第12話 こっちの世界の女神様はマジ女神だったけど、妹神は……
「今から特別ゲストが来るから、みんなもうちょっと後ろに下がれるかな?……うん、それくらいそれくらい」
私は連絡を入れてすぐにみんなを少し下がらせて、囲んでいた中央のスペースを広く取った。
場所はすぐにわかるし観測してから行くから大丈夫だけど、巻き込んでも嫌だからスペースを広めにとっておいて欲しいという返信があったからだ。
準備さえできればすぐに行くと言っていたから、もう来てもおかしくないんだけど……、と思っていた矢先―――。
「優、羽、ちゃーんっっっ!!」
桜吹雪のような柔らかな薄紅色の光の粒が吹き荒れた後から現れた人影は、やけに高いテンションで私の名前を叫んで抱き付いてきた。
「エドレシス!?あれ?なんで?私、プラナージュ様を呼んだはずなのに」
私はさっき、プラナージュ様に対して神パッドで連絡を取った。
なんか今後どうしようか悩んでいるので、アドバイザーで来てください。と。
エドレシスのふわふわした髪の毛を撫でながら、私はその背後に新たに現れた紅色の光の渦に目をやり、輪郭をはっきりとさせた女性を確認した。
「こら、エドレシス。貴女がどうしてもと言うから特別にこちらへ連れてきたのに、勝手な行動をしてはいけません」
「はーい、お姉様」
彼女の注意にエドレシスは素直に返事をして私から離れて、彼女の横に並んで立った。
「初めまして皆さん。私はこの世界の女神、プラナージュです」
エドレシスよりも濃い紅色をした髪の毛をふわっとさせながら微笑む彼女は、少なくともエドレシスよりも神々しくてちゃんと女神っぽかった。
「初めまして。私はプラナージュの妹神で、こことは違う世界の女神のエドレシスです。よろしくねー」
そういうとこだぞ、そういうとこ!
最初はちゃんとしてたのに気軽に「よろしくねー」とか言っちゃうから神格が下がるんだよ!と、心の中でツッコミを入れるが、たぶん彼女は理解していない。
とにかく私をこの世界に送り込んだこの女神は、威厳というものが本当に感じられない。
「きれいだー。おねえちゃんきれいだよー」
「スッゲェ!美人だ美人!」
「めがみさま?すごくきれいなの」
「オレ、惚れたッス!」
「ユワおねーちゃんとにてるー!」
子ども達は口々に美人姉妹神を褒め称えて頬を染める。
わかる。わかるけど今そこに意識持って行っちゃうと多分しばらく戻ってこれないことは明白だ。
とは思いつつも、私はティガがどういう反応を示しているかチラッと視線を移して確認する。
でもまぁ、ティガはティガだった。いつも通りの表情で二人の女神を見ていた。まぁ多分きれいだなぁくらいは考えているとは思うけど。
私は軽く咳ばらいをしてから話しの軌道を戻す為に発言する。
「さっそくですがプラナージュ様、これから私たちはどうしたらいいかっていうのを考えているんですが、どうすればいいと思いますか?ここに居たら人間に見つかる可能性が出てきたということ。でも、ここから離れるにしてもいい場所があるかもわからないということ。何かいい案はありませんか?」
とりあえずこの世界の担当じゃない女神のことは放っておいて、私はプラナージュ様の方に視線を向けて話を振る。
「そうですね……。私としては、貴方達半獣人はこの世界の希望であり、未来でもあるのですが……。……どうやら世界はそのように思っては下さらないみたいですね。この場所よりも適した場所となると、水源もあって、程々広い平地に、恵みがある森もあって、それでいて外敵が少ない場所……ですよね?」
こうやって他人に条件を言われると、割と無茶を言っていることが自分でもわかってしまう。
「無かったら作っちゃえばいいんじゃない?そういった環境。優羽ちゃんだったらできるし」
エドレシスの空気を読まない発言で、場が一気に静まり返った。
「私にならできるって、そんな大げさな」
「いえ、エドレシスの言う通り貴女の力なら可能です。…………妹がうっかりミスしたお詫びとして、それだけの力は与えましたから…………」
「そうそう。今の優羽ちゃんって、準女神級の力は持ってるわよ?」
実はそうじゃないかなぁとか思ったりしていた時期も無かったわけでも無い。でも、そんな人間に与えるにしてはおかしいレベルの能力を、私は極力考えないようにしていた。必要な時に必要なだけ。誰かを傷つける為には使わない。
理さえ壊さなければどんな魔法でも作り放題使い放題なんて、神様一歩手前の力だってことは言われた時にはもう理解できていた。
でも、現代日本で生きてきた凡人な私がそんなものを使いこなせると思う方がおかしい。
