第11話 自分の気持ちに正直になろうにもヘタレは自分でした
目が覚めると、横にはティガが眠っていた。
そこまで広いテントではないから、お互いが身を寄せ合って、私が右を向くように横になって、彼が左を向くように軽く背を丸めながら。
彼の寝息が私の髪の毛を柔らかくくすぐり、私の視界には彼の厚い胸板が呼吸をする度に動く様子がしっかりと映る。
なんでこんなことになっているのか。
理由は簡単だ。
あの男がティガのテントを吹っ飛ばしてしまったからだ。
もちろん、あんなことやそんなことは全く行っていない。正真正銘私はまだ処女だ。
いや、転生前の四御神優羽だった二十二年間だって、残念ながらそういった経験は一つも無い。
恥ずかしい話、恋愛というものもしたことが無い。はず。
昔母親が、『優羽は保育園の頃、大きくなったら西宮先生と結婚すると言って大変だったのよ?西宮先生は確かに優しかったけど、家庭持ちの美人な女性だったのに』とか言っていたけれど、あれはノーカウントでいいと思ってる。
小学生の頃は毎日アホみたいに遊んで、公園のブランコを根性で一回転させることはできるのかとか試したり、アスレチックを最速クリアすることに必死だった。
中学生の頃は合唱部にのめりこんで、びっくりするほど真面目に生活していた。
高校の頃は女子高に進学したこともあって出会いなんて一つも無かったし、中学から続けていた合唱部の活動にも集中していた。
大学になると、勉強とバイトでそれどころじゃ無かったり、後半は就活地獄。
一応、なんか告白してきてくれた男子も居たことは居たんだけど―――。
…………遊びとか部活とか勉強とかバイトとかでそれどころじゃないって言って断って、割と男子どうでもいいみたいな態度だったような気がする。
いや、そもそも付き合っても何すればいいかなんて一つもわからないし。好意を寄せられても、ちゃんとそれに応えられるかもわかんないし不安だし。
友達からは『優羽ってモテようと思ったらどれだけでもモテそうなのに、なんでこう……残念なのかなぁ……』と評されたこともある。
そういえば、エドレシスも私のこと可愛いとかすっごく可愛いとか言ってくれてたなぁ。
…………ティガは、私のことそんな風には言ってくれてないなぁ…………。
それはちょっとした私のワガママで、思い上がりだってわかってるんだけど、ちょっとは何か言ってくれてもいいのにとか思ったりもする。
「ティガはかっこいいのに……」
そう呟いて気付く。ティガが寝ているから私はこうやって言える。彼が起きているときにこんなことは多分言えない。恥ずかし過ぎて。
じゃあティガも?いや、そう考えるのは甘すぎる?
ティガは良くも悪くも表情に出にくい。仮に思っていたとしても表情には出ないだろうし、思っていなくても表情に出ない。
鉄壁じゃん!
ティガ、ちゃんと気持ちは言葉で伝えてよ!?
付き合っているわけでもなく、相手から好きだと言われたわけでもない。
なのに、私は勝手に両想いだと思いこんでる。
その結果の思考の暴走に気付くのに、少しだけ時間が必要だった。
でもどうなんだろう。
ティガ、抱きしめてくれた。
ギュッと。
「好きでもない相手のこと、抱きしめたりしないよね?普通……」
目の前で寝息を立てているティガに小さな声で問いかけ、その応えが「んん……っ」という短い唸り声だったことに少し笑いそうになる。
好きだ。
おかえりと言われて自覚した気持ちは、私を今までよりさらにダメにしているような気がする。
ちょろいと言ったらちょろいんだろう、私は。
ティガは私に何かをアプローチしてきていたわけではない。
それこそ、廊下とかですれ違う度に口説いてきた、どっかの王国の第三王子みたいなことは一切していない。あれはあれで別の意味で尊敬できちゃうけど。
何で好きなんだろう。
好きって何だろう。
私は初めはただ、助けてくれたティガに感謝していただけだった。
でも、ベルちゃんの一件で彼がいつも真面目て誠実で、一生懸命だったっていうことを知った。
一緒にたき火を囲みながら、同じ音を聞いて、同じ時間を過ごして。
私が眠るまで一緒に居てくれて。
だけど、彼が自分を犠牲にしながらみんなを守っていることを知って、私は彼の力のなりたいって思った。
魔法で少しは役に立てたと思ったら、彼に少し避けられている感じがして寂しかった。
彼が、私に本心を話してくれなかったことがもどかしかった。
ふいに視線を逸らされた時に、私の胸は締め付けられるように苦しかった。
