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《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》〜騙すより騙される方が悪いんですよ(高い声)〜

「もう《勇者》の生ゲ捕りナンて関係無えぇぇぇぇェェェェェェェぇぇェェェェ!

先ずハお前ヲ殺してッ!勇者モ殺ジてッ!!兵士共も殺しデッ!!!スカイジア王国ノ民も全員皆殺ジニジてッ!!!!

ゴの王国をただの更地に変エテやるァァァァぁぁぁぁぁぁァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!


どいヅもゴいヅも死ね死ね死ね死ね死ネ死ね死ね死ね死ね死ネ死ね死ね死ネ死ね死ネ死ね死ネ死ね死ね死ネ死ね死ね死ネ死ね死ネ死ネ死ウギュルオバァァァァァァァアァァァアァァァァゴェェェェェェガァァァァァァァ!!!!!!」



突如、ボンベからガスを注入された風船のように全身が膨れ上がった《食尽王鼠(イーターラット)》の肉体は、アージュ・マーゴの『地獄組』の拘束の隙間から、ブチブチと皮膚を破る音を立て自身の肉を吹き出させながらも、それを意に介さないかのように際限なくその体躯を巨大化させている。



ーーーーーアシストスキル《月輪王之憤怒(ルモーナラース)

使用者の精神エネルギーを対価に、一時的に爆発的な魔力と身体能力を獲得するスキルである。

一度発動すれば、使用者の素の能力値に関わらず絶大な戦闘能力を発揮することができるスキルではあるが、精神力の弱い者が使用すれば、たちまち意識を感情に乗っ取られ、自制の効かぬ怪物と化してしまう。

それに加え、《食尽王鼠》は《月輪王之憤怒》で生産した莫大な魔力を、《猛獣王之筋骨(ライグーンビルドアップ)》に食わせることにより、自己の理性を消し去る代わりに、より強大な破壊力を持った怪物へと変貌したのである。


それはもはや鼠と呼べるようなものでは無く、全長20〜30mはあろうかと言うくらいのグロテスクな筋肉と血の塊のように見える。

その肉塊は、自身の心の中に渦巻く怒りと屈辱の感情に思考を委ねるように、辛うじて形状を保っていた頭部らしき器官から、地獄の底まで響き渡るような重低音の呪詛の言葉を戦場に撒き散らしていた。

《食尽王鼠》の声は瞬く間に衝撃波となり、周囲に暴風と地鳴りによる災禍を及ぼし、《食尽王鼠》は正しく生きた暴力そのものと化していた。



「な………なんと悍ましい………これは……本当に………生物なのか…………?」



「凄まじい魔力…………ッ!!イギル……ッ!!兵達を下がら…………せるのです…………ッ!!……………急いで!!」




いつしか、《食尽王鼠》だった肉塊の周囲にいた兵達の狂騒の巷と化していた。

歴戦を勝ち上がってきた屈強な猛者たちですら、目の前に立つ暴力の化身を前に、心の底に押し込んでいた恐怖と混乱の感情が吹き上がったのだ。

避難指示を出したミルシィ・スターライトと、傍で言葉を詰まらせていたイギル・イーガーも周囲の兵達程ではないにせよ、言い知れぬおぞましさを目の前の肉塊から感じ取っていた。

嘗ての《魔王》との戦争でも、これだけの存在は正しく《魔王》直属の親衛隊クラスでなければ目にしないレベルであろうと、ミルシィ・スターライトは過去の戦歴から《食尽王鼠》の能力値を割り出していた。


手負いで勝てる相手ではない、ましてや《白金剣聖(プラチナブレイド)》を封じられた今の状況で戦うなど絶望的とも言える。

そう感じ取ったミルシィ・スターライトは、右手に握られた自身の剣に目をやりながらゴクリと息を飲む。



「(……………もう…………《天空王之眼(スカイジア)》の『奥の手』を使うしか…………ない………!!)」




ミルシィ・スターライトがそう覚悟を決めようとしていたが、イギル・イーガーの一言によってその思考は遮られた。




「…………な…………何故あの者は逃げようとしない…………!?」



その声につられてミルシィ・スターライトが目で追ったイギル・イーガーの視線の先にはーーーーーーー




「無理だな、断言しよう。

……………お前は俺一人殺せないよ。」




ーーーーーーーーーー《食尽王鼠》の前に相対するアージュ・マーゴの姿があった。






ーーーーーーーーーー◯ーーーーーーーーーー




「んだとぉぉぉぉォォォォォォォォォぉぉぉぉデメェェェェェェェェぇぇがァァァァぁぁぁァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァぁぁぁギャルルルゥゥゥゥゥゥゥガァァァァァァァァァッ!!!!」




