勇者絶対条件 二章 大切なモノのための盾 十五話「人攫い」
こんにちは、含水茶吹です。
今回は一話にするとかなり長くなりますので、分割して書いていきます。
なので、次回の話には、前書きのみという形になります。
この話についてのことは二話後、十七話にて、三話纏めてお話いたしますのでご了承ください。
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小鳥遊華蓮や、人々を守るための力をつける為、三滝兼政は反田一から訓練を受け始めた。
しかし、三滝はつけたいはずの力の強さがまだ見えてはいなかった。
そして、これから語るのは、三滝が登場しない、小鳥遊華蓮のお話。
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小鳥遊華蓮は年齢こそ分からないモノの、普通の人間の子供と何も変わらない。
時たま、大人びたことを言うものの言葉遣いもまたそれとは変わらない。
見た目も心も、同じように。
変わらない。
彼女は、三滝が学校、または『再生者による犯罪対策課』の本部に行っている間、クナイと共に近所の公園で遊んでいる。
生前、彼女は子供らしい遊びをしたことが無かったらしく、今、こういう形でその埋め合わせと言っては難だが、遊ぶことを楽しんでいるらしい。
クナイはそのことを端的に知っている。
だから、彼女の遊びにはクナイも加わる形で付き合っている。
そして、華蓮がブランコで遊び始めた午前十二時ちょうどに、クナイはベンチに座った。
それと同時に、クナイは小鳥遊華蓮から目を一度、話、本部に連絡を取り始めた。
別にその連絡はいつもの定期報告であり、大したものではない。
昨日の夜、三滝に何を言ったのか、それも含めてちょっと、聞きたいことも山積みだったというのもあり、ちょうどよかった。
だが、その時間、クナイは再生者の固有能力『同族検知能力』の反応に対して、気に留めることすらしなかった。
2
クナイが小鳥遊から意識を外している時、小鳥遊は砂場にある一人の同い年くらいの女の子が座って、砂場をじっと見つめていることに気付く。
小鳥遊はその女の子の元へ駆け寄った。
すると、何か、いやなモノでも、見知ったものでもあるような感覚に襲われる。
だが、小鳥遊はソレには気を留めず、女の子に話し掛ける。
「何見てるの?」
その女の子はその声に反応し小鳥遊を見て、
「あり」
と、答えた。
小鳥遊も、じっと目を凝らして、彼女の視線の先を追うと、確かにそこに蟻がいた。
その女の子は、ふと、小鳥遊の方を見つめながら言った。
「あり、好き?」
小鳥遊は、そういうのは得意ではなく、アリはけっこう苦手な部類に入っていたが、
「嫌いじゃないよ」
と、嘘を吐いた。
だが、その女の子はじっと、小鳥遊の目を見て言った。
「ごめんね」
そう言って、子供のからだに対してはそれなりの大きさの石を指さした。
その石は、おそらく装飾の類でつけられている物なのだろうが、小鳥遊はそんなことは気にもならず、指差した通りにその石を見た。
そして、再び、その女の子は
「ごめんね、許してね…」
と、呟くと、小鳥遊の後頭部に、異常な衝撃を受け、意識が一瞬のうちに途絶えた。
3
クナイは反田との会話で小鳥遊の話しが浮かび、自然と、さっきまで小鳥遊の居た場所を見た。
すると、そこには彼女の姿はなく、同族感知能力で探そうにも、全く感知が出来ない。
そもそもの気配自体が自分の近くにはなかった。
クナイは、その状況から、反田に伝える為、それと、自分に言い聞かせる為、その二つの意味で呟く。
「小鳥遊 華蓮、消失しました」
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私こと、クナイは華蓮ちゃんを見失い、完全にパニックに陥った。
気配はなく、そこら辺を歩いて探しても、見当たらない。
私が彼女から目を離したの三分ほどの時間。
いくら遊ぶのに飽きたとしても、今までの行動上、私の見えない所までは行かないはずだ。
ならば誘拐という線が上がってくるが
普通ではこの短時間での犯行は困難だ。
普通では、だ。
では、普通ではないとすれば?
