水無月翔とブルーベル・エイプリル!!
水無月翔は中学三年生とき、英語をペラペラ話せるようになりたいと思い必死に勉強したが、一向に話すことができなかった。このとき、勉強の仕方が悪いと判断した水無月は、英語を話せるようになるにはどうすればいいのか、調べ始めた。その結果、ほとんどが英会話スクールに行くという選択だったが、それなりに費用がかかるので、他の方法も探した。そして、英語しか話せない場所に行く、またはその国の人を好きになると、英語を話せるようになるだろう、というネット記事を見つけたのだった。
高校一年生になったばかりの水無月は、まだ科学的根拠や情報の信ぴょう性などということに詳しくなかったため、それをすぐに信じて試してみることにしたのである。
英語を話す人を好きになるという選択肢は、いきなりそんなことをしようと思っても無理なので即却下になった。
英語しか話せない場所に行くという選択肢は、実際に外国に行くことは費用がかかるのでナシ。英会話スクールも同じ理由でナシ。そして他に方法はないか、ネットで検索していたとき、オンラインで外国人と交流するというサイトを見つけたのだった。
そのサイトを詳しく見ると、日本に興味を持っている外国人に日本の良いところを教えたり、逆に外国に興味を持っている日本人がその国の良いところを教えてもらったりするということだった。無料のオンラインツールを使っての交流なので、費用はゼロだった。
水無月は(これだ!)と思った。ようやく理想のツールを見つけて、早速試してみることにしたのだった。
登録には名前は最低限のプロフィールが必要だった。ユーザーネームは、水無月がSNSでよく使う『六月(ROKUGATSU)』にした。単純に水無月を言い換えただけである。プロフィール内容もなるべく正直に書いた。
登録を終えてから早速相手探しを始めた。水無月は大人数で話すのが苦手なので、一対一で話せる相手を探していた。また、英語ということでイギリス人を探していた。まずは同年代の人が話しやすいだろうと考えた水無月は、掲載されている写真とプロフィールを見て、同じ一五歳の男を選んで連絡を取ってみた。
水無月が最初に選んだ相手は、マイクという一五歳の金髪イギリス人。水無月がアポイントを取ると、マイクから承諾の連絡があり、都合を合わせてから、いざオンライン交流を始めた。そこで水無月は衝撃的な光景を目にするのである。なんと相手は一五歳の男子ではなく、白髪交じりのおっさんだったのだ。マイクは、どっからどう見ても、プロフィールの写真と別人だった。
本人は一五歳と言い張っていたが、どう見ても五〇代のおっさんにしか見えなかった。あまりの衝撃に水無月はほとんど喋ることができず、ただ一方的におっさんの話を聞くだけだった。それも右から左に流れるだけで、まったく頭に残らなかったのである。交流の制限時間を二〇分にしていたので、水無月は時間になった瞬間に適当に別れ言葉を告げて、すぐに切断したのである。
水無月の最初のオンライン交流は衝撃的だったが、これはおそらく例外的なやつだろうと考え、その後も何度か試してみた。だが、プロフィールを偽っている人は結構多く、最初のマイクは例外ではないようだった。その中で特に衝撃的だったのは、写真とプロフィールは女子高生なのに、いざ交流してみると、中身は髭面のおっさんだったことだ。これはさすがにすぐに切断した。
ネットの世界では、自分を偽って違う誰かになりきるということを聞いたことあったが、まさかこんなにたくさん存在しているとは思わなかった。水無月はこのとき初めて情報の信ぴょう性の大切さに気づいたのであった。
なかなかいい相手が見つからなかったので、もう諦めようとしていたとき、水無月に初めてDMが来たのだった。
その相手はプロフィールによると、名前はベル、イギリス在住のイギリス人で年齢は一六歳。日本の文化に興味があるということだった。日本語は勉強中だが、まだほとんど話せないらしく、英語で話せる人を希望ということだった。写真は日本の祭りの屋台で売っているような、おかめの面をつけていたので、顔はわからなかったが、金髪ということはわかった。