そう思うと、あのとき私はもうティガを好きだったのかもしれない。
気になる人から、好きな人に変わった瞬間。
そんなときにあの男が来て、あの事件が起きて。
サヨナラをする覚悟を決めた時に、ティガが私を避けてた理由くらいは知りたくなった。
でも、もう彼に迷惑をかけられないと思った瞬間、ティガという名前を呼べなくなって、族長って呼んで……。
今更だけど、泣いてしまっていたことに気付いた。
そう考えていると、なんか私だけがティガに好意を寄せて、振り回されているような気がしてきた。
これはちょっとくらいお詫びしてもらってもいいよね?ティガに。
寝ている彼の顔を見て、静かな呼吸を繰り返す唇を見て、私は少し体を動かして顔を彼の顔に近づけていく。
ヤバい、マジで。
こんなことしたことも無いし、しようと思ったことも無い。
なのに、今私、とても緊張して心臓が苦しいくらいに強く脈打ってるのに、彼にキスしたいと思ってる。というか、実行しようとしている。
お父さんお母さんゴメン、私、自分で思っていたよりもふしだらで大胆だった。
多分ファーストキスを、今ここで卒業しちゃいます。
あと数センチ、あと数ミリ。
彼の唇が私の唇に近づいて、彼の吐息が口にもかかり、その熱を感じるだけで蕩けたように顔の力が抜けてしまう。
あぁ……。絶対起きてたら、ティガはキスなんてさせてくれないだろうなぁ。彼にそういった知識もなさそうだから、彼から求めてくるなんてことないだろうし。
それなら、寝ちゃっている今しかティガとキスはできないかな……。
もうちょっと、もう少し―――。
でもいざするとなったらホント恥ずかし。残り数ミリを動けない自分が情けない。
「おねーちゃん起きるのー」
「ユワ姉、ご飯の準備手伝って欲しいッス!」
と、私が最後の一歩を踏み出せずにいたのを見計らったかのように、テントの入り口を開けて声を掛けてきたベルちゃんとボルグ君。
私は咄嗟にティガと距離を取り、二人の方を向いて今起きたように演技した。
「お、おはよー、ふたりとも。いまいくねー」
こうして、私のファーストキス作戦は失敗という形で幕を閉じたのだった。
「ではただ今より第一回、これからどうしよう会議を始めます」
朝ご飯をみんなで食べ、ティガも少し遅れて起きてご飯を食べてから、今このキャンプ地に居る半獣人のみんなと集まっての会議が始まった。
「害意のある人間もこの場所に辿り着く可能性が出てきたことを踏まえて、これからどうしていくべきかというのを考えようと思います。意見のある人は言って下さい」
私が司会をし、ティガは私の向かい側に座って会議に参加する。
「ユワおねーちゃんにウサギさんリンゴきってもらってたべる」
「ぼくもぼくもー」
「あたしもたべたーい」
年少組の中でも年下の子達は自由すぎる提案を軽くしてくれる。
うん。かわいいんだけど、違う。
「どこか逃げたほうがいいのかなぁ」
「また移動するの?」
「どこいけばいいんだろう……」
ちょっと年齢が高い方の年少組はそれなりに真面目に考えているみたいだ。
逃げる。
その判断はどちらかというと私の考えにも似ていた。
「でも、ここは水源もあるし、林のおかげで食料にも困らない。いっそこの場所で守りを固めるというのも一つの手じゃないのか?」
「あ、オレも思ったッス。族長強いし、ユワ姉の結界もあるから守りを固めたらいいんじゃないッスか?」
「移動しても行く当てはないからねぇ。そこが安全という保証も無いしぃ」
年長者は年長者で手堅い意見を言ってくる。
でも、私も魔法の全てを理解しているわけじゃないから過信されても困るけど。
移動しても行った先が安全というわけでも無いことはよくわかるし、だからといって、ここが絶対に安全というわけでもない。
移動に関しては、移動中に魔物や獣人、人間と遭ってしまったときにみんなが無事に乗り切れるかという問題もある。
どうすればベストなのかがわかんない。
ティガも考えてくれているみたいだけど、彼の性格からすればみんなの意見を尊重しそうだし。
となれば……。
特別ゲストだな。うん。
何かあったら呼んでいいって言っていたし。
私は目を閉じて神パッドのメッセージ機能を起動し、さっそく『相談に乗って欲しい』と送った。
第11話からはこれから住む場所をどうするか問題の話になります。
とどまるか、新天地を目指すか―――。
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