ベルの不安な気持ち!!
如月がドアの鍵を開けてから部室に入り、水無月たちはそれぞれいつもの定位置に座った。三人の定位置とは、教室中央の長机に三脚の椅子があり、真ん中が霜月、霜月の左隣が如月、右隣が水無月である。如月は向かいにある相談者用の椅子を自分の隣に持っていき、そこにベルが座るように促した。
それから各々好きなことをして過ごすことになった。水無月と如月は読書、霜月はスマホで遊んでいた。その間、ベルはボーと窓の外を眺めて過ごしていた。そしてそのまま三〇分程経った頃、ベルが突然大きな声を上げた。
「ンモー! みなさん一体何をやっているんデスか!? ここはソウダンブじゃなかったんデスか? 悩んでいる人の相談に乗って、解決に導くんじゃなかったんデスか!? これじゃあ、ただの読書部じゃないデスか!」
ベルは想像していたのと違ったために、不満を爆発させたようだった。それよりも、三〇分間何も言わずによく待てたな、と水無月は感心してしまった。
それに、これはどうしようもないことでもある。なぜなら、『相談部』は相談者がいなければ活動することがないのだから。
「まぁそう言わずに。相談者がいなければ、俺たちはすることがないから仕方ない。それに誰も来ないってことは、悩んでいる人がいないって考えれば、いいことなんだし!」
霜月が水無月の思っていたことと同じ意見を言ってベルを説得した。
「それは…そうデスが……。ア! じゃあ、ワタシの相談に乗ってくれまセンか?」
「えっ、エイプリルさんの相談に?」
「ハイ! ア、それと、ワタシのことは『ベル』と呼んでくだサイ!」
霜月は如月に視線を送った。部長である如月に判断を任せたのだろう。
「ベルさんは、何か悩み事があるんですか?」と如月が言った。
「ハイ! たくさんありマス!」
「わかりました。じゃあ、ベルさんの相談に乗ります」
ベルの態度は明るく、悩んでいるような感じはしなかったが、とりあえず、水無月と霜月と如月は、転校生ブルーベル・エイプリルの相談に乗ることになった。
水無月たちはそれぞれ持っていた本とスマホを鞄に入れ、相談を受ける準備をした。ベルは三人の正面、元々椅子があった場所に移動し、背筋を伸ばし両手を膝の上に乗せ、姿勢を正した。
「で、では、ベルさんの悩んでいることは何ですか?」と如月が言った。
「実は…ワタシ…勢いで日本に来たので、これから上手くやっていけるのか不安デス。友達ができるのか、日本の暮らし方に合うのか心配デス」
ベルの悩みが想像していたことと違ったため、水無月は少し驚いた。ベルは明るく社交的で友達が多い、というのが水無月の抱いていた印象だったが、そんな人でもやはり最初は不安なんだな、と改めて気づかされた。
人は誰でも新しいことに挑戦したり、初めての場所に行ったりすることに対して、恐怖や不安を抱くように進化したらしいが、多くの人がそれを隠してやり過ごしているため、時々そのことを忘れてしまう。特にベルのような社交的なタイプの人は、そんな不安はないと思われやすいだろう。しかし、自分に当てはめて考えてみると、イギリスから日本の学校に転校して来るのに、不安な気持ちがないわけがない。もちろん人それぞれ不安に思う気持ちとワクワクする気持ちの程度に違いはあるだろうが、多くの人は不安な気持ちを持っているはずだ。ベルもその一人にすぎないのである。
「まぁ、そうだよな。俺も転校経験あるから、その気持ちわかるよ。ベルさんみたいに国境を越えたことはないけど…」と霜月が共感して言った。
「そうなんデスか!?」
ベルが霜月の話に興味を持ったようだった。相談の始まりとしてはいいスタートを切れたと思う。自分と同じ経験をした人の話を聞くのは、自分は一人じゃないと気づいて安心したり、乗り越えるための活力になったりすることがあるからだ。
「あぁ。中学三年のときに、この街に引っ越して来たんだ」
「そうだったんだ!」と如月が言った。
如月とは高校で同じになったから霜月が転校してきたことを知らないのは当然だ。水無月は霜月と同じ中学だったので、転校して来たことは覚えていた。
