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異世界でも私、頑張って幸せになる!~転生少女は世界平和はともかく自分の幸せの為に精一杯なのです~  作者: 高丘楓


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第25話 戦う覚悟を決めるとき

 祈りに呼応するかのように光が奔り私の目の前の地面に魔法陣を描く。

 そして、完成された陣からは光の粒子と桜の花びらが噴き出るように舞い上がり、一人のシルエットを浮かび上がらせる。


 獣人の将ルヴィン・ティグ。

 コリジアータ平原の獣人兵達をまとめ上げる金虎の獣人であり、固有能力『再生』を持ち、常に前線で戦い続けていた猛将。こと戦闘においては一撃一撃の攻撃の重さもさることながら、圧倒的な攻撃速度の手数で責めるタイプの戦士。


 その固有能力のおかげで、ドラゴンの攻撃で怪我を負ってもすぐに治って無傷でいられる。ルヴィンさんが自分から私に教えてくれたから間違いない。


 そんな、騎士団長に匹敵する戦闘能力を持つ獣人と、ただの力と我流の戦闘センスのみで戦いきった男が一人だけ、自分が知る中にいた。


 「―――ユワ」


 その声を聴いて、私は静かに微笑み、そして、強く頷き、彼にお願いする。


 「お願い。ゼスさんとルヴィンさんを助けて。コリジアータのみんなの為に」


 「それがお前の望みなら。お前の力になれるなら―――」


 彼は優しくも力強い声で言いきって、大地を踏みしめ蹴り飛ばし、ドラゴンの戦場に駆けていく。

 祈るように願うように彼に強化魔法と防御魔法を発動させ、三人の戦場を見守る。


 彼は強かった。

 対人戦は殆んど経験が無い彼でも、こと魔物に関してはここにいる獣人や騎士達と同等か、それ以上に戦いの経験はある。


 だから願った。

 ここに来てほしいと。

 ティガなら、ゼスさんとルヴィンさんと連携を取って、ドラゴンを倒すきっかけになるって。

 勿論危険なのもわかっている。

 だから、私も覚悟を決める。


 ティガだけに危ない目には遭わせない。


 護衛の騎士の制止を聞かず、ドラゴンの攻撃が当たらないギリギリのところまで歩き、そして正面にドラゴンを見据える。

 中途半端な攻撃は通らない。

 それどころか激昂させて動きが活発になる可能性だってあるし、私を狙ってくる可能性だってある。

 それに、ゼスさんの最大の一撃で確実に倒せるようにする必要がある。


 魔法はイメージ。

 神パッドでの検索でわかった一番攻撃力が高い魔法をイメージし、さらにそこにアレンジを加えていく。大学のゼミの後輩が喜々として語っていたレールガンとかスナイパーライフルとか、なんかそういうのを参考にさせてもらう。


