好感度上昇イベントか
「くっっっっさ!!!」
鼻にすごい刺激を感じて目を覚ますと、横でガラスの小瓶の蓋をしめてる刃丞がいた。
「よかった……」
刃丞ははぁーと長いため息をはいてるがなにがなんだか。ふかふかのソファのうえで起きたら鼻がいたいってどういうことなの。
ツンとした痛みを感じる鼻を抑えてると刃丞が胸元に小瓶をしまい答えてくれた。
「我が家の気付け薬よ。匂いがすごすぎて目が覚めるの」
「たしかに寝てられなかったな……」
「効いてよかった。これで目覚めなかったらお父様を呼ばなくてはならなかったもの」
あ~焦ったわーと声を出して立ち上がりテーブルのうえの紅茶を一気飲みするご令嬢。
「なにがあったんだ?」
「多分だけれど、わたくしの聖魔法の効果で眠ったみたい」
「刃丞の魔法は睡眠の効果があるってことか? やたらと目覚めスッキリしてるし」
「鼻はもう大丈夫なのね。頭もスッキリしてる?」
「おう。めちゃくちゃよく寝てたっぽい」
寝てたのは5分くらいだったらしいけど、なんか一晩しっかり寝たぐらい思考が鮮明だ。
「んー……あとなんていうか、すごく穏やかな気持ちだ。賢者タイムみたい」
「え、ちょっとやめてよ」
おれの股間に視線を向けてくる。
ちがう! そういうことじゃない! だいたい今はおれ女の子だし。
「まぁ、とりあえず害なさそうじゃね?」
「それなら本当によかったわー……けれど、効果がしっかりわかるまで人に向けないようするわ」
改めてテーブルにつき一息ついてからおれは家に帰る事にした。
それから数日、今日はついに冬季試験だ。
ちょっと早めに学校に来たので裏庭にむかう。
お父様がシフリール先輩に進上する魚の乾物ができたので、ついでに作ったうちで食べる分を少し貰ってきたのだ。そうなればやることはひとつ!
「猫ちゃーん、できたてのお魚ですよぉー」
「にゃー」
いつもの可愛いグレーの猫ちゃんがおれの手から魚をくわえそのまま食べ始めた。
「ふぐぅ……っ逃げなくなったぁー」
手の届くところでモチャモチャと魚を食べてる猫とか愛しすぎない!? なんて心清らかになる光景なのか……!
「泣くほどか?」
朝早いというのにベンチにいた不良が呆れた声をかけてきた。
「ふぅ。これだから不良さんっていうのは困りますわ」
「なんだよ」
「猫ちゃんは警戒心が強いんです。そんな子がこんな近くで食べてる!こんな光栄なことがありましてっ? それから女子が泣いてるんですからハンケチーフくらいお渡しください」
まったく。これだから不良は。
「おまえすげぇ図々しいのな……」
だらしなく座ったままの不良が人差し指をクルリと回すとやわらかな風が起き、おれの目元を撫でていった。
「! 急にイケメンな行動を……!?」
「なんなんだおまえは。水分なくなるんだからチーフと同じじゃねーか」
「ギャップ萌えスキルを持ってるとかイケメンっていやでちゅねー?」
「何言ってっかわかんねーよ……」
猫ちゃんにふたつめの魚を上げて立ち上がる。いつまでも見ていたいけど、あんまりゆっくりもできないからな。
「不良さん、今日は冬季試験ですわ。今日くらいは教室に行ったほうがよろしいのではなくて?」
「うるせーな、おまえに関係ないだろ。」
「左様ですわね。ではま」
「っおい!」
またねーって猫ちゃんに言うのを遮って不良が話しかけてきた。しゃべるタイミングがよくわかんない不良だな。
「なんでしょうか」
「……ェガだ」
「はい?」
「おまえの名前はっ!?」
声がでかい。不良って声帯の使い方どうなってんの不安定かよ。
「大きな声はおやめください。カエノメルです、お見知りおきを」
忘れてくれてもええんやで。
と思いつつちゃんと膝を折って挨拶をするおれ、令嬢ぶりもかなり板についてきたな。
「カエノメル」
「はい」
「…………」
なんだよ。
「……では、わたくしは行きますね」
「ヴェガだ。そのまま呼んでいい」
ザッと勢いよく立ち上がり、低い声でぼそぼそ言ってきた不良が早歩きで去っていくのを見送る。
「え?」
え、うそだろ。いまヴェガって聞こえたけど、まさかあのヴェガか? 不良が魔力で拭ってくれた目元を触る。
(……魔力操作は完璧だった)
ああああー! 絶対そうじゃん!
攻略対象のひとり、魔法省トップの息子でぐれてる男、エキナセア・コメス・ヴェガだ。
そりゃそうだよ、貴族の通う魔法学校で不良として過ごすなんて実家の力がすごいに決まってんじゃんね。ヴェガ見かけないなーって密かにもやもやしてた自分の間抜けぶりに頭痛がするぜ。
とにかく、これで一年生のときに会えるヒーローはコンプリートだな。
なんだかひとつの仕事が済んだ気持ちになりつつ、おれは教室へ行くのだった。
評価、ブクマありがとうございます(^ν^)




