第22話 お世話になりますの前に必要なこと
「ユワの住んでいる場所で、半獣人達と暮らす、か。またなかなか、ユワは相変わらずだな」
「返す言葉もございません」
「半獣人のこともあるし全員が全員希望するとは思えないが、そうだな。ユワには借りがある。一応希望者を募るとしよう」
ゼスさんは軽くため息をつきながら私に言い、私はちょっとだけ思い当たるふしがある分謙虚に頭を下げる。
「で、ゼスはどうするんだ?」
ルヴィンは迫る様に身を乗り出し、ゼスさんに問いかける。
ゼスさんは顎に手を当てて考え込み、そして小さく頷いてから私の目を見て、そのまま視線をルヴィンさんに移した。
「ユワ達の為に働こうと思う。王国の意図が分からない以上、下手に人間側に戻るのも良いとは思えない。傭兵をするとしても、お前達のことを考えると獣人達と事を構えることもしたくない。獣人の国への亡命もアリだが、少なくとも助かるという者が居るのなら、ユワ達の生活を支えた方が良いだろ?」
ゼスさんの言葉にルヴィンさんは軽く笑って頷き、そして、少しだけ残念そうに受け止める。
「お前と共に戦場を駆けるのも楽しいと思ったのだがな、ゼス」
「悪いな。私達を切った王国に義理立てするつもりはないが、あまり人間同士で争うというのも、な。曲がりなりにも騎士だったんだ。ただ、部下達や私を助けてくれたお前やユワの為に戦わなければならないときには、共に戦場を駆けよう、ルヴィン」
「オウ。楽しみにしてるぞ」
二人は立ち上がって握手を交わし、そして照れくさそうに笑い合う。
何度も戦ったことがある二人だからこそ互いに認め合っていたんだろう。
拳で語り合う友情みたいななんかだと思う。よくわからないけど。
そんなことを考えていると、ゼスさんが私の方に歩み寄ってきて、そして片膝をついてしゃがみながら私の顔を見上げてくる。
「ユワ。このゼス・フォートナム。一人の騎士として、恩人である貴女の力となることを誓わせてもらう」
「えっと、そんな大層なものでもないけれど、フォートナム様からのご助力の申し出、心より感謝いたします」
私も立ち上がって、そしてゼスさんの申し出に頭を下げた。
「ゼスでいい、ユワ。もう私もユワも、王国の人間ではないのだからな。身分のことを考えたら二人とも同等だ」
「じゃあゼスさん。改めて、これからよろしくお願いします」
「あぁ。任された」
ゼスさんが立ち上がるのを見て、自分より高いところに行った碧眼に視線を伸ばす。
初めて会ったときみたいに疲れてはいるけれど、その眼にはどこか力強さというか、生命力を感じさせられた。
「とはいえ、あんな物騒な物をコリジアータ平原に残したままにするのもキツいですよねぇ…………。実際どうです?ルヴィンさん」
ゼスさんの誓いの後に割とすぐに思考が切り替わって、私とゼスさんの様子を見ていたルヴィンさんに話を振る。
「まぁ良くはないな。瘴気はいずれ広がるだろうし、そうなればここにも魔物が集まりやすくなってくる。負けるつもりもないが、ここを維持するには邪魔でしかないな。それに、設置した魔法使いはいくらでもあの装置を停止させることができると思う。そうなれば、あっちからは最悪、侵攻し放題だ」
多少面倒そうなニュアンスを含んだため息を吐きながら、ルヴィンさんは手をパタパタとさせて心情を吐露する。
「あれを破壊するには魔法障壁の無効化と、瘴気をどうにかしないといけないんですよね?私は実戦経験が少なくてわからないんですけど、そういうときってどうするものなんですか?ゼスさん」
「魔法障壁については魔法無効化能力の保持者か、それに準ずる魔法で打ち消すことができる。今の瘴気量では、生身の人間や獣人では次第に蝕まれて、あの中で行動するとしても一時間が限度だ。耐性が無い者ならもっと早い。一応神官とかは瘴気を浄化することができるが、あれは魔法というよりも儀式に近いし、そんなことができる人間はここにはいない。それに、一度祓ったところで瘴気を撒き続ける装置が破壊されない限りは堂々巡りになってしまう」
「なるほど…………」
魔法無効化魔法なら多分使える。なら、私があの場所に行って手伝えば、ゼスさんやルヴィンさん達はアレを破壊できるだろう。
瘴気の浄化についてはよくわからないけれど、魔力が関係している可能性があるのなら、魔力を含ませた風で散らして、空間全体の濃度を下げてしまえばいいんじゃないか。
じゃあ何も問題ない。
なんとかなる。
「ゼスさん、一応確認なんですけど、コリジアータ平原の部隊は全滅したことになってるなら、コリジアータ平原のあの場所がなんかしらの理由で侵攻できない場所になっても問題は無いですよね?」
私はニコニコとしながらゼスさんに訊き、その空気を察した彼はルヴィンさんの顔をチラッと見た。
「まぁ問題は無いだろう。王国第五騎士団を壊滅させた獣人の軍が居る場所だ。何が起きててもおかしくはないだろ。なぁ、ルヴィン」
あ、ゼスさん責任をルヴィンさんに押し付ける気だ!
