ヒロインの進歩
『王子の怒り』はレキサ王子ルートの中盤に起きるイベントで、猫を追いかけていたらローズマリーの昼食に遭遇しいつものように嫌がらせを受ける。それを王子に目撃され、ローズマリーの執拗な嫌味を叱りつけるものだ。
その嫌がらせを敢行する本人、刃丞が口をパクパクさせてすごい訴えてくる。中盤のイベントだから2年時に起きるのは納得だけど、新学期の今日とは思わなかった!
こそこそと刃丞のそばに寄って緊急作戦会議だ。
刃丞も扇子をバサリと広げて顔を寄せる。
「早くない!?」
「早いな。早いし、王子ルート進めてたってことだよな」
「……おわりね、あの子が王子と結ばれてわたくしは死ぬんだわ」
「あきらめんなって! ようは王子に怒られなきゃいいんだ」
あと死ENDはないはずだ、たぶん。
「離れよ!」
王子の怒声が聞こえて咄嗟におれたちはぎゅっと手を握りあった。状況はわからないけど、なんだかおれも死んだって思った。
「レクティータはなにもしていない。警戒を解け」
おそるおそる中庭をみるとレクティータさんが近衛兵に腕を離されているところだった。
怒られたのはあっちらしい。
「申し訳ございません王子様、ローズマリー様! この子が怪我してて治療をしてる最中に逃げてしまって……」
膝をついた状態で謝罪してるヒロインちゃん。傍から見ると痛々しいなぁ。
それはとりまきの子たちも感じたらしいけど、助けにいくわけにも行かないから刃丞の様子を伺ってるようだ。
刃丞と握り合ってた手を離して腕をさする。目が乾燥しそうなくらい開きっぱなしで呆然としてたのがハッとした意識を戻したようだ。
「……その猫は貴女の飼い猫でして?」
気を取り直した刃丞がテラスの端まですすみ出てレクティータさんに問うた。テラスがちょっと高いので公爵令嬢として凛としてるように見える。
「い、いいえっ! 学校に住みついている野良です!」
「では治療を施すのは至難の業でしょうね」
よく見たらレクティータさんに抱かれているのはグレーのあの猫ちゃんだ。え、怪我したの?大丈夫か?
刃丞はゆっくりとレクティータさんに近寄り、大人しくしてる猫ちゃんに聖魔法をかけたようだった。猫ちゃんがうとうとと目を閉じる。
「……これで治療ができるわね? すぐに目覚めるはずだから手早くね」
「はっはい! ありがとうございます!!」
レクティータさんが猫ちゃんの耳辺りに手をかざす。しばらくそうしていて、手を離すと刃丞をみてニッコリと笑顔を浮かべた。
……え? 治癒魔法つかったのか!?
「終わりました! ローズマリー様のおかげです!」
「そ、そう。よかったわ」
刃丞が引きつった笑顔を浮かべてささっと戻ってきた。
すぐにピネちゃんたちが駆け寄り、引っかかれなかったか汚れはつかなかったか慈悲深かったですわなどなど甲斐甲斐しくお世話をしてる。
「うむ。猫は目覚めたか、もう君も行くといい」
王子がレクティータさんを送り出したのが聞こえた。
王子イベント回避。これはできたと思っていいはずだ。だけどそれより気にかかることがある。
「きゃっローズマリー様」
「大丈夫でございますかっ」
「あ、温かい飲み物を早く〜!」
ソファに座ってる女子たちがにわかに騒がしくなったので視線を向けたら、刃丞がピネちゃんの胸に正面から顔面を突っ込んでた。ハチクちゃんが必死に背中をなでてあげてるし、プリュネちゃんはメイドたちに指示をだしてる。男だったらハーレム作れてたな、あいつ。
「ローズマリーはどうしたのだ?」
「あ、大丈夫です、女性にはよくあることですので」
腕はダランとしてるし刃丞からピネちゃんに触れてるのは顔だけだから、いやらしい意思はない新手の精神安定なんだろうってわかるけどなんか腹正しい。
「レキサ王子、お聞きしたいのですが」
「うむ、なんだ」
「ありがとうございます。レクティータさまは聖魔法だけではなく、治癒魔法も使えるのですか?」
刃丞は聖魔法を使うようになったら水魔法は出来なくなったはずだ。レクティータさんは違うのか?
「ああ。難儀していたから私と何度か検証した結果使えるようになったようだ」
えあ!? そんな仲良かったのか!?
使えるようになる方法も教えてほしいけど、ヒロインと過ごしてるのも教えてほしかったぜ!
「そ、そうでしたの。レクティータさまと仲がよろしかったのですね」
「同じクラスだからな。それに私は国民に寄り添いたいと考えているのだ」
「ご立派ですわ……」
「そ、そうか?」
民を想う良い王族ってわかったけど、それを恋愛に変えないようにしてくれよ……親友の情緒が心配だから。
その親友は気力が戻ったらしくピネちゃんを抱きしめようとしてたので触手ちゃんで強めに尻を突いておいた。




