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異世界でも私、頑張って幸せになる!~転生少女は世界平和はともかく自分の幸せの為に精一杯なのです~  作者: 高丘楓


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side.ティガ 強くあろうともがくこと

第14話後半~第16話までの、ティガ視点のお話です。

 ユワの転移魔法で辿り着いた場所で最初に目に入ったのは、黄金と漆黒の縞模様が目を惹く虎獣人だった。

 友好的にユワに接してはいるが、全身からは魔物以上の威圧感を放っていた。獰猛な獣のように。

 そして、久しぶりに見た純血の虎獣人に、どこか父に似た懐かしさを覚えた。


 「……半端者か……?ユワ、どういうことだ?」

俺が歓迎されていないことがすぐにわかる程睨まれ、ユワはそれを弁解するように虎獣人に向かって色々と説明をする。

 周囲の獣人達も、俺を遠回しに警戒している。


 村の大人達に守られていた俺達半獣人への、世界一般での認識を改めて感じさせられた。


 ユワの説明で一応の納得をしてくれたのか、ルヴィンと呼ばれた獣人の将は警戒を緩め、ユワと俺を拠点となっている木造の小屋へと案内した。

 「というわけで、家を建てたいけど家の作り方が分からないのでどうにかして下さい!ちなみに木は大量にあるけど工具も加工された建材もありません!」

彼女の説明とストレートすぎる要望を聞いたルヴィンさんはため息を一つつく。

「…………いっそ清々しいな」


 ユワに呆れたような声を出す獣人の将は、あまり怖い人でもないように思えた。

「すみません。俺がもっと色々と知っていれば……」

俺はユワの言葉に補足するように謝る。

「いや、お前が謝ることでも無い。状況が状況だ。一人でガキどもを守り続けていたとは、なかなか見込みのある奴じゃねぇか。半端者でも獣人として、その強さは誇っていい」

「……ありがとうございます」

彼の中での半獣人の評価がどうであれ、少しだけ認められたことに安心を感じる。


 そこからしばらくユワとルヴィンさんが話し込み、俺は静かにその会話を聞いていく。


 「とりあえず、明日には兵と物資を渡せるように準備しておく。今日はこの宿営地に二人とも泊まっていくといい。ユワが掘り当てた温泉もあるし、ゆっくりしていけるだろう。それに、ティガだったか?その半端者にも興味があるしな」

ルヴィンさんが俺に視線を向けて軽く笑いかける。

 警戒しかけるが、それが敵意や悪意では無いことに気付き、全身に籠った力を抜く。


 ユワだけ先に宿泊用の小屋と温泉に案内され、俺はルヴィンさんに獣人の宿営地を案内される。


 「ティガと言ったか?俺達はユワのことは仲間だと認めている。そんなユワが認めた相手だから、お前は敵ではないとは思っている。が、敵では無いだけだ」

宿営地の中央広場で立ち止まり、俺と向かい合ったルヴィンさんが警告するように言ってくる。

「ユワには力を貸すが、お前は別だ。お前がユワに守られるだけの存在じゃ無いなら、それを証明してみせろ。力を示して、俺らが力を貸すに相応しい存在かどうかを見せてみろ!」


 瞬間、地面を強く踏んで、正面から襲い掛かる拳を受け止めた反動を大地に伝えて衝撃を受け流す。

「これを止めるか!なら、次はコイツだ!」


 敵意ではない。殺意ではない。悪意ではない。

 試されている。獣人の将に。


 俺は気持ちを切り替えて、ルヴィンさんが繰り出してくる攻撃を受け止め、躱し、隙をついて反撃をいれていく。

 対魔物とは違う対人戦は、昔の父との訓練を思い出させる。


 守りたい者を守る為に強くなる。

 その為に鍛え、学び、思考し。そうしたことを繰り返し、強くなる。

 守る者を定め、心に守るべき相手を見据え、瞳に敵を映す。

 敵である理由も受け入れる。敵の思考に自分の思考を重ねる。


 一撃一撃に意味を。

 戦う理由を込めて放てと。


 ただの暴力にならないように。


 父親の教えが頭の中に蘇ってくる。

 ただ我武者羅にチビ達の安全の為に魔物と戦っていたときとは違う思考が、金色の虎獣人との戦いで思考を支配してくる。


 昔の父は、母や俺、村の者達を守る為に戦った。

 そしたら、今の俺は?


