《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》〜マリア・アルゴルド・メディスの視点〜
ーーーーー我らスカイジア王国の有する《武装騎士団》は、《勇者》ミルシィ・スカイジア・クリム・スターライト姫を頂点に、大きく分けて三人の部隊長が総括する組織で構成されている。
格闘技法《天道術》の達人にして半巨人族のイギル・イーガー部隊長率いる、武闘派揃いの殲滅部隊《巨人刀》。
東方に位置するサイア大陸の魔法国家『パング魔導国』から来た若き大魔導師、チェリン・ポルカルト部隊長率いる、魔法技術部隊《魔法杖》。
そして、《三重異能》という選ばれし者しか手に入れることのできない『複数スキルの同時発動』を可能にした天才戦士、ファント・ガーフィールド率いる、姫直轄の近衛部隊《三又槍》。
スカイジア王国の守護を担うこの国での『部隊長』の地位は、帝国で言う所の『将軍』に相当し、上位貴族級の発言力と権限を持つこととなるのだ。
私ーーーーーマリア・アルゴルド・メディスーーーーーの率いる小隊はその中の、《三又槍》に組する下部組織《斧槍》に属していた。
『実力至上主義』を謳い、平民からも騎士選抜大会などの方法で広く雇用の裾野を広げている《武装騎士団》の中で、私は他の諸国では平凡とも言える上流貴族の出身だった。
メディス家の次女として生まれた私は、幼い頃から魔王軍との戦争からの凱旋の光景を何度も目にしていた。
最初の頃は、傷つき他の兵士の肩を借りながら歩いてくる負傷兵の痛々しい姿を見て、「こんなに傷ついてまでどうして彼らは戦うのだろう。」と、幼心に疑問視していた。
確かに魔王軍の侵攻の余波は、このスカイジア王国の近隣でも影響を受けているのは知っていた。
だが当時、この国には《勇者》と呼べる存在はおろか、現在の《武装騎士団》の部隊長級の実力者も居らず、自国を守るのだけで精一杯な状況の中、他国の《勇者》に応援する形で戦場に望んでいたのだ。
戦場を見たことのなど無かった私の耳にも、当時の《四方の勇者》ーーーーー当時の《勇者》達は《五宝の勇者》ではなく、《四方の勇者》と呼ばれていたーーーーーの逸話は度々聞こえてきていた。
やれ『一撃で1万の敵兵を薙ぎ払った』だの、『目にも留まらぬ速さで敵将の喉笛を噛みきった』だの、『放った光線が敵軍を蹴散らした』だの、といった具合だ。
「そんなに強いなら、そんなに圧倒的なら、《勇者》のいる国だけで戦えばいいのに…………。」
私は、負傷兵を甲斐甲斐しく迎える町の住民たちを見つめながら、そう感じていた。
時は今から13年前、私が5歳の誕生日を迎えようとしていた頃。
《勇者》ミルシィ・スターライト様の存在が世間に公表される1年ほど前の出来事だ。
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12年前、スカイジア王国領全域に、アディ・スカイジア・ギャント・スターライト国王から、ある御触書が貼り出された。
内容は一つ、『我が娘、ミルシィ・スカイジア・クリム・スターライト第一姫が正式に《領域王》の加護の元、《勇者》として覚醒した。』というものだった。
その発表を目にしたスカイジアの民達は、歓声を上げて喜んだ。
ある者は感極まり涙を流し、またある者は天空王に感謝の祈りを捧げた。
幼い私には理解出来なかった。
なぜそんなにも喜んでいるのだろうか、戦場に行く機会が増えるだけだというのに、そう思った。
私はその日の夜、父の書斎へ足を運んだ。
昼間に浮かんだ疑問が、どうしても頭から離れなかったのだ。
「……おや、マリア?どうしたんだいこんな夜中に?カズゥのコカトリスの夢でも見たのかな?」
書斎で書類の整理をしていた父はそう言うと、持っていた羽ペンを置き私を膝の上に座らせてくれた。
私は、父の膝の上が大好きだった。
一つ年上の姉とケンカした日や、怖いコカトリスの夢を見てしまった夜に、こうして 物知りな父の膝の上で本を読んでもらうのが一番心が落ち着いたのだ。
私は、父に今日の疑問の内容を話してみることにした。
