勇者絶対条件 二章 大切なモノのための盾 十六話「後悔 前編」
こんにちは、含水茶吹です。
いきなりの過去回です。
ですが、これも二章にかかわる話ではあるので読んでくれると嬉しいです。
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僕こと、反田一が警察にいたころの、大体二年前くらいの話だ。
その当時、僕はそこまで偉くもなく、人に扱われる、そんな立場にいた。
僕はその時は知らなかったが、もうその頃には一部の人間は再生者の存在を知っていたらしい。
では、『再生者による犯罪対策課』というものがなく、それが出来るまでのことを今からするとしよう。
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冬が深くなったある日のことである。
「犬鳴さんがお亡くなりになって、もう五年ですか」
僕は上司の冴沼亮にそん言葉をかけた。
「あぁ、時間が経つのは早いなぁ」
そういって、冴沼は笑う。
「あのときの犯人って、確か…」
「無期懲役だ。まぁ、あんだけ激しくドンパチやりゃ、そうはなるよな」
僕のことを遮るように、冴沼が言った。
今から思い返せば、あれは確かに激しいものだった。
僕はもともと機動隊にいて、犬鳴さんが亡くなった事件から、警官という役に降りた。
冴沼もその一人で、あの事件は深い記憶と心の傷痕を残した。
そんな事件をやっと、過去のこととして乗り越えた今、僕にはある事件が任されていた。
「そういえば、お前、新しい事件任されてるんだってな」
「もう聞いてたんですか」
冴沼はもうそのことを知っていたらしく、
「何でも、お前の受け持った事件は山の中に人影を見かけるだの、その人影が廃墟からモノを盗み出してるんだの、幽霊みたいなタレコミが多いって聞くけど」
と、心配そうに訊いてきた。
「はは、本当に大変なもの任されちゃいましたよ」
そう言って、僕は渇いた笑いを返した。
そう、僕が請け負った事件は通称『幽霊事件』と呼ばれている変な事件だった。
事の発端は、ある若い夫婦が持ってきた映像からだった。
それは監視カメラの少し荒いものだった。
写されているのは台所で、映っているところだけ見れば、ほぼ壁で、そこの空間からは出入りができないように見えた。
だが、ある時間に奈て驚くべきことが起こった。
中心になって移されていた真紅当たりの壁からぬぅっと帆とがまるですり抜けて来たかのように出てきたのだ。
その人影は冷蔵庫から食料と思わしき物を持ち去り、また真紅当たりの壁を今度は実態であるはずの食料と思わしきものまで透化し、すり抜けて消えた。
窃盗と住居侵入で検挙は出来る。
だが、これを人の手によって起こされた事件なのか、と問われれば頷くことが出来ない、それが正直な感想だった。
一度僕は、彼等には帰ってもらい、上に捜査を掛け合ってみたのだが――、
『どうせ、合成とかだろ。冷やかしに付き合っている暇はない。それに、君も合成か、くらいは判断はつくだろう、子供じゃあるまいし』
そんな、長文どうも、とボールペンを顔面に投げつけたくなるようないらだたせるような言い方で返された。
だが、僕はあの夫婦の憔悴しきった顔をわすれることができなかった。
そして、僕はそんな言い方に歯を食いしばり、誰か一人捕まえて、二人で捜査しろと、上を折らせることに成功した。
だが、その誰か一人、というのが、最近の新入り、梔子裕子という人物で、とにかく、彼女は異常と言える正義感を持っていた。
いうなれば、地で行く委員長タイプのウザいやつがそのまま大人になったようなそんな人格を彼女は持っていた。
まぁ、快く引き受けるであろうとは思っていたが、やり方が異常だった。
聞き込みというだけなのに、恐喝まがいのことを言い出し、見回りだけでいいというのに、突入をやらかそうとする。
まぁ、僕の管轄の行き届きが不完全だと言われれば、それまでなのかもしれないが、それでも、よく警官に成れたというのが第一の彼女に対して抱いた感想だった。