 俺が守りたい者は、チビ達。そして―――。


 「ルヴィンさん!何やってるんですか!?ティガも!」

「試してるんだよ!この半端者がユワと一緒に居るにふさわしいかどうかを!」

ユワが叫び、ルヴィンさんが応える。

「ふさわしいもなにも、こんなの私聞いてないし、困る!!」

ユワが困ると言っても、今更止められない。

 そして、ルヴィンさんが言ったその理由なら尚更止めるわけにはいかない。


 「悪い!」


 ユワの気持ちを蔑ろにしているとしても、戦い続けなければならない。


 だが、圧倒的な経験の差が俺の目の前に立ち塞がり、そして、俺の一瞬の隙を突いて放たれた蹴りが腹に決まり、体が吹き飛ばされる。


 強い痛みと苦しみが全身を襲う。

 俺はここまででしかないのか?

 守りたい者が居ても、今の俺の限界はここで―――。


 霞む視界にユワの背中が見える。

 心配そうな声で俺の名前を呼んで。


 「なんだ、その程度か?女に守られるだけの男なのか?お前は。恥ずかしい奴だ。お前みたいな男は、女の一人も守れずに指をくわえて女が犯されるのを見るしかできないぞ!」


 ルヴィンの言葉に俺の意識が揺さぶられる。

 霞んでいた視界が一気にクリアになり、ルヴィンが地面を蹴り飛ばした音と同時に起き上がってユワを守るように前に出て、そして、全身に強く力を込めて構える。

 鋭く突き出されたルヴィンの爪は、しかし、俺の体に傷をつけることなく止められて、俺が腕を動かすのと同時に弾き飛ばす。


 「…………大丈夫か……?ユワ……」

「う、うん…………」


 良かった。

 守れた。ユワを傷つけずに済んだ。


 「よかった。………………よかっ……た…………」

ユワの無事とルヴィンが構えを解いたのを確認した瞬間に体の力が抜け、俺はそのまま意識を飛ばした。




 「起きたか」

目を覚ますと、ルヴィンさんが椅子から立ち上がって俺の方に歩いて近づいてくる。

 ベッドの上に横たわる体が重く、身を起こすことすらできない。

「……ユワは……」

「今頃温泉に入り直して、飯でも食ってる頃だろう。安心しろ。本気でユワをどうこうなんてことは考えていない」

その言葉を聞いて、俺はまず一つは安心できた。


 「少しは手加減していたが、最後の一撃を受け止めたのを見ると、お前もなかなかやるな。半端者と呼んだことは謝ろう、半獣人の族長、ティガ」

ルヴィンさんは俺が寝ているベッドの横の椅子に座ると、俺の顔を覗き込む。

「ティガ。お前の父親や母親はなんという名だった?」


 親の名前。

 最近ではほとんど呼ばなくなった物を、ルヴィンさんは興味あり気に訊いてくる。

「父は、バル。バル・ノートゥン。虎獣人だった。母は、レティシア・カローリナ。人間です……」

俺の言った名前に、ルヴィンさんは一人納得したように頷き、そして、俺の頭を雑に撫でてきた。


 「そうか、お前はバルの息子だったのか。なら納得だ。あの戦い方も、動き方も」

どこか嬉しそうに笑い、そして、俺の頭をもっと激しく撫で回す。

「父を知っているのか……?」

「ん?あぁ。バルは俺の親友だった。……バルは、アイツは人間との共存を唱えて国を出て行った。あのまま国に居れば虎族の族長になっていたんだがな」

「…………虎族の族長…………」

「そうだ。お前の父親は、前族長の長子で、現族長の兄だ。俺と互角以上に戦える数少ない奴だった」


 父も母も、昔のことは殆んど話してはくれなかった。

 今が大事だからと。


 俺はそれを気にせずに受け止めて、深く訊くこともしなかった。

 ただ母が昔、少しだけ嬉しそうに教えてくれたことがある。