「…………なるほど、優しいマリアらしいね。
……君は、兵士達がどうして自ら、自分の国とは関係がない戦場に向かっていくのだろうか?スカイジアの民達はどうして戦場に行く要因となる《勇者》の誕生にああも喜んでいるのか?……それが疑問なんだね?」
「うん……。」
「その答えは簡単さ、それがスカイジア王国を護るって事なのだからさ。」
「………え?どういうこと?」
「…………確かに魔王軍の侵攻はこのスカイジア王国に直接の被害を与えてはいないし、その余波を防ぐのにさえ国が四苦八苦しているのは事実だね。
でも、それは『まだ、ここまで魔王軍が来ていない』と言うことなだけなのさ。」
「………!?」
父は、私の頭をそっと撫でながら微笑みかけてくる。
その動きを私は、机の上の照明の炎が映す影越しに見つめていた。
「…………《四方の勇者》でさえ、現状の戦線を硬直状態にするので精一杯な状況で、もし誰かがこの戦況を抜けてしまえば、魔王の暴力は瞬く間にこのスカイジア王国を含むエルス大陸を覆い尽くすだろう。
……あの闇の大地と化してしまったダグロス大陸のようにね。」
『ダグロス大陸』ーーーーー魔王が最初に降臨し占領した国、《魔人種》の国クロネアがあったとされる大陸ーーーーー、幼子でも童話で知っているその大陸の名を耳にした私は、ぶるりと身を震わせた。
「……で、でもみんな《勇者》は一騎当千の強者だって………!」
「いくら強くても人間だからね、常に全員が戦えるわけじゃあないさ。 ご飯だって食べなきゃいけないし、寝ないで戦い続けるわけにもいかないだろ?」
「……………!」
当時の私は幼さのせいもあったが、《勇者》という存在を過剰に考えていた。
そうなのだ、《勇者》だって人間。
傷つきもするし、死ぬこともあり得るのだと、父の言葉でようやく理解ができた。
それと同時に、民衆がなぜあんなにも《勇者》の誕生に喜んでいたのかも理解できた。
《勇者》が一人増えるということは、膠着状態を維持するしかなかった現状を、ついに打開できるということなのだ。
攻勢に進めば戦場で死ぬ兵士も減る、戦線を押し上げられれば破壊された国を再興できる。
戦争が終われば、兵士の帰りを待つ家族は救われる、誰ももう傷つく必要はなくなる、世界に平和が訪れる。
そうだ、《勇者》とは
『希望』なのだ。
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私は父との対話の次の日、《勇者》誕生を祝う盛大なパレードで、かの人物ミルシィ・スターライト様を拝見することができた。
その美しさに、私は目を奪われた。
まるで、奇跡が寄り集まって形を成したかのような彼女の美しくも可憐な姿に、私だけでなく民衆も皆惚けるような視線を送っていた。
私の隣で手を引いていた父は、私の耳元にかがむと、こっそりと教えてくれた。
「………ミルシィ姫は、《天空王スカイジア》様との契約によって『老い』を止められてしまっているらしい。」
「…………え!?」
上流貴族である父は、アディ国王ともそれなりの友好関係があり、こういった上層部でしか知り得ないような情報も耳に入って来ていたらしい。
驚愕の表情を浮かべた私の頭を撫でながら、父はいつものように優しく微笑む。
「それはきっと常人では耐え難い苦悩だろうと思う。 …………マリア。」
「………………な、なぁに?」
唐突に名前を呼ばれた私は、思わず身構えてしまう。
すると父は、そんな私に微笑を浮かべ呟いた。
「……………どんなことでもいい………。
《勇者》の力になれるような、そんな立派な大人を目指しなさい………いいね?」
「……………! ………うん!」
このパレードから三年後、父は突然の病でこの世を去った。
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そして私は10歳の時に、周囲の反対を押し切りミルシィ・スターライト様が設立した《武装騎士団》の門を叩いた。
上流貴族の出で、なおかつ女性である私に対する目は最初は厳しいものであったが、私は父の言葉を胸に研鑽を積み重ねた。
