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異世界でも私、頑張って幸せになる!~転生少女は世界平和はともかく自分の幸せの為に精一杯なのです~  作者: 高丘楓


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第7話 安易な行動で自滅しそうになるのは若さ故に仕方なし!

 判断を間違えた。


 死んですぐに王国領や人間側の町に行くことは少し躊躇されたっていうのもあるし、人間に敵対心を抱いている獣人の領土に行くというのも、今の私にはあまり自信が無かった。

 自身が無かったというか、何か起こっても嫌だったというのもある。


 少し早まったかなぁと後悔したのは、放浪の旅をして三日が経ってからだった。

 用意していた食料が目減りしていき、お風呂に入りたい欲求が強くなってくる。

 お布団で寝たいし、ちょっとお買い物をしたりもしたかった。


 当然のようにすぐ行けるような場所に街なんて無い。転移魔法で王都や宿営地に一回戻るっていう手もあるけれど、それをしちゃったらなんか大分台無しになる感じしかしない。


 色々考えながら歩き続け、気が付けば六日目。

 このときすでに食料が底をついていた。

 このとき私は考え付いていなかった。ある意味で極限状態だったのかもしれない。

 魔法創造の力で食事を出せることを忘れていた。


 その結果、私は人間領と獣人領の境目の草原の片隅で、野営をしながらそのまま空腹で倒れてしまった。




 「ねーねー、おねーちゃんたおれてるよー」

「ぞくちょーにいわないといけないよ?おねーちゃんたおれてるよーって」

「でもぞくちょー、にんげんもじゅうじんもダメっていってたよ?」

「でもでも、おねーちゃんしんじゃうよー?」

「じゃーやっぱ、ぞくちょーにいう?」

『うんっ!』


 うっすらとした意識の中で聞こえてきた言葉は幼く、誰かに判断を求めるものだった。

 ぞくちょー。

 …………きっと族長かな…………。

 そんなことをボーっと考えながら、私は意識を手放した。






 「ここは…………」

 敷かれた藁の上で目を覚ました私は、ボロい布のテントの天井を見て静かに呟く。

 普通のテントと比べると天井は高く、室内も広く作られている。ただし、ボロいけれど。

 体全体に力が入らないのを確認して、私は諦めに近いため息をつく。


 自分でドヤ顔して立てたプランだとしても、こんな風に行き倒れていたんじゃ笑い話にもならない。

「……はっず」

辛うじて動かしやすい右手で自分の目を覆って、自分の愚かさで赤くなった顔を隠す。


 「―――起きたか」

テントの入り口を開けて入ってきた男が私に向かってゴツゴツした低い声で言ってきた。

 人間も獣人もダメと言っていた子ども達を思い出す。多分私は歓迎はされていない。それだけはなんとなくわかる。

 

 目を覆う手を退かして声がした方を見ると、そこには一人の褐色の肌を持つがっしりとした男性が立っていた。

 腰までの長さの粗雑な一重の着物のような服を帯で締め、無地のたっつけ袴みたいな衣装を身に付けている。王都や宿営地では見たことの無い服装。どちらかというと、コリジアータ平原で獣人の皆が身に付けていた服装に近い。


 ただ彼は、虎のような耳と尻尾は持っているが、全体の容姿は獣人ではなく人間。人間が獣耳と尻尾を付けたような、そんな感じでしかないのだ。フロントやトップが短めで、長く伸びた襟足だけ雑に縛ってある、元々は綺麗な金色の髪の毛だったのであろう髪は、手入れが行き届いていないのかくすんだ色になっていた。