水無月はその写真を見て警戒した。顔を隠しているし、どうせまた別人だろうと思ったのだった。そのため、返信せずに無視していたのだが、それから毎日DMが送られてくるので、相手の根気に負け、受けることにしたのである。もし相手が本物なら、ちょうどイギリス人だったので、英語を学びたい水無月にとって都合が良かった。しかし、今までの経験から期待はしないでいた。水無月は正直にプロフィールを書いて、写真も自分を載せていたが、そんな人の方が少ないという印象を抱いていたからだ。
そして、水無月はベルと交流する日を迎えた。水無月は約束の午後八時の五分前に自室の部屋のパソコンの前に立って、準備をしていた。日本とイギリスは時差が八時間あるので、イギリスは正午ということになる。交流時間は三〇分だった。
午後八時が近づくにつれて、水無月の鼓動は少しずつ早くなり、手には汗が滲み始めていた。あまり期待していないはずなのに、なぜか緊張していたのである。
そんな状態で午後八時を迎えたが、ベルは現れなかった。少しして水無月の鼓動も落ち着いた。どうやらベルはバックレたようである。今までも何回か相手が現れなかったことがあるので、怒りの感情はなかった。おそらく、ベルもプロフィールを偽っている誰かなのだろう。そう判断して、接続を切ろうとしたとき、真っ黒だったパソコン画面に急におかめ顔が映ったのだった。
水無月のパソコンに映ったのは、ベルのプロフィール写真と同じ人物だった。彼女は英語で何か言っているようだったが、早口過ぎて聞き取ることができなかった。おそらく、遅れてきた理由を言っているのだろう。話し方が焦っているようだった。それに「Im sorry for being late」(遅れてすみません)と言ったのは聞き取ることができた。どうやら、ベルはバックレたわけではなく、ただ遅刻しただけのようだった。それがわかり、水無月はホッとした。
外国は日本に比べると時間にルーズと聞いていたが、ベルの焦りようからイギリスではそうでもないのか、と疑問に思う水無月であった。
水無月も普段は遅刻の常習犯であるため、遅れることに対してはあまり怒りの感情は湧かないのである。なので、水無月はベルが落ち着くようにゆっくりと拙い英語で話した。遅れたことを気にしていないということ、英語はまだ勉強中でまともに話せないことを伝えると、ベルは落ち着いた様子でゆっくり話し出した。それにより、今度はちゃんと聞き取ることができた。
ベルが遅れた理由は、回線が悪かったようで、なかなか繋がらなかったというよくある話である。二分前から開設しようとしていたらしいが、上手くいかずに戸惑ってしまい、時間がかかったということだった。場所を移動したら解決したらしい。
そんなトラブルがありながらも、無事回線が繋がったので、水無月とベルのオンライン交流が始まったのである。
まず始めにお互いの自己紹介をした。話を聞いている限り、ベルも水無月と同じ、正直にプロフィールを書いている感じがした。顔はわからないが、声の高さからおそらく女性で、綺麗な金髪や話し方から、年齢が一六歳というのも本当かもしれなかった。
水無月の印象としては、ベルが嘘をついているようには見えなかった。なので、水無月は自分の直観を信じてベルを真摯に接した。ベルも水無月に対してフレンドリーに接してくれた。初めての会話だったが、ベルが積極的に質問したり、話題を振ったりしてくれたので、水無月も話しやすく、あっという間に時間が過ぎたのである。
それから二人は定期的に連絡を取り合うようになり、都合が合えば月一でオンライン交流するようになった。水無月とベルは、お互いに学校での出来事や国で話題になっているニュースなどを長いときは三時間も語り合っていた。
その結果、水無月は英語で話す能力が格段に上がっていたのである。ベルとの会話は楽しくて面白かったので、水無月もやる気に満ちており、それが上達スピードを早めたようだ。
そんな状態が一〇ヶ月程続いていたのだが、ある日以降、ベルとの連絡はぱったりとなくなったのだった。最初は何度かメッセージを送ってみたが、ベルからの返事はなかった。イギリスは日本と違うため、きっと忙しいのだろうと思い、自分からメッセージを送らないようにした。そしてそのまま時が過ぎ、ベルとの交流は自然になくなったのである。
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