『相談部』、始動!!
如月は『相談部』の認知度を上げる方法を水無月に相談し、水無月が広告を作ってくれることになった。そしてその広告を全校生徒分印刷して配ってもらうために、担任兼顧問である師走先生にお願いに行った。できたばかりの部活が、そんなことしていいのかわからなかったので、断られるかもしれないと思っていたが、師走先生はあっさりオーケーしてくれたのだった。
それから師走先生は、印刷は部長である如月と顧問である自分がすると言い、水無月を先に帰らせた。如月もそれに納得し、水無月に感謝したのだった。
水無月が職員室から出るまで見送ったあと、如月は早速全校生徒分印刷しようとしたら、師走先生に止められたのだった。広告の内容を少し変更してほしいということだったので、如月は了承して、データの入っているUSBを師走先生に渡した。それを受け取った師走先生は、目の前に置いてあるノートパソコンに差し込み、フォルダを開いた。
「どこを変えるんですか?」と如月は尋ねた。
「うーんっと、それはねぇ」
師走先生はそう言って、相談に乗る名前欄にマウスをやり、そこをクリックした。今そこに名前があるのは、唯一の部員である「如月牡丹」だけだったが、師走先生はその下に「水無月翔(仮)」と付け加えたのである。そして上書き保存ボタンを押し、印刷を始めたのである。
「せ、先生! 水無月くんは部活には入ってないですよ!」
「えっ、そうだったの? これを作ってくれたっていうから、てっきり入部したのかと」
「何度か誘いましたけど、入部は断られました」
「そっか。でも、まだ入部してないだけで、これからするかもしれないでしょ!」
「それは…」
「如月さん。私はあなたを信じてます。あなたならきっと水無月くんを変えることができるって!」
「それは、どうでしょうか」
「いや、もう変わり始めているのかもしれない」
「え?」
「水無月くんは一年生のとき、ほとんど誰とも関わろうとしなかったの。誰に対しても壁を作ってて、決して中には踏み込ませない感じだった。でも今は、如月さんとの関係を保ってる。これって結構大きな変化だと、私は思うの」
「そうですか」
「ということで、如月さん! 水無月くんをお願いね!」
「はい!」
如月と師走先生はガッチリと握手をしたのだった。如月は師走先生の口車に乗せられたのだが、そのことに気づかなかった。そして印刷した広告は、クラスの人数分に分けてから配布物の場所に置き、GW明けの放課後に配られるようにした。
如月はGWを満喫していた。芙蓉と一緒に宿題したり、買い物したり、遊んだりして過ごしていた。GWが始まる前日の夜までは、『相談部』のことが気になっていたのだが、いざ始まると、そんなこと気にしても仕方ないと悟り、今を楽しむことにしたのである。その切り替えにより、GWは楽しく、充実した毎日を過ごすことができたのだった。そのとき、『相談部』については一切頭になかったのである。
そしてGW明けの帰りのホームルーム時間に『相談部』の広告が全校生徒に配られたのだった。クラスメイトの反応を伺っていると、『相談部』の広告を真面目な様子で読んでいる人もいれば、まったく読まずにすぐ鞄に入れる人もいた。この反応は予想通りだったが、全校生徒に配れば、誰かは真剣に見てくれるだろう。それがたとえ少数だったとしても、その人たちの助けになればいいと思ったのだった。