アージュ・マーゴの一言という油が《食尽王鼠》の怒りの炎に注ぎ込まれ、一気に臨界点にまで到達すると同時に、《食尽王鼠》の触手とも腕とも足とも呼べぬ肉の塊が、ギラギラと鋼のように鈍く輝く鋭い刃のように変質した爪のような物質を形作り、アージュ・マーゴへと叩き込む。

その触腕の速度は一瞬にして音速をこえたのか、空気の破裂音と共に衝撃波(ソニックブーム)を巻き起こし、地面に着弾と同時にその地形を大きくえぐり取った。


ミルシィ・スターライト達は《巨人刀(タイタンソード)》部隊の巨漢の大盾兵達に守られながら、どうにかそれをやり過ごすが、大盾兵も皆、その圧倒的な力にどうにか歯を食いしばって堪えることが精一杯といった様子であった。



だが、アージュ・マーゴは違った。ーーーーーーーーーー



「どうした?当たってないぞ?」



「ギ!?ギギギギッ!!?何故ダァあァァァァぁぁぁッ!!!」



ーーーーーーーーーー《食尽王鼠》が立て続けに放つ音速突破の攻撃を、紙一重で交わしていたのだ。

まるで暖簾に腕押しと言わんばかりに、柳が風で揺らめくように、大質量の猛攻をひらりひらりと容易く避けていたのだ。

狐につままれたような表情の《巨人刀》の面々の中、ミルシィ・スターライトとイギル・イーガー、そして何人かの兵達は、その『動き』に身に覚えがあった。




「…………まさか…………!?

……《天道流》……………『浮雲流し』…………か!?」




イギル・イーガーの口にした『浮雲流し』とは、スカイジア王国を含む西方の大陸『エルス大陸』に広く伝わる空間格闘術《天道流》の奥義の一つである。


《天道流》の基本である『空気の流れを読み、相手の行動や周囲の状況を感知する』という教えをとことん突き詰めた結果体現可能とされている技で、相手の攻撃と自身との間に発生する『空気の隙間』に潜り込むことによって、物理攻撃はおろか魔法による大破壊ですら回避してしまうと言われている秘伝中の秘伝である。


この技を体現できた者は未だかつて、《天道流》創始者である《天空王スカイジア》と、不完全ながら使用できる《勇者》ミルシィ・スターライトの二人しか存在しない。

《天道流》の達人でもあるイギル・イーガーでさえその領域には至っておらず、幻の奥義と呼ばれていた。



それを、アージュ・マーゴはいともたやすく行って見せたのだ。

《食尽王鼠》という、強大な存在を相手取りながらも。


ミルシィ・スターライト達が何度目かの唖然とした表情でいる中、アージュ・マーゴは再び《食尽王鼠》を挑発する。



「なんだ?切り札っぽいスキルを使っているようだが、俺にはカスリもしてないぞ?所詮ネズミがいくらデカくなろうとも、ネズミはネズミか?笑えるな、ハハッ。」



「ギャルルるるぅぅぅゥゥゥぅぅぅゥゥゥッ!!ちょゴまガとよぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォぉぉぉぉォォォぉぉぉぉぉぉぉぉォォォッ!!!ならそのクゾッダレの動ギがデギネェ様にしでやらァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァッ!!!」




見る間に全身を怒りで震わせた《食尽王鼠》は、口らしき器官をガパッっと開き、そしてーーーーーーー



「《猛獣王之咆哮(ライグーンシャウト)》ッッッ!!!!」



「…………おっとっ?」



「ギャハハババハハハババハババハハババババァァァァァァァァッ貰っダァァァァぁぁぁぁぁァァァァァァァァぁぁぁぁぁァァァァッ!!!!!」



「アージュ・マー……………ッ!!」




ーーーーーーーーーー思わず大声を上げたミルシィ・スターライト の叫びも虚しく、動きを封じられたアージュ・マーゴの上半身は、《食尽王鼠》の触腕の直撃に、飲み込まれた。







