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一年のおわりに

新しい魔法の技。

これは冬休み前に三人でサロンに集まったときに言われたことだ。


「つぎの夏から魔物が強なってくる。それで攻略対象たちは新技を取得して戦うし、ヒロイン自身もバフ(強化)を覚えていくんや。それで好きなやつに強化して特別なセリフもらったり好感度あげたりするんやで」

「セリフはともかくとして、ヒロインだけなんですか? 刃丞は?」

「ゲームをプレイした限りでは何かやってた記憶がないなあ」

「ヒロイン補正、というやつですわね」


という会話を経て、おれたちは新技を開発してみることにした。

しかし思い出すとヒロインってつくづく“主人公”なんだと思った。強化魔法なんてかけてもらったらそりゃ好感度あがっちゃうよ。


「わたくしの聖魔法は相手を眠らせることができるでしょう? でもかなり近づかないと効果がないの。ということで距離を伸ばしたいのだけどこれが難しくて」

「遠距離の魔法はむずかしいよなぁ。翔義くんは?」

「触手ちゃんは伸びるのは得意らしくて日々長さを更新してます。色は……相変わらず黒ですね」


魔法の改良ってすごく難解でまだ理論がわかってない。とにかくイメージが影響してるっていうのだけは確実らしいので、こう!って思い込むしかいまのところ手立てがないんだよね。


「夏の結界修復では聖女候補だけが小島へいく。魔物はここ、湖畔に湧くから男たちもここで戦うからな、遠距離で影響を与えられる魔法が理想や」

「となると刃丞の聖魔法がここまで届いて眠らせるのがいいですよね」

「しかも誤爆せずに、やな」

「それがレクティータさんはできるってことなのよね……」


むむむ。小島と湖畔まで距離あるし、これはなかなか難しいなぁ。けどなにもアクションを起こさないと刃丞は不利なままだ。またさきに結界を修復されちゃうかもしれん。


はぁーとおれと刃丞が落ち込んでるとウィステリア先輩が切り替えるように手を叩いた。


「まだ時間はある。結界の修復っていうんはひとつの要素や。それまでにやれることも、行動次第ではいまのうちにヒロインに差をつけてやる可能性も十分ある」


ウィステリア先輩はいつもの令嬢然として柔和な微笑みをしまって、おれたちをみていた。


「それに刃丞くんは王子一点狙いやからな、そこは譲らんようにしよう」

「「 はいっ 」」


当面の目標が決まり、三人でイメージを考えたりちょっと実践したりして湖畔で過ごした。




翌日からおれはやる気だった。

湖の大きさがわかったので、とにかく小島まで触手ちゃんが伸びるようにしようと考えたんだ。


春めいてきた家の庭で、ダンドワさんたちと使用人さんに見守られながら触手ちゃんを伸ばす訓練をしている。


「んんんー……ヘイッ!」


3メートルになった触手ちゃんがニュルンニュルン、びよんびよんとバウンドする。


おれは大きく足をひらいてスタンバイしたらダンドワさんに怒られたので、できるだけ優雅に片足立ちをしてもう片方を天にかかげる両手と同じタイミングで後ろに跳ねさせることにした。ヨガとかバレエにありそうな、でもかなり攻撃的にしてるポーズだ。気分は立ったままのホッチキス……


「ッハ! ……んーヘイっ!……ソイ!!」


掛け声といっしょに触手ちゃんが上へ上へ伸びるイメージで両手と右脚を空へ伸ばす。触手ちゃんものびてるかな!?


「ダンドワ様、あれはセーフです……?」

「迷うところですが品位は失っていません。お嬢様はいま魔法への研鑽と年頃のレディの狭間でバランスをとっておいでなのですわ」

「な、なるほど!……お嬢様っお嬢様、がんばってくださいまし!」

「お嬢様ー!」


ラデュレさんとバルベロさんの応援が熱い。よくわらないけど、応援されるってうれしいよね!


気合をもらったおれはさらなる挑戦に挑んだ。


「はいっはいっはいっ」


体重をかけた左足を軸にしてターン。リズムをとるように跳ねて回るが効率が悪い気がする。

視界の端にいる触手ちゃんもゆるく頭をふるがおおむねビヨン、ビヨンと跳ねてるだけで渦のインパクトがない。


(こうなったら……)


ダンスとかでクルンって一回転してるのを、やる!!


浮いてた右足をうしろに、脇をひらいて。


(地面をける……っ)


「ウラァ!」


前世は運動音痴と自覚があったが、今世ではまあまあ動けんるじゃラァー!!!


クルクルクルー!!


「できた……っ!」


まさかの三回転……!すごい。スカートもふわふわってして可愛さを失わなかったんじゃないか!?


おれは爽快な気分ですぐにダンドワさんたちを振り返る。

目に飛び込んできたのは、長くのびたさきで渦を巻いた触手ちゃんによってめくられたスカートと白い……白い……パニエだった。


「ぐゅあー!」

「お嬢様、目測の叶わないときはせめて一言お告げください。それから掛け声にもっと恥じらいをもたせてください」

「ごめんなひゃい……」


ダンドワさんによってあっという間に庭の芝生に顔を抑え込まれてた。


それから新たにターンも加えての触手ちゃんを伸ばすべくみっちり訓練をつづけるうち、春休みは終わっていった。

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