第28話 王都の罠!笑顔がやけに怖い人!!(半分以上自業自得)
三日ぶりの王都。
―――から外れた郊外の一画。
「皆さん、お疲れさまでした。とりあえず合言葉を、せーのっっ―――」
『くそったれ色ボケ王子!!!!』
十人の男達プラス一人の少女の声は、王都郊外に高々に響き渡った。
「いやぁ、皆さん無事でよかったですよー。コリジアータ平原の装置もゼスさん達の活躍で何とかなりましたし、これで堂々と帰れますね!」
「おいおいユワちゃん。そのセリフは完全に…………」
「前振りだ、シノゴゼ」
私の言葉に反応して軽く笑いながら言ってくる騎士の言葉に被せるように、すごく久しぶりで懐かしい声が背後から聞こえた。
これ、私の気のせいじゃなければ―――。
冷や汗を垂らしながら、私はゆっくりと振り返る。
騎士の皆さんは軽く頭を押さえながらあきらめモードのような表情を私に向けてきた。
いや、そこは臨戦態勢になるとかそういう発想は無いんですか!?
「久しぶりだな、シノゴゼ」
「イヤだなぁ、違いますよー。私、シーゼルですよ。ユリア・シーゼルですよ」
「すげぇ。完全にバレてるのにしらを切るつもりだよ、ユワちゃん……」
「こんなんだから団長やルヴィンさん達とやりあえるんだよ、きっと」
振り向いたら振り向いたで、背後からチクチクと刺さるような言葉を小声で投げかけられる。
完全に四面楚歌だ。
いや、待てよ?これって完全に、密偵で放った騎士の中に王家とつながるスパイがいる……!!
「シノゴゼ……。君は今、きっとこう思ってるだろう。この中に王族とつながっているスパイがいる、と」
やば、バレてる。
やっぱり短期間とはいえ、この人は私の上司だっただけのことはある。
「…………すぱい?それ、なんのことですか?あーあー、天気めっちゃいいし、このまま散歩にぃ……」
「悪足掻きはやめておけ、ユワちゃん」
「そうだぞ、ユワちゃん」
だって、認めたら終わりじゃん。
なんというか、私が王城に戻されるルートしかなくなるじゃん。
「シノゴゼ、安心しろ。別に殉職した君を城に連れていく気は無い」
「えっ!?ホントですか!タナセアムさん!!」
私の心を読んだように的確な言葉を投げてくるベルンさんの存在を、私はようやく認めたのだった。
「とりあえず、ここでは場所が悪い。君が使った転移魔法の反応を辿ってくる奴がいるかもしれない。そこにいる彼らも十分に気配を探ってくれているが、万全ではない。わかるな?」
「はい……」
「ついてきてくれ。話しておきたいことがある」
ちらっと騎士たちの方を見ると、全員軽く頷いて、この提案を飲むように促される。
そして、私もベルンさんに頷いて見せて、歩き始めた彼の後を追っていく。
転移場所から離れた、今は使われていなさそうな一軒家の中に案内され、私は促されるがまま椅子に腰を掛ける。
真正面にはベルンさん。
私の後ろには騎士の皆さんが腰を下ろして待機している。
「まずはシノゴゼ、元気そうで何よりだ」
「…………その件は、ご心配おかけしました…………」
ベルンさんに他意はないだろうけど、なんかすごく責められている気持ちになって気まずいまま視線を逸らして謝る。
「謝る相手は私以外にもいるぞ?」
「えっ?」
「―――殿下」
ベルンさんが静かにその名を呼ぶと、ベルンさんの背後の扉が開き、一人の高貴な女性が現れる。
「久しぶりね、ユワちゃん。元気そうで嬉しいわ」
とびっきりの笑顔を私に向けながら歩み寄ってくる王妃様は、妙な威圧感を漂わせてくる。
これ、完全に怒ってるよね?
笑ってるけど怒ってますよね!?
どつかれる。
王妃様の今までの発言を思い返すと、彼女は確実にどついてしばく系王妃だ!!
