side.ティガ 居てほしいと願ったから
第11話~第17話前半までの、ティガ視点のお話です。
暗い空が白く染まり始める時間、鳥の半獣人のアレッタと猫の半獣人のヒュー、狼の半獣人のボルグが起きてきて、見張りを交代する。
俺達半獣人の中で十二歳を超えている年長者の三人は、眠い目をこすりながらも俺に挨拶をしてくる。
ヒューは三人の中では俺の補佐的な立場で、戦いには向いてはいないが、よく狩りに出たりする俺の代わりに年少者達に指示を出したり、ここでの生活をなんとか維持できるようにいつも考えてくれている。真面目でしっかりした奴だ。
アレッタは唯一の女の年長者で、少しおっとりしてはいるが弓の腕は確かで、背中の翼で飛べるということもあり、狩りや戦いでは重宝している。
ボルグは三人の中では一番年下にはなるが、身軽で素早い動きが得意で、割となんでも器用にこなす。楽観的でまだまだ幼い部分もあるが、ムードメーカーとしてチビ達にも懐かれている。
三人とも個性はバラバラだが、チビ達や俺のことを気遣ったりしてくれている。
三人に勧められて休憩する為にテントの入り口の布をめくれば、ユワが静かな寝息を立てて寝ている。
俺は彼女を起こさないように静かに動き、他のテントよりかは大きいが、成人二人が寝るには狭いテントの中、ユワと向かい合うように転がり眠りにつく。
『ユワに一緒に居て欲しい』
俺が一緒に居て欲しいと願った女性が、手を軽く伸ばせば触れられる距離に居る。
あの時抱きしめたのは、離したくなかったから。
今は、同じ場所にいてくれる。
それだけで十分だった。
「ではただ今より第一回、これからどうしよう会議を始めます」
ユワが広場にみんなを集めて話し合いをしようと提案した。
この場所が人間にばれてしまった可能性があるから、これからどうするべきなのか。
確かに放置していていい問題では無いだろう。
だが、誰一人としてそれに対する正しい答えなんて持っていない。
だから、おそらく多数決という形で決めていくんだと思った。
意外と皆、しっかりと意見を持っていたことには少し驚かされた。
ヒューやアレッタ、ボルグは多少何かは考えていると思っていたが、チビ達もどうするべきかの意見を出し合っていた。
結果として数十分かけて話自体は平行線。
ユワも結論を出せずに頭を悩ましている。と思ったら、ハッとしたような顔になって、皆に声を掛けた。
「今から特別ゲストが来るから、みんなもうちょっと後ろに下がれるかな?……うん、それくらいそれくらい」
指示を出して何をするつもりかと訊こうと思った矢先、薄紅色の光の粒が中心に吹き荒れ、そこからはユワと似たような女性が彼女の名前を呼びながら飛び出してきて、ユワに抱き付いた。
そして、その後を追うようにもう一人、紅色の光の渦を纏いながら美しい女性が現れた。
「初めまして皆さん。私はこの世界の女神、プラナージュです」
「初めまして。私はプラナージュの妹神で、こことは違う世界の女神のエドレシスです。よろしくねー」
女神を名乗るその二人に、俺とユワ以外の皆が盛り上がって思い思いの言葉を口にしていく。
本当に女神かどうかはわからないが、ユワが呼んだのなら多分そうなのだろう。
かつて人間と獣人の争いを諫めた女神、プラナージュ。
俺達の村の大人達が信じていた女神であり、俺達が生まれた理由の女神。
思うところは色々ある。
俺達が生まれてこれたのは、女神の祝日があったから。
争うことを止め、手を取り合えるの存在であると説いた日があったからこそ、俺達の親達はその言葉に倣いあの村を作った。
だが、俺達という存在は、本当に世界にとって正しかったのかもわからない。
言葉だけの女神に、俺達を守ることはできなかったから。
「さっそくですがプラナージュ様、これから私たちはどうしたらいいかっていうのを考えているんですが、どうすればいいと思いますか?ここに居たら人間に見つかる可能性が出てきたということ。でも、ここから離れるにしてもいい場所があるかもわからないということ。何かいい案はありませんか?」
ユワがそう問い、プラナージュは少しだけ悲しそうな顔をして、静かな声で答えた。
「そうですね……。私としては、貴方達半獣人はこの世界の希望であり、未来でもあるのですが……。……どうやら世界はそのように思っては下さらないみたいですね。この場所よりも適した場所となると、水源もあって、程々広い平地に、恵みがある森もあって、それでいて外敵が少ない場所……ですよね?」