 広げればサッカー場以上の広さを満たす程の魔力をハンドボール大に高濃度圧縮し、それを重力場で制御。指向性を持たせて加速させて放つ。

 戦闘機のように速く、通過した後には衝撃波が生まれる程の速さで。


 魔力コントロールを行い、イメージ通りに魔法を発動させていく。

 流石に攻撃の魔法に慣れているわけでも無いし、普段沢山魔法を使ったりしているわけじゃないから構成と発動に時間がかかる。

 私から溢れる魔力が私の足元の土を抉る様に圧し潰し、私が今使おうとしている魔法の威力の高さを教えてくれる。


 これ、万が一三人に当たったら、というかドラゴン貫通しちゃってその先にもし生き物がいたら、それごと倒しちゃうんじゃないかと、二次被害の方を心配してしまう。


 溢れ出す魔力の奔流で、揺れる水面越しに見たかのように歪むドラゴンと、三人の姿。


 ティガは危なげなところもあるが、そこはルヴィンさんがカバーし、ゼスさんは二人の連携によって少しずつ動きに余裕が出てきた。


 これならいける。


 と思った矢先、ドラゴンがこっちに気付き、鋭い視線を私に向けてきた。

 そりゃ気付くか。

 目の前で明らかにおかしいレベルの魔力の流れが起きていれば、むしろ気付かない方がおかしい。

 多分視覚的にもすぐにわかるだろうし。


 そうなると、ドラゴンの狙いは直接今すぐに危険因子となりうる私となり、細かい攻撃を与えてくるティガ達の優先度を下げ、三人を無視して突進してくる。


 「させるかぁーッッッッッ!!!!」


 ティガが咆哮にも似た叫びを上げ、爆発的な加速でドラゴンを追い越し、私まであと十数メートルという場所でドラゴンの突進を受ける。私の盾となるみたいに。


 瞬間、彼が死ぬかもという恐怖が頭を過る。

 私が呼んでしまった所為で、ティガが――――――。

 スピードを出した大型トラックが人間にぶつかった場合、人間はすぐに死んでしまう。

 それを知っているから、ティガも。

 ドラゴンの突進の直撃を受けてしまうと―――。


 ガガガッッッッ!!!!!


 嫌なことを見たくない自分はその瞬間に目を強く瞑った。


 が、彼の悲鳴も、彼を平然と通り過ぎたドラゴンの突進も、私が想像していた事象は何も起きていなかった。


 恐る恐る目を開けると、ティガはドラゴンの首を両手掴んで、その侵攻を食い止めていた。

 怪我をしている様子も無く、力の籠った眼差しでドラゴンを睨み付けている。


 「ユワ!!」


 ティガの私の名前を呼ぶ声で現実に引き戻され、私は私のすべきことを思い出す。

「ゼスさん!私の魔法の後に最大の一撃を!!ルヴィンさん、ティガを!!!」


 『応!!!』


 三人が強く返事をし、それを聞いた私は魔法の最終調整を行う。

 そして―――。


 「いきます!!!」

その声にルヴィンさんが即座に動き、ドラゴンと力比べをしていたティガを横から攫って行く。

 そして、ゼスさんもタイミングを合わせて魔力を高め、収束させていく。


「これが今の私の…………全力だぁーっッッ!!」


 放たれた高濃度圧縮魔力の球は、その加速の反動で私を射線とは反対に吹き飛ばし、瞬きも許さない速さでドラゴンの胴体に風穴を開ける。

 それと同時に吹き荒れる衝撃波の暴風が、土煙を上げて襲い掛かる。


 「これで終わりだ、ドラゴン!!」

私では立っていることすらままならない暴風を浴びながらも、ゼスさんは何一つ揺るがされることなく己の役割を全うしようと動く。


 雷が刃となり、ゼスさんの手持ちの剣の刀身を何倍にも伸ばしてドラゴンの体を貫くように表皮に触れる。

 通常の斬撃では薄い傷しかつけられなかったことが嘘のように火花と閃光を放ちながらドラゴンの体に刃が食い込んでいく。が、それに満足することなく返す刃で体内からドラゴンの肉体を喰い破る様に斬り裂き、何重にもドラゴンの肉体を切断する。


 そして、最後の一太刀でドラゴンの首を斬り落としたとき、平原の戦場は歓声に包まれた。


 まだ最後の仕上げがあるのに、弾き飛ばされて地面に叩き付けられた痛みで体を起こすことが億劫になってしまう。

 魔法を使って回復しようにも、一気に魔力を消費した所為か、少しだけ貧血のような眩暈がする。


 「ユワ。…………大丈夫か?」


 強く逞しい腕が私を抱き起こし、ぶっきらぼうな声で私を心配してくる。


 「あはは……。自分の魔法で自分が吹っ飛んじゃってたら、意味ないよね…………。いやぁ……恥ずかしい…………」

照れ隠しのようにおちゃらけて、なんか怒られそうな予感をも誤魔化す。

 ちょっとだけわかる。

 多分ティガに怒られるってことぐらいは。


 「俺はお前の力になりたい。そう言ったはずだ。…………だから、ユワが俺を呼んでくれたとき、俺は、お前に頼られる男に、少しはなれたんだと思った。…………ユワ、無茶はしないでくれ…………。戦いなら、俺がする」

