第13話 利用するとかされるとかよりも、自分で選んだ今だから
「では、これより領域創造を行います」
子ども達の希望を聴き終わったプラナージュ様は静かに立ち上がると、祈るように両手を合わせて握り締め、静かに魔法のような力を展開する。
これは魔法であって魔法じゃない。どちらかというと、それこそ神の御業だと思う。神力……とでも言えばいいのかな?
私は同じことができるとしても、それは魔法の力だから全然違う。
プラナージュ様の祈りに応えるように大地は整地されていき、林だった場所は森となり、生命の息吹が溢れて爽やかな風が吹く。
キャンプ地には池という立派な水源も、そこを起点とした小川も出現し、今みんなが居るこの場所を中心とした、森の一部を含めた外周を一周したら二キロくらいの丘が生まれた。
外縁部は崖となり、その周りの平地は高い木が茂る森となっていることもあって、外目からは木が生い茂る小高い山があるだけでここに集落があることがわかりにくくはなっている。
よくよく確認すると、崖と森の間には水深が深い水濠が形成され、外敵の侵入は空か、唯一の陸路であるつづら折りのようになっている坂道を上るしかない。
仕上げと言わんばかりに多重の結界が張られて、魔物除け、土地の永続的な浄化、物理・魔法攻撃防御の機能まで与えられている。
調べてみれば崖の方も外見が岩とか土に見えるようになっているけど、鋼鉄以上の硬度を誇る鉱物で構成されてるし。
人が住むだけにしてはオーバースペックにもほどがある。
多分プラナージュ様は純粋に子ども達の希望を叶えただけなんだろうけれど、これ、大群による攻城戦でも仕掛けられない限り陥落しないんじゃないかなぁとか思ったり。
確実な安心はあるかなぁ……。
「あのー、プラナージュ様?一応質問なんですが……」
「なんですか?優羽さん」
「えっと、流石に急にこんな土地が生まれたら、確実に怪しまれると思うんですけど……」
私はこの土地が完成した直後から感じていたことをストレートに訊いてみた。
「大丈夫ですよ。元々この周辺に人間も獣人も存在しません。知っている限り、ここを測量に来た者も居ないです。むしろ、この場所に辿り着けた半獣人の皆さんや優羽さんの方が奇跡と言いましょうか……。なので、今更ここに小さな山が一つできたところで、気付く者達はいないですよ?」
プラナージュ様はにこやかに私に教えてくれて、髪の毛をそっと撫でてくれる。
「優羽さん。貴女がこの世界に来なければ、この子達はずっと世界に疎まれ、世界に見捨てられ、誰にも認められることなく消えていく命だったかもしれません。しかし、貴女がこの子達と出会ったことで、新しい未来が生まれました。…………私は、世界の個の為には動けないのです。あくまで全体の管理の為だけにしか。半獣人の存在は知ってはいました。しかし、私の意思だけで彼らの力になることは無理でした」
プラナージュ様はティガと同じで、責任感が強いのだろう。本当に半獣人のことを心配していたのだろう。
「そんなとき、妹がうっかりミスをしてしまって困っていることを知り、この世界に招いたのです。貴女が彼らと出会うかどうかは正直賭けでした。でも、出会ってくれて良かった……。出会って、彼らに力を貸してくれて良かった…………。本当にそう思うのです」
「えっと、私が出会ったからって、私がティガたちに力を貸さないっていう可能性もあったんじゃ?」
「そのときは、貴女に対して私が動けばいいだけだったの。貴女は正確にはこの世界の個ではなかったので、私が貴女の為に動くことは問題ありませんでした。勿論、貴女の気持ちを蔑ろにしてまで動くつもりはありませんでした。それでも、貴女には申し訳ないことをしたと思っています。ごめんなさい」
とても申し訳なさそうに私に言ってくるプラナージュ様は、私から「私を利用しようとしてたんですか!?」と責められることを恐れているようにも見えた。
「プラナージュ様、気にしないで下さい。思惑や経過はどうあれ、私は私の意思で彼らの力になりたいと思いました。そして、好きな人もできました。……全部、プラナージュ様がうっかり女神のフォローをしてくれたおかげです」
「え?なんか私の扱い酷くない?優羽ちゃん」
良い事言っているはずなのに、うっかり女神のセリフで台無しになりそうだったから聞かなかったことにしてそのまま話を続けた。
「偶然でも私は彼らに会えました。彼らと一緒に行動することを望みました。私一人では何もできなかったのを、今、プラナージュ様は彼らごと助けてくれました。感謝はしても、恨むなんてこと、絶対にしません」プラナージュ様に視線を合わせて、少しでも安心してもらおうと微笑みかける。
「ありがとう、優羽さん。…………エドレシスが言っていたように、優しい方なのですね……」
ふわっと包み込むように抱きしめられ、甘く優しい香りに全身を包まれる。
「彼女が?」
「えぇ」
視界の端に映るエドレシスは、ちょっと照れているようにも見えた。あの女神が照れてる!?
