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日常サイエンス!!  作者: たかべー
12/23

イギリスからの転校生!!

 五月も中旬に差し掛かり、だんだんと暖かい季節になってきた。

 霜月が『相談部』に加わり、三人体制になったが、あれから誰も相談に来なかったのである。霜月が入部したことで、何人か来るだろうと予想していたが、まだ誰も霜月が『相談部』に入部したことに気づいていないようだった。霜月も自分から言う気はないようなので、今のところ『相談部』は影の存在のままだった。

 なので、暇な時間を有効活用して、三人で部室の掃除をした。今まで部室の後方に山積みになって占領していた机と椅子は、すべて別の空き教室に移動し、後ろを解放することができた。これで少しは埃っぽさがなくなった気がした。また、『相談部』専用のホームページを作り、そこでも悩み事を受け付けるようにしたのである。


そんな風に暇なような忙しいような毎日を過ごしていたある日。

早めにモーニングルーティーンを終えた水無月は、珍しく遅刻することなく学校に到着したのだった。

教室に着くと最初に如月と目が合い「おはよう」とあいさつをしてきたので、水無月も「おはよう」と返事をした。

机に鞄を置いて、椅子に座ると霜月が近づいて来て声を掛けてきた。

「おはよう。珍しいな! 翔が遅刻しないって!」

「俺を遅刻魔みたいに言うな」

「違うのか!?」

「違わなくはないけど…」

そんな会話をしているとチャイムが鳴り、霜月は自分の席に戻った。他のみんなも席に着いてから、担任の師走先生が教室に入って来た。

「えー、今日はこのクラスに新しい仲間が加わります!」

師走先生の発言を聞いて、教室はザワザワしだした。周りの反応を見る限り、誰も転校生が来るということを知らなかったようである。

(こんな中途半端な時期に転校してくるなんて、前の学校で何かやらかしたのか)と水無月は考えていた。

「エイプリルさん」

師走先生がそう言うと、一人の女の子が教室に入って来た。金髪ストレートでパッチリ二重の碧眼、肌は白く、顔も小さい。スラッとした体形で、どっからどう見ても美少女だった。

クラスのみんな、男女問わず彼女に見とれているようだった。特に男子は……。見た目からして外国人だということだけはわかった。

「じゃあエイプリルさん。自己紹介をお願い」

師走先生に促され、彼女は自己紹介を始めた。

「グッモー、エブリワン! ワタシは、ブルーベル・エイプリルといいマス! 『ベル』って呼んでくだサイ! イギリスからやって来まシタ! 日本に来たことは旅行で何回かあるのデスが、住むのは初めてデス! わからないことがたくさんあるので、教えてくれると嬉しいデス! よろしくお願いしマス!」と金髪美少女は明るく元気な声であいさつした。

クラスメイトは大きな拍手でベルを受け入れた。水無月が抱いた彼女の第一印象は、明るくて元気な人、という感じだった。どちらかというと水無月の苦手なタイプである。見た目と性格からしてみんなから好かれそうなので、すぐに友達もできるだろう。このとき水無月は、ベルと関わることはないだろうと思っていた。

 ベルの席は空いているという理由で廊下側の一番後ろの席、つまり水無月の右隣になったのである。そしてこれで生徒全員が揃ったということで、二年になって最初の席替えが七時間目のHRで行われることになったのである。

 今まで「席替えをしないのか」と数人のクラスメイトが師走先生に訴えていたが、その都度、師走先生は「まだできない。もう少し待ってて」と言っていた。その理由がようやくわかったのである。

 隣に座ったベルは、水無月に笑顔を向けて「よろしくお願いしマス!」とあいさつしてきた。その笑顔が異常なほど眩しかったので、水無月は直視することができずに目を逸らして「よ、よろしく」と返事をした。

「水無月くん。エイプリルさんが困っていたら手伝ってあげてね」と師走先生は言った。

「えっ、なんで俺が…」と水無月は言いかけたが、そのときの師走先生の顔がすごい形相だったので、渋々受け入れたのだった。

 しかし、実際に水無月がベルに何かしてあげるということは、ほとんどなかったのである。ベルはカタコトではあるが、日本語をしっかりと話しているし、相手の言葉の意味もちゃんと理解しているようだったので、コミュニケーションは問題なさそうだった。むしろ水無月よりも断然コミュニケーション能力が高かったのである。

休み時間には、ベルの机の周りには、人だかりできていた。クラスメイト以外に他クラスの生徒も廊下から見に来ていた。まあ転校生ってだけでも珍しいのに、来た人がこんなにも美人でしかもイギリス人となると、尚更注目されるだろう。ベルも笑顔で接しており、人当たりが良く、人と話すのが好きなようだった。

