第29話 いざ恋バナ
なぜこんなことになったのか。
というか、なぜ王妃様が私の恋バナを聞きたいのか。
さらに突き詰めると、なんで私に恋人ができた、というか、私が恋愛したことを知っているのか。
私はジトっとした視線を背後の騎士達に向ける。
騎士の皆さんは首を横に振り、その結果、犯人はゼスさんだということを導き出す。
宿営地に戻ったら多少問い詰めても許されるよね?
「で、でも王妃様。……流石に恋バナっていっても、ここまで聴いてる人数が多いと…………」
流石に恥ずかしい。
普通に羞恥プレイもいいところだ。
「そうねぇ……。とりあえず貴方達は下がって周囲の警戒をなさい。私とベルン、ユワちゃんの三人ならいいでしょう?」
「まぁ三人ならまだ……。って、タナセアムさんも聞くんですか?」
「…………仕方ないだろ。どうやら私も殿下も、全くの無関係というわけではないのだからな」
「…………よくわからないですが、まぁそういうことなら…………」
彼の言葉に微妙な違和感を覚えながらも、これ以上は話していく中でしかわからないと思いスルーすることにした。
騎士達がぞろぞろと部屋を出ていき、部屋には私と王妃様、ベルンさんの三人だけが残される。
「じゃあユワちゃん。まず結論から言ってもらおうかしら。馴れ初めとかエピソードは後から聴くとして」
にっこりとした笑顔を向けてくる王妃様は、どこかいたずらっ子みたいな空気を感じてしまう。
多分これ、私が何を言っても聞かないパターンだと思う。
だから私は普通に話をすることに決めた。
「えっと…………、半獣人のティガと付き合うことになりました…………。あと、添い遂げる相手になって欲しいって」
「いや、もうなんというか青春真っ盛りね!素敵よユワちゃん!!思い出すわぁ、私の妹もバルっていう獣人と生きたいって言って、獣人との共存の為に国を去ったのよ」
「…………バル……?」
王妃様の言葉の中に出てきた人名が引っ掛かり、思わず聞き返してしまう。
「えぇ。詳しくはバル・ノートゥンっていう虎の獣人らしいけれど、私は会ったことないのよ」
虎獣人。
バル・ノートゥン。
あ、そっか。
ティガの父親だ。間違えじゃなければ。
「あのぉ、たぶんですけど、あくまでたぶんですよ?多分」
「えぇ。どうしたのかしら?」
「多分ティガのお父さんです、その虎獣人」
私の言葉は流石の王妃様も予想できていなかったのか、少しだけ間が空いて、そして小さく咳払いをする。
「そのティガ君の母親の名前は?何か聞いているかしら?」
凄く食い入るように訊いてくる王妃様に圧され気味になりながら、私は首を横に振る。
あのとき、父親の名前だけは聞いたけど、母親の名前は聞いていない。
「訊いた方がいいですか?」
「訊けるのかしら?」
「はい、まぁ、多分。使ったことが無いですけど、遠くの人と話せる魔法がありますから」
「たしか、テレパスだったか。使えるのか?シノゴゼ」
「あっちが許容さえしてくれれば」
着拒というか、交信拒否さえされず、相手が私とのテレパスさえ受け入れてくれれば問題ない。
確か、この魔法を使うのには相手との結びつきが強い媒体が必要みたいだけど、今の私なら。
私という存在が、彼という存在がお互いに結びつきが強い状態だと思うから。
「じゃあユワちゃん、お願いできるかしら」
「はい。やってみますね」
神パッドを起動し、魔法を選択、実行する。
頭の中にティガの顔が思い浮かび、彼と話したいという気持ちを強く持つ。
無音だった脳内に、ビクンとした感覚と共に聞こえてくる彼の声。
『ん?この感覚……ユワか……?』
どうやら成功したみたいだ。
『うん。遠くの人と話せるテレパスっていう魔法でちょっと。ねぇティガ、一つ訊きたいことがあるんだけど、いい?』
『あぁ。なんだ?ユワ』
『ティガのお母さんの名前って、教えてもらうことできる?』
質問の直後に少しだけ間が空いて、私は訊いちゃいけないことだったのかと少しだけ戸惑う。が、ティガはあまり変わらない口調で答えてくれた。