「エドレシスは言っていました。この世界に来る直前、不安や不満より、自分の両親に対しての心配や感謝を最後に伝えて欲しいと言うくらいには、自分以外を思い遣る優しい人間だと」
その言葉に、エドレシスみたいに照れてしまう私が居る。
いや、中々に恥ずかしい。自分では自分本位で生きていると思っているくらいなのに。
「優羽ちゃん照れてるー」
「え、エドレシスだって!」
茶化してくる彼女に、私は照れ隠しのように強めの口調で言ってしまう。
子ども達は私達の様子をよくわからないけど微笑ましいくらいの目で見てくる。
恥ずかしいなぁ、ホント。
しばらくして気持ちも落ち着き、プラナージュ様が私を離す。
「優羽さん。私達はこれで帰りますが、たまには連絡を下さい。些細な世間話でも、近況報告でも、要請でも、なんでもいいです。私もですが、私以上にエドレシスがとても心配していたのですよ?優羽ちゃん大丈夫かな?優羽ちゃん困ってないかな?って」
「お、お姉様!優羽ちゃんの前でそんな……!」
穏やかに淑やかに話しかけてくるプラナージュ様を隠すようにエドレシスが間に立ち、必死な声でセリフを掻き消そうとする。が、しっかり聞こえている。
ちゃんと聴いちゃった。
「へぇー……。へぇー」
思わずニヤつきながら、すごく恥ずかしがっているエドレシスの顔を覗き見る。
「うぅ…………。だって、優羽ちゃんがこの世界に来たの私の所為だし、優羽ちゃんには幸せになって欲しかったし、……ちょっとは神様頼ってくれると思ってたのに、今の今まで連絡無かったし、お姉様もこの世界のことは教えてはくれなかったし…………。心配だったの!」
「もう、エドレシスは可愛いなぁ。ゴメンね?うっかり女神とか、ダメな女神とか、残念な女神とかくしゃみの神様とか思っちゃってー」
「優羽ちゃん酷くない?」
「別に?」
私の言葉に急に真顔で答えてくるあたり、彼女は割と冷静なのかもしれない。
サラッと流しはしたけど。
「ではエドレシス、帰りますよ?」
「はい、お姉様」
プラナージュ様の言葉に従い、エドレシスは彼女に寄り添う。
「じゃあ優羽ちゃん、またね!」
「うん。またね、エドレシス。プラナージュ様」
私の返事に気を良くしたようなエドレシスは、満面の笑顔を私に見せてくれた。
やっぱり、エドレシスも可愛いなぁ、普通に。
「ティガくん!優羽ちゃんをちゃんと幸せにしてあげてね!!」
「ちょっっっ!!!!」
私が慌てた瞬間に、二人は光の花弁となって地上から消えた。
最後の最後で爆弾発言していきやがったあの女神!!
絶対仕返しだ。さっきの私の発言に対する。くそ、やられた。
恐る恐るティガの方を見てみると、ティガは不思議そうな表情を浮かべて、少しだけ困惑しているようにも見えた。
言葉の意味をあんまり理解していないのか、私に気が無いのか、よくわからない反応に、私は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
少しくらい照れてくれてもいいのに。
でも、とりあえずはこれからのことが少しだけ決まったから、それだけは良しとしたい。
いや、良しとしよう。
そして私はゆっくり瞳を閉じて、神パッドでプラナージュ様に早速メッセージを送った。
『可能であれば、エドレシスに箪笥の角に足の小指をぶつける程度の仕返しをしておいて下さい』と。
プラナージュ様の世界を憂う女神力!
くしゃみの神様となんちゃって女神(優羽)の女神力はもうゼロよ!
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