でもまぁ、私が考えてることを実行しちゃうと、場合によってはルヴィンさんにも迷惑をかけちゃうかもしれない。
簡単に侵攻できなくなるし。
「ゼスの言う通りだ。戦場なんて何が起きるかわからないからな。この戦場の地形が簡単に変わってしまうことだってあるだろうなぁ」
よし。この返答で方針決定!!
ルヴィンさんがやけに理解力高くて良かった!
後は後顧の憂いを無くすだけだ。
「ゼスさん。騎士団や兵士の中に、なんというか諜報?的なことが得意だったり、隠密行動が得意だったりする人っていますか?」
「いるぞ。少なくとも十人はすぐに呼べる。裏切るような者達でもないから安心して任せられる」
「じゃあ私が王都に転移魔法で送るので、第五騎士団の情報がどう伝わっているか、確認できる範囲で家族達がどうなっているのかを調べてもらえますか?家族とかの無事が分かれば、みんなも次の行動に出やすいでしょうし。期限は三日くらいかな。滞在しすぎるとバレるリスクも高くなりますし」
「わかった。確かに、それを気にして判断ができない奴等もいるしな。転移魔法が使える者が居なかったから難しかったが、ユワが動いてくれるならどうにかなる」
ゼスさんは一人納得するように頷いて、一度部屋の外に出ると騎士団の人に指示を出していた。
「ルヴィンさん。魔瘴石の破壊に協力して下さい。これは人間側の問題で、人間が片付けるべきだとはわかっています。でも、魔物が多いなら、こちらの戦力も多いに越したことはありません」
二人きりになった部屋で、私はルヴィンさんに頭を下げてお願いする。
あの装置ごとどうこうする方法は確かにあるけれど、私が単純に考えたのは臭い物に蓋理論でしかない。
装置の下の地面を滅茶苦茶穿って、地中に埋める。
シンプルイズベスト!!!!!!
というような方法だった。
でもよくよく考えて、万が一土地を汚染したりしても後々問題になってしまう。
温泉の水脈を伝って獣人サイドの温泉を汚染しても嫌だし。
そうならない為に、魔瘴石をしっかりと破壊して無力化し、埋めるとか消すとかしないといけない。
「いいぜユワ。お前が望むのなら、獣人はその力を貸そう。ただし、条件がある」
牙を見せつけるようにニヤッとし、ルヴィンさんは言葉を続けた。
「またティガを連れて来い。アイツは面白いし、もっと話したいことがある」
「えー…………。えー…………?」
提案に対して私は露骨に不満を表に出したような声を上げてしまった。
「…………嫌そうだな、ユワ」
「いや、その嫌っていうか、えー……っていうか……」
「別にお前の番を取って喰おうってわけじゃないから安心しろ」
「べ、別にティガは番じゃないですから!まだ!!」
だってまだ恋人でもないし、彼氏彼女でもないし。
そ、そりゃあ、一緒なテントで寝たりはしてたし、一緒に居てほしいって言われはしたし!そういうところだけ考えたら恋人とも言えなくないんだけど―――。
――――――でも、私もティガも、どっちともちゃんと告白したわけじゃない――――――。
「す、すまないユワ。別にお前を混乱させたかったわけじゃないんだが……」
私の思考の逡巡は表情にも出ていたみたいで、ルヴィンさんが私に気を遣って優しいトーンで謝ってくる。
恥ずかしくも情けなく、でもとりあえずその言葉で現実には引き戻されはした。
そしてルヴィンさんは、慌てて表情を繕う私を軽く笑いながら見て言葉を繋げていった。
「この前の話の続きをしたいだけだ。ティガの為にもな」
この前の続き。
ティガが話すことを躊躇った話の続き。
私はなんとなく、ボルグ君とダインさんの関係のことを思い出し、そして確認してみる。
「その……、まさかですけど……。……ルヴィンさんとティガって、親戚だったりするんですか?クラウさんから聞きました。獣人には血族を見分ける特殊な感知能力があるって。半獣人でも同じように―――」
久しぶりの投稿となります。
更新期間が空いてしまい申し訳ございませんでした。
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