第8話 調理スキルはほどほど、サバイバル能力は皆無でもできることを探します!
ティガ達と出会って二週間、集落での生活は貧しいながらも穏やかだった。
子ども達はみんな、素直でいい子達ばっかりだ。
一番年下の子は三歳で、ベルちゃんは五歳。十歳を越えていれば年長者の部類で、年長者は五人。そのうちの一人が十七歳という最年長で族長であるティガだった。ティガの下は十五歳で、まだ成人も迎えていない。ちなみにボルグ君は十二歳だった。
年長者は魔物や野獣の狩りを主に行い、子ども達から危険を遠ざけたり、食料を確保していくことを役割としている。
二年前この場所に辿り着くまではずっとティガが一人で狩りを行い、子ども達を守っていたらしい。ティガにとってここは、安全に子ども達が生活できる、ようやく辿り着いた大切な場所みたいだ。
でもやっぱり学が無いことが仇となり、彼らの生活は原始的だ。
三年間もサバイバルな生活をしていると、それなりに生活できるようにはなったみたいだけど、余裕が感じられない。
小さい子達も頑張っていたりするけれど、テントがある場所からあまり離れることもできないみたいだし、活動範囲が極端に狭い。
「ユワおねーちゃん、またアレつくってほしーの」
「ぼくもー」
「あれかわいいもんねー」
幼い子達が私の側に来て、おねだりしてくる。
もしかしたら年長者組は知っているかもしれないけど、この子達は私が切ったウサギさんリンゴを初めて見たと言ってとても喜んでくれた。
私にはサバイバル知識があるわけでもないし、こういう場所で採れる食材で素敵な料理を作って出すこともできない。
ウサギさんリンゴくらいしか、私には作り出すことなんてできないのだ。
「すまんな、ユワ」
夜のたき火を囲んで、ティガが私に言ってくる。
「私は何もしてないよ。何もできてないし」
「チビ達の笑顔が増えた。俺にはできなかったことだ」
私の言葉をすぐに否定し、子ども達が寝ているテントの方をチラッと見て彼は自嘲する。
「珍しいだけだよ、みんな。お客さんが来て喜んでいるだけだって」
彼とも少しは打ち解けたような気がするけど、まだちょっと距離を感じてしまう。
多分だけど、彼は彼で族長としてこの子達を守ることに精一杯なんだろう。いつも何かを警戒して、気が休まる暇も無いんだろう。三年間ずっと。
「それでも、だ。あいつらは俺にはいつも笑顔だった。あいつらなりに気を遣っているんだ。夜になれば今でも泣くヤツはいる。親に会いたいと言って」
ティガの顔は少し悲しそうにも見えた。きっと彼自身も完全に割り切れているわけではないんだろう。
こういうときに私にできることなんてほとんど無い。
「はい族長さん。これあげる」
私はウサギさんリンゴに爪楊枝みたいな細い枝を刺したモノをティガに手渡す。
「…………ありがとう」
大きな手で受け取って、火に照らされる顔が少しだけほころんで見える。
「私にはこれくらいしかできないけど、これでも喜んでもらえるなら、やらないよりかはいいかなぁって思う。魔法でできることが多いっていっても、私の等身大はこれくらい。でも、ティガの等身大は、こんなウサギさんリンゴだけじゃなくて、戦ってみんなを守ったり、安心させたり、食べさせたり、色々できるから。それって、すごいことだと思う」
魔法を使えば何でもできる。無から有を生み出すことだって、何かを破壊することだって、みんなを守ることだって、なんでも。
でも私自身ができることは多くは無い。
きっと、ここのみんなみたいに逞しく生きることなんてできない。つい最近まで日本に居た私には。
そして、私にはどうしても魔法に対しての抵抗がある。
人を癒したりサポートする魔法には何の抵抗も無い。温泉を掘ったり、地形に対して作用する魔法も特に問題ない。
でも攻撃魔法は苦手で、誰かを傷つけてしまうと思うとどうしても使えない。暴力に訴えるケンカなんてのも、日本にいたときでも全く縁が無かったのも原因だろう。
だから私は、戦うことに関しては無力だ。それが人間であろうと獣人であろうと魔物であろうと。
「私は魔法使いだけど戦うことなんてできないし、戦う覚悟も持てないから。……だから、戦い続けてるティガはすごいよ」
「俺にはそれしかできない」
「真面目だね、ティガは」
子ども達の寝息とたき火の音が二人の間に静かに流れる。
何か会話をするわけでもなく、ティガは私から受け取ったウサギさんリンゴを頬張って、少し穏やかな表情を私に見せてくれる。
毎日彼は明け方まで起きて、他の年長者が目を覚ますまでずっと見張りをしていた。彼は彼自身を犠牲にして、みんなを優先していたのだ。
「私も寝るね。ティガ、おやすみなさい」
「あぁ」
彼に言葉を残し、彼の声を聴いてテントへと入っていく。
彼が少しでも安心できるために、私に何かできることがあるのだろうか?