ーーーーーーーーーー◯ーーーーーーーーー





……………パタリと、上半身を失ったアージュ・マーゴの半身は地面へと倒れる。

その光景を目の当たりにしたイギル・イーガーは脂汗をかきながら目を大きく見開いていた。



「…………そ………そんな…………!?」



彼が抱いた感情は、決定的な戦力が消えたことによる不安感ではない。

自分たちのために戦ってくれた『ミルシィ・スターライトの命の恩人を死なせてしまった』という自身への不甲斐なさだけであった。

イギル・イーガーはスカイジア王国の部隊長として、彼を死なせるわけにはいかなかった。

なのに果たせなかったという思いから、ギリリッと血が出るほど自分の拳を握りしめる。



だが、その考えは杞憂に終わることになる。

キッカケは、ミルシィ・スターライトの一言からだった。



「………いえ………彼は死んではいません。」




「…………………え?」




「……何という事でしょうか……………まさか…………そのような事が……………!!」





イギル・イーガーの浮かんだ疑問符に応えることもなく、ミルシィ・スターライトは独り言のようにつぶやき続ける。

次に口を開いたのは《食尽王鼠》であった。

彼は、アージュ・マーゴの上半身を消し飛ばした触腕をふるふると震わせながら、歯軋りのような音が混じった声を漏らす。



「…………………どういヴ事だ……………?何故………………」





そして、堪り兼ねたかのように、《食尽王鼠》は再び怒りを露わにした。




「何故鎧の中身が『(ガラ)っぽ』なんだァァァァぁぁぁぁぁァァァァァァァァぁぁぁァァァァッ!!!!!」




「ん?さっきも言ったろ?『俺一人殺せない」ってよ?」



むくりと、アージュ・マーゴの下半身は、『空っぽ』の鎧の下半身は起き上がりながら《食尽王鼠》にそう答え、さらに続けた。



「ここに現れた鎧の大群の中には、初めっから『本体』が入ってるやつなんて一体もいなかったんだよ。


ええと、お前風に言うとだな………『ようやく気付いたか?マヌケがぁー』…………だっけか?」




「 お バ え 等 全 員 ブ ッ 殺 ズ !!!!!!!! 」




アージュ・マーゴの声を発する鎧の下半身に、かつてない怒りを込めて《食尽王鼠》が触腕を唸らせる。

「(耳障りなこの鎧をぶっ壊して、次は半死半生の勇者だ!!)」と言わんばかりに引き伸ばされた筋肉の鞭が放たれようとした、その瞬間であった。




「《三重異能(トライデントスキル)》ッ!!!」



「………………は?」



一体の白鎧が、背後から《食尽王鼠》を刺し貫いた。

その一撃は、完全に意識をアージュ・マーゴに向けていて無防備だった《食尽王鼠》の背中をぶち抜き、一撃で《食尽王鼠》の胴体に大きな風穴を開け、《食尽王鼠》は口から大量に吐血しながら絶叫した。



「ゴボッ!??ゴブッ!!?ギャァァァァァァァァァァァぁぁぁッ!!??」



「油断したろ?お前の『分裂体』に悟られないように『連れてくる』の、大変だったんだぜ?」




心臓を抉られた《食尽王鼠》に、アージュ・マーゴの言葉を聞く余裕はもはやなかった。

《食尽王鼠》はよろけながら、『確認』するように『槍』によって刺し貫かれたであろう自身の背後を見る。


《食尽王鼠》は、この声を、このスキルの所有者を知っていた。

この『男』は、カズゥの大森林近くの農村に貼り付けにしていた筈の『戦士』

《勇者》に匹敵する才覚の持ち主。



「ふ…………『ファント・ガーフィールド』…………ダとぉぉぉぉォォ………ォォォォッ!??」




「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!セイヤァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」




《食尽王鼠》の驚愕の声ももはや遅く、白鎧に身を包んだファント・ガーフィールドは刺し貫いた衝撃波で大穴の開いた《食尽王鼠》の肉体を横薙ぎに一閃し、真っ二つに両断した。

勿論、『アタックスキルは使わず』に……………。




「ゴ………ゴノ…………嘘……………吐ギ……メェェ……………! 『中……………身』……………いるじゃあネェ…………か…………………ッ」




「いや、『本体はいない』とは言ったが、『中身が入ってない』なんて言ってないだろ。」




「…………ヂグ……………ジョ……………ウ……………。」




アージュ・マーゴに対する悪態を最後に、《食尽王鼠》は崩れ落ちた。












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