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日常サイエンス!!  作者: たかべー
10/23

ザ・コピーライティング!!

四月下旬のある日の昼休み、水無月がいつも通り机で本を読んでいると如月が声を掛けてきた。

「あの、水無月くん。ちょっと相談したいことがあるんだけど」

「ん? なんだ?」

 水無月は読んでいた本を閉じて机に置いてから如月を見た。如月は水無月の前の空いている席に座ってから水無月を見て話し始めた。

「あ、あの、『相談部』のことをもっと多くの人に知ってもらいたいんだけど、どうすればいいかわからなくて」

「多くの人に知ってもらいたい? つまり、認知度を上げたいってことか?」

「うん。部活を創ったはいいけど、まだ誰にも知られてないから、どうやってみんなに知ってもらおうかと思って」

「創ったばかりで知られてないのは当たり前じゃないか? それから少しずつ実績を積んでいくことで認知度は勝手に上がると思うけど」

「それは…そうだけど…」

 如月は言いたいことを我慢しているような表情でモジモジしていた。水無月はそれが何か気になったのだった。

「今、どんな風に宣伝してるんだ?」

「あ、今はね、チラシを作って掲示板に貼っているだけ…なの」

「それだけ?」

「う、うん。あ、あと、チラシを配ったり、ホームページを作ったり、学園新聞に記事を載せてもらったりしようかと思ってる」

 如月の話を聞いた限り、宣伝する方法としてはどれもオーソドックスなやり方なので、そのままで良いだろうと水無月は思った。だけど、如月はまだ満足していない様子で話すので、一体何に悩んでいるのだろうか、と疑問に思い、それを聞いてみることにした。

「それで十分だと思うけど、如月さんは何か不満なのか?」

「えっ、あ、うん。なんかこのやり方だとなかなか認知度が上がらない気がするの。チラシを配っても読まれる前にゴミ箱に捨てられるだろうし、ホームページはそもそもあまり見る人がいないだろうし、学園新聞もちゃんと読んでいる人はあまりいないだろうし」

 如月の言っていることはあくまで憶測だが、その考えに水無月も同意見だったので、黙って話を聴いていた。如月は続けてこう言った。

「もっとこう、最初にインパクトのある宣伝をして、みんなに覚えてもらいたいなぁって思うの。でも、どうすればいいのかわからなくて」

「インパクトのある宣伝か」

「うん。こういうのは、最初が肝心だと思うの」

 水無月は如月の話を聞いて、顎に手を当て考え始めた。認知度を上げる方法。まだ誰にも知られていない部活の存在を一気に知ってもらう方法。

それを考えているとき、水無月は前にマーケティングやコピーライティングについての本を読んだことがあったので、その内容を思い出していた。

広告を作るときには見出しが結構重要であるということだった。そして見出しを書くときには五つのルールがあるらしい。

一つ目は、何よりもまず、見出しには得になるものを必ず盛り込むこと。相手が欲しいものがここにある、ということを見出しで知らせる必要がある。

二つ目は、新製品や従来品でも、新たな使い方などの新情報があれば、それを見出しで大々的に伝える。

三つ目は、好奇心を刺激するだけでは終わらないようにする。

四つ目は、暗い面、マイナス面を書くことはなるべく避け、明るい面、プラス面を書くこと。

そして五つ目は、手っ取り早く簡単に、欲しいものが手に入れられる方法があることを見出しで知らせる。

この五つのルールを守りつつ、信頼できる内容にすることが、広告作りの基本ということだった。

このことを思い出した水無月は、如月が作ったチラシを一枚見せてくれないかとお願いした。すると、如月は立ち上がり一度自分の席に戻り、横に掛けてあった鞄からA4用紙を一枚取り出し、それを持って戻って来た。そしてその用紙を水無月に渡した。

その用紙は如月が作った『相談部』の宣伝広告だった。内容は、一番上に大きな文字で「相談部」と書かれており、その下に「あなたのお話聞かせてください。もう一人で悩まないで!」「勉強、部活、恋愛、人間関係など何でも相談に乗ります!」と書かれており、一番下には部室の地図とその横にネコなのか、イヌなのか、ブタなのか、クマなのかよくわからない丸い顔のキャラクターが描かれていた。その他の空白には、星や音符、ハートなどを描いて華やかさを出しているようだった。

