友人宅の居心地は最高
もやは自分の家のようにくつろげる公爵家のサロン。
そこでおれは親友と対峙していた。
「翔義……あなた、裏切ったのね」
憎々しげに眉をひそめおれを睨みつける刃丞。
「くくくっすまんな、王子はおれのものらしい」
「キーッ許さなくてよ! 聖女ビィーム!」
片足で立ちツルのポーズをとる刃丞。その手から夜空のようにうつくしい黒銀色の魔力が放たれる。
勢いよくでた魔力は手を頂点として扇状に回転し霧となって撒き散らされる!
「くらえっ触手ちゃんトルネェエエエド!」
一方のおれは素早く正座し上体を地面にふせて指を地面に置く。触手ちゃんは少し先の絨毯からニュニュッと1メートルほどのが二本生え、その場でくるくると竜巻のように渦を巻いている!
キッとふたりで睨み合う。
「………んぶっ」
ぶひゃひゃひゃひゃ!
「なんだよそれ霧散してんじゃん!」
「触手ちゃんだってそれ意味あるの!?」
ひとんちのサロンで転げ回って笑っちゃう。
刃丞の魔力はスプレーみたいに吹き出してフワァーと空気に溶けて攻撃力なんてまるでない。加湿器のがまだ仕事してる。
触手ちゃんは言わずもがな、生えたところから移動しない。ウィンウィンご機嫌にうごいてるのが可愛い。
「覚醒したときだけなのよね、魔力が固まって出たの」
「まじかよ。ビームてゆうかミストじゃん」
「ほんとそれ。誰かやりかた教えて欲しいわ」
ひとしきり笑ったらティーテーブルに戻る。
お茶もお菓子もすでに用意されてるからどこまでも怠惰になれちゃうよねー。
おれはレゴちゃんから聞いた情報を刃丞に教えた。
最初はおれと同じくやっぱりむずかしい顔をしていた。けどふたりでよく考えたら、レキサ王子がヒロインと恋愛してなければ害がないんじゃない?という結論に達したんだ。
それからはとりあえずの安心ができたことで紅茶で乾杯。
王子がおれを見てるってのはネタにしかならなかった。おそらく王子が見てるのはおれの尻だからな!
「ねえ翔義の触手ちゃん、なんか色がちがくない?」
「おっ!気づいた? なんと、たまにピンク掛かるようになったんだ」
基本は黒いんだけど、光の加減でたまーにピンクのところがあるんだ。
「そう! よかったわ! ずっと訓練してたものね」
「ありがと。まだまだ黒いんだけど、可愛くなるよう頑張ってるよ」
「ふふっ翔義はひとつのことに努力できるタイプよね。はぁ、わたくしの魔力もどうにかしなくてはね……」
刃丞がギモーブを一口食べて溜め息を吐いた。
モチモチしたなぞのお菓子ギモーブ。マシュマロみたいなもんだとは思うけど、おれは隣の皿のクッキーを食べてる。
「あの霧、当たるとどうなんの?」
「さぁ……教会の方がいうには聖女でも魔力はそれぞれらしいの。候補になってすぐ我が家のやる気ある兵士に当ててみたけど、なんともなかったのよね」
「ふぅん」
なんともないんか。魔力っていうからには“力”が働くはずなんだけど。
「なんともないなら、おれも当たってみたい」
「えー?」
「あのキラキラした霧がどんな感触なのか気になるじゃん」
魔力は赤は火、青は水みたいに色によってだいたいの方向性がわかる。そのなかでも聖属性は特別でごく少数の関係者以外は誰も見たことなかったんだ、この前までは。
ふたりの聖女候補が大柱をぶち上げたことでみんなが目撃し、金と銀が混ざるのではないかって話になってる。
刃丞はもともと水だったはず。調子が良ければ氷も作れたらしい。
「まぁいいけれど。出すわよ、はい」
「ちょ、おい雑すぎるだろー」
ギモーブを口に入れたまま、右手をこっちに向けて魔力を出してきた。さっきより量は少ないな。
シュワー……
「うーん?」
しばらく当たってもなんともないので顔を近づけてみる。
キラキラしてるのも感触ないし、なんなんだろ……ただ魔力の粒はかなり細かくて本当にミストみたいだ。
「どう?」
「肌に潤いが満ちている……」
「なにそれ」
「すげーきもちー……」
ひんやりしてるような、ミストに撫でられてるような不思議な感覚だ。水魔法じゃないから濡れてるってこともないんだけど。顔に当ててるだけなのになんだか全身を包まれてるような、抱き締められてるような…………
「え、ちょっと、翔義? 翔義!?」
刃丞の焦ったような声がしたのは聞こえたけど、おれは穏やかな気持ちのまま気を失った。