「…………ごめん……なさい…………」


 ティガの真面目な言葉に、私は素直に謝った。気持ちが少しだけ落ち着いて、少しだけ沈んで。


 「で、でも、ティガが居てくれたから。……ティガだけに戦わせたくなかったから、私も覚悟を決めれたの!…………だからその…………」

「………………でも、無茶はやめてくれ。俺の心臓が幾つあっても足りない…………」

「ティガも!私もあの時、ティガが死んじゃうんじゃないかって……っ!!ティガも無理しないでよ…………」


 私とティガは互いにばつが悪そうに視線を逸らし、でもティガは私を離すことはせずに、私もそれに甘えるようにティガの体に身を任せる。


 「よくやったじゃないか、ティガ。あれでこそ半獣人の族長だ」

 「その子がユワが選んだ子か。粗削りだが、私とルヴィンに合わせられるところを見ると、中々見込みのある子だな」

ルヴィンさんとゼスさんが他の魔物達の掃討を終えて、私達のところまで歩いてきて話しかけてくる。


 「俺は……、役に立てましたか?」

ティガが二人に視線を向けて、そう問う。

「あぁ。間違いなく役に立っていた。それは俺とゼスが保証する」

「ルヴィンと同意見だ。どうやら君も固有能力持ちみたいだしな。そのおかげでユワを守れたんじゃないか?」


 そっか、固有能力か。

 半獣人はレアすぎてわかっていないことが多いけど、たしかに獣人と人間のハーフなら、固有能力を持っていたり魔法が使えてもおかしくない。

 今までの生活でそういったところを見たことは無いけれど。


 「で、ユワ。平原の魔物の殲滅が完了した。あとは君の仕上げだけだ」

「わかりました。では、予定通り騎士団の宿営地跡からは撤退しましょう。全部無かったことにする為に」

ゼスさんの言葉に私は少し笑いながら返事をし、神パッドを使って最後の仕上げをイメージし始めた。




 コリジアータ平原の騎士団宿営地跡を見渡せる場所に私は立っていた。

 一応宿営地跡からは、無傷な分だけの騎士達の荷物はしっかりと回収しておいたから、あとで叱られるようなことも無いだろう。


 「じゃあゼスさん、一気にやっちゃいますよ?」

「あぁ。一思いにやってくれ」

私の問いに、最高責任者だったゼスさんがゴーサインを出す。


 神パッドに登録していた地形改変魔法を脳内の記憶領域に引っ張り出し、私はそれを発動させた。


 局所的に地面が揺れ、大地が津波のように宿営地跡を呑み込み、そのまま地割れを起こして巨大な谷がそこに出現する。

 まるで人間と獣人の国の間を行き来できなくするかのように大きな口を開けた大地は、数キロにわたって国境線を引いているようだった。


 「よしっ!これで王国側への嫌がらせ……じゃなかった、後始末完了!!…………いやぁ、流石にちょっと…………疲れ……た…………」


 プラナージュ様が言ってたっけ?

 一度に広範囲に魔法を使い過ぎると、流石に一時的に眩暈くらいは起こすかもしれないって。あれ、広範囲にっていうか、一度に多くの魔力を使い過ぎるとの間違いだよ。

 さっきのドラゴン退治用の魔法以上の魔力を持ってかれたみたいで、いや、ちがう。正確にはさっきのに上乗せし魔力が回復しきる前に更に魔力を大量に消費したからか。

 意識が微睡みに吸い込まれていく。




 「…………無茶をするなと、あれだけ言ったのに……。…………ユワは聞いてはくれないんだな…………」

上下に揺れる感覚で目を覚まし、それに気付いた彼が私に少し寂しそうに言う。

「…………まさかここまでとは思ってなくて…………。…………ごめん。見積もりが甘かったです…………」

「…………これからも、無茶をするなと言っても無茶をするんだろうな、お前は」

「……………………えっと、しないようにはがんばる……………………」


 彼の背中におぶられて、彼の頬に自分の頬を寄せて、私は彼を心配させないようにとか考えながらも、自信の無い返事をする。

 また怒られるかな……。


 「…………がんばってくれ。だが、いや、でも…………どうしても無茶をしないといけないときには俺を呼べ。………………ユワを支えることくらいは、今の俺でもできるだろ…………?」


 「…………ありがと、ティガ。……ごめんね?」

「いや、いい。気にするな」


 怒らない彼は諦めながらもどこか落ち着いて、無茶する私より大人びて見えたのが、少しだけ羨ましかった。

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