 「ありがとう……ございます……」

色々彼について思考していたことで返事がワンテンポ遅れてしまったが、私は一言お礼を口にした。

「……チビ達に言ってやってくれ。あいつらがお前を助けてくれって言ってきたんだ」

彼はそう言って、テントの入り口の方に視線を動かす。

 私はそれに合わせるように顔を横に向け、彼に倣うようにテントの入り口を見た。

 何人かの子ども達が私と彼の方をじっと見ていて、こっちの視線に気付いて逃げていく。


 子ども達も、獣の耳や尻尾、背中に翼など、人間でありながら獣の特徴を持っていた。


 「私……怖がられてます?」

「わからん。だが、あれは純粋な興味でしかないと思うぞ」

彼は相変わらず不愛想に言葉を返してくる。

「今何か食べる物を持ってこさせる。大人しくしていろ」


 彼はそう言ってテントから出ていき、急にテントの中が広く感じられるようになった。

 私は一呼吸ついて、自分が彼から歓迎されていないことを再認識した。敵対心というわけでもないけれど、警戒はされている。

 彼の服装を見ても、このテントを見ても、どう考えたって訳アリの集団だ。


 「おねーちゃん、これごはんだよ」

一人の兎耳の幼女がテントに入ってきて、カゴに入った果物を持ってきてくれる。ニコニコと愛想を振りまいて、なんかギュッと抱きしめてあげたくなるくらいに可愛い。

「おねーちゃんおなかすいてたんだよね?ずっとおなかグーグーいってたもん」

悪意の無い無邪気さで、割と恥ずかしいことを言ってくる子だった。

「ありがとう。ねぇ、あなたのお名前は?」

「ベルはね、ベルだよぉ。おねーちゃんは?」

「私はユワ。よろしくね、ベルちゃん」

私は体を起こしてベルちゃんからカゴを受け取ると、リンゴを手に取って噛り付く。


 久しぶりに食べたリンゴは、五臓六腑に染みわたり、私が生きているという実感を私に与えてくれた。


 そして、その食べっぷりを横で涎を垂らしながら見ているベルちゃんに気付き、私はカゴに入っていたリンゴを一つ、ベルちゃんの手に持たせてニコッと微笑みかける。

 それを喜んだベルちゃんは満面の笑顔でリンゴに噛り付き、ありがとうと言ってくれた。


 「ベルたちはね、むらがなくなって、でもぞくちょーがまもってくれてねー?でも、にんげんもじゅうじんも、ベルたちはわるいこだって、どこにもいけなくてねー、だからここなのー」

リンゴを一緒に食べながら、ベルちゃんはここのことを教えてくれた。

 なかなか要領を得ない会話だったが、理解した範囲ではこうだ。


 ここではない場所に、人間と獣人が一緒に暮らしていた村があった。そこでは二つの種族が交わり、半獣人とも言えるベルちゃん達が生まれた。小さな規模の村だったけれど、皆仲良くひっそりと慎ましく生活していたらしい。

 でもある日、人間の国と獣人の国両方から村の存在がバレてしまい、村が襲撃に遭ってしまった。大人達は子ども達を逃がす為に犠牲となり、当時子ども達の中では一番最年長の十四歳だった族長が二十人の子ども達を引き連れてこの地に流れ着いたとのことだった。すでにもう三年、族長は一人でこの子達を守り続けてきていたのだ。


 「おねーちゃん、ベルたちはわるいこなの?」

リンゴを手にしたまま、不安そうに言ってくる彼女に、私は一瞬言葉に詰まった。

 この世界の状況を考えると、人間と獣人が結婚して交わって、そしてハーフが生まれるというのはあまり、というかかなり歓迎されないことだと思う。

 でも、ベルちゃん達に罪も無いし、二つの種族が結ばれるという事実が悪いはずがない。

 それを悪としている理由は、互いを敵だとしている人間の国と獣人の国の常識でしかない。


 「ベルちゃん達は悪い子じゃないよ?悪いのは、今のこの世界を歪にしている人間と獣人の大人達だよ……」

私は横にいるベルちゃんの頭を撫でて、自分が住んでいた国のことを思い浮かべた。

 話せばわかってくれる人達もいるだろう。でも、わかってくれるだけで、何かを出来る人達でもない。常識の柵がありすぎて。


 翌日には体が動くようになって、私はテントの外へと出た。

 林間にある少し開けた土地の小川の辺にいくつかのボロボロのテントが立ち並び、半獣人の子ども達が手分けをして魚を捕まえたり、野草を摘んだり、果物を探したりしながら自給自足の生活を送っていた。


 「ユワおねーちゃんおきたのー?」

テントの外に出た私に気付いたベルちゃんがニコニコ笑顔で走って寄ってきて、ギュッと抱き付いてきてくれた。

 あぁ、もういちいち可愛いなぁ、この子は!

