《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》〜主役参戦〜
「うえええ………あそこに飛び込むのぉお?《異界読本》ぅぅ……うえええ…………。」
『問題ありません、先程お話しした通りに立ち回っていただければ、97パーセントの確率で成功します。」
「その残り3パーセントが怖いんだけどなぁ………。」
ーーーーーー吾妻秀吾は激戦を繰り広げるスカイジア王国関所の防壁の上に隠れていた。
その身には自身のディフェンススキル《雄峰王之逆鱗》の力で呼び出した大柄な白鎧を装備している。
その手には石で出来た身の丈程の長さの両手剣が握られ、側から見れば勇猛なる戦士の装いであったが、当の本人はその2m近い巨体で小さく縮こまり、防壁の縁からこそこそと眼下の戦場を覗き込んでいた。
『問題ありません、《雄峰王之逆鱗》と《異界読本》の『素養開放』を行った現在の貴方なら負けることはありません。』
「まぁ……《雄峰王之逆鱗》出しながらお前と話できるのは助かるんだけどさぁ…………?」
《異界読本》が吾妻秀吾に言った『素養開放』という言葉に、吾妻秀吾は先程の『作戦』を思い返した。
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時間は吾妻秀吾が武道大会ホールにいた頃まで遡る。
『まず、この度の戦闘に勝利するためにも、『存在力』を二点消費して、《雄峰王之逆鱗》と《異界読本》の『素養開放』を行うことを推奨します。』
「『素養開放』?」
「ご説明します。貴方の所有する《樹形公式》で作成されたスキルは、現在その効果を十分に発揮できていない状態にあります。』
「………? それってつまり《樹形公式》がスキル作成に失敗してたってことか?」
『いえ、この場合問題があるのは作成されたスキルというより、貴方自身の能力値に問題があると言えます。』
「レベル…………?」
《異界読本》が彼に言うことを纏めると、本来《異能》とは、その所持者の才能や努力の結果に得られる産物であり、そのスキルを獲得する途上で所持者は様々な『素養』を育成する。
剣を召喚するスキルなら剣術の経験や剣の知識、水を操るスキルなら水魔法の知識や物理法則の理解、と言ったようにだ。
だが吾妻秀吾の場合、本来なら受け入れる土壌を作った上で得られるはずのスキルを、《樹形公式》の力で一足飛ばしに入手してしまうため、本来スキルが活用できるはずの能力を100パーセント運用することが不可能になってしまっているのだ。
この世界ーーーーーディアヴォリアスーーーーーではそれを『能力値』と呼び、吾妻秀吾の『能力値』は、カズゥの大森林でもわずかながら触れたように、この世界の水準を大きく下回っていた。
「つまり、俺自身が貧弱だったりしてるからスキルがうまく扱えてないって事か………なんか傷つくなそれ。」
『貴方が《異界読本》を使用しなくてもスカイジア王国の民と会話ができていたのは、《異界読本》の『素養』の一部を無意識に使用できていたからなのです。』
「あぁ、そう言えば。 テンパってて気づかなかった。」
吾妻秀吾はミルシィ・スターライト達との会話を思い出し、「う〜〜む。」と唸る。
今後のことを考えてもスキルの性能の上昇は重要なのかも、と自分の貧弱さを棚に上げつつ。
『そこで、《樹形公式》の能力でもう一度、貴方の所有するスキルに改造を施し、現在の貴方の『能力値』でも高水準の性能を発揮出来るように『素養開放』する事をご提案いたします。』
うーーん、と吾妻秀吾はその言葉になおさら両腕を組んで悩むような仕草を取った。
現在の吾妻秀吾の『存在力』は6ポイント、確かにここから2ポイント差し引くのはそれほど怖くはない。
だが、それをやるくらいなら4ポイントくらい消費してでもこの国から安全に脱出するスキルを開発したほうが良いのではないか?と吾妻秀吾は考えていたのだ。