そしてホームルームが終わった瞬間に水無月がその広告を握り締め、前に立っていた師走先生の元へものすごい剣幕で向かっていった。水無月は先生が追加した名前について文句を言っているようだった。それも当然である。自分の知らないところで勝手に入部させられていたのだから、怒るのも無理はない。一応(仮)はついているのだが。如月も弁明しようと思い、参戦しようとしたが、一瞬師走先生と目が合い、「ここは私に任せて」とアイコンタクトで言っているような気がしたので、如月は任せて部室に向かったのだった。
如月は部室の鍵を取りに職員室に寄ってから、部室に向かった。向かっている途中、如月は少しワクワクしていた。さすがにさっき配ったばかりの広告を見てすぐに相談者が来ることはないだろうが、これから誰かが来るかもしれないという淡い期待を抱いていたのである。
そんなことを考えながら部室の前に着くと、そこには淡い藤色のショートヘアに黒縁眼鏡を掛けた可愛い女子生徒が立っていたのである。彼女の手には『相談部』の広告が握られていた。
「あ、あの、もしかして『相談部』にご用ですか?」
「え、あ、その、用というか、なんというか、ちょっと気になって…」
「そうなんですね! あ、今、鍵開けますね」
「あ、いえ、相談したいことがあるわけじゃないんですけど」
「え、そうなんですか? あ、じゃあ入部希望ですか!?」
「いえ、違います」
「そうですか」
彼女の答えを聞いて、如月は少し落ち込んだ。
「あの、あなたが如月牡丹さん…ですか?」
「あ、はい。そうです」
「そっか」
彼女はそう言って、如月をまじまじと見始めた。それはまるで品定めをされている感覚だった。
「あ、あの、私になにか?」
「あ、すみません。どういう人か気になったので」
「そ、そうですか」
「ところで、水無月くんは一緒じゃないんですか?」
「えっ、あ、はい。私一人です」
「この相談に乗てくれる人の欄に水無月くんの名前があるんだけど、これってどういうことですか? (仮)もついていますし」
「あ、それは……仮入部ということで名前を載せています」
「仮入部?」
「はい。水無月くんはまだ正式に入部していないので、(仮)がついているんです」
「そういうこと。まだ入部したわけじゃないんだ」と彼女は呟き、「……わかりました。教えてくれてありがとうございます」と言った。
「いえ、気になることがあったら、何でも聞いてください。他に質問はないですか?」
「大丈夫。じゃあ私はこれで」
彼女は軽くお辞儀をして帰っていった。如月は彼女の姿が見えなくなるまでその場で見送り、それから部室の鍵を開けて中に入ろうとしたとき、(あ、名前聞くの忘れた)ということに気づいたのである。気づいたときにはすでに彼女の姿はなかったので、また次の機会に聞けばいいと思ったのだった。
彼女は水無月に用がある感じだった。もしかして、水無月がいたら彼女は何か相談したかもしれない。水無月は学年首席でみんなもそれを知っているだろうから、それを頼りに相談に来る人はいるかもしれない。おそらく師走先生もそれを狙って水無月の名前を付け加えたのだろう。
それならば、なんとしても水無月に『相談部』に入ってもらわなければ困ってしまう。そもそも広告に書いている内容は、どう考えても如月一人では難しかった。如月は科学知識についてそこまで詳しいわけではない。他人の心理なんてわからないし、科学的なトレーニング法なんていうのも知らない。
(このままじゃヤバい!)