「まぁ、天才って名高いお前なら、大丈夫だろ」
冴沼は悩みを抱えた僕にそういって、おもむろに自販機に向かい、缶コーヒーを一本買うと、おれにそれを投げた。
「おっと…」
それを、片手でキャッチし、彼のかを見ると、
「おごりだ、この恩を返したきゃ、事件を解決させるこったな」
そういって笑っていた。
「ははは、わかりましたよ。善処します」
と、僕も笑い返すと、
「そういう時は『善処します』じゃ無くて、『頑張ります』の方がいいぜ。じゃ、俺は仕事は戻るわ」
冴沼はオフィスの方へと、消えていった。
僕は奢ってもらった缶コーヒーを開け、グイッと、一気に飲み干した。
冬なのに、適当に選ばれたのか、それともいたずらなのか、冷たいコーヒーの苦みのある液体が体に流し込まれる。
そして、腹の底から冷たくなるのを感じ、スッキリとした気分になった。
「うじうじと、新人について悩んでられないな」
そうつぶやいて、空き缶をゴミ箱に投げ入れた。
ゴミ箱の中でカランという金属音と同時に、僕は上着を取りに、冴沼を追うようにオフィスへ向かった。
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「反田さん、待ってましたよ」
外に出ると、おそらく自家用車であろう一般車が警視庁の前に留まっており、開けられたサイドガラスから梔子が顔を出し、そう言った。
「失礼失礼」
僕は助手席側に回り乗る。
雪こそは降っていなかったが道は雪で包まれていた。
「梔子、スリップには気を付けてくださいよ」
「はい」
そんな会話にならない言葉を交わし、車は走りだした。
低いエンジンの音を鳴らし、雪道を規定範囲内の速度で走る光景はとても腐って見えた。
何が正義なのか、何が守るという事なのか、その境が無くなったこの世界はただ、便利に使いやすく、そしてシンプルになっている。
銃や、手錠、警棒や、シールド、そんな物がなくても、いくらでも人を傷付けることが出来る世界は腐って見えた。
「…梔子、あなたは正義ってどういうことだと思います?」
僕は、後輩にそんなことを訊いた。
すると、梔子はさも当たり前のように答える。
「悪を成敗する力です。犯罪ではなくても、人々に害をなすのは悪です。それを摘むのが我々の正義というものでしょう」
「…そうですか」
僕は、そんな彼女の答えに短く返し、黙り込んだ。
正義とは、悪を裁くことに意味があるのだろうか、と考えた。
-12
現場付近に到着し、僕は再び、梔子を連れて、聞き込みに出た。
そして、一時間が経過しようとしていた時、
「きゃあああああああああああっ!!」
と、女性の叫び声が聞こえた。
そして、その直後、ガシャガシャン!、と、大きな物音が聞こえ、僕は梔子と顔を合わせ、すぐさまそこへ向かった。
だが、駆けつける間もなく、その原因を僕たちは、すぐ目にした。
その方向に走り出し、一分もたたない内にそれは僕らの眼の前に現れたのだから。
それは、男だった。
季節感を狂わせるような半そで短パン、高校生くらいの見た目の中肉中背の男が、その手を赤黒い液体に染め、のそのそと何かにおびえるように歩いていた。
梔子は、僕の命令すら聞かずに、銃を構え、
「止まりなさい」
そう言った。
「梔子、下げなさい」
僕はすぐさま、そう命令すれが、彼女は聞かなかった。
「あれは人ですか?それにアレ、手についてる液体、おそらく何かの血ですよ。叫び声から推測するに奴が関わっていることは間違いないでしょう。なので、発砲許可を下さい」
さらに梔子は銃を構え直し、男を鋭く睨みつけた。
「う、あぁあ…」
男は、その途端、梔子を見て、尻餅をつき、その場を後ずさった。
その光景は、ただ、一般人を警官が銃で脅しているようにしか見えなかった。
「梔子!!」
僕は彼女の名前を叫ぶ、だが、梔子はソレを無視して、言う。
「その手の液体は何ですか!?」
男は、ただ、その答えをいう訳でもなく、肥も出さずに、顎をがくがくと震わせ、頸を振るだけだった。