「空を飛ぶスキルとか作って脱出とかじゃダメなのかな?あの鼠、飛び道具とかなさそうだし。」
『あなた一人が脱出する事に関してならばその方法で良いでしょう。しかし、その方法ですとどうしてもスカイジア王国に貴方が国から脱出する姿を目撃されてしまう恐れがあります。」
「? 見つかったらマズイのか?この状況じゃ追っては来れないだろ?」
『スカイジア王国の生き残った兵により、ディアヴォリアス全域に貴方が指名手配されてしまいます。
《泥土王竜》、そして《食尽王鼠》と立て続けに出現したこの状況下で、『正体不明の異物』としてただでさえ目をつけられている貴方が、足早に逃げ出す姿を目撃されれば確実に関連性を疑われます。』
「……………………おうふ。」
その《異界読本》の言葉に、吾妻秀吾は頭を抱えた。
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といった理由もあって、現在吾妻秀吾は2ポイントのスキルポイントを支払い二つのスキルの『素養開放』を行った。
《雄峰王之逆鱗》には追加で所持者の意思で自在に操れる『駆動鎧』の効果が、《異界読本》には他のスキルが発動中でも《異界読本》が使用ができる『意思共有』と、《異界読本》に何度も教えられた言語や技術、武術の習得速度が大幅に上昇する『反芻教育』の効果を、それぞれ獲得した。
「《万物名工》はいいのか?」と吾妻秀吾が聞いたら、『《万物名工》は奇跡のようなバランスで調整され作成されたスキルのため『素養開放』の必要がありません。』と返された。
案外適当にやったほうがうまく行くのでは、と吾妻秀吾は思った。ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー場面は戦場に戻り、《異界読本》は再び吾妻秀吾に今回の『作戦』を解説する。
『《食尽王鼠》の『分裂体』は本体から発せられる魔力の信号を受け取って動いています。
しかし、10万ともなるとその信号の射程距離にも限界があります。 そこで奴は『分裂体』のごく一部に『基地局』とも呼べる信号を拡散させる存在を生み出しています。』
「で、その『基地局』の数は本体含めて10体でお前ならそれを見破れるから、その『基地局』を各個撃破して『分裂体』を無力化してしまおうって事だよな?
『その通りでございます。戦闘は『駆動鎧』を開放した《雄峰王之逆鱗》と《万物名工》さえあれば問題ありません。』
「俺、こんなまともな戦闘経験なんてまるで無いんだけど、体力持つかなぁ?」
「問題ありません、貴方は《雄峰王之逆鱗》を操ってさえいればいいのです。車を運転する感覚と思っていただければ良いでしょう。
問題があれば《異界読本》が『意思共有』の効果で補佐を行います。」
「俺ケガするのとか嫌なんだけどなぁ……。」
『《雄峰王之逆鱗》を装備している限り滅多なことではダメージを負いません。大丈夫です。』
「他人事だと思ってあっさり言いやがって……………?」
『私は貴方のスキルですので他人事じゃあないです。』
「…………そうでした。」
そんなやりとりをしていると眼下の戦場では、少しづつではあったがスカイジア王国兵達が押され始めているのが見えた。
ミルシィ・スターライト達は既に戦線の奥まで突き進んでしまっている、そろそろ行かないと不味そうだ。
そう判断した吾妻秀吾は隠れるのをやめ、立ち上がり石の両手剣を担ぐ。
「…………はぁ………やるしかないのかぁ…………。」
『はい、そろそろ行かないと国境沿いの防衛網が突破されてしまいます。いきましょう。』
「…………………嫌だなぁあああああ…………はああああ。」
吾妻秀吾は絶望に満ちた溜息を吐きながら、防壁から飛び降りた。
吾妻秀吾の作成スキル
アシストスキル
《樹形公式》
《異界読本》(素養:『意思共有』『反芻教育』)
《万物名工》
ディフェンススキル
《異界逃避》
《雄峰王之逆鱗》(素養:『駆動鎧』)




