同志だった
(なんか話したほうがいいんかなー)
王子のあごを眺めながら面白みのないだろうステップを踏んで踊りつづける。前世からのコミュ障のおれは女子のみならずイケメン男子にもそれを如何なく発揮していた。
でもさ、話すことないんだよね。婚約者ではないまでも第二夫人の座を!っていう野心もないし、たぶん両親もそんなん望んでないだろうし。
あとなにより適切な話題が思い浮かばない。初対面やぞ?
ふっと笑った気配がして目線を上げると王子が憂い顔だった。
「急な誘いに戸惑っているだろう」
「……はい。とても光栄なことでございます」
「じつはきみと直接話したかったのだ」
はへぇ、左様ですか。
なんか勝手に王子が真相を話してくれる雰囲気だ。
心持ち今までより身を寄せて声を潜めてくる。
「以前、きみをローズマリーの屋敷で見かけた。きみたちはとても楽しそうに魔法の練習をしていた」
触手ちゃんのときかな? まあ確かにすごい楽しかった、最終的にかっこよく縛るポージングの研究もしたし。
「あのとき、そう……まるで雷に打たれたような衝撃が私を襲ったのだ」
「か、雷ですか?」
えっ触手ちゃんが無意識に悪さしたとか!?
それで「あのやろー!不敬だ!」つって呼び出したとかじゃないよな!?
「きみの引き締まった体をみたとき、私の胸がたまらなく高鳴り息すら苦しくなった。最初は魔力の影響を受けてしまったのかと考えたが、私は王子であるから様々な魔道具を身に着けているのだ。それらは反応を見せなかったが私のっ私の胸は高鳴ったのだ……っしかもそれは黒い縄に締め付けられたヒップを視界に納めてるたびにひどくなった!ローズマリーも同じ状態であるのにだっ」
おや? おれに惚れちゃったのかなと思いきや風向きが怪しいぞ?
「女性らしさのない引き締まった硬い尻肉! 振動をあたえても重く揺れもしないだろうしっかりとした、しかし女性ならでの張り詰めたぷりっとしたヒップ!見ているだけでため息がででしまう芸術品のようなよく仕上げられたあれが普段はドレスに隠れていると思うともったいない!黒い縄によって際立たされたあの形はもはやこの国の服飾文化への問題提起にすら」
あかーん!! めちゃくちゃヒートアップしてきた!
王子がグイグイくるからのけぞって、ワルツなのにおれ今片足上げてんだけどダンスのジャンルちがくない!?
「おおお王子、落ち着いてください…っ!」
「落ち着いてなどいられるものか!きみはつまらない私の人生にはじめて狂おしいほどの」
「お尻フェチなのですわね?」
「……なに?」
ふわりとターンしてホールド。
だが話を聞いてておれにはわかった、この人、おれと同志だ。
そしてはじめての目覚めに戸惑っているのだ。
「わたくしもです。わたくしめも理想のお尻に出会ったとき、胸が苦しくなるほどの喜びを感じますわ」
「っ!そう! そうなのだ、これは喜びなのだ!」
「わかります、わかりますわレキサ王子。わたくしはどのようなお尻であっても愛しいですが、王子はおそらくちいさいお尻がお好みなのですわね」
はぁああ! と天啓を受けたように目を見開く王子。
そうだねー貴族の娘ってわりと贅沢してるからぽっちゃりというか細い子って少ないんだ。コルセットで腰だけは細いけど。
刃丞は細身だけどおっぱいと尻がドーン!としてるから王子の好みじゃなかったんだな。そもそもが体のラインを出すような服ってないしね。
「私は尻フェチ、なのか……」
「はい。女性のお尻は素晴らしいと気づける才能ありし方ですわ」
打って変わって静かにステップを踏むおれたちは、どこかで通じ合った。
目線をしっかり合わせて、いちど深く頷きあった。
「メル、大丈夫でしたの?」
二曲目がおわると刃丞が心配してホワイエに連れ出してくれた。
異常においしいビスケットを食べて一息つく。
「おう、レキサ王子の性癖の話だった」
簡潔にまとめて刃丞に事情を話した。
なによそれと眉根を寄せる刃丞をあらためてじっくり見る。太ってるわけじゃないが、おっぱいでかいし尻もでかい。
「……あー、好感度もこれが原因か?」
「通常なら極上といわれてもいいはずよ!」
おれは清々しい気持ちでその後の舞踏会を楽しんだ。
踊るリストにあった相手のうちスタンリーを含めて3人とは踊って話すことができた。婚約とかはまだまだだろうけどツテはできたな!
翌日、王都の屋敷にお母様が到着した。
王子と踊ったことを既にきいたらしく、不安げであり心配そうな複雑な顔でおれを抱きしめてきた。
さらにレキサ王子からお菓子と手紙が届いたので、お母様が倒れそうになっていた。お礼一割とおれの尻への情熱と萌えが九割の内容だったが。