「霜月サンも最初は不安だったんデスか?」
「不安だったよ。だって中学三年っていう中途半端な時期だったからな。もうほとんどは仲の良いグループができてるし、そこに入って行くの、すっげー怖かった!」
「そうデスよね。怖いデスよね。霜月サンはどうやって友達を作ったんデスか?」
「うーん、俺は勇気を出して自分から話しかけたかな。そうしたら、みんな意外とすんなり受け入れてくれるし、話しかけてくれる人もいたから。それで気づいたら友達ができてたって感じ」
いかにも外交的で人と話すことが好きな人の手段だった。霜月はイケメンだから簡単にいったのだろう。水無月が同じことをやってもまず上手くいかない。だが、このアドバイスはベルにも有効だろう。おそらく、ベルは性格的に霜月に近いところがある気がする。それに、ベルは誰がどう見ても美少女である。きっとベルと仲良くなりたいと思う人が多いはずだ。もしかすると、同性に嫉妬されることがあるかもしれないし、有象無象の男共に言い寄られることもあるかもしれないが、そんな奴らは無視して問題ないだろう。なんにせよ、ベル自身が心配している程でもない気がする。
「ウーン、ワタシも上手くできるでしょうか?」
「ベルさんなら大丈夫な気がするけど…なあ、翔」
「まぁそうだな。俺もベルさんなら上手くやっていけると思う。実際、俺たち三人とは話せているわけだし。…如月さんはどう思う?」
「私もベルさんなら大丈夫だと思います! というより、私もベルさんと仲良くなりたいです」と如月は少し恥ずかしそうにしながら言った。
「本当デスか!? ワタシもみなさんと仲良くなりたいデス!」
「じゃあ私たちも改めて自己紹介しないとね。私は如月牡丹。一応『相談部』の部長をしてます。よろしくね!」
「キサラギ、ボタン」
そして如月は隣の霜月に視線を送った。この流れで順番に自己紹介しようと言っているようだった。
「まぁ同じクラスだし。何もしなくても仲良くなったと思うけど。…俺は霜月時雨。よろしく!」
「シモツキ、シグレ」
霜月は水無月に視線を送った。
「俺は水無月翔。よろしく」
これで『相談部』三人の自己紹介が終わり、次はベルの番になった。
「ワタシは、ブルーベル・エイプリルデス! 好きな食べ物は羊羹、好きな飲み物は緑茶デス! みなサン、よろしくデス!」
ベルの元気な自己紹介に対して、三人も笑顔で拍手を送った。
「アノー、実はもう一つソウダンというか、オネガイがあるんデスが…」とベルは改まった様子で言った。
「お願い?」と霜月が繰り返した。
「ハイ。ワタシ、まだこの街に引っ越して来たばかりなので、どこに何があるのか全然わかりまセン。もしよければ、今度の休みに街を案内してくれまセンか?」
霜月が「おっ、いいね!」と真っ先に答え、如月も「もちろん!」と頷き、水無月は無反応だった。
水無月にとって人混みは刺激が多すぎて苦手である。そのため、休みで人が多いとわかっている場所に自分から行くことはない。
「水無月さんはどうデスか?」とベルが言った。
水無月は自分が本当に思っていることを隠すのがあまり好きじゃないので、はっきりと答えることにした。
「俺はパスで。人混み苦手だし、休みは一人で過ごしたいので」
「そうデスか…」
ベルは少し肩を落として落ち込んだ様子だった。場の雰囲気が少し悪くなった感じがしたが、水無月はそんなことより、自分の意見をはっきり言うことの方が大事だと考えていた。
「まっ、まぁ、もしよかったら、俺たちだけでも付き合うけど。な、如月さん!」
「うっ、うん! 私もベルさんとお出かけできるの、楽しみ!」
「そ、そうデスね! アリガトウゴザイマス!」
霜月と如月のフォローにより、ベルは笑顔を取り戻していた。
その後、三人は週末の予定を話し合って、今日の『相談部』の活動はお開きになった。
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