「凡人に変に力を持たせすぎないで下さい。この世界壊しちゃいたいんですか?」
「えー?お姉様困ってるし、いっそ一度壊しちゃうのも手じゃない?」
「エドレシス……、他人の世界だと思って好きなことばっかり言わないでちょうだい……」
姉妹間でもこんななのか、この女神は。
プラナージュ様、きっと今までも苦労してきたんだろうなぁ。
「……そんな力を使って、ユワは大丈夫なのか?」
会話に参加してこなかったティガが私と女神姉妹の間に入り、プラナージュ様に問いかける。
「一度に広範囲に魔法を使い過ぎると、流石に一時的に眩暈くらいは起こすかもしれないけれど、彼女の魔力は無制限ですから、基本的に影響はありません」
プラナージュ様は静かな口調で彼に答え、微笑みかける。
いやぁ、落ち着いた大人の女性というか淑女の微笑みはホント美し過ぎて、同性でも惚れるわ。
この落ち着きがエドレシスに少しでもあればいいのに。残念美人女神め。
「優羽ちゃん、なんか今酷いこと考えて無かった?」
「いや?そんなことないよ?」
エドレシスの敏感な第六感的な何かは私の思考を感じ取ったのか、彼女は私にボソッと小声で訊いてくる。が、私は表情も調子も変えずに即座に否定してみた。
「しかし、優羽に負担を掛けるのも本意ではありません。なので、今回は私が私の責任において、半獣人の子らの望むような場所をここに創りましょう。さぁ、皆さんの希望を教えて下さい」
プラナージュ様は意外と面倒見もイイらしく、半獣人の子達の言葉に真摯に耳を傾け内容を纏めていた。
まぁ面倒見いいよね、絶対。妹がミスったのをカバーしてくれるくらいなんだから。
「ねぇエドレシス」
「何?優羽ちゃん」
「プラナージュ様って、良い人だね」
「わかる」
ダメな女神と凡人の準女神は、子ども達に囲まれて要望を地面に枝で書いていく素敵女神を見ながら、手持無沙汰に雑談をすることしかできなかった。
「そういえば優羽ちゃん、公務員は?」
「上司に恵まれなかったから辞めた。というか、直属の上司は良かったけど、他部署の上司がクソだった」
「へぇ。そこらへんは世界が違ってもどこの世界も一緒なんだねぇ」
「ホントそうだよねぇ」
エドレシス、ダメな女神でもなんか落ち着くなぁ。この気を張らないぬるい感じがいいのかもしれないなぁ。
「で、恋愛はしたの?四御神ファミリーはニューファミリー誕生が確定したよ?」
あぁ、お父さんとお母さん、新しい子出来たんだ。良かった。というかあのアフターケアは本気だったんだ。
「んー……。好きな人は居る。でも、好きな人が好きでいてくれるかはわかんない」
私はチラッとティガの方を見て、軽く頬を染めてしまう。
「優羽ちゃんは不器用なワイルド系男子が好きなんだね。うんうん。いやぁ、確かに彼はカッコいいと思うよ?でも、生活大変そう」
彼女もティガの方をチラッと見て納得したように頷きながら、私の肩を軽く叩いてくる。
「そりゃあ難民みたいなもんだし、生活は楽じゃないよ?けど……」
「けど?」
「…………真面目で、不器用で、でも、誰かの為に自分を犠牲にしてしまうティガを、支えたいって思ったから。…………近くに居たいって」
嘘偽りない言葉は、やっぱり言っていて恥ずかしい。
そんな私を見て聴いてくれているエドレシスはそっと優しく抱きしめてくれた。
「良かったね、優羽ちゃん」
「うん。…………こっちの世界に来て、生まれて初めて、恋できたかも……。ちゃんと自分で好きって思えてるから…………嬉しい」
この世界に来て良かったことは、ティガに出会えたこと。好きっていう気持ちを持てたこと。
そりゃあいろいろ苦労はあるけれど、でも、この気持ちを消す程のことではない。
「私がくしゃみしたおかげだね」
優しい微笑みを浮かべて言ってくる彼女に、私はニコッと笑って言葉を返す。
「あのまま日本で生きていても恋愛する可能性はあったかもしれないけどね?」
エドレシスはニコニコと微笑みながら、視線を私からゆっくりと逸らしていく。
「……すみませんでした……」
笑みは気まずさを消しきれずに微妙な表情となり、彼女は私に小さな声で謝ったのだった。
久しぶりに女神降臨!
プラナージュ様は影響力があまり無いけれど真面目で努力家で淑やかで美人なお姉さん系女神様。エドレシスのポンコツさが際立つことに……。
ちなみに、女神姉妹がユワを優羽呼びしているのは、転生前の名前を知っているからという理由です。発音は同じなんだけど、ちょっとした差別化です。
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