休み時間が毎回そんな状態だったので、隣の席の水無月は毎回席を離れて、行く当てのない散歩に出掛けるのであった。いっそのことこのまま帰ろうか、と思い立って荷物をまとめて帰ろうとしたが、なぜか靴箱に師走先生がいた(見張っていた)ので、帰ろうにも帰れなかったのである。

そのまま四時間目が終わり、昼休みになったので、水無月は勉強道具を片付けてから部室で昼ご飯を食べようと考えていた。部室は校舎三階の一番端なので人気がなく、比較的静かで水無月にとっては居心地の良い第三の場所になっていた。ちなみに、第一は図書室、第二は屋上である。

水無月が机の横に掛けてある鞄から弁当を取り出し、移動をしようと立ち上がろうとした瞬間、ベルが声を掛けてきた。

「コンニチハ!」

「こっ、こんにちは」

「ようやく会うことができまシタね! ずっと会いたかったデス!」

ベルは満面の笑みで言っていたが、水無月の頭の上には「?」が浮かんでいた。周りもシーンとして水無月とベルのやり取りに耳を傾けているようだった。

ベルと話している相手が水無月なので、クラスメイトは話しかけづらい様子だったが、霜月はそんなのお構いなしに「えっ、翔とエイプリルさんって知り合いなのか!?」と割って入ってきたのである。

「いや、俺は知らないけど…。誰かと勘違いしていませんか?」

「イイエ。勘違いじゃないデス」とベルは自信満々で言った。「ワタシの声、聞き覚えありまセンか? ロクガツサン!」

彼女のその発言を聞いて、水無月はハッとした。

彼女は「ロクガツ」と言った。これはおそらく『六月』ことだろう。『六月』とは、水無月がネット上で活動するときのユーザーネームである。主にブログやチャット、SNSを使うときに使用している。だが、この名前を知っている人は、ネットで交流する人たちしかいない。彼女が知っているはずがない。しかもイギリス人なんて。

そんな風に考えていると、水無月はあることを思い出したのだった。昨年一年間、英語の練習をするために、オンラインでイギリス人と話したことがあることを。その相手はいつもお祭りで売られているようなおかめの面で顔を隠していたので、どんな人かわからなかったが、おそらく年は同じくらいで女性だった。水無月は特に顔バレとか気にしてなかったので、隠してなかった。

水無月は高校一年になったばかりの頃に彼女とオンラインで知り合い、一年間、月一で交流していた。水無月は日本の文化のこと、彼女はイギリス文化のことを英語で語り合った。

知り合うきっかけは、彼女が水無月にDMを送ってきたことだった。最初は警戒して無視していたが、何度かしつこく送って来たので、水無月が折れて返事をしたのである。それからメッセージでのやり取りが始まり、後にオンラインで交流するようになった。

水無月としてはいい勉強になっていたが、一年の終わるころには徐々に連絡を取る回数が減っていき、二年生に進学してからはまったく連絡がなくなった。少し寂しい気持ちもあったが、SNSでの交流はこんなものだろう、彼女とはこのまま自然消滅だろうと思っていたのだった。

しかし、今、目の前にいるのが、そのときの相手。彼女のユーザーネームはたしか『ベル』だった。名前が一緒で、彼女の声にも聞き覚えがあった。

「えっ、も、もしかして…ベルさん!?」

「Yes! やっと気づいてくれまシタね! ワタシ、あなたに会いたくて……話したくて日本までやって来まシタ!」

ベルがそう発言したとき、教室中が「えーーー!」という声で埋まった。

そんな中でも、水無月は目の前のことの方が信じられなかったので、周りの反応を気にする余裕がなかった。

「え、う、嘘だろ! 本当にベルさんですか!?」

「本物デス! Actually, I was planning to transfer from April, but the procedure did not go well and it was delayed. I'm glad I was in the same class as Rokugatsu-san.」(本当は四月から編入する予定でしたが、手続きが上手くいかず遅れてしまいました。でも、ロクガツさんと同じクラスになれて良かったです)

ベルの英語を聞いて、水無月は本物のベルだと信じた。

「You really are Miss. Bell」(本当にベルさんなんですね)水無月はベルと話すときはいつも英語だったので、ついいつもの癖で英語を喋っていた。

「Did you believe me?」(信じてくれましたか?)