 一見したところ悪くはない内容だった。しかし、特に良くもないと思った。水無月は先程思い出したことを考慮して内容を考え始めた。

まず、相手が欲しいものは何かを考えた。それはおそらく、悩みを解決する方法を知ることだろう。これには信ぴょう性のある知識を持っているということを示せばいいはずだ。

新情報をとしては最新科学の知識だろうか。今はネットがあるので最先端の科学研究を簡単に手に入れることができるが、外国語で発表された論文を読んでいる人はあまり多くないだろう。それをいち早く伝えるという『相談部』の強みを大々的に伝えると効果があるかもしれない。

好奇心の刺激では、たとえば、恋愛相談なら、気になるあの人の心がわかる心理学とか、勉強の相談なら、成績をグンと伸ばすための脳科学とか、部活の相談なら、運動能力を高めるための科学的なトレーニング法、などだろうか。

そして、そのような成長には時間が掛かるというマイナス面には触れずに、諦めなければ必ず成長できるというポジティブな面を伝え、相談に来ればその知識を得ることができる、信頼性としては科学論文で発表されている、ということを意識して作るといいかもしれない。

相談に来れば、手っ取り早く簡単に悩みを解決できる方法がわかる、ということを書けば、さらに効果的だろうが、個人的にそれは詐欺師みたいな気分になってしまうので、嫌だった。

人は変わることができるが、簡単ですぐに変わることは難しい。ダイエットで例えるとわかりやすい。たった一日で劇的に変わることなどあり得ない。日々の努力の積み重ねで痩せることができるのである。これが身体面だけに関わらず、信念や価値観など精神面にも同じことが言えるだろう。

水無月はそんな風に考えながら広告を見つめていると、如月が心配した様子で声を掛けてきた。

「み、水無月くん。どこか変なところがあるかな? あるなら教えてくれると助かるな」

「ん? あ、あぁ、ちょっと気になるところがあるんだけど」

「えっ、どこどこ?」

 如月はそう言って水無月に顔を近づけて広告を見た。

「いや、ちょっと言葉では説明しにくいから…」

 水無月がそう言って如月を見ると、思っていたよりも如月の顔が至近距離にあったので、驚いて勢いよくのけ反り、椅子に座ったまま後ろに倒れそうになった。それと同時に如月が驚きながらも咄嗟に手を差し伸べてきたので、水無月は反射的にその手を掴み、倒れずに済んだのである。

「ありがとう、如月さん。助かったよ」

 水無月はお礼を言ったが、如月は握った手を見つめたまま何も言わなかった。

「如月さん?」

「えっ、あ、うん。どういたしまして」

 如月はそう言ってサッと手を放した。それらか如月が黙ったまま何も言わなくなり、沈黙が流れたので、水無月が続きを話し出した。

「それでさっきの続きなんだけど、この広告、俺が作り直してもいいかな?」

「え!? 私の作った広告、そんなに変だった?」

「いや、そうじゃなくて、ただなんとなく俺も作ってみたいと思ってだけ。それでどっちがいいかは如月さんの判断に任せる」

「いいの? そんなことしてもらって」

「あぁ。俺がやりたいって思っただけだから」

「じゃあ、お願いします!」

 ということで、水無月が『相談部』の宣伝用の広告を作ることになったのだった。水無月は、今まで広告を作ったことがなかったので、初めてのことに少しワクワクしていた。

 水無月は昼休みが終わったあと図書館に籠り、キャッチコピーやグラフィックデザインなど広告の作り方の本を読んだり、実際の広告をネットで検索して調べたりして、字の大きさやフォント、色、文章表現などを学んだ。

そして家に帰ってから家事を済ませたあと、自室でノートパソコンとにらめっこして、広告作りに取り掛かった。水無月の部屋はとても質素である。ドアを開けて正面端にはスタンディングデスク、右の壁側一面には本棚、左側の壁には制服や私服を掛けているクローゼットがあるくらいだ。

ちなみに、水無月は家では食事以外ほとんど立ったまま過ごしている。なので、パソコンで作業する時間もスタンディングデスクを使って、ずっと立ったままである。どうしてスタンディングデスクを使っているのかというと、立ったまま作業する方が脳の働きが良くなるからだ。それに運動にもなるので非常にお勧めなのである。