「騙すようなことをして本当にすみませんでした、王妃様!!」
私は椅子から飛びあがり、そのままジャンピング土下座の勢いで頭を下げる。
「あらあらユワちゃんったら、これじゃあ私がまるで貴女のことをしばくとでも思われているようじゃない」
心から思ってます。
隠しません、その辺は。
「…………返す言葉もありません…………」
だって図星だもん。
二三発頭を叩かれるくらいは覚悟している。
最悪、ダメージ自動回復魔法を使うくらいの準備はしている。
土下座の私を覆うような影に内心びくびくしながら、私は裁きの時を待っていた。
が、いくら待ってもどつかれることは無かった。
代わりに、王妃様は床に腰を下ろし、私のことを正面から抱きしめてきた。
「貴女が無事でよかったわ……」
「王妃様…………」
心配かけてしまっていたことを、今更だけど後悔した。
そして、王妃様の温もりに少しだけ涙が溢れそうになってしまう。
「でもね?一言くらい相談してくれれば私もベルンも貴女の力になったのに。コリジアータの第五騎士団と獣人達を巻き込んで一芝居うつとか、正直どうかと思うわよ?」
前言撤回。
なんか私を抱きしめてくれている腕の力が徐々に強くなってきているんですけど。
「ホントごめんなさい。すみませんでした。だから、腕の力を緩めて頂ければ嬉しく存じます……!」
「素直に謝ることはいいことよ?ユワちゃん」
王妃様は腕を離し、ベルンさんの横にある椅子に腰を掛けなおす。
「ユワちゃんもお座りなさいな?いろいろお話ししたいことがあります」
「はぁい……」
ちょっとしょんぼりしながら、私は促されるままさっきまで座っていた椅子に座りなおす。
ベルンさんも騎士の皆さんも誰も助けてくれようとしないあたり、こうなることを知っていたんだと自覚させられる。
「まずは、なんでこんなことになっているのかっていう顔をしているから、それについて説明するわね」
「お願いします」
「そこにいる騎士達は、もちろん王都での情報収集という目的で動いていたけれど、もう一つ、第五騎士団団長から私にコンタクトをとるようにと言われていたわ」
「王妃様に?ゼスさんが?」
「えぇ」
私は理由を聞きたい一心で騎士の方に視線を向ける。
「団長は王妃殿下を信用されていました。なにせ、ユワちゃんの身を案じた手紙を書いたり、ユワちゃんの芝居で泣いたくらいにはユワちゃんを大切にしていましたから」
「そうよ?ユワちゃんには本当に泣かされたわぁ。騙されていたけれど」
「ホントすみません」
「コリジアータ平原で起きたことはすでに報告を受けています。騎士達を危険な目に合わせてしまいましたが、貴女が全員回復したと聞いて安心しました。獣人と協力してドラゴンも討伐。魔晶石も破壊。ユワちゃんが魔法で地形まで変えて、平原を侵攻不能の状態にしてしまったことも」
ちょっとだけ言葉に棘を感じ、私は伺い見るように王妃様の顔を見て訊く。
「まずかった……ですか?」
「いえ別に?後から報告を受けるとは思うけれど、第五騎士団は壊滅、全員殉職したことになってますから、地形が変わっていても当然っていうくらいには認識されるでしょう」
「そんなもんですか?」
「いや、そんなもんではない。王妃殿下の意見は特殊な方だ。間違えるなよ?シノゴゼ」
「ですよねぇ。タナセアムさん」
軽く問いかけたことに、ベルンさんはさらっと答えてくれる。そして、さりげなく王妃様をディスってるあたり、ベルンさん、実は王妃様に振り回されるタイプの人で、多少の鬱憤をこういうところで発散しているのではないだろうか。
「次に、実行犯ですが―――」
私とベルンさんの言葉をスルーして話を続ける王妃様に、私は思考時間ゼロ秒の脊椎反射で口に出す。
「どうせ第三王子じゃないんですか?」
「まぁ多分そうなんだけど、証拠が無いのよ、証拠が。証拠さえあれば証拠を突きつけてぶん殴って解決できるのに。だから今、最優先で探らせているわ」
あ、やっぱり王妃様は王妃様だ。
安心するわぁ。この感覚。
「で、ユワちゃん。大切な話はここからなんだけど―――」
「はい?」
必要以上にニコニコしている王妃様に警戒心をマックスにし、私は聞き返す。
「ユワちゃんの恋バナ、聴かせてもらおうと思って」
「マジ?」
「……殿下は本気だ、シノゴゼ。…………あきらめろ」




