伯爵令嬢のお悩み相談
週の半ばではあるものの、ダンジョン攻略の翌日はおやすみである。やったね!
ダンジョンで得たイヤリングを箱型の額にいれて部屋の壁に飾ってみた。
「いい、いいねぇー……」
ちょっと距離をおいて眺める。こうして見直すと昨日の冒険がよみがえってくるぜ。令嬢に生まれたから冒険者にはなれないだろうけど、世の中には貴族でありながらダンジョンの攻略をしてる人もいる。憧れるよなぁ。
しみじみと古びたイヤリングをみてたらダンドワさんが声をかけてきた。
「お嬢様、よろしいでしょうか」
「んー?」
「チャービル伯爵令嬢レクティータ様から本日こちらへ来ても良いかとお問い合わせが来ております」
「レ、レクティータさま?」
ヒロインちゃんがうちに来るって……そんなのゲームにあったんかな。そりゃ描かれてないところもあるだろうけど。
「理由はきいた……?」
「相談があるとか」
相談ってなんだ全然思い当たらない。このまえ友達になってとか言ってたけど、返事まだしてないし……。
「……いつでも良いって伝えて」
「かしこまりました」
ダンドワさんが礼をして出ていった。心なしかホッとしたように見えた。伯爵家とうちじゃ、断る選択肢なんてないしね。
んあーしかし理由がわからなくて緊張するな。
もうすぐお昼。
とりあえず今日は家から出ないで瞑想して、そんでレクティータさんを待とう。
最近やっと可愛いがなんなのかが解ってきた気がする。下着もどこで見せても恥ずかしくない可愛いの買ったし。
天気がいいので庭で瞑想してた。
今日の付き添い役のバルベロさんが日傘をさしかけてくれてる。バルベロさんはエロとは遠い人なので雑念が入らなくていい。
可愛い、ピンク、愛せるのを想像してその他の雑念を払う。
「いでよ、触手ちゃん」
ニュニュ!
「おお!?」
飛び出した触手ちゃんはいつも通りの黒。しかし先端の数センチだけパッションピンクになっている!
喜びのあまり隣に立つバルベロさんを見上げる。
「これはかなり良いよね、ねっ!」
「たしかに以前よりも呪ぃ……ではなくお色が可愛らしくなってますね」
「だよね!!」
「ですが卑猥です」
「ファ!?」
「卑猥です」
言われて改めて触手ちゃんをみる………うん、たしかになんか、
「ちん」
「お嬢様」
「はいっ!」
あぶねー!バルベロさんの瞬発力のおかげで致命的なことを口にせずに済んだ。
「ピンクが半分以上を占めるように頑張りましょう」
「あい」
にゅんにゅん動いてた触手ちゃんをそっと消して、再び可愛いについてしっかりと瞑想をはじめた。
「カエノメルお嬢様、チャービル伯爵令嬢がおいでになられます」
何回か触手ちゃんを出してはダメ出しを喰らってを繰り返してたらダンドワさんが呼びに来てくれた。
玄関まで出迎えにでて到着をまつとまもなくレクティータさんの家の馬車がやってきた。
「カエノメルさん、突然きちゃってごめんなさい」
ほんとうに申し訳なさそうなレクティータさんを我が家のサロンへお通しする。レクティータさんのおつきのメイドさんたちも一緒に部屋に付き添って入るが、レクティータさんへの態度が事務的っていうか、なんか……
(冷めてる感じ? 刃丞のところのメイドさんとは違うんだなー)
それぞれの家の方針だろうから態度が違うのは当たり前だけど。おれまで緊張しちゃう。
ダンドワさんが用意してくれた紅茶がだされると、レクティータさんは紅茶カップを両手で持ちふぅーっと冷ますように息をはいた。レクティータさんのメイドさんは表情をかえていない。
「……美味しい紅茶ですね」
「ありがとうございます」
「………」
「………」
にこりと微笑んでくれる笑顔は可愛い。でもおれはいま訪問理由が気になってるんだよ、早めに教えておくれ……!
沈黙にも気合で笑顔を保っていると、レクティータさんがカップを置いた。
「あの、相談があって……でも誰に相談すればいいかわからなくて、カエノメルさんしか思い浮かばなくて」
「相談でございますか?」
「はい。わっ、わたしにマナーを教えてくださいっ!」
ゴッ!
ガバッと頭を下げたレクティータさんがテーブルに額をぶつけた。結構な音がしたよ!?
「大丈夫ですか!? 冷やすものを!」
慌てて立ち上がってレクティータさんの体を支え、メイドさんたちに指示をだす。扉近くにいたラデュレさんが素早く出ていったので氷とか持ってきてくれるだろう。
「うぅ……す、すみません。大丈夫です、わたし治癒魔法できるから。治癒の力……」
赤くなってる額に手のひらを当てて魔法を使うと、ぼんやりと光ったあと痛めた赤みも引いたようだった。
すぐに氷をもってきてくれたラデュレさんがダンドワさんに止められてる。ありがとう、ラデュレさん。
「騒がしくしちゃってごめんなさい」
「いいえ、お気になさらないでくださいませ」
「……やっぱりカエノメルさんは優しいです。さきほどのマナーのこと、考えてみてはくれませんか?」
しゅんとしたように上目遣いで言ってくる。
(………これってチャンスなんじゃね?)
おれたちが今すすめている作戦と利害の一致する相談だ。
「レクティータ様、田舎者のわたくしでは至らぬところがございましょう。ですがとても良い方を知っていますのでご紹介させてくださいませんか?」
レクティータさんの目を見つめて真摯に言う。
作戦のためでもあるけど、おれはいま、レクティータさんに絶対マナーを身に着けて欲しくなってた。
ダンドワさんたちから発される殺気は、きっと伯爵家のメイドたちは感じていないよね。




