王子ルート?
ぞろぞろ。
男に囲まれて歩くのって圧迫感がある。王子は王子だからこういうのに慣れてるのかな。
「こちらの方々は警護のかたですか?」
「そうだ。学棟もあたらしくなるから警備を確認する数日だけだがな。少々みた目が大仰なのだが、しないわけにもいかないのだ」
まあ仕方ないよね、王族だもの。
てことはこの人たちは近衛兵なんだろう、鎧を着てないあたり他の生徒に気を使ってるともいえる。速度を合わせて歩いてくれてるのが、慣れてるなーと思わせた。
囲まれるまま、王子の話に相槌をうちつつ歩いていたら刃丞たちのところにつけた。
「まぁ、メル。レキサ王子といっしょだったの」
中庭にある孤立したテラス。ガゼボよりちょっと広くて野外なのにリビングみたいに充実した造りだ。
すでに自分ちみたいに寛いでた刃丞がこちらへやってくる。
「ローズマリー、支度は順調か?」
「王子の遣わせてくださった使用人たちのおかげをもちまして素晴らしいランチになりましたわ」
「それはなによりだ」
むかい合う婚約者。ロケーションのいい場所だし本人たちがイケメンと美少女なので絵画みたいだ。
「ああんっやっぱりお二人が並ばれると美しいですわね」
「まさに理想の具現化ですわね、憧れますわ!」
「画家に依頼して残しておくべきですわよねぇ〜」
とりまきの三人もうっとりしてる。王子様とお姫様(仮)って女の子は好きだよな。
それにしても王子から使用人が派遣されたとは。これはいいことだ。好感度の高まりを感じるぞ!
(頑張ったな、刃丞!)
ふたりを邪魔しないようにそっとピネちゃんたちの方へ移動して、やんややんや言ってるのに混ざる。
「……では食べようか。今日は私が選んだオードブルもある。食べてみてくれ」
おおーっ王家のごはんだ! いつも公爵家のめちゃくちゃ美味しいごはんをご馳走になってるのに、王家から出されたやつなんてもっと凄いんじゃないか!?
給仕がテーブルに運んでくるのが待ちきれなくて、ワゴンから目が離せない。
満を持して供されたオードブルはエッグタルトやイクラの寿司?みたいなやつ、あとポテトときれいに巻かれたローストビーフが見た目も華やかに花や金箔で飾りつけられていた。
「ふぁああ……」
これはすごい。これが学生にランチでだすレベルでいいのか?大人がプロポーズとか人生の節目に食べるようなやつにみえるけど!?
感嘆の声をもらしてるとなにか視線を感じる。顔をあげたらピネちゃんたちのみならず、刃丞と王子が暖かい眼差しでおれをみていた。
「うむ。用意させた甲斐がある反応だ」
「メルはほんとうに美味しそうにするから、見ていてしあわせになるわ」
あーっあーっ!これは恥ずかしい! でも見たことないくらい美味しそうだからねっ仕方ないよね!
「お、それいります……」
「よい。それくらい喜んでもらえたら本望だ。食べよ」
王子が勧めてくれるので、照れ笑いしつつ気になってたイクラ寿司を食べる。フォークで食べるのがなかなか難しい。
「!!」
イクラ寿司だー!!
思わず刃丞の顔を見ると、わかってくれたようで刃丞もイクラ寿司を口に運ぶ。
「!!」
バッと顔を上げておれを見返してくる。わかる。そう!これって寿司よな!? イクラだし、お米だよな!?
予想もしてなかった懐かしい味に無言でもぐもぐしてると王子が誇らしげにうなずいていた。
「隣国からの輸入品だ。宝石のようだが魚の卵と植物の実らしい」
「とても美味しゅうございます。出来ているところも見てみたいですわ」
「ああ、私もだ」
「このお肉も柔らかいですわね」
「ソースがなんて美味しいの……」
「卵のタルトもほのかに洋酒の香りがしますわぁ」
高位貴族であるピネちゃんたちもこの王家のオードブルには恍惚の表情だ。わかる、飲み込むのもったいないよな……。
予想外の美食にうっとりと静かに食べていると森の奥で葉音がした気がした。
「何者だ」
「控えよ」
「も、申し訳ございませんっ」
そして続く揉め事の気配。
女の子の悲壮な謝罪の声がしてきたところで、おれたちも異変に気づき振り返る。
遠目に警戒していたらしい近衛兵三人に囲まれてるのは、
「レクティータ?」
レキサ王子のつぶやきのとおり、猫を抱いたヒロインちゃんだった。
「申し訳ございませんっすぐに! すぐに立ち去りますからっ!」
「まぁ」
「なにかしら……」
「白の聖女候補さんですわぁ」
とりまきの反応をみたらしくさらにアワアワしてるヒロインちゃん。ピネちゃんたちは純粋に困惑してるんだろうけど、令嬢数人がみてくるって迫力あるしね。
でも可哀相だけどおれと刃丞はそれどころじゃなかった。
ぎこちない動きで顔を見合わせる。お互いに顔色は最悪だ。
(イベントよね……?)
刃丞が声を出さず唇を動かすだけで伝えてきた。いつもはツヤツヤピンクなのだがちょっと白くなってる。
『王子の怒り』というローズマリーが王子に叱責されるイベント。王子ルートのそれが、いま目の前で始まったようだった。