如月はこのときようやく、ことの重大さに気づいたのだった。そして早速水無月を勧誘しようと思い立ち、勢いよく部室を出て教室まで向かったが、すでに水無月は帰っていたのだった。如月は急いで部室に戻り、鞄に入れていたスマホを取り出し、連絡しようとしたが、水無月の連絡先を知らないので、どうすることもできなかったのである。
翌日、如月はある作戦を決行した。水無月に『相談部』のことを意識させるために、水無月の周りの至る所に『相談部』の広告を掲示することにしたのである。人は何度も目にしたものは無意識だとしても頭の中に残るという話を何かで聞いたことがあるので、それを試してみることにしたのである。如月は授業中、隙あれば水無月に視線を送り目が合ったら広告を見せたり、水無月が通る場所に事前に広告を貼ったりしたのである。
昼休みには、コソコソするのが面倒になり、余っていた広告をすべて水無月の机に置いてアピールしたのである。教室に戻って来た水無月は困惑しているようだったが、如月の作戦を続行したのである。
そして放課後になったが、水無月はすぐに鞄を持って教室を出て行ったのである。どうやら如月の作戦は失敗に終わったようだったが、たった一日で成果が出るとも思っていなかったので、明日以降も続けようと考えていた。
結局、如月は今日も一人で部室に向かい、相談者が来るのを待っていた。昨日全校生徒に広告を配ったので、今日もしかして誰か来るかもしれないと思った如月は、少しでも部室を綺麗にしようと掃除を始めたのだった。掃除用具入れから箒を取り出し、床を掃いていると、ドアを三回ノックする音がした。如月は驚き「は、はい!」と言った。するとドアがゆっくりと開いた。来訪者は、霜月時雨だった。
「よっ、如月!」
「霜月くん! どうしたの?」
「ちょっと様子を見に来たんだけど、あれ? 翔はいないのか?」と霜月は部室に入って来て辺りを見渡しながら言った。
「あ、うん。いないよ」
「そっか。あいつ、早速サボってるのか」
「あ、いや、サボってるわけじゃ…」
「明日、俺がガツンと言ってやろうか」
「それはダメ!」
「大丈夫だって、俺と翔の仲ならケンカにはならないから」
「いや、そうじゃなくて…」
「ん? どうかしたのか?」
「実は…」
霜月は広告を見て水無月が『相談部』に入部していると勘違いしているようだったので、如月が事情を説明した。
「あ、そうだったの! だから(仮)がついてるのか」
「うん。ごめんね、勘違いさせてしまって」
「いや、俺が勝手に勘違いしただけだから、気にしなくていい。……でも、この内容見て翔がいると思ったんだけど、如月も科学詳しかったんだな。知らなかったよ」
「あ、えーっと、それは…」
「ん?」
如月が目を逸らして言ったので、霜月は何か感づいたようだった。なので、如月は水無月を部活に勧誘していることと、その理由も霜月の説明したのである。
「そういうことか。つまり、如月は翔が入部しないと困ると?」
「うん。あ、でも、それだけじゃないよ。水無月くんがもっといろんな人と関わって友達ができればいいな、とも思ってる」
「そっか。あいつ、結構頑固だから簡単には入部してくれないぞ」
「うん。それでも、頑張って誘ってみる!」
「そっか」と霜月は軽く微笑んだ。「……なあ、如月」
「ん?」
「如月はこの学校、好きか?」
「えっ、暦学園? ……うん、好きだよ」
如月がそう答えた瞬間、部室のドアが開き、そこには水無月が立っていた。水無月はなぜか驚いた顔で立ち尽くしていたが、如月は来てくれたことが嬉しかったのである。
「あ、水無月くん!」
「おっ、翔!」
二人がそう言うと、水無月は「悪い。邪魔した」と言って焦った様子でドアを閉め、帰っていった。
如月は状況を理解できずに「え…」と言って霜月を見ると、霜月も同じような顔で如月を見て、見合ったのだった。そしてハッと我に返り、水無月を呼び止めようと急いで部室を出て行くと、水無月はまだ近くにいて、師走先生と話していた。如月に続いて、霜月も部室から出てきた。そして師走先生はこう言った。
「お疲れ、如月さん。……と、霜月くんももう来てたんだね!」
「あ、はい」と霜月は言った。
「これで全員揃ったわね。じゃあ早速、会議を始めましょうか」
師走先生はそう言って、三人を部室に入れた。水無月は最後まで抵抗していたが、師走先生が泣き真似をすると、渋々従ったのである。