それに梔子は何かを思ったのか、銃を構えたまま、そのおとこの元に走り出し、逃げ出そうと立ち上がった男に圧し掛かり彼の身を強引に拘束し、手錠をかけた。
「殺さない代わりに、吐いてください」
そして、そう言って、髪をつかみ無理矢理立ち上がらせた。
「あぐっ!」
そんな痛みに寄って上がった短い悲鳴に梔子はギラギラとした敵意の視線を送り、悲鳴の方向へ歩き出した。
それに、僕は、ただただ怒りを覚えた。
「いい加減にしなさい!」
僕はそう叫び、彼女の元へ駆け寄り、男を絡めるように掴む手を振りほどき、自分の近くへと寄せた。
すると梔子は、涼しい顔で言う。
「何をするんです、こいつはおそらく悪です」
「恐らくで警察はそうしては行けないのは、子供でも知っているはずのことです」
「先ほど捕まえたときに、触り心地などでその液体がチッという事が大方で確定しました」
「それでも、理由を聞かずに暴力を振るてはいけない」
「悪には関係がない」
「…」
僕は彼女の言葉に呆れ、絶句し、携帯を取り出し、上司に連絡し、梔子が問題を起こしたと連絡を入れた。
そして、僕は連絡を切ると、
「今から、署に戻ってください。僕はタクシーで帰りますから、お気になさらず」
そう言い渡した。
梔子は、無言で僕を睨み、その場を去った。
僕は男の方に向き、
「さっきは済まなかった」
そういって、謝った。
すると、男は、
「…人を殺しました…」
と、告白した。
僕は、それに内心驚きつつ、
「場所を、教えてください」
そう、冷静に言った。
-11
現場に着き、僕は目を疑った。
銃でも、刃物でも普通吐くことはない、『大穴』が開いた女性の死体がそこにはあった。
場所は、男と出会ったところからほど近い二階建ての一軒屋でその死体はそこの一階の食卓と思わしき部屋で包丁を右手に握ったまま、倒れていた。
「…何で殺したんですか?」
僕は驚きを隠しつつ、凶器について、聞いた。
「…手、です」
「手?」
すると、予想を遥かに超えた答えが耳に入り、耳を疑って、男に訊き返した。
「は、はい…、手を刺しました…」
男は再び、同じように答えた。
僕にはその理解が全くできず、一度思考を放棄しかけたが、死体の『大穴』と、彼の血にまみれた手を見るに、大きさが合致しなくもなかった。
いや、むしろそうで無ければ、どう説明すればいいかわからなかった。
僕は、再び、本部に連絡を入れた。
『あいよ、いま上司のハゲがいないから電話番だけやってる冴沼です』
「冴沼さんですか」
『ん、どうした、反田』
「殺人です、犯人は自首して今、近くにいます。抵抗などの恐れを考慮して、手錠を掛けて、その場に拘束してはいますが、見た感じの言動からはそのようなものは考えられないので、とりあえず、人だけ来ればいいという感じです」
『わかった、今から場所を言ってくれ』
…。
「それではお願いします」
僕は住所を伝え、すぐに通話を切った。
「…、名前をお聞きしても」
僕は男に向かってそう訊くと、
「結城康太…、です」
「そうですか。わかりました、結城康太、現時刻十五時二十三分、逮捕。形式上は、そういう事にしておきましょうか」
そういって僕は聞いた名前と逮捕した時刻として、連絡から五分前の時刻を記憶して、結城をすぐそこの椅子へ座らせた。
そして、僕はその名前である事を思い出す。
それは僕が新人だったころ初めて担当した事件だった。
「…一つ聞いていいでしょうか」
「はい…」
「結城さん、いや、康太君、結城裕子という人物に思い当たる事はありませんか?」
その質問を聞いた途端、彼は目を見開いて、
「何で母の名前を知ってるんですか?」
そう答えた。
僕は半ば理解が追いつかなくなり始めていた。
だが、それでも聞かずにはいられなかった。
「…、僕は結城一家惨殺事件の捜査担当でしたから」
「そう、なんですか。…なら僕が一回死んでることも、ご存じなんですね…」
その答えを聞いて、僕は納得がつき、訳が分からなくなった。
なぜなら、結城康太、彼は、僕が刑事となって初めて担当した事件であり、その事件で殺害された一家の子供に当たる人物だったからだ。