広告作りでは、変にオリジナリティを出さずに基本を重視して作成することを心掛けた。見出しは「相談部があなたの悩みを一緒に解決します!」という風にしてみた。如月が作ったチラシを参考にしながら、彼女が言いたいことは残しつつ、もっと具体的に何をする部活なのかという説明文を見出しの下に付け足した。さらに、誰が相談に乗るのかが記されていなかったので、唯一の部員であり、部長でもある如月牡丹の名前も追加した。相談したい人は誰が相談に乗ってくれるのか知りたいはずだ。誰でもいいというわけではないだろう。

また、如月は可愛いので顔写真を載せたら、男子共が釣れるかもしれないと思ったが、本人の許可なく載せるのは気が引けたので、それは追加しなかった。というより、如月の顔写真のデータも持っていないので、結局載せることはできないのだが…。その代わり、如月作の謎キャラクターは残した。若干誇大広告になっているかもしれないが、別にお金を取るわけでもないので、このくらいは許してもらえるだろう。

ある程度できたところで、ふと時計を見ると、時計の針は、深夜二時を過ぎていた。水無月は広告作りに集中していたため、時間間隔を失っていたのである。これ以上続けると、一日のリズムを崩してしまう恐れがあったので、水無月はクローゼット横の壁に立てかけていたマットレスを敷いて、すぐに横になり眠りについた。広告はほとんどできていたので、あとは如月に意見を聞くことにした。


 水無月が目を覚ましたとき、外はすっかり明るくなっていた。時計に目をやると、午前九時になっていた。この時点で遅刻は確定しているので、焦ることなく準備を始めた。本来、水無月のモーニングルーティーンには、朝の散歩や運動、瞑想などがあるが、さすがにそれをすると午前中が潰れてしまうので、着替えを済ませてからゆっくりと学校へ向かったのだった。

 散歩も兼ねて遠回りルートで学校に向かったので、着くまでに時間が掛かってしまい、学校に着いたときは一二時近くなっていた。結局午前中は潰れてしまったのである。時間的に四時間目の途中だったが、教室に着いたとき、誰もいなかった。どうやら移動教室だったようで、水無月はラッキーと思った。遅刻常習犯の水無月でも、授業中の静かな教室に入っていくのは少し気が引けていたのである。

 水無月は鞄からチラシを二枚取り出し、如月の席に裏面を上にして置いてから、自分の席に戻り読書を始めた。そのまま本を読んで過ごしていると、四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、クラスメイトが戻って来た。

 水無月は周りを気にせず読書を続けていたが、そんな水無月に真っ先に話しかけてきたのは、如月だった。如月は驚いた様子でチラシを二枚手に持ち、勢いよく水無月の席まで来たのだった。

「み、水無月くん! これ、水無月くんが作ったの!?」

「あぁ、一応デザインとか勉強して作ったけど、ほぼ素人だからあまり期待しない方がいい。それを見て何か意見ないか? ここをもっとこうした方がいいとか?」

「ううん。私のより断然いいと思う!」

「そうか?」

「うん!」

 如月はそう言ってくれたが、水無月はもう少し何か意見をもらいたいと思っていた。他に誰かから意見をもらおうと考え周りを見渡したが、元々友達がいない水無月が聞く相手はたとえ同じクラスでもいなかったのである。そんな中、水無月の目の前に突然霜月が現れた。

「翔、誰か探してるのか?」

 水無月にとっては誰でもよかったので、ちょうどいいタイミングだと思って霜月に意見を聞くことにした。水無月は如月が持っていた二枚の広告を霜月に見てもらい、どちらがいいか尋ねた。すると、霜月は「うーん。こっちの方かな」と言って水無月の作った広告を支持したのだった。その流れで、霜月にも広告の内容でどこか変更した方が良い箇所がないか尋ねてみたが、特にないということだった。そして霜月はそのまましばらく広告を見つめてから「しいて言うなら、この絵はなに?」と如月作の謎キャラを指さして尋ねてきた。