『レティシア・カローリナだ。回復魔法が得意で、穏やかで、だが、父と同じで心が強い人だった』
『そっか……。ごめんね、ティガ』
『いや、気にするな。ユワ、……また何か厄介なことになっていたりするのか?』
『…………えっとぉ…………否定はしきれないけど、さほど厄介じゃないというか、いや、厄介と言ったら厄介なんだけど、問題は無いというか……』
『…………無理はするなよ?ユワ。お前の帰りを待ってる』
『うん。ありがとう、ティガ。もうちょっと時間がかかりそうだけど、ちゃんと帰るから安心して!じゃあね、ティガ。また後で』
『あぁ。また後でな』
頭の中だけでの会話だから、電話機が無い分見てる人からすれば目を閉じて頭を押さえてるだけの人にしか見えないのがネックだけど、なんとか話が終わって私は魔法を解除した。
「えっと、ティガのお母さんの名前ですけど―――」
私が彼女の名前を告げた瞬間、王妃様は涙を流し、ベルンさんがその場に崩れそうになる王妃様を支える。
「…………地雷か何かでしたか?」
「……地雷というのがわからないが……」
「設置型爆発魔法的な」
「…………なら、地雷ではないぞ、シノゴゼ」
ベルンさんも何かしら感じているものがあるような表情だけど、私のこっちの世界には無い単語を聞いて割と冷静に質問してくるあたり、こういう状況に慣れているようにも見える。
「シノゴゼが言っていたティガという半獣人の母親、レティシア・カローリナ様は、殿下の妹で、私の魔法学院時代の恩人だ」
「…………世間って狭いんですね」
ベルンさんの説明を受けた私の感想はそれでしかなかった。
「狭いな、シノゴゼ。というか、もう少し驚きとかあると思ったのだが」
ベルンさんは私に軽く呆れたような眼差しを送ってくれる。
「いや、これでも驚いてますよ?ただ、反応に困るというか、お二人はティガのお母さんを知ってるみたいですけど、私は今さっき名前を初めて知ったくらいですし、なんというか、…………正直よくわかってなくって」
「要するに、ティガ君とユワちゃんが結婚したら、ユワちゃんは私の甥嫁になるということよ」
少しだけ復活した王妃様が私に言ってくる。
「というよりか、君の恋人であるティガという半獣人は、殿下の甥だということだ。殿下も、シノゴゼとの関係を優先する前に、順序を大切にして下さい」
そして、すかさず入るベルンさんからの注意。
「わかっているわよ、ベルン。でもベルン。貴方も安心したのではなくて?レティシアが自分の望んだ未来を掴み取っていたことに」
「まぁそうですが」
「獣人との共存。獣人と人間との間に子を成して未来につなげていく。それだけでもあの子は幸せでしょう」
「流石はレティシア様だとは思います」
二人が私を置いてきぼりにしながら話していることで、ぼーっと待つことしかできない。
恋バナ、これで終わってくれればいいのにとかなんとなく考えるが、この話が長引くのもちょっとだるいかもしれない。
「そっかぁ、レティも人の親になってたのねぇ。そして、その子どもがユワちゃんと恋愛してるなんて素敵ねぇ」
あ、これ終わらないパターンだ。
「ねぇユワちゃん」
「なんでしょうか、王妃様」
「私もそのティガ君のところに案内してもらえるかしら?」
え?嫌です。
なんて即答で断ることなんてできず、私は少しだけ考え込む。
「あと、ゼスにも会っておきたいし、ゼス達を助けてくれたコリジアータ平原の獣人達にも会いたいわ」
いや、要望増えてない?
「コリジアータ平原だったらタナセアムさんでも跳べるじゃないですか」
私は助けを求めるようにベルンさんの方を見るが、ベルンさんから奇跡のような一言を頂く。
「いや、私が認識していたコリジアータ平原と、今のコリジアータ平原の地形が変わりすぎていて、転移候補から外れてしまっている。結論を言うと、私では転移できない」
私じゃん!
完全に私の腹いせ魔法の所為じゃん!!
「えーっと…………。ゴメンナサイ」
気まずくなって、とりあえず謝るだけ謝ってみた。




