水無月が普段着ない色の服をどんどん持ってくる。普段着なれない服ばかりなので、試着だけでも恥ずかしい。ベルは「似合ってる」と言ってくれているが、水無月には似合っていないように見えた。
一方、如月は、黒や白のモノトーンカラーが多いが、グラフィックTシャツやダメージの入ったジーンズなど、ワンポイント入りの服を選んでいる。水無月の好みを意識して選んでくれているのか、それとも元々如月の好みなのかはわからないが、今のところ如月の選んだ服の方が好印象である。
評価のときは、二人がお互いの選んだ服のダメ出しをして、水無月が感想を言う前に着替えるという流れになっていた。
二人が選んでいる姿を見ながら、水無月は色について考えていた。
色選びはファッションにおいて重要である。黒の服は身体をスマートに見せるが、白は膨張色だから逆に太って見える。しかし、心理的には、黒は攻撃性が増すが、白は優しさを感じるらしい。赤は目立つので苦手な人も多く、青は親しみやすい色らしい。
それに男と女では、識別できる色の数が違う。男は三色視である。つまり赤、青、緑の三原色で世界を見ているということだ。一方、女の三分の一は四色視、四つの基本色で世界をみている。さらに、五色視も存在するらしい。男ではわからない色の違いを女は見分けることができるそうだ。そう考えると、彼女たちは我々男たちとは違う世界を見ていることになる。女性が服選びに時間が掛かるのは仕方のないことなのかもしれない。
一店舗目で一通り試着したが、なかなか決着がつかなかったので、店を変えることになった。水無月は疲れていたので「もういいんじゃないか?」と言ったが、二人は聞く耳を持たずに先に行ったのだった。
二店舗目はモード系の服がメインの店に入った。そこでも決着がつかず、次はアメカジ系など、ジャンルの異なる店を転々として水無月は疲れ切ってしまった。
「ハァハァ。なかなか見つからないデスね」
「ハァハァ。そうだね」
二人も息を切らして、疲れていた。
「今日はもうここまでにしないか? 選んでくれるのはありがたいけど、もういい時間だし…」
水無月がそう言うと、ベルと如月は少し残念そうな顔をした。しかし、水無月も疲れたので早く帰りたかった。家に帰って夕飯や風呂の準備もしなければならない。水無月は家でもやることがあるので、体力は残しておきたかったのである。
「チョット待ってくだサイ。あと一ヶ所だけ見に行きまセンか? あのお店なんデスが…」
ベルが指さした方に水無月と如月は視線を送った。そこはきれいめで派手すぎないカジュアルな服がメインのお店のようだった。
「じゃあ、あの店で最後にしよう」と水無月が言った。
「ハイ!」
三人は店に入った。パッと見た感じ、良さそうな服はたくさんある。ここなら見つかるかもしれないと思った。それに今度はベルと如月が二人で一緒に選び始めた。もうルールはどうでもよくなったのだろう。というより、最初から協力していればもっと早く見つかったんじゃないのだろうか。
しばらくして、二人が選んだ服を持ってきた。それは紺色のセットアップとオシャレなグラフィックがプリントされている白のTシャツだった。なんとなく今着ている服に近い感じがするが、それよりも少しカジュアル寄りだった。セットアップは今のトレンドであるオーバーサイズで、細かい装飾も施されていた。水無月もそれを気に入ったので買うことにした。
店を出ると、近くにベンチがあったので、そこに座って少し休憩することにした。二人が休憩している間、水無月は「ちょっとトイレ行ってくる」と言って、気づかれないように、最初に訪れたお茶屋に来ていた。そこで今日のお礼にと思って、ベルに抹茶を買った。如月は何が好みかわからないので、とりあえず違う店で紅茶を買った。ベルには、日本のお茶を選んだので、なんとなく如月には、イギリスのイメージがある紅茶が無難かと思って選んだのだった。如月が気に入ってくれるだろうか、少し心配だったので、他の種類のお茶も予備として買った。せっかくなんでプレゼント用にラッピングもしてもらった。
ベンチに戻ると、二人は笑顔で楽しそうに話していた。
「Oh! ヒーローの水無月サンが戻って来まシタ!」
「ん? なんだそれ?」
「ちょっと、ベルちゃん! それは言わないで」
いつの間にか如月のベルの呼び方が変わっていた。どうやら何か話して仲良くなったようである。それにベルのテンションが妙に高い気がしたが、一体なんの話をしていたのだろうか。それにヒーローってなんだ? と思ったが、仲良くなったのなら良かった。
「じゃ、帰ろっか」と如月が言って、二人は立ち上がった。
「あ、ちょっと待って。二人に渡したい物がある」
水無月はそう言って、買って来た抹茶と紅茶をそれぞれ二人に渡した。
二人とも「これは?」といった顔をしていたので、説明した。
「今日付き合ってくれたお礼に買ったんだ。二人のおかげでいい服を買うことができたから。ベルさんには、最初に行ったお店の緑茶。欲しがっていたけど買ってなかったからちょうどいいかなと思って」
「エー、いいんデスか!!」
「あぁ、もらってくれるとありがたい」
「アリガトウゴザイマス!」
「如月さんには、何がいいかわからなかったから、とりあえず紅茶を買ったんだけど、どうかな? 苦手じゃない?」
「私、紅茶大好き! ありがとう!」
如月は笑顔で喜んでいるようだった。気を遣って喜んでいるようには見えなかったので、水無月はホッとした。
もしものために、他にも何種類かお茶を買っていたが、出番はなくなったので、帰って妹にあげることにした。それにしても、サプライズプレゼントはやっぱり苦手だ。今後もあまりしたくないな、と改めて思った。
それから、三人はそれぞれの帰路に就いた。
水無月は帰り道、今日の出来事を振り返っていた。ベルの読めない行動、如月のよくわからない反応など、水無月の予想はことごとく外れた。そして学んだことは、まだまだ知らないことがたくさんある、ということだった。今日の教訓を大事にしてこれからも勉強を頑張ろうと思った。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。
感想、お待ちしております。