そんなことを考えながら、敷かれた藁の上で眠りに落ちていった。
朝起きて、小川で顔を洗って、みんなで朝ご飯の果物を食べて。
みんながそれぞれの仕事を始めるとき、私は一人考え込む。
勿論、神パッドを使っているんだけど。
魔物や野獣などの外敵を警戒しているからティガは安心して眠ることができないっていうのがあると思う。幸い今みんなと居るこの場所に外敵が来たことはこの二週間無かった。子ども達に訊いてもここに来てから殆んどそういうことは起きていないらしい。それでも気が抜けないというのはあるけれど。
結界。
私達に敵意を向けてくる外敵を阻むことができれば、少しは安心できるかな?と考えたときにふと思いついたことだ。
幸い検索すればいくつか結界魔法が引っかかったし、できないというわけでもなさそうだった。
善は急げで私はティガに承諾を得て、魔物や野獣から居住地を守る為の結界を張ることになった。
小川の一部を含むこのキャンプ地を神パッドの地図アプリで範囲指定して、そこに魔法の結界を付与する。
現実では一瞬柔らかい光が地面から溢れ出し、領域を囲むように仄かに光るラインが地面に引かれる。
これで多分結界は張れたけど、安心するためには検証が必要だ。
これもティガに承諾を得て、私が子ども達を守ることを条件に、林からティガらが魔物を誘導することとなった。
子ども達を結界の中心に集め、万が一の為に私はいつでも防壁を展開できるように準備をする。
半刻しない内に林の中からティガとボルグ君が飛び出してきて、その後ろから大きなイノシシの魔物がこちらに向かって猛突進してきた。
ティガら年長者が結界の中に入りこみ、すぐに反転して魔物に向かって戦闘態勢を取る。
成功していれば魔物は結界の中まで進めない。
手に汗を握りながら、私は魔物の様子を注意深く観察する。
ガキィィンッッ!
頭部から突進してきた魔物が結界のラインに到達した瞬間に、金属の盾に弾かれたような音が辺りになり響く。
気が付けば魔物は脳震盪を起こしたように気絶し、その場に倒れ込む。
それを見たボルグ君が手にした短剣で魔物にとどめを刺し、ティガがそれを抱えて結界の中に戻ってくる。
「結界、成功!」
魔法の結果に満足してちょっと大きな声を出して、素面なら恥ずかしいと思うガッツポーズをキメてしまう。
「すごいよ、ユワおねーちゃん!」
「すっげぇ!魔法すげぇ!」
私の一言に子ども達も盛り上がり、完全にはしゃいでジャンプをしたり変な踊りを踊ったりして感動?を表してくれた。
そんな子達を見ながら、こっそりその場を離れてティガに歩み寄って、高いところにある彼の顔を見上げるように正面から静かに問う。
「……ねぇ、これで少しは、ティガも安心して眠れる……かな?」
その苦労や悩みを全部解決することなんでできないから、ちょっとでも気を抜くことができればと思ったから。
「―――」
私に対する言葉は小さすぎる声で何を言っているか聞き取れなかったけど、ティガは私の頭をゴツゴツした手で優しく撫でてくれた。
でもどこか、少し寂し気な顔をしていたような気がした―――。
ボルグ君はお調子者系の狼の半獣人。ちょっとお兄さんぶっている思春期ボーイ。
「族長めっちゃカッコいいッス」「チビ達はオレが守るっスよ!」系男子。
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