「あ、それはネコだよ。なんとなく描いてみたの」

「へぇー、ネコなんだ」と霜月は言い、また黙って広告を見つめた。「これ、ちょっと預かってもいいか? いろんな人に聞いてみようと思うんだけど…」と提案してきた。

これは水無月にとってラッキーな提案だったので、すぐに受け入れた。みんなに配る前にいろんな意見を聞いておくのは役に立つはずだ。

このとき水無月は、霜月みたいな外交的な人はすごいなと思ったのだった。いろんな人に話し掛けられるし、相手も嬉しそうに答えている。霜月の人望だろうが、水無月には決して真似できないことであった。

放課後、霜月が広告を持って水無月の席の前に座り、その隣に如月が座った。

「何人かに聞いたんだけどさ、ほとんどの人はこれでも十分わかりやすいって!」

「そっか。そうだよね」と如月が言った。

「じゃあ…」と水無月が言い掛けたところで、霜月が遮りこう言った。

「でも、一人だけ……この部分を変えたらどうかっていう意見があったんだ」

水無月が広告を見ると、一箇所に付箋が貼ってあった。そこには、如月作の謎キャラクターがいらないという理由が具体的に書かれていた。如月はそれを見てショックそうだった。

「これ誰がアドバイスしてくれたんだ?」と水無月は言った。

「生徒会長の初御空さんだよ」

生徒会長、初御空睦月はつみぞらむつき。他人をほとんど知らない水無月でも知っている人物だ。容姿端麗、文武両道、一年のときから生徒会長をしている、まさに完璧超人という印象だ。まあ、水無月は名前しか聞いたことがなく、話したこともないんだが…。

「でもこれ、翔が一日で作ったって言ったら会長驚いてたぞ!」

「ふーん。そっか」

「なんだよ。その興味なさそうな反応は」

「興味ないからな。……まぁとにかく、これで広告は完成だな」

「そうだね! ありがと、水無月くん! あとは、私が自分でやるね」

「如月さんはそれをどうやって配るつもりなんだ?」

「ん? 朝、校門前で配ろうかと思っているけど」

「それ、大変じゃないか?」と霜月が言った。

「うん。でも、せっかく水無月くんが作ってくれたんだから、これくらいは頑張らないと」

「いや、わざわざ手渡しする必要ないだろ」と水無月が言った。

「え? どういうこと?」

「先生にお願いして配布物として配ればいいだろ。それなら全員に配ることができるし」

「え、でも、許可もらえるかな」

「大丈夫だろ」

 ということで、水無月と如月はパソコン室に向かい、生徒会長に指摘された箇所を修正したあと、職員室に行き、師走先生にお願いしてみた。師走先生はしばらくの間広告を見つめてから「うん。いいよ」とあっさりオーケーしてくれたのであった。その答えを聞いた水無月はホッとし、如月は喜んでいた。それから早速広告を全校生徒分印刷しようとしたが、残りは如月と師走先生がやるということだったので、水無月はここで帰ったのだった。このとき、水無月を見送る師走先生の顔が、何か変なことを考えているように見え、嫌な予感がしていたのだった。

そしてその嫌な予感は、GW明けの帰りのホームルームに的中していることがわかったのである。

 この時間、水無月が作った『相談部』の広告が生徒全員に配られたのである。水無月は改めて広告に目を通していると、ある箇所が勝手に書き換えられていることに気づいたのだった。それは相談に乗る人の名前が書かれた箇所だった。水無月が作った広告では、唯一部員である「如月牡丹」の名前しか掲載していなかったが、そこになぜか「水無月翔(仮)」と追加されていたのである。

 これはおそらく師走先生の仕業だろうということはすぐにわかったので、ホームルームが終わった瞬間にすぐに師走先生のいる前まで行き、抗議した。

「先生! これはどういうことですか?」

 水無月は広告を師走先生に突き出しながら訴えた。

「ん? なにが?」

「なにがじゃないですよ。なんでここに俺の名前が入っているんですか!?」

「え? だって水無月くん、『相談部』に仮入部したんでしょ?」

「してないですよ。俺はちゃんと断りました!」

「あ、そうだったんだ! ごめんね。私、勘違いしてたみたい。でも、どうしようか。もうみんなに配ってしまったし」

 師走先生はそう言っているが、表情からしてまったく反省していないようだった。おそらく、知っていてやったのだろう。相変わらず強引な手段を使う先生だった。これは水無月が油断したために起こってしまったことなので、これ以上追及しないことにした。しても意味がないと判断したからだ。幸い、(仮)がついていたので、正式に入部したことにはなっていない。ということは、このまま幽霊部員みたいに自然と消えても問題ないだろう。

