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《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》〜なんか毎回何かしらから逃げてる気がする吾妻秀吾の視点〜


「……で、逃げるにしてもどうするよ?《異界読本(ワールドマニュアル)》先生?」


『《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》の『擬態能力』を使用することを推奨します。

このスカイジア王国内で現在、貴方に敵対するおそれのある存在の中では、《雄峰王之逆鱗》の擬態能力を看破できる存在は一人しか居ませんし、その人物のスキルを以ってしても、直接目視されない限り看破される事はありません。』


「んー?あぁ、そういやそんなのあったっけ?」



もう完全に格闘大会へのモチベーションを失っていた俺、吾妻秀吾は、チェリン・ポルカルトだとか言う面倒臭そうなお方にエンカウントせず此処からエスケープする術を、毎度お馴染み《異界読本》先生に御教授頂いていた。

《異界読本》の口(脳内に直接語りかけてくる以上、口が有るのか定かではないが)から出た《雄峰王之逆鱗》という言葉に、俺が思い出したかのようにうんうん頷く。

どうもあのスキル、ややこしくて扱いに困るんだよな、強いんだろうけど。


雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》とは要は『鎧を呼び出して装備する』、という防御用スキルなのだが、俺が宿場町に来てすぐのときに一瞬だけ見せた、鱗の模様だけが皮膚を薄っすらと覆い、索敵能力のみに反応して防御する様な鎧とも呼べないものも有れば、ガチガチに全身を装甲で固めた様な『全身鎧(フルプレートメイル)』の様なものも出せる(らしい)。


出した鎧のタイプで守備範囲や能力の適用率が変わるらしく、実際俺はまだ全身鎧タイプの《雄峰王之逆鱗》は使用したことが無かった。

だって蒸れそうだし悪目立ちしそうじゃん。


しかしこの状況では贅沢など言ってはいられない。

俺は心の中で「(《雄峰王之逆鱗》ッ!」と唱え、人生初の全身鎧を体感することになった。



「……………うーーむ」ガチャガチャ


「……………おーーぅ」ガチャガチャ


「……………ほうほう」ガチャガチャ



「…………………………なんか身長伸びてね?」



俺がまず最初に感じた疑問はそれだった。

どう見ても、身長170cmちょっとの俺の身長が、カズゥの大森林で出会ったファント・ガーフィールド以上はあろうかと思えるくらい伸びていたのである。

数値的に言うと大体2m位である、バスケットボールプレイヤーかな?。


と、そしてそれに正比例するように、貧弱だった俺の体格もガッチリとした筋骨隆々のボディへと変貌していた。

ライ◯ップもビックリの肉体改造であるが、所詮これは見掛け倒しの所謂『擬態能力』である。

鎧のデザイン自体は自分ではあんまり上手く全体像を把握できないので判断しかねるが、どうやら白い鎧らしい。

まぁ黒い鎧とかだったら威圧感半端なさそうだし目立ちそうではあったけども、逆に清潔感があって良かったのかもしれないと、俺は自分に言い聞かせつつ控え室を出た。


あの実況の女の人には悪いけど、決勝トーナメントは勝手にすっぽかさせてもらう事にする。

馬鹿正直に棄権の手続きとかやってたらあっという間に見つかっちゃうしね、仕方ないね。

許せアナウンサーさん、と俺は心の中で手を合わせた。



ーーーーーーーーーー◯ーーーーーーーーーー



ーーーーーーーどうやら『擬態能力』は功を奏しているようだ、まるで俺だとバレていない。

逃亡途中廊下でさっき予選で当たったオッさんとかとすれ違ったが、何にも気づかれなかった。

俺が吹っ飛ばした傷は浅かったようで一安心である。


このまま何事もなく大会会場を後にできれば良いのだが………。

とか思いながら受付近くのホールに出ると、ふと背後から少し聞き覚えのある声が聞こえてきた、悪い意味で聞き覚えのある声が。



「………ちょっと、そこのアンタ。白い全身鎧のアンタだよ。止まってくれ。」


「(………げ……この声は……)」



俺が振り返ると、そこには先ほどテンション高めの実況アナウンサーさんの隣にいた解説役の男………

『チェリン・ポルカルト』が、身の丈以上ある金属製の杖らしきものを片手に立っていた。



「(………やべ…………バレたか………?)」


「なぁアンタ…………?」



別に俺は《異界読本》が大丈夫だって言ったことを信用していない訳ではないのだ。

しかし、現にこうして引き止められてしまうと一抹の不安が脳裏を過る。

勘弁してほしい、ただでさえ《雄峰王之逆鱗》を使用している間は《異界読本》を使用出来ないのだ(スキルとはどうやら、同時に二種類以上使うことができない、との事らしい)、これ以上俺の不安要素を増やさないでくれ………!

俺は全身鎧で隠れているであろう顔を引きつらせながらも、必死に平静を装いつつ振舞うことにした。



「……………俺に何か用ですか?」


「あ、いや………アンタ自身に用があるわけじゃあないんだが、この辺りで黒髪黒目で黒い服を着た、目付きの悪い若い男を見なかったか?

大会の第二予選で派手な大立ち回りを演じた男なんだが…………?」


「………いや、その試合なら俺も観ていたから知っています、だが俺は見かけていませんね………。」


「…………そうか、見ていないか。」


「力になれず済いません………では。」


「……くそ………!どこ行きやがった………!」




ーーーーあぶねええええええええええええ!


どうやらこのスキルを使用している間は声も変えられるらしい、必死に声を作って損した気分だが、どうやら

うまく誤魔化せた様だ。

俺は安堵に胸を撫で下ろしながらそそくさとその場を離れようとした、その時だった。



「チェリンッ!無事ですか!!」



少女の澄んだ声がホール内に響く。

俺は思わずその声のする方へ目をやると、そこには一人の可愛らしい騎士のような少女が立っていた。


その容姿は、先ほど出会った西尾真央とはまたベクトルの異なる美しさで、西尾真央を妖艶と評するなら彼女は可憐といった評価だろうか。

その両目は深い翡翠色を宿し、淡い金色の髪を綺麗に切り揃えていた。

肌は西尾真央と同じくらい白く、それが彼女の煌めくような美しさに拍車をかけるようだった。

そして彼女は、防御面より運動面を考慮した様な、儀典用鎧を思わせる作りの薄い白銀の装甲の鎧を身に纏い、腰には彼女が振るうには少し長いように思う細剣を提げていたが、その容姿も相まって、まるで一つの芸術作品のようであり、ホールにいた他の人達は思わず息を飲んでしまう程の完成度を誇っていた。

惜しむらくは彼女は西尾真央に比べてもまだ幼い位の歳な様で、ぱっと見良くて中学上がりたてと言った位にしか見えなかった事くらいか。


一瞬見とれていた俺は「(イカンイカン、俺は大人のお姉さんタイプが好きなんだ)」と意味不明な精神回復法を展開しつつ、首を軽く振る。

と、名前を呼ばれたチェリン・ポルカルトは、頭を掻きながら困ったような表情で呟いた。



「ありゃぁ、来ちゃったんですかい、『お嬢』…………?」


「当然です。ファント・ガーフィールドがカズゥの大森林から未だ戻らぬ時に、あの様な一報があれば心配にならぬ主人がいましょうか?」


「(……………『お嬢』?)」




ーーーーーーーこれが俺、異世界人・吾妻秀悟と、勇者・ミルシィ・スターライトとの奇妙な関係の幕開けとなるのだが、この時の俺はまだ、知る由もなかった。









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