戦闘で使えそうな技術は貪欲に取り込み、魔法だろうが武術だろうが関係なく吸収した。
才能がある方ではなかったが、そこは努力でカバーした。
次第に周囲に認められ始めた頃、《三又槍》部隊長のファント・ガーフィールドに見初められ、《三又槍》の下部小隊《斧槍》の隊長に任命された。
もっとだ、もっと実力を付けて、ミルシィ様の矛とならなければ。
私は、一層努力を重ねた。
そして現在、18歳となった私の前にはーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー『怪物』が相対していた。
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「ゴホッ……げほっ…………ぐぅっ……………ッ!」
ファント・ガーフィールド部隊長に与えられた《斧槍》の名に恥じぬ、磨き上げられた白銀の斧槍は、目の前に立つ《大食鼠》の原型をもった異形との激しい攻防で刃毀れし、薄汚い血で染まっている。
「ヂヂヂッ……無数ノ同胞ノ中カラ、『オレ』ニ目ヲ付ケタ貴様ノ眼力ハ褒メテヤロウ………ヂッヂッヂッ!」
「…………まさか…………魔物が人の言葉を話せるとは………な……………!」
「アァ〜〜ン?ヂヂヂッ……オレハ貴様等人間共トハ存在ノスケールガ違ゲーーンダヨッ!下等生物ノ言語ナンザ朝飯前ヨッ!ヂヂヂヂヂッ!!」
私は最初は我が耳を疑ったが、矛と牙を交えるうちに精神は落ち着きを取り戻していた。
初めのうちは、他の《大食鼠》よりひと回り大きい鼠が、まるで周囲の鼠たちに指示を送るような動作を振舞っていた事に疑問を覚えた程度だった。
だが、実際に奴を狙い撃つように攻撃を行ってみると、他の鼠とは明らかに俊敏性・耐久性が違うことに気がついた。
そして現在である。
「ヂヂヂッ!オレヲ守レッ!」とこいつが叫んだ時は何事かと思った。
どこかに術者が潜んでいて声を当てているのかとも思ったが、《天道術》を納めた私は空気の流れを読むことができる。
声があの《大食鼠》自身から発せられていることは容易に理解できた。
「……………貴様が親玉か?」
「ヂヂヂヂヂッ!冗談ハテメー等ノ弱サダケニシロヨッ!!ヂヂヂッ!オレハタダノ『中継地点』サァ!」
「……………『中継地点』?」
鼠が言い放った悪態には耳を貸すつもりはないが、『中継地点』という言葉には引っかかった。
何をだ?こいつは何を『中継』していると………?
「言ッタッテ、テメーニャドウシヨウモネーヨ!!バァーーカ!!
テメーハモウ、ココデオッ死ヌンダカラヨォーーー!!《猛獣王之咆哮》!!」
「………なッ!?」
「………これは………!?」
「………体が……………!?」
突如として鼠から放たれた震動波が、私達《斧槍》を通り抜けると、私達の体は痺れたかのように動けなくなった。
スカイジア兵は皆、魔法や呪術に対して一定の耐性を持つ者達ばかりの筈なのに、指一本動かせない。
この状況に、私の部下たちはどよめいている。
だが、私はこの鼠が言い放った言葉の方にむしろ驚愕していた。
《猛獣王》?《猛獣王》と言ったのかこいつは!?
《猛獣王》は《領域王》の一柱であり、全ての生物の王であるかの者の《異能》に、一定時間動きを制限させる効果のアシストスキルがあるというのは聞いたことがある。
まさか、使ったのか?魔物が?《領域王》級のスキルを!?
「ヂヂヂヂヂッ!テメー等ハオレの『餌』ダッ!!腹ン中デユックリト、ドロドロ二消化シテヤルカラ感謝シナガラ………………死ニヤガレェーーーッ!!」
現状を飲み込めない私に、《大食鼠》の牙が、迫ってきた。
そして、避けることも防ぐ事も出来ない私の視界いっぱいに、奴の口内が広がり……………そしてーーーーーーーー
ーーーーー《大食鼠》は、私の背後から飛んできた両手剣に貫かれ吹っ飛んだ。
食尽王鼠の作成(?)スキル
アタックスキル
《猛獣王之雄郡》
ディフェンススキル
《雄峰王之迷彩》
アシストスキル
《月輪王之暴食》
《猛獣王之筋骨》
《猛獣王之咆哮》