三分で子供を気絶させて、一キロをいくら子供の体重だとは言え、完全に脱力している体を抱え、この車が通れそうにもない道に囲まれているこの公園から連れ出せる存在と言えば?
簡単だった。
自分自身のその気に成ればそのくらい可能だった。
そう、誘拐が正しいとすれば、再生者が犯人の特徴としてあげることができる。
だが、彼女には、いつも人間の子供に言い聞かせるようなことを何時ものように言っている。
少なからず、叫び声位は上げるだろうし、睡眠薬などは再生者には何故か、わからないが効き目が薄い。
それに多少抵抗の跡が見られるだろうし、暴れようものならば今日はいてきたサンダル程度は落ちているはずだ。
しかし、それがない。
ただ、砂場には人が倒れたような不自然な跡だけが残っていた。
5
「…ざるだった」
小さな少女は小脇に抱えた同じような背丈の少女を抱え、もう片手にはサンダルを落とさないよう小さな手でしっかりとつかんで真昼間の住宅地の屋根を飛ぶようにして走っていた。
彼女の名前は浮雲唯、再生者だ。
再生者として、この世に再び現れてからはある男に拾われ、彼の欲望に従うようにして生活している。
彼が彼女に求める者は大抵、家事関連か性欲処理だった。
だが、浮雲はそれらを彼女が物理的にできる範囲であればすべて叶えた。
なぜなら、そうなる前、生前の時代の彼女はただいうことを訊かない、それだけで公衆便所に捨てられた少女だったからだ。
その最後は悲しくも、カラスの餌だった。
その恐怖も、解放感も、絶望も、すべてを覚えているが故に、彼女は捨てられたくないという彼女自身の欲望で、彼の欲望を叶えていた。
欲望を欲望で求め、どちらも叶い合う。
最悪で、最高で、下劣な関係だった。
そんな関係でも、浮雲はその男を自身の身を寄せるべき者だとして従っていた。
また逆も、然りだった。
男は、彼女が実を寄せていることを理解し、いままで、ため込んでいたストレスを発散しているようにも見えた。
彼女に取って、それは必要とされているという証であり、彼女の存在意義のようなモノになっていた。
だから、浮雲は彼の言う通り、浮雲と似たような小さな女の子を攫った。
だが、浮雲はこんなことをしてから思った。
『自分はいけないことをしている』のだと。
そして、罪悪感に襲われ、苛まれ、押しつぶされそうになった。
そして、罪悪感から絞り出されたかのように、こんなことを、攫った少女に言った。
「辛い思いさせるの、許して」
と。
6
反田はどうにも忙しく、クナイからの電話のことを犬鳴に頼むことにした。
反田は犬鳴が消え、空っぽになったオフィスに一人、頭を抱えた。
『寄せ集め』から始まったこの課をどうすればいいかを。
反田は一人考える。
先のことを、今のことを。
小鳥遊華蓮が攫われたことと、そんなことが起こってしまった未熟すぎる体制のことを考えていた。
「…クソ…、まだやっぱり、あの時と同じか…」
反田は呟くように言い、携帯を手に取った。
理由など簡単だ。
三滝兼政にこのことを報告しなければならない義務があるからだ。
7
電話が終り、反田は息を吐く。
別に休める訳でもなく、むしろ忙しくなるというのに、心に焦りは全くと言っていいほどなかった。
三滝は電話越しで、かなり焦っていた。
ちょっと待っていれば、勝手に学校を抜け出して、ここまで来るだろう。
彼等の本部は、どこにでもあるビルの一角に根を張っている。
ビルの名前だけ伝えれば普通のタクシーだったら、すぐ行きつくだろう。
それに、三滝は必ず、手ばやにアシとして使えるタクシーを選ぶだろう。
反田は、再び息をついて、自分のデスクの周りを何週も何週も回った。
それは自席でもあるし、もっとクナイには護衛任務のやり方を教えて置けばという後悔もあった。
そして、反田は思い出す。
この『再生者による犯罪対策課』が設立されたときのことを。