そうだ。世界は俺達のことを良くは思ってくれなかった。二者が手を取り合うことも。
いくら女神の言葉で半獣人が希望だと言ったところで、現実は違う。
村を出てから俺が、俺達が必死に逃げて辿り着いたこの場所で、ようやく束の間の平穏を掴めたくらいだ。
俺のそんな感情が乗った視線に気付いたかのようにプラナージュは俺の方を一瞥して、そして少しだけ寂しそうな目を向けた。
何故だか、少しだけ悪いことをしてしまった気持ちが胸の奥に生まれる。
「無かったら作っちゃえばいいんじゃない?そういった環境。優羽ちゃんだったらできるし」
「私にならできるって、そんな大げさな」
「いえ、エドレシスの言う通り貴女の力なら可能です。…………妹がうっかりミスしたお詫びとして、それだけの力は与えましたから…………」
「そうそう。今の優羽ちゃんって、準女神級の力は持ってるわよ?」
エドレシスという女神の言葉にユワとプラナージュが乗っかって、ああでもないこうでもないと会話を続ける。
「……そんな力を使って、ユワは大丈夫なのか?」
準女神級の力があるとしても、俺は女神がユワに無理をさせるのではないかと心配になり、ユワを守るように両者の間に入り、問いかける。
「一度に広範囲に魔法を使い過ぎると、流石に一時的に眩暈くらいは起こすかもしれないけれど、彼女の魔力は無制限ですから、基本的に影響はありません」
丁寧な口調で俺を納得させるように説明してくる女神の話を、俺は彼女の目から視線を逸らさずに聴く。
「しかし、優羽に負担を掛けるのも本意ではありません。なので、今回は私が私の責任において、半獣人の子らの望むような場所をここに創りましょう。さぁ、皆さんの希望を教えて下さい」
俺の気持ちを理解したのか、プラナージュは凛とした声で宣言し、俺に微笑みかけると、他の半獣人達の方に視線を向けて皆の意見を聴き始めた。
「では、これより領域創造を行います」
プラナージュの宣言に周囲の空気が変わり、土地が何かの力に満たされていくのが肌でわかった。
十分も経たない内に俺達が居た場所は、半獣人達が望んだ平穏な生活の為の土地に変貌を遂げた。
チビ達が喜び盛り上がり、それぞれに走り回ったりして新しい土地を確認していく。
俺も知覚できる範囲全てを見回し、女神の力というものを実感する。
ユワと女神達が話し、ユワがプラナージュに好意的に接し、そして、気遣っていることに気付いて、俺はあの女神のことを少しだけ許した。
「ティガくん!優羽ちゃんをちゃんと幸せにしてあげてね!!」
「ちょっっっ!!!!」
去り際にエドレシスという女神が俺に対してそう叫び、ユワが慌てた様子で彼女を掴もうとするが、ユワが掴んだのは光のみで、それも手の平から霧散していった。
ユワを幸せにする、か。
俺なんかがユワを幸せにできるのかなんてわからない。が、幸せにはしたい。
少しだけ赤くなって見えるユワが俺を恐る恐る見てくる。
何を恐れるのかもわからないが、俺はただ静かに彼女の目を見て、エドレシスの言葉を噛みしめた。
土地の問題が解決したこともあって、次は住む場所の問題をどうにかしたいとユワが言ってきた。
確かにそれも大切な問題だ。しかし、俺達には建築の知識はない。ユワの魔法でどうにかしようにも、構造としてしっかりと把握していないと倒壊の危険性もあると言われた。
だからといって、いつまでも狭いテントでユワと一緒に寝ているというのも問題だろう。俺みたいな体が大きい者と二人で寝るなんてこと、ユワも気を遣って窮屈だろう。
だが、ユワは予想していなかった言葉を遠慮無しに言ってきた。
獣人の国にお願いしに行くと。
確かに、人間の国絡みのトラブルがあったばかりだから、頼るとしたら獣人にはなってしまう。
「俺も一緒に行っていいか?」
ユワだけを行かせはしない。ユワのことだから、一人でまた何か抱え込んでしまうかもしれない。それは避けたかった。
そして、理由を訊かれて答えた。
「……消えてしまいそうで、不安なんだ」
予定より長くなりそうなので、三部に分けることにしました。
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