目処を立てる
レクティータさんを見送って、ゆっくりと使用人さんが扉を閉めにいく。一触即発の雰囲気がエントランスに漂ってる。みんななんか動きがぎこちない。
サロンでの会話の際、おれが自分を田舎者と称したときに伯爵家のメイドたちから嘲笑が聞こえたせいだ。いなかの男爵家なのは事実だけど、あの瞬間、我が家を愛してくれてるうちのメイドさんたちから殺気が吹きでてた。
バギ。
扉を閉めた使用人さんがドアノブをねじり切った。
「……申し訳ございません」
「い、いいのよ。直しておいてね」
にこりと微笑んでおく。謝るわりに使用人さんの眼が完全にすわってるし拳が怒りでぶるっぶる震えてんの。そんな人を怒れない。
「ふしゅぅうううう……」
背後からはでかいため息。
「お嬢様、少々席を外します。お部屋までおひとりでお願いいたします」
「あはい」
ダンドワさんを先頭にエントランスのみんなが中庭へ向う背中を見守り、おれはひとりで部屋にもどった。
ドゴ!バヂン!ゴッゴッ!!
窓の外から鈍い音がしてる。見たら怖いってわかってるけど、カーテンをうすく開けて中庭をみた。
「うわぁ……」
メイドさん使用人さんが入り乱れて殴り合ってた。片方が殴るのを受け止めて、を順に繰り返してる。ボクシングのスパーリングってあんな?あんなに殺気まみれ?
そっとカーテンを閉めた。
「お待たせして申し訳ございません、すぐにお風呂とお食事を準備いたしますわね」
しばらくして戻ってきたダンドワさんにめちゃくちゃスッキリした顔で言われたら是と答える以外なし。ストレス発散できたんだね!
レクティータさんについてきたメイドたちを思い出す。冷たい印象を受けたのはレクティータさんへの愛情もなにも感じなかったからだ。伯爵家に引き取られて一年以上たつのに、ほんとうにマナーもなにも教えてもらってないっぽい。
マナー教えてほしいってふつうは身内にいうのに言えない状況って相当やばい。
お風呂に入るのに服を脱がしてもらいながら、おれは決意をしていた。
二日後。
学校のカフェテリアでおれとウィステリア先輩は向かい合っていた。先輩をマナーの教え手としてレクティータさんに紹介するためだ。
「ようやったな!」
「偶然ですけどね。タイミングがよかったです」
「“気品” の件もあるし、俺もいろんな方面からアプローチしたんけど伯爵家は反応悪くてなァ。そうかぁ、メイドが……」
「あくまでおれの受けた印象ですけどね」
「いやいや、そういうのって大事やで。レクティータさんと話す機会も増えるやろうから、内情きいてみるわ」
「お願いします、先輩なら信頼できます!」
「いやや、照れるわ」
「お待たせしましたっ!ごめんなさい道に迷っちゃって!」
レクティータさんがひとりで走ってきた。かなり急いでくれたらしくて息も荒い状態。ウィステリア先輩は立ち上がり、膝を折って見本のようにキレイな挨拶をしてみせた。
「ふぅうううん」
公爵家サロン。刃丞がティーカップを音も立てずにソーサーに置いた。美少女のほっぺが膨らんでいる。
「なんだよ」
分かりやすい拗ね方でほんとうに美少女がやったらキュンとしそうだけど、なにせ刃丞だからな、なにも感じん。
「ヒロインちゃん良かったね、の気持ちと、ライバルなのにぃ!の気持ちのせめぎ合いを顔で表してますの」
「後者強めじゃね?」
「わたくしは正直なの! もぉー……まあ、翔義が親切なのは昔からだものね」
刃丞はへにょっと笑って、皿の上の小さいチーズを食べはじめる。このごろ本格的に筋トレしてるらしく、茶菓子がお菓子系ではなくタンパク質系になってる。公爵家のお菓子おいしいのになー、ちょっと残念。
「とりあえず恋愛面ではヒロインちゃんが気品あげるのを待つしかないわね」
「刃丞は王子とどうなってんの」
「ふふっ二年生になってお茶会に呼ばれる回数が増えたわ。最近はわたくしのふくらはぎに夢中なの」
スッと足を組む。……え、ムキムキじゃん。
「アスリートみたいになってるが!?」
「鍛えたら楽しくなっちゃった」
「かわいく言ってもごまかせないほどのカチカチさ……」
「いいのよ、王子もわたくしの足を見るたびうっとりしているし」
フェチこじらせてんなー。
「それにあと一ヶ月もないじゃない、第二回聖女選択」
来月の半ば。夏季試験が終わってすぐに聖女選択が行われる予定だ。
「“資料”に沿うなら、これ以降は結界のまわりの戦闘が激化していくんでしょう? わたくしも戦えたほうが良いと思ったの」
「ああー……言われてみればそう、か?」
「そうなの! 私の狙いは聖女の身分じゃなくて王子だからね。聖魔法もいまいちまだ使いこなせてないし」
自慢気にいわれるとおおそうかと思っちゃう。
「そうだな、それにまずは夏季試験がんばらんとな」
「おぐぅ……」
令嬢が揉みはじめたおっぱいはまだ柔らかそうで安心した。