全員が部室に入り、四人分の机と椅子を準備して全員が席に着くと、師走先生が「では、今から『相談部』第一回会議を始めます」と言い、突然会議が始まったのである。進行は師走先生が行い、最初は如月が、この部活の目的を説明した。如月の話を、水無月は不満そうな様子で聞いていた。おそらく、無理やりこの場にいさせられることに不満を抱えているのだろう。一方、霜月は興味のある様子で話を聞いていた。
「はい。じゃあ次は…」と師走先生が進めようとしていたところで、如月は遮って質問することにした。
「あの、先生。この会議に先生と水無月くんと私がいるのはわかるのですが、どうして霜月くんも参加してるんですか?」
「あ、それは今から説明しようと思ったんだけど、霜月くんも『相談部』に入部するの」
「えぇー!」と如月は驚いた。
「なっ!」と水無月も驚いた顔をしていたので、このことを知らなかったようだ。
「よろしく!」と霜月は軽く微笑んであいさつをした。
どうやら、如月の知らないうちに霜月は師走先生に入部届を出していたようである。
霜月は運動神経抜群なので、いろんな運動部から勧誘されているが、すべて断り続けていた。それでも、助っ人として頼まれることがあり、今までいろんな部活の大会や練習試合に参加し、華やかな活躍をしているのである。だから、どの部活も諦めずに霜月を勧誘しているのだが、なぜか霜月はどの部活にも入部しなかった。
そんな霜月が『相談部』に入部したとなると、これは大問題である。おそらく『相談部』は他の部活から目をつけられるだろう。嫌がらせをされたり、廃部させられたりするかもしれない。如月は悲観的な未来を想像して、少し怖くなった。
「えー、じゃあ、部員全員が三人になったので…」と師走先生が言った。
「いや、俺はまだ入部してないんですけど」と水無月が言った。
「まだ…ね。ということは、いずれ入部するんでしょ?」
「いや、そういう意味の『まだ』じゃないんですけど」
「そう言っても、『相談部』は水無月くんがいないと困るの」
「困る? どうしてですか?」
「水無月くん、広告作ってくれたでしょ。この内容、科学で悩みを解決するって書いてるけど、水無月くん以外、科学に詳しい人いないから」
「そ、それは…今から勉強すればいいじゃないですか」
「そうね。もちろん、今から勉強はするつもり」
「だったら俺は…」
「その先生役に水無月を任命します!」
「どっ、どうしてそうなるんですか?」
「人に教えるつもりで勉強すると覚えやすいんでしょ。なら、水無月くんにもメリットがあると思うけど」
師走先生は、この前水無月が芙蓉の相談に乗ったときの内容をまるで知っているかのような感じで言った。師走先生はあの場にいなかったはずだが、どこからか情報を得たのだろうか。
そんな師走先生の態度に水無月は押され気味で、結局最後は何も言わなくなってしまった。一年生のときもこんな感じだったのだろうか。
そして最後に、師走先生が「じゃあ、これからこの三人で、部活頑張るぞー! エイエイオー」と言い、三人バラバラの掛け声で会議を締めくくったのだった。
なにはともあれ、部員が増えたことは嬉しかった。本当は一人で不安を抱えていた如月だったが、そこに水無月と霜月という心強い仲間が加わったことで、やっていける、と思えるようになったのであった。
帰る前に如月は水無月とどうしても交換したいものがあった。
「あ、あの、水無月くん。ちょっといい?」
「ん、なに?」
「あ、あ、あの、連絡先交換しませんか? こ、これから必要になると思うから」
「そうか? まあ、別にいいけど」
水無月はそう言って鞄からスマホを取り出した。そして如月と水無月は連絡先を交換したのだった。ついでに霜月とも交換した。水無月と霜月はすでに知っていたようである。
如月が水無月の連絡先をゲットして喜んでいると、霜月が水無月のスマホ事情を教えてくれたのだった。
霜月によると、水無月に電話してもほとんど繋がらないということだった。水無月は常にサイレントモードにしており、スマホで集中力を切らしたくないからそうしているらしい。一〇〇回掛けて、一回繋がればマシらしい。それは水無月も認めていた。また、ラインなどのメッセージも、早くて翌日返信らしい。最悪の場合、忘れられて一生返信は来ないらしい。水無月が即レスすることはないということだった。霜月は今までの不満をぶちまけるように言っていたが、水無月は微塵も気にしていないようだった。
如月はさっき抱いた、やっていける、という思いが早速打ち砕かれ、新たな心配事ができたのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。
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