友人と東の湖
「んはー! やり遂げたー!」
シフリール先輩の屋敷からでて近くのカフェに入ったところで背筋をぐぅーっと反らして深呼吸した。いっしょに来てくれてるダンドワさんがお嬢様、と注意してくるのにはぁいと座り直す。
商売とか経験ないから勉強しないと!
気合を入れているすぐに注文した紅茶とケーキが届けられた。
「おいしそー!」
「カエノメル」
ロベールが呼びかけてきた。
「香油に関しては僕はここまでだ、これから先はカルダモン家だけでやるべきことだと思う、きみと放課後に約束して集まるのはとても楽しかった、それが心残りだ」
一息に言って、紅茶をぐいっと煽った。
「……そっかー」
「………」
寂しいなぁ。半年以上いっしょに研究してたから、なんか同士っていうか仲間って気持ちになってた。
たしかにきっかけは香り石の調査のお願いだったもんな。
おれも一口だけ紅茶をのみ、ゆっくり椅子から立ち上がった。
「ロベール、いままでお世話になりました。香油の研究がすすんだのは貴方の協力があってこそだわ。感謝してもしきれないほどです。近いうちにお礼をさせてください。……本当にありがとうございました」
頭を下げる。
うぐぅ……なんか、なんか……
「ざみじい……!」
「カエノメル」
「わだくじだち友達よねっ? また放課後遊べるよな……!?」
ロベールはこの世界でできたはじめての男友達なんだ。これでまた疎遠になるなんて嫌だ。
立ったままエグゥーと泣くのを耐えてるとダンドワさんが肩を抱きしめてくれた。
椅子をひく音がして目を開けたらロベールも立ち上がっておれと向き合ってた。
「カエノメル」
ロベールがそっとおれの手をとる。
「きみがそう思ってくれるなら僕が断ることなどない、もちろんだ、これからも友達だ、また放課後に集まろう、こんどは研究だけでなく遊びもしよう」
「ロベールぅー!!」
いつもは無表情気味のロベールが照れくさそうに言ってきたのが、よくわからないおれの琴線にふれてもう感動と涙がが止められなくなった。
その日、カフェはほかのお客さんによる温かい拍手に包まれた。
「そういうことだったの」
公爵家所有のでっかい四頭立ての馬車でおれと刃丞は“東の湖”に向かっていた。
ウィステリア先輩とは現地で待ち合わせだ。
刃丞と伯爵家の先輩はりっぱで速い馬車をもってるけど、おれの家はそうはいかないので乗せてもらってる。となりに座れて、区切られた扉のむこうにはメイドさんがいるらしい。ちょっとした部屋だよ。
「噂になるようなことだったか? おれとロベールだぞ?」
「あのカフェは貴族の令嬢だけじゃなくご婦人がたにも人気なの。おばさまの拡散力ってすごいのよ」
「あー……」
「それにレキサ王子側室の話もあったでしょう、もう翔義の悪女説まででたのだからね。気をつけてよ」
言葉とは裏腹ににやにやしてる刃丞。
むかついたので体重をかけて壁際におしつける。
「せまい! 重い!」
側室の話はいまのところたち消えたと言っていいらしく、おれもだけど刃丞は相当安心したらしい。今朝、会ったときから機嫌がよかった。
「おれがネタなんてすぐに他の話題に変わるんじゃね? 男爵家同士じゃなあ」
「まあねぇ。どちらかといえば「カフェで若い子の青春みたの!かわいい!」って感じだったわ」
おう……ちょっと恥ずかしいな。
他愛ない話をしてると湖に着いた。
王国の東に位置する “東の湖” 。ここに来るのに午前中いっぱいかかった。
対岸がぎりぎり見えるくらいに大きくて澄んだ湖で、魚もいるらしいけど舟を出しての漁は禁止されてるんだって。中心に小島が浮かんでいてそこが聖域とされているからたぶんそこらへんの関係だろう。
ウィステリア先輩の馬車がすでにあり、湖畔のあたりで使用人らしき人たちがテーブルの用意をしてるのがわかった。
馬車を降りてそちらに行くと、大自然のなかとは思えない豪華なティーセットができていて先輩が優雅に座ってた。
「ごきげんよう、ローズマリー様、カエノメルさん」
立ち上がった先輩が挨拶にやってくる。白っぽいワンピースに足元は黒のタイツ。肩にかけてるストールを両手で持ってるんだけど、それを口元に持っていってみたりして……っくそっ今日もあざといな!
「ごきげんよう先輩、お待たせしたわ」
「いいえ、とんでもございませんわ。まだすこしお寒いでしょう? 温かい紅茶を用意させたのでぜひ召し上がってください」
お誘いされるまま席に着く。
刃丞は出された紅茶に満足したのか椅子に深く座ってほうと息をついてる。
「あれが聖域……」
湖に浮かぶ小島のまわりは霧が立ち込めて、目を凝らすとキラキラと光るクリスタルのようなものがみえた。初めてきたけどまわりは常緑樹があるし、遠くには山もみえて景色がいい。
こういうところにデートに来たいよね。
「ローズマリーさま、」
「あ、そうね」
先輩が声をかけると刃丞が人払いを命じた。使用人さんたちが声が聞こえないくらいの距離をとってくれる。
それを確認した先輩は背筋をただした。
「さて刃丞くん、翔義くん。新しい魔法の技はつくれたかな?」
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