「それよりも水無月くん、GWはどうだった? どこか遊びに行った?」

「いえ、どこにも行ってないですけど」

「せっかくのGWに、どこにも行かなかったの?」

「休みで人が多いとわかっているのに、どうしてわざわざ自分からそんな場所に行くんですか?」

「休みじゃないと行けないからでしょ。それに人が多いのも賑わってる感じがして楽しくならない?」

「なりません。俺は人が多い場所苦手なんで。それに、行きたいところがあるなら、平日に学校休んで人が少ないときに行きます」

「それは、まぁ人それぞれだね。でも、学校には来てほしいなぁ」

「一日二日休んでも変わらないですよ」

「そうかなぁ。私は水無月くんがいないと寂しいなぁ」

「……考えておきます」

 そう言って水無月は師走先生から逃げるように帰った。

 水無月のGWはいつも通りの日常だった。朝起きてモーニングルーティーンをしたり、ブログを更新したり、読書をしたり、好きなアニメ鑑賞をしたり、運動をしたり、新しい料理を作ったりして充実した日々を送っていた。


 翌日、水無月は朝から如月の圧を強く感じたのだった。授業中も休み時間も時折謎の視線を感じた。そして目が合う度になぜか広告を見せてくるのだった。昼休み、屋上で休んだあと教室に戻ると、水無月の机の上には大量の広告が置かれていた。誰かの嫌がらせかと思いながら周りを見渡していると、如月が挙動不審な態度だったので、すぐに犯人がわかったのだった。如月のことなので嫌がらせではないだろうが、何がしたいのか、まったくわからなかった。

放課後、水無月は自販機で水を買い、中庭のベンチに座って飲みながら『相談部』のことを考えていた。なぜか『相談部』のことが気になったのである。みんなの目を引くような広告を作り、それを全員に配った。あとは誰か来るのを待つだけだが、そう簡単に相談者は来ないだろう。それでも、水無月にできることはすべてやったので、気にすることでもなかったのに、なぜか気にかかったのである。

 人が悩みを抱えているときに真っ先に相談する相手は誰だろうか。親友という人もいるだろうし、親、兄妹という人もいるだろし、先生という人もいるだろう。社会人なら同僚や上司という人もいるだろうし、専門家やメンターという人もいるだろう。人によって悩みを打ち明けたい相手は違うだろうが、彼らには共通していることがある。それは信頼できる相手に真っ先に相談するということだ。

如月は可愛くて優しい印象で相談しやすい雰囲気を纏っているので、話しやすいだろうと思う。しかし、現段階で何の実績もない如月に相談しようとする人がいるだろうか。誰も来ないのではないだろうか。もし誰も来ない日が続き、その現実を目の当たりにしたら、如月が落ち込むのではないだろうか、と水無月は心配していたのである。

 そのことが気になったので、水無月は水の飲み干したあと、『相談部』の部室に向かった。部室からは電気の光が漏れており、人の気配を感じたので、如月はいるようだった。水無月はドアの前で深呼吸し心を落ち着かせてから、ドアを開けた。

水無月がドアを開けた瞬間、「好きだよ」と言う如月の声がした。部室の中央に如月が箒を持って立っており、その正面には霜月が立っていた。

(やってしまった。最悪のタイミングで来てしまった!)

 水無月はそう思い込み、その場で立ち尽くしていると、二人は水無月に視線を移した。如月は「あ、水無月くん!」と言い、霜月は「おっ、翔!」と言った。

「悪い。邪魔した」

 水無月はそう言ってドアを閉め、速足で帰ろうとしたが、突然目の前に師走先生が現れ、行く手を阻まれてしまった。

「先生、邪魔です」

「水無月くん、どこに行くの?」

「帰ります」

「せっかくここまで来たのに?」

「来るタイミングを間違えました」

「え?」

 師走先生とそんなやり取りをしていると後ろのドアが開いて、如月が「水無月くん、待って!」と言いながら部室から出てきたのだった。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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