《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》〜死を謳う大鼠、《食尽王鼠(イーターラット)》の強襲〜
この人からは、何か寂しげなものを感じる。
《勇者》ミルシィ・スターライトはわずかな会話の中から、目の前の白鎧の戦士からそのようなイメージを感じ取った。
この白鎧の戦士の言っていることすべてを鵜呑みにしたわけではない、だが彼の言葉の節々には例えようのない哀しみのようなものが込められている。
無理やり言葉にするならばーーーーーー
「(…………まるで彼は『亡霊』の様ですね。)」
ーーーーーー生きながらに死んでいる様な、死した後も現世に縛られ続けている様な、そのような矛盾した気配をこの白鎧の戦士は纏わせている。
きっと、自身の隣に立つチェリン・ポルカルトも同じイメージを彼から感じ取ったのだろうと、ミルシィ・スターライトはチェリン・ポルカルトの曇った表情をちらりと眺め、思想する。
自分なら、《勇者》ミルシィ・スターライトならば、この白鎧の戦士の境遇に立たされて、果たして正気を保っていられただろうか?
一人ぼっちで、強大な力を前に、いつ終わるともしれない戦いを挑み続けることが出来るだろうか?
「…………貴方のお名前を聞かせてもらっても良いですか?」
「え………?」
「…………お嬢。」
ミルシィ・スターライトは我慢できなかった、聞いてみたかったのだ。
この勇敢なる戦士の名を、孤独と向き合う一人の《勇者》の名を。
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「(いやあああああああん!?疑われてりゅうううううううううう!!?)」
一方、そんなミルシィ・スターライト達の考えなど知る由もない吾妻秀悟は、激しく動揺していた。
誰でもいいからこの状況を打開してくれと、信じてもいない神に祈る他ない吾妻秀悟は、動揺しながらも適当な偽名を絞り出そうと口を開いた。
「………あ……『アージュ・マーゴ』です………。」
「……なるほど、アージュ・マーゴさんですか。
………私は《武装騎士団》総司令官、《勇者》ミルシィ・スカイジア・クリム・スターライトと申します。」
「(………お嬢……!) ……………大会観てたんなら知ってるとは思うが……チェリン・ポルカルトだ。」
「ご……ご丁寧にどうも。」
チェリン・ポルカルトはこの時、ぺこりと頭を下げる我が主人につられて頭を下げながら、ミルシィ・スターライトが人前で略称ではない自分のフルネームを名乗った意図を大体理解した。
彼女は恐らく略称では、この勇猛なる気配を放つ戦士に対して、礼儀に反すると考えたのだ。
彼女がスカイジア王国『第一姫』としての名でもある『天空王』の名を名乗ったのは、この白鎧の戦士に、同じ戦士として敬意を払うという事。
主人がそのような意思を示すと言うのならばと、チェリン・ポルカルトも礼を尽くし、自身の名を名乗ったのだ。
そのようなこととはつゆ知らず、吾妻秀悟は単純に「(この女の子名前超なげぇ)」くらいの感想しか抱かぬまま、二人に合わせて頭を下げた。
と、互いの自己紹介を済ませた辺りで、『事件』は起きた。
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「うわあああああああああ!」
「きゃああああああああああ!」
「な、なんだこいつはああああ!?」
「………悲鳴!?」
「行きますよチェリン・ポルカルト!」
「え?何々何事?」
突如吾妻秀悟達三人のいる大会ホールの外から響き渡る悲鳴。
その声にミルシィ・スターライト、チェリン・ポルカルト両名は瞬時に反応し、ホールから飛び出していった。
吾妻秀悟はあっという間に見えなくなった二人を唖然としながら見送った後、ハッと気づいたようにいそいそとホール内の柱の陰に身を隠し、《雄峰王之逆鱗》を解除し、白鎧の戦士から元の貧弱な学生服姿に戻った。
目的はただひとつ、《異界読本》の発動である
「うわああああん《異界読本》うううう!俺怖かったああああん!」
『問題ありません。貴方は《勇者》に対して『擬態能力』を十全に発揮できました。』
「マジで!?バレてない?バレてない?」
『問題ありません。現在ミルシィ・スカイジア・クリム・スターライト、そしてチェリン・ポルカルト両名は、大会会場外に出現した《食尽王鼠》の『分裂体』と戦闘を開始しております。
貴方への関心は一旦保留となりました。』
「そ……そっか、良かった…………。
……って、《食尽王鼠》?なんだそりゃ?魔物?」
『はい、カズゥの大森林にも棲息している《大食鼠》が、《泥土王竜》と同じように《異能》を獲得し変異した上位存在です。』
《大食鼠》についてならば吾妻秀悟もその存在を確認したことがあった。
彼が三日間のサバイバル生活で捕えた魔物の中にその鼠のような魔物はいたのである。
全長は3〜40cmもある大きなネズミで、体毛は薄い茶色をしている。
繁殖能力が高く何でも食べるが、カズゥの大森林の生態ピラミッドにおいては下位に位置する程度の戦闘能力しか持たず、人間では食用に向かない微弱の毒性をその体内に宿していた。
吾妻秀悟はこの生物のことはあまり好きではないが、木の棒程度あれば吾妻秀悟程度の筋力でも容易に撃退できる位弱かったので、特別意識はしていなかった。
なので上位存在と言われても、あまりパッとしたイメージが湧かなかった。
「ふーん、上位存在ねぇ。あのネズミが進化したとか言われても強そうなイメージ湧かないなぁ。」
吾妻秀悟はぽりぽり頭を掻きながら柱に身を預けるようにもたれかかる。
しかし、次の《異界読本》の発言で、彼の心境は一変する。
『このまま手を打たないと、この国は《食尽王鼠》に滅ぼされますが、如何なさいますか?』
「えっ。」
吾妻秀悟は思わずずっこけた。