 父が母を助けてくれたことがきっかけで、父と生きることを決心したんだと。


 「お前の戦い方はバルと同じだ。勿論、バルの方が何倍も強かったがな」

「…………でも父は…………」

「お前達半獣人の子ども達を守る為に戦い続けたんだろ?まぁそれはアイツが選んだ道だ。後悔はしていないだろう。昔からそんな奴だった」


 しかし、村を襲った者達の中には獣人も居た。人間と獣人が結託をしたわけでは無かったはずなのに、タイミングが悪かった。

 まずは獣人達が攻めてきた。

 犠牲を出しながらも何とか撤退させ、子どもだけでも避難させるかどうかを話し合っているときに人間が攻めてきた。

 傷も癒えていない状況で、父と母、村の大人達は俺に全てを託し、盾となって俺達を逃がした。


 今、生きているかどうか、死んでいるかどうかもわからない。

 生きていてほしいとは願っているが。


 「お前はもっと強くなれ。バルの名に、ノートゥンの名に恥じない程に強くなれ。お前のことは認めてやるが、まだまだだ。今のままだと、いつかユワを誰かに奪われてもおかしくはない。ただでさえ人間の国で宮廷魔導士をしていて、人間の国から逃げてきたという実績がある娘なんだ。人間側が探しにこないとも限らない」

ルヴィンさんの言葉には重みがあった。そして、それを裏付ける出来事もつい先日起きたばかりだ。

 俺はルヴィンさんに負けた。

 世の中は広い。

 ルヴィンさんレベルで強い者が他にも多くいるだろう。獣人の国側にも、人間の国側にも。


 そうなったとき、俺はユワを守りきれるのか―――?

 漠然とした不安が胸を締め付け、痛む体を内側から苦しませる。


 「お前はちゃんとバルの力を受け継いでいる。最後にユワを守る為に発動させたあの力。あれはバルの固有能力『金剛』そのものだ。全身を硬化させ、どんな攻撃も通さず、ただ守ることに特化した能力。父親から貰った力、自分の意思で使いこなせるようにしっかりと育てろ」


 ユワを守る為に無我夢中だったあの時に、俺とユワを守ったあの力。

 そうか。

 父が…………。


 「動けるようになったら、お前も温泉にでも入ってゆっくり疲れを取って来い。とりあえずは俺の部下達をしばらくお前の集落に貸してやる。仮に人間が襲ってきても対処できるだろう。友の息子の為だ。ユワの願いとは別に、俺ができることはさせてもらう」




 翌朝、俺の気分は決して良くはなかった。

 戦いの痛みはまだ少し残っているが、それが原因では無いことはわかる。

 父のことと、ユワを奪われるかもしれないということが原因だ。


 重い体をベッドから起こし、獣人達が用意してくれた朝食を食べるために、ユワもいる部屋へと歩いていく。


 「…………おはよう、ティガ。どうかしたの?元気なさそうだけど」

変わらぬユワの声に、俺は少しだけ体を震わせてしまう。

「なんでもない……」

自分もできるだけ調子を変えないように意識するが、どうも上手くできない。

「うそ」

ユワはすぐに見破って、俺の目を見てこようとする。


 「私にぐらい、何でも言っていいんだよ?ティガ。…………我慢しすぎるティガを見るのは…………なんというか……、辛いから…………」

立ち上がったユワが、俺の頬に手を当てて視線を逸らすことを許さなかった。。

「…………ユワ…………ッ……!」


 苦しい。

 父が約束された未来も、背負っていたものを全て捨ててまで望んだ生活の果ても、息子である俺に託された今も、一緒にいてくれるユワが誰かに奪われてしまうかもしれないことも、俺に守り切るだけの力が無いことも。


