《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》〜少女に金を恵んでもらう系チート主人公〜
「やぁ、初めまして。さっきの試合すごかったねぇ。」
「…………え………えーと………あの、ど、どちら様?」
吾妻秀吾が最初にいた控え室に戻ると、そこに見知らぬ『少女』が木製の椅子に腰掛けていた。
長い絹のような滑らかな黒髪に凛とした紅い瞳、服装は髪の色と同じ黒のワンピースだ。
体格は平均的な日本中学生女子程度に控えめではあったが、どこか妖艶な色気を醸し出していた。
少女は最初から控え室に置いてあったのであろう粗末な作りの椅子をギィギィ鳴らしながら、吾妻秀吾に微笑み掛けた。
そのゾッとするような瞳の輝きに、思わず吾妻秀吾はクギ付けになってしまう。
「いやぁ、ボクってばキミのファンになっちゃってさぁ。少しでいいからお話ししたいなぁ、なーんて思っちゃって。」
「は………はぁ。」
この控え室まで来るのに誰にも引き止められなかったのだろうか?もしかしたら大会関係者の娘さんとかなのだろうか?そんな事を考えながら吾妻秀吾は彼女を見ていると、彼女はその微笑みを崩さぬままに語りかけてきた。
「あの風とか扉とかって魔法?それとも異能なのかな?どっちにしてもあれだけの規模の能力は中々無いよ。すごいねぇ、キミ。」
「はぁ、それほどでも。」
「でさ、話を本題に移らせてもらうけど、君って『異世界人』でしょ?」
「ええ、そうなん………って、ええ!?」
突如飛び出したその言葉に我が耳を疑う吾妻秀吾の、その驚愕に目を見開いた表情を確認して微笑む少女は、満足げに微笑む。
「驚かなくてもいいよ。ボクもキミと同じ『異世界人』なんだ。」
「え……君も………俺と同じ………?」
「出身世界は違うかも、だけどね。」
突如湧いて出た驚愕の事実の連続に、吾妻秀吾は頭の中がパニックになりそうなのを必死で堪える。
少女はそんな吾妻秀吾の心境を他所に、話を続けた。
「………話を続けるよ、キミは早くこの国から出たほうが良い。どうやらキミは『正体不明の異物』としてこの国の上層部に観測されてしまったようなんだ。」
「………アンノウン?」
吾妻秀吾がその聞きなれないワードに疑問符を浮かべると、何故か少女と出会ってから黙りを決め込んでいた《異界読本》が唐突に口を挟んできた。
『お答えします。『正体不明の異物』とは、この世界上でいうところの異世界から現れた物体・生命体の総称です。『ディアヴォリアス』の魔王戦経験者達の多くは、この『正体不明の異物』を、かつてこの世界を破壊した『魔王』と同一視して忌み嫌っています。』
「(………はぁ!?……だ……だからそういう事は先に言えとだなぁ……………。)」
そう考えると、吾妻秀吾の小屋にファント・ガーフィールドが訪ねてきたのにも説明がつく。
魔物退治というのは建前で、本当の目的は吾妻秀吾の捜索だったのだ、と吾妻秀吾は今更になって《異界読本》が『逃げた方がいい』と進言してきた意味を理解し、『今度からどんな些細なことでも聞いておこう。』と、《異界読本》のお役所仕事への対応策を心に刻んだ。
吾妻秀吾が自戒し溜息を吐いたくらいのタイミングで、少女はひょいっと椅子から立ち上がる。
「そろそろ、恐らくあの解説役に座っていたチェリン・ポルカルト辺りがキミの正体に勘付いて、接触を試みようとしてくるだろう。…………逃げておかないとまずいんじゃないかな?』
「えぇ、マジかよ………。せっかく賞金が目の前にあるっていうのに………また宿無しかぁ……。」
がっくりと肩を落とす吾妻秀吾に、少女はケラケラと微笑する。
「ははっ、キミは面白いコだねぇ?お金が欲しいのかい?そらっ」
そう言うと少女は吾妻秀吾に向けて皮袋のようなものを投げ渡した。
吾妻秀吾が慌ててキャッチすると中からじゃりんっと、金属が擦れたような音がする。
「………これって?」
「餞別だよ、中に銀貨が40枚くらい入ってるから、大事に使うといい。」
「マジですか!?」
「マジですよ。」
吾妻秀吾の今日何回目かの驚愕の表情に、少女は変わらぬ微笑みで返す。
と、少女は吾妻秀吾に皮袋を投げ渡した後、トコトコと歩き出して控え室の入り口まで差し掛かった。
「あぁ、言い忘れてた、ボクの名前はマオ。
『西尾真央』、よろしくねシューゴ君。」
「………あっ……ありが……」
吾妻秀吾が彼女ーーーーー西尾真央に礼を言い切るよりも先に、彼女は控え室から音もなく姿を消した。
スキルを使ったのか魔法を使ったのか定かでは無いが、彼女自身も『異世界人』であるならば、此処に来るのもリスクを伴う行動であったハズなのだ。
吾妻秀吾は皮袋の重みを感じながら、誰もいない控え室で一人つぶやいた。
「借り…………作っちゃったな。」
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武闘会場の外にある宿場町の建物の一つ、その屋根の上に西尾真央は立っていた。
傍には彼女に跪く一つの影。
その影は人間のような四肢を持ちながら、その外見は全く人と異なる造形をしていた。
薄い皮膚を折り畳んだような、蝙蝠とも虫とも呼べぬ翼が腕と一体化していて、頭は肩に埋もれて赤い目だけを怪しく光らせている。
全身は灰色の表皮に覆われ、その顔には鼻も口も見当たらない。
異形の怪物は、跪いたままの姿勢で、その口も何もない顔の表皮を歪ませながら西尾真央に話しかけてきた。
「…………此れで宜しかったのでしょうか?私にはあの男に助け舟を出す意味は無いと思いますが………。」
くぐもったような声で語りかけてくる異形に、西尾真央は笑顔で答える。
「いいんだ『モスマン』、ああやって『勇者』達を引きつけてくれているだけでも彼には利用価値がある。それにーーーーーーーーーーー」
西尾真央は『モスマン』と呼んだ傍の異形の頭を撫でながら、言葉を連ねる。
「ーーーーーーー同じ『樹形の異能』の好だ、仲良くしていて損はなかろうよ。」
彼女はそれだけ言うと、モスマンを撫でていた手を離して、そのまま自身の前にかざした。
「ーーーーーーー《異形降臨術》。)
ほうっと右掌が淡く発光したと同時に、彼女の前の空間が歪に歪み、そこから異様に背の高い黒スーツを着込んだ異形が姿を現した。
「ーーーーーお呼びでございましょうか我が主人。」
「あぁ、そろそろ家に帰ろうと思うからボクたちを送って行ってくれ、『スレンダーマン』。」
傅き頭を垂れる長身の異形に『スレンダーマン』と呼んだ西尾真央は、吾妻秀吾に見せたような笑顔を見せる。
『スレンダーマン』と呼ばれた異形はゆっくりと立ち上がると、仰々しいまで丁寧に、西尾真央の手をそっと握った。
「貴女様の御心のままにーーーーーーーー『魔王』様。」
ーーーーーーーーー不吉な言葉を残し、西尾真央と二体の異形は、再び音もなく消え去った。
西尾真央の作成スキル
アタックスキル
《異形降臨術》