「Yes! But I was surprised. Transferring from England to a Japanese school.」(はい! でも驚きました。イギリスから日本の学校に転校してくるなんて)

「えっ、ちょっと待って。二人でなに話してんだ? 結局、二人は知り合いだったのか?」

霜月が会話を遮って質問した。

「あ、あぁ。ベルさん……エイプリルさんとはオンラインでやり取りをしてたんだ」

「『ベル』でいいデスよ。ロクガツサン!」

「オンラインで…?」

「あぁ。英語を話す練習をするために、エイプリルさんとオンラインで交流してたんだ」

霜月は目を大きく開いて驚いた顔をした。それも無理ない。正直、水無月も今までのどんな経験よりも一番驚いているのだから。

「え、てことは、エイプリルさんが翔に会いに来たって言うのはマジなのか?」

「カケル?」

「あ、翔っていうのはこいつのことで、水無月翔!」と霜月は水無月と肩を組んで言った。

「Oh! そうなんデスか! ロクガツさんの名前は、ミナヅキカケルって言うんデスね! どういう字なんデスか?」

水無月は机に『水無月翔』の文字を書いた。それを見てベルは少し興奮した様子だった。

「Oh! ミズにムにツキでミナヅキ! それにカケル! とってもカッコいいデスね!」

名前を褒められたのは生まれて初めてだったので、嬉しくて照れてしまった。

「翔! さっきから気になってたんだけど、ロクガツさんって何なんだ?」

「あぁ、それは俺がネットで使っている名前だ。水無月だから単純に六月にしてみた」

「そういうことか!」と霜月はあっさりと納得した。「で、エイプリルさん。翔に会いに来たって本当なんですか?」と霜月が無理やり話題を戻してしまった。

「ハイ! 本当デス!」

「お前、一体どんな交流をしてたんだ?」

霜月は感心しているような、驚いているようなトーンで言った。

「ロクガツサン……いえ、水無月サンのお話はとても面白くて、聞いていてとても楽しかったデス! そのおかげで日本を好きになって、もっと知りたい、お話を聞きたいと思って、日本に来まシタ!」

「なんだ。そういうことか! それって翔に会いに来たというより、日本が好きだから来たってことか!」

「そうかもデスね!」

霜月が話をまとめてくれたおかげで、クラスメイトも納得した様子になり、それ以上騒ぎにはならなかった。ベルが変な言い方をしたので、みんな勘違いしそうになったが、なんとか修正することができて、水無月もホッとしたのである。冷静に考えればわかることだ。ベルがわざわざ水無月に逢うためにイギリスから転校してくるはずがない。さすがに数回オンラインでやり取りしただけで相手を好きになるなんて、フィクションじゃないんだからあるわけがない。水無月が落ち着いた教室を見渡すと、如月がなぜか魂の抜けたような姿になっていた。

「俺は霜月時雨! よろしく!」

「ハイ! ヨロシクお願いしマス!」

 霜月とベルは簡単に自己紹介をして、握手をしていた。水無月はこんなにあっさりとコミュニケーションを取って仲良くなれるのが外向型の強みだな、と思いながら二人を見ていた。二人はすぐに仲良くなるだろうと推測した。水無月ならこんな風に自然に自己紹介できない。何を話していいかわからず、沈黙が続いてしまうのである。

前の水無月は、そんな自分が嫌で外向的な人が羨ましいと思っていたが、今は内向的な自分を受け入れることができるようになったのである。無理に外向的になろうとすることをやめたのである。

 昼休みに危うくひと騒動起こりそうになったが、何事もなく終えて水無月もホッとしていた。だが、あまりに衝撃的なことだったので、水無月は昼ご飯を食べるのを忘れていた。

 それ以降、水無月はベルのことが気になり、授業に集中することができなかった。チラッとベルの方を見ると、ベルは笑顔で返してくるので、照れてしまうのだった。

 そんな状態のまま七時間目のHRを迎えた。水無月は正直どこでもいいと思っていたが、他のみんなは異常な程闘志を燃やしているようだった。ただの席替えに、どうしてそこまで熱心になれるのかわからないが、どうやら、女子たちは霜月と隣になることを狙っているようで、男子共は如月とベルの隣を狙っているようだった。

 席替えはクジ引きで行うということだった。師走先生が準備していた四つ折りの紙の中から一枚取り、その紙に書かれている数字が新しい席ということになる。席番号は左前から順に縦向きだった。A組は一列六席が六列あり、全部で三六席ある。