 私はベルちゃんの頭を撫でながらその愛くるしさを堪能する。


 「タダ飯食べさせてもらうのも悪いから、私も手伝うよ、ベルちゃん。何すればいいかな?」

「ベルはわかんないから、ぞくちょーにおしえてもらうの。いこう、ユワおねーちゃん」

訊く私に、ベルちゃんは腕をつかんで走り出そうとする。

 それに引っ張られるように私も小走りになって、族長が居るという林の中へと向かっていく。


 「林の中に入っていって大丈夫なの?魔物とか、野生の獣とか」

私は移動しながらベルちゃんに訊くが、ベルちゃんは『ベルはみみがいいから、ちゃんとにげれるの』とのことだった。割と大雑把にアグレッシブな幼女だ。

 何かあったら私がちゃんと守らないと。


 「ぞくちょーいたの!でも、ベルがちかくにいくのダメなの。……たたかってるの」

急に立ち止まったベルちゃんは、カタカタと小さく震えながら私の服の裾を掴んでくる。

 索敵魔法を使うと、魔物の反応が一つ、それに、半獣人だろう反応が三つ捉えられた。

 ベルちゃんの耳の良さは本当らしい。

 私は感心しながら魔力を高めていく。


 「ベルちゃん、大丈夫。私がちゃんと守るから」

周囲に他の反応が無いとはいえ、ベルちゃん一人を帰すのも危ないと判断した私は、ベルちゃんと手を繋いで戦いの反応があった方に歩き始める。


 翼を持った半獣人が矢を放ち、短剣を持った狼のような半獣人が斬りかかり、族長がその拳で殴りつけていく。

 族長も若いが、他の二人は更に若い。

 族長以外は素人目に見てもその動きに無駄も多く、熊の魔物につけ入る隙を与えてしまう可能性だってあった。


 「おにーちゃんあぶないの!」

ベルちゃんが叫ぶのと同時に、攻撃のインターバルで立ち止まった狼の半獣人の子に魔物の剛腕が振るわれる。が、私が咄嗟に発動させた魔法障壁が魔物の攻撃を防ぎ、彼に逃げる時間を作る。

 魔物の動きが止まったことで、族長がお返しとばかりに魔物の脳天目掛けて鋭い正拳突きを喰らわせて仕留める。

 肩で息をしながら、族長は私達の方に視線を向け、拳を握りしめた。


 「……なんでここにいる。何故ベルを連れてきた」

その声には怒りが滲んでいる。

 わかっている。ベルちゃんを戦いに巻き込んだら一大事だから、だから私は怒られている。


 「……ごめんなさい……」

素直に謝り、頭を下げる。

「ユワおねーちゃんわるくないの!ベルがぞくちょーにあいにいこうっていったの!だからユワおねーちゃんをおこらないで……ぇ」

ベルちゃんが泣きそうになりながらも私を庇ってくれる。というか、最後に泣き始めて、族長も私もいたたまれない気持ちになってしまった。


 泣くベルちゃんを慰めながらみんなで集落まで戻り、私は族長と二人、テントで話し合うことになった。


 「大体の理由はわかった。……すまん。ボルグも守ってもらったのに俺は……」

「ううん。私もごめんなさい。ベルちゃんを危ない目に合わせるところだったから……」

事情を理解してくれた族長は、向かい合った私に頭を下げる。それに応えるように私も頭を下げて、互いに謝り合う。ボルグとはあの狼の半獣人のことだろう。彼は今、集落の中で私が使った魔法のことを目を輝かせながら皆に話している。どうやら、魔法を見るのは初めてだったみたいだ。


 「ベルから聞いていると思うが、この集落は、半獣人……、つまりは、世界から見れば忌み子しかいない。だから、人間からも獣人からも隠れて生きてきた。村のように焼き払われては困るからな。……お前は、俺達を見てどう思う?」

族長は少し疲れた様子で私に意見を求めてくる。

「ん……正直、よくわからないかな?…………私は元々、ヒュームゼス王国の宮廷魔導士で、人間も獣人も見てきたけど色々あったし、結局は、種族なんて関係ないんじゃない?」

「そうか」


 私はこの世界の柵なんてよくわからない。

 前の世界では、人種差別の問題はあったにせよ、身の回りでは普通にハーフの子達も居たし、一緒に遊んだりご飯食べたりもしていた。

 獣人という種族を初めて見た時の衝撃はあったにせよ、『そういう人種だ』と思えば別にそれ以上の何かを感じることも無かった。族長たちについてもそうだ。


 「私も貴方も、今ここにいるんだから、それでいいんじゃない?この世界のスタンダードから外れたって、存在自体が悪いだなんてことにはならないと思う」

私がそう断言したら、族長は少しは気が楽になるだろうか?

 私はそんなことを考えながら、責任感の塊のような彼に視線を投げかける。


 「悪かった。変なことを訊いたな。……何もない所だが、お前の好きなだけ居てくれてもいい。ベルも懐いているみたいだし、他の奴等も、な」

彼は私にそう言って、そして、初日のようにテントの入り口を私に意識させる。

 そこでは、ベルちゃんやボルグくん達が心配そうに私達の方を覗き見ていた。


 「私はユワ。お前じゃなくて、名前で呼んでもらえたら嬉しいかな、族長さん」

少年少女らを見て苦笑いをし、そして彼の方を向き直してちょっとだけ無邪気に言ってみる。

「そうか。じゃあ俺のことも、族長じゃなくてティガと呼んでくれて構わない」

ティガはそう言うと立ち上がって、私に背を向けて歩き出す。

 彼を避けるように入り口にいた子達は外へ散り散りに走って逃げていき、入り口から射しこむ光が逆光となって彼の姿を見えにくくする。


 「ありがとう、ユワ」


 「ん。……どういたしまして」


 そのありがとうがどこに掛かるありがとうかはわからないが、私は少しだけ笑って、不器用なティガにそっと返事をした。

うさ耳幼女ベルちゃん参戦!ベルちゃんはちっちゃいから、お洗濯のお手伝いのお仕事をがんばってるの!


そして、族長は若くしての苦労人。


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