《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》〜巻き込まれ系主人公〜
ーーーーーーファント・ガーフィールドから、アージュ・マーゴとの一頻りの経緯を聞いたミルシィ・スターライトは、その白魚のような指を顎に当て、考え込むような仕草を見せた。
「…………うーむ…… (やはり……あの『鎧』については、本人に直接確認を取った方が良いのかもしれませんね………)。」
ミルシィ・スターライトは実は、アージュマーゴの身に着けている『鎧』、正確に言うならばその鎧を構成する『エネルギー』に見覚えがあった。
最初は気付いてはいなかったのだが、アージュ・マーゴが《食尽王鼠》に半身を砕かれた時に、ミルシィ・スターライトは彼の生死を確認しようと、思わずアシストスキル《天空王之眼》の持つ、視認した相手のあらゆる情報を見破る『看破能力』を発動させていたのだった。
結論から言うと、ミルシィ・スターライトがアージュ・マーゴの鎧から得られた情報は微々たるもので、その鎧がスキルによって作成されたものであるという事と、鎧が何者かに遠隔操作(この場合だとアージュ・マーゴに当たる)されているという事、そしてーーーーーーー
「(……………いえ、考えるより行動すべきでしょうね)。」
ーーーーーーーミルシィ・スターライトはそこで一旦思考を止め、下半身だけになって座り込んでいるアージュ・マーゴの近くに歩み寄った。
三人が近寄って来ることを察知したアージュ・マーゴは腰ごとずるりと体を捻らせ、ミルシィ・スターライト達の方に向いた。
「アージュ・マーゴさん、私の部下を助けて貰ったばかりか、《食尽王鼠》との戦闘に御協力頂き誠に有難うございました。」
「え?あ、あぁ!良いんですよミルシィ様。俺もこの国の民達がただ殺されるのを見るのは忍びないですしね。ははは……」
「………………ところで唐突で申し訳ないのですが………あなたの『鎧』について聞きたいことが……………。」
「………え?『鎧』?…………………って、あっ……ちょ……お…………。」
「……アージュ・マーゴさん?アージュ・マーゴさん?どうされました?」
ミルシィ・スターライトの御礼の言葉に、乾いた笑いで応えたアージュ・マーゴであったが、ミルシィ・スターライトの問い掛けに応えようとしたところで、彼の言葉尻に急に力が無くなっていくのを彼女達は感じ取った。
まるで携帯電話の通話中にトンネルに入った時のように、唐突にアージュ・マーゴの鎧からの声が聞こえなくなっていき、そして鎧自体もピクリとも動かなくなっってしまった。
「………あ、アージュ殿?ど、どうされたのですか?」
「おい、ファントよ!!お主の鎧を見よ!!」
「……………これは!?」
突然の事に戸惑いながらも声をかけていたファント・ガーフィールドに、イギル・イーガーはファント・ガーフィールドの鎧を指差しながら声を荒げた。
ファント・ガーフィールドとミルシィ・スターライトがその指の先を視線で追ってみると、ファント・ガーフィールドが身に纏っていたアージュ・マーゴの白鎧が、ビキビキと大きな亀裂を生じながら『砕け』始めていたのだ。
更には、それに連鎖するように周囲に立っていた白鎧達も次々にガシャガシャと音を立てながら崩れ落ちていく。
ファント・ガーフィールドが身に纏っていた白鎧が完全に砕け散り、元々着ていた鎧に戻った頃には、数十体程もいた白鎧達は、一体残らず消滅してしまった。
「………………これは一体……?」
「………………何が起きたというのだ…………!?」
「…………………………………。」
唖然としてその光景を見ていたファント・ガーフィールド達兵士の中、ミルシィ・スターライトだけが地面に落ちた白鎧の欠片を拾い上げ険しい表情を浮かべていた。
「(やはり……………この『鎧』は……………。)
……………………………『アージュ・マーゴ』……………我々ですら知り得ない知識を有する強者……………ですか……。」
彼女が何かを確信したかのように小さくアージュ・マーゴの名を口ずさむと、いつの間にか傾いていた夕日に染まる草原に溶けていくように、やがてその欠片すらも、霧散した。
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一方その頃、アージュ・マーゴこと吾妻秀吾はというとーーーーーーーーー
「もういやあああああああああああああああああああああ!!来ないでええええええええええ!!!!私食べても美味しくないよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ヒュエエエエエエエエエエエエッ!!!ヒュエエエエエエエエエエエエイイイイイッ!!!!」
ーーーーー何故か霧状の魔物の群れに追っかけられていた。
幽霊のように朧げなその魔物達は、底冷えする様な声を上げながら吾妻秀吾を、正しくは吾妻秀吾の後頭部にしがみつく形で肩車されている、『女の子』を睨み据えながら追い立てていた。
「おにいちゃんがんばれー!!もっといそがないとおいつかれちゃうよー!」
「だったらお前降りろやああああああああああああああああああああ!!走りにくいんじゃああああああああああ!!」」
吾妻秀吾の後頭部にしがみついているその女児は、年齢からすると5歳程度に見え、大きな特徴として、長い黄緑色の髪をツインテールの様に纏めて、花の形の髪飾りで留めていた。
その幼女は、困ったような表情で吾妻秀吾の後頭部にしがみつき、よしよしと子供をあやすように、吾妻秀吾の頭を撫でていた。
吾妻秀吾は《雄峰王之逆鱗》の『駆動鎧』でブーストをかけた脚力で必死に走りながら、自身にしがみついている見知らぬツインテールの幼女に、悲鳴にも似た怒号で話しかける。
「そもそもお前誰なんだよおおおおおおおおおおおお!?後ろの幽霊はなんなんだよおおおおおおおおおお!?なんで俺まで追われてんだよおおおおおおおおおお!!?」
「ごめんねー、よろいのおにいちゃーん。
『エピ』ちゃんねー、ばーちゃんのねー、おつかいしてたらねー、まちがえて《幽魔》のおうちをよこぎっちゃったのー。」
ーーーーーーーーー《幽魔》
墓地など死者が多い地帯に溜まった魔力が、死者の念に当てたれ変異し生まれる魔物である。
死者が魔力によって起き上がる《腐人》や《骨魔物》とは異なり、自己の意識などは一切なく、主に死霊術師が自身の呪術の媒体に使ったり、逆に自分の身を呪術から守ったりに使われる事が多い、《土人形》に似た半生命体である。
時折、魔力の強い生物から魔力を奪うために襲いかかるケースがある上、物理攻撃は一切通用しないため、ー冒険者の間ではそこそこ警戒されている魔物である。
『エピ』と名乗ったツインテールの幼女は「こまったもんだよまったくもー!エピちゃんぷんぷんだよ!」と言いながら、吾妻秀吾の問い掛けに対して、ちゃんと理解しているのかよくわからない返答をした後、頬をぷくぷく膨らませたり凹ませたりしつつ、吾妻秀吾の鎧に覆われた頭をペチペチと、小さな手のひらで叩いていた。
「巻き込まれた俺の方が激おこぷんぷん丸じゃあああああああああああああああ!!! もう降ろすぞテメーえええええええええええええええええ!!」
そう言いつつも、吾妻秀吾はエピを落とさないように片手でエピの背中を支えながら走っている。
吾妻秀吾は自分の御人好しさに我ながら呆れつつも、夕日が差し込むカズゥの大森林沿いの道を、必死に《幽魔》との逃走劇に明け暮れていた。