クジを引く順番は出席番号順で、引いてもすぐに見ないで、全員が引き終わったら、一斉に確認しようということになった。昨年一年間、師走先生の嫌がらせ、もとい、ご厚意で、ずっと真ん中一番前で固定だった水無月だったが、今回はクジを引かせてくれるということだった。

 みんながクジを引いている間、ベルは自分の番が回って来るのをワクワクした様子で待っていた。順番的にベルは最後なので、クジを引く楽しみはないのだが、どこの席になるのか楽しみらしい。

「水無月サン。近くになれるといいデスね!」

「そ、そうですね」

 そして水無月の順番が回ってきた。水無月は前まで行き、教卓の上にある残り七枚の紙を引こうとすると、その中の一枚だけ赤色で印がついている紙があった。明らかに何かを感じたので、水無月はそれ以外を選ぼうとしたが、そうすると師走先生が「あっ!」「それは!」と言って邪魔をするのだった。そして結局その赤い印がついた紙を引いたのだった。

 ベルが最後にクジを引いて席に戻ってから、全員で一斉に四つ折りの紙を開き、新しい席番号を確認した。水無月が引いた番号は一三番、真ん中左の一番前の席、つまり、昨年と同じ席である。水無月はクジを引いた時点である程度予想していたので、特に驚きもしなかった。

(はぁ~、やっぱりか)

 そう思いながら水無月は一三番の席まで机を運んで移動した。他のクラスメイトも移動を始め、全員が完了したときに教室が少しザワついていた。理由は新しい席のようだった。水無月の右隣には、如月。後ろは霜月。右斜め後ろはベルだった。

 どうやら、みんなが狙っていた席を水無月が独占しているような形になってしまったようだった。そのためか、周りから敵意のような視線を向けられているような気がしたが、気づかない振りをした。


放課後、水無月が荷物の整理していると如月が話しかけてきた。

「水無月くん、今日部活行く?」

「ん? あぁ」

「そっか。じゃあ一緒に行こう!」

 今まで一緒に行ったことなかったので、少し驚いた。

「部活デスか?」とベルさんが会話に入ってきた。

「あ、はい」と水無月は答えた。

「水無月サンは、何の部活に入ってるんデスか?」

「俺はまだ正式に入部はしてないけど、一応『相談部』で活動してます」

「ソウダンブ?」

水無月は『相談部』の活動内容をベルに簡単に説明した。

「なんだか面白そうデスね! ワタシもついて行っていいデスか?」

 ベルが興味津々な様子で言ったので、水無月は如月に視線を送った。

「もちろんいいですよ。エイプリルさん、まだ学校来て初日だし、最初の部活見学ってことで」と如月が答えた。

「だって」と水無月が言った。

ベルは「ヤッター」と言って飛び跳ねて喜んだ。

それから四人で部室に向かっていたが、途中で如月が鍵を取りに職員室に行ったので、残りの三人は部室の前で如月を待っていた。

そのとき、水無月は気になっていたことをベルに聞いてみることにした。

「そういえば、ベルさん、いつの間に日本語話せるようになったんですね! 知らなかったです」

「ハイ! 勉強しまシタ!」

「どうやって勉強したんですか?」

「父の知り合いに日本の人がいたので、その人に教わりまシタ!」

「へぇー、小さいときから勉強してたんですか?」

「いえ、昨年始めたばかりなので、一年くらいデス!」

「えっ、たった一年でそこまで話せるようになったんですか!?」

「ハイ! 頑張りまシタ! 一年前は全然話せなかったんデスけど、日本のこと勉強するのが楽しくて。それに……どうしても話したい人がいたので…」

「すごいですね! 日本語って結構難しいって聞くので……それを一年でここまで話せるようになるなんて!」

「そっ、そうデスか!」

ベルは右手を右頬に当てて、嬉しさを隠しているようだったが、照れているのがバレバレだった。

「結構仲が良いんだな。翔とエイプリルさんって」

「ハイ! ワタシと水無月サンは仲良しデス! 友達デス!」

その言葉を聞いて、水無月はこんなことを考えていた。

(ベルさんは俺のことを友達と言ってくれたが、果たして本当にそうだろうか)と。

水無月とベルはオンライン上で何度かやり取りはしたが、直接会うのは今日が初めてだ。そんな関係を友達と言えるのだろうか。もしかしたら、これから水無月の嫌なところを見て、嫌いになることもあるのではないか。ベルが知っている水無月はネット上の水無月であって、普段の水無月をまったく知らないので、いつまでこの関係が続くかもわからない。おそらく、水無月ことを知ると嫌になるだろう。

そんなことを考えていると、如月が鍵を持って来た。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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