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《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》〜嘘つきは転生者の始まり〜


「『勇者』のアンタがこんな所に現れたら、それこそ民衆の不安を煽っちまうんじゃねぇのか?」


「…………通信魔法でのファント・ガーフィールドから報告を受けた竜種(ドラゴン)、そして『地下通路』の件の直後に、格闘大会に『あの者』が現れたとなればそうも言っていられないでしょう。

『あの者』は少なくとも私も含めた『武装騎士団(ウエポンナイツ)』の張り巡らせた索敵系スキル・魔術を、容易にくぐり抜けられる程の実力の持ち主であることは明白。

こうなれば私自ら捜索隊に加わり、《天空王之眼(スカイジア)》の力でもって見破るしかありません。」


「まぁ、そうなんだがなぁ………。」




「(………ゆ……『勇者』…………?)」



吾妻秀吾はチェリン・ポルカルトの言葉にギョッとする。

勇者と言えばファンタジー作品において最強の称号に位置するという事くらい、《異界読本(ワールドマニュアル)》に聞けずとも吾妻秀吾にだって漠然とだが理解できる。

《異界読本》が言っていた《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》を看破できるスキルの持ち主と言うのは、信じられないがこの少女で間違いないのだろう。


『あの者』と言葉を濁してはいたが、文脈から察するにそれは『正体不明の異物(アンノウン)』………つまりは自分の事である。

彼女にその《天空王之眼》とか言うスキルを使われる前に、この場をさっさと立ち去ろうと吾妻秀吾は二人に踵を返す。



「(はぁ……なんだってんだよクソー……俺が何したって言うんだ………これじゃまるで犯罪者扱いじゃないかよぉ……!)」



だが去り際に、吾妻秀吾は自分は何も悪いことをした記憶も無いのに、『異世界人』であるというだけで勇者まで引っ張りだされる自分の境遇に、思わずボソッと愚痴を零してしまった。



「……『正体不明の異物』………か…。」


「…………え?」


吾妻秀吾は二人に聞こえない程度に呟いたつもりだったのだが、どうやら全身鎧の兜で声が反響してしまった様で、その愚痴を聞かれてしまった。

吾妻秀吾はその二人の反応に自分がやらかしたことを察して、思わず体を一瞬震わせた。



「(………………! しまった………!?)」



「チェリン………そちらの方は……?」


「いや……予選後行方をくらました『シューゴ・アヅマ』を探してる時に偶然声を掛けただけなんだが…………アンタ、何故『正体不明の異物』を知っている………?」



……………こうなってしまってはどうしようも無い。

吾妻秀吾は覚悟を決めた。



「(《異界読本》無しで………だ、騙し通すしかない………!)」という覚悟をーーーーーー





ーーーーーーーーーー◯ーーーーーーーーーー




「……おほん……。……知っていて当然です。俺はその『正体不明の異物』の噂を聞いて、この国に訪れたのだから。」


「………どういう事だ?」


「『正体不明の異物』を………追って……?」



吾妻秀吾はまずそう切り出した、あくまで自分は『正体不明の異物(あづましゅうご)』では無いと二人に印象付けなければならない。

その『お嬢』とやら(勇者・ミルシィ・スターライトという名をまだ吾妻秀吾は知らない)が所持しているであろう正体看破のスキルを使用されればアウトだ。

出来るだけ矛盾の少ない説明をしなければならない。



「カズゥの大森林に泥土王竜(スワンプドラゴンロード)という竜種(ドラゴン)が出現したのは知っていますか?どうやら王国騎士達が相対したと聞きましたが………。」


泥土王竜(スワンプドラゴンロード)…………!?」


吾妻秀吾のその発言に、チェリン・ポルカルトは目を見開く。

「(あれ?ファント・ガーフィールドからドラゴンの報告が有ったって聞こえたんだけど………)」と、吾妻秀吾は内心チェリン・ポルカルトの反応に戸惑ったが、ミルシィ・スターライトの声で我に帰り、平静を決めたおす。


「貴方は……あの『新種』のドラゴンの事を知っているのですか?」


「(新種だったのかよ!初耳だよ!)え、えぇ……俺の村を破壊し尽くした仇の一体です。」


「…………村を……!?」



『勇者』の質問に、吾妻秀吾は嘘に嘘を重ねながら、二人の反応を伺う。

被害者を装い同情買いつつ敵意を自分からずらす作戦は、どうやら掴みはいいようだ。

吾妻秀吾は心を痛めながらもさらに嘘を重ねる。


「奴の名は俺が勝手に付けました。かつて、魔王…………『正体不明の異物』を名乗る者が、俺の村にドラゴンを解き放ったんです。

……………俺は必死で立ち向かいましたが……………村のみんなは…………生き残ったのは俺一人でした。」



「…………アンタも魔王の被害者って訳か。」


「………大過の傷跡は二年ぐらいでは癒えはしないのですね………。」



「(ああ、俺の嘘に凄く同情してくれてるよこの人たち……多分性格いい人なんだろうなぁ………心が痛む)」



しかし、いくら良い人そうに見えたとしても、ここで自分の正体をバラしてしまうのは危険以外の何者でもない。

吾妻秀吾はそう考え、心を鬼にして嘘をつき通した。




「…………俺は勇者達による魔王の討伐後も、各地に生き残った魔王の残党とも呼べる『新種の竜種』を、生まれつき偶然持っていた『異能(スキル)』の力で討伐しながら、いままで各地を転々と旅していきました。…………帰る場所はもう俺には無いんでね(異世界転生的な意味で………)。」



「…………お一人で…………ですか?」


「? ええ、俺に仲間はいないので。」


「………………そうですか。」



「……………………(やばい、流石に感づいたか?)」




吾妻秀吾、チェリン・ポルカルト、ミルシィ・スターライトとの間に、嫌な沈黙が生まれた。



「(うぅ………なんだか胃がキリキリと痛くなってきた………。ほんとに俺が何したって言うんだよおお………)」


吾妻秀吾は内心いっぱいいっぱいだった。









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