 「何があったの?ティガ」

その言葉に返せる明確な言葉も選べず、俺はただ、ユワを抱きしめた。

 俺は弱い。

 泣くことも許されない立場の俺は、ただ強くあろうとするしかなかった。


 ユワが俺の背を優しく叩き、そのリズムで少しずつ落ち着きを取り戻してくる。

 ダメだ、こんな状態では。


 虎族族長に連なる者として、半獣人の族長として、俺は強くならないといけない。

 そして、ユワを奪われないように。ユワに心配をさせないくらい強くならなければ。


 「…………悪かった、ユワ…………」

「ううん。気にしなくていいよ、ティガ」

「ちゃんと話す。……ただ、今すぐには言えない。俺も……呑み込むのには時間が欲しい…………」

「うん」


 今この場では、まだ自分のことを呑み込みきれない。

 しっかりと決意できるまで。

 まずは今の課題をしっかりとこなし、俺が俺であることを呑み込めるまではまだ。


 ユワから体を離し、少しだけリセットできた自分の顔をユワに見せる。

 ユワは軽く微笑み、朝食を勧めてくる。半分無理矢理、その手に持っていたパンを俺の口に押し込んでくる。

 村を出てから食べられなかった味だ。


「食べないと元気でないよ、ティガ。君は頑張りすぎで我慢しすぎで、お姉さん心配になってしまうんだよ?」

押し込まれた分を飲み込んで、ユワの言葉に少しだけ困惑したような視線を送る。

「ユワの方が一つ下だろう?」

「そうだけど、もしかしたら年上のお姉さんかもしれませんよ?」


 もしかしたら俺を元気づけるための言葉かもしれない。

 言っては悪いが、ユワは隙だらけだ。

 仮にも元宮廷魔導士で俺よりか年上なら、もう少し隙は無いと思う。

 こんなわかりやすい嘘をニコニコとを言ってくる彼女を見ていると、少しだけ肩の力が抜けたような気がした。色々考えているのかもしれないが、もしかしたら俺なんかではわからないこともあるのかもしれないが、ユワは気楽だ。気楽というよりかはいつも自然体で、そんな彼女に流されそうになってしまうことに、悪い気はしない。


 「ねぇティガ、いっしょだよ?ティガは当然だけど、ベルちゃんやボルグ君達もいっしょ。私もいっしょだから。みんないっしょ。―――一緒に笑って、いつか平和な村になって、町になって、それが国になって、世界になることだって夢じゃないよ。そのために今私達は、ここにいるんだから。土地はプラナージュ様が用意してくれた。家はルヴィンさん達がどうにかしてくれることになった。まぁ勿論、私達にできることは私達でやらないといけないし、覚えていかないといけないけど。でも、できるよ、私達なら」


 ユワの言葉には自信が溢れていた。


 そうか。

 『私達なら』、か。


 俺だけじゃない。

 ユワもいてくれる。

 チビ達も、あいつらも、女神も、ルヴィンさん達獣人も。


 俺はずっと、一人で抱え込むことが当たり前になってしまっていたみたいだ。


 ユワの凄いところは、きっと準女神レベルの魔力と魔法の力ではなく、『誰かと協力すること』ができるところと、その為なら協力を請うことを惜しまないことだろう。一人でできることの限界を知っているからか、それとも、みんなで一緒がいいからか。そこはわからないが、だが、その考えは俺を救ってくれた。


 「ティガ、またな」

みんなの場所へ獣人の協力者達と帰るとき、ルヴィンさんが俺の頭を撫でてそう言った。

 昔、父親が撫でてくれたように。


「なんか急に仲良くないですか?ルヴィンさん。昨日は半端者呼ばわりだったのに」

その様子を見て、ユワはルヴィンさんに対して疑問を素直にぶつける。

「そんなことは無い。昨日の戦いで実力を認めてやったんだよ。俺やゼスに比べりゃあまだまだだが、強い奴は好きだしな」

「…………なんかうさんくさい…………」

ルヴィンさんが笑いながら返す言葉に、ユワはそのセリフに違わず、うさんくさいものを見るかのような視線をルヴィンさんにぶつける。


 そのやり取りがどこかおかしくて、俺は口元で笑う。


 そして、魔力の光に包まれて、俺達は居るべき場所へと帰った。


 「これからだね、ティガ。頑張ってまずは村をつくろう?」

「あぁ」


 大丈夫だ。

 今の俺には、獣人の協力者達が居て、チビ達がいて、ヒューとアレッタとボルグもいて、そして、ユワもいる。

ティガ視点の三部中の二話目です。


この二人のこれからを応援してくれる方や、『この話の続きが気になる』『楽しいよ』『おもしろいよ』と思って頂ける方は、ブックマークや、画面下部にある「☆☆☆☆☆」から評価していただいたり、感想やレビューをいただけると嬉しいですし、励みになります。


いつも読んで頂き、本当にありがとうございます。

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