《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》〜ここでネタばらし、これには吾妻秀吾も苦笑い〜
「う……上手くいって良かった……」
湧き上がる歓声の中、吾妻秀吾は武舞台を降りながらそう呟いた。
《異界読本》には『問題ありません、成功します。』とお墨付きを貰ってはいたものの、言うは易し行うは難しという言葉もある、第一あんな血気盛んな筋肉マッチョマンに囲まれて緊張しないほうがおかしい話だ、と吾妻秀吾は胸を撫で下ろしつつ控え室に続く廊下へと進んでいった。
ーーーーーーあの風の正体、それは『下降気流』だ。
ダウンバーストとは、吾妻秀吾の世界でも起こりうる自然現象の一種で、積乱雲等の雲を形成する際に発生する上昇気流が、減衰期に入ることで降水粒子が周囲の空気に摩擦効果を働きかけることで発生する地上にすら甚大な被害をもたらす程の強力な下降気流である(らしい、と吾妻秀吾は《異界読本》に聞いた。)。
つまり気圧の変化による自然現象である、ならばそのある一定範囲の空気を《万物名工》で加工してやれば作れるのではないか?自分に降りかかる風は武舞台に穴掘って防御すればいいんじゃないか?(実際のところ細かい作業は《万物名工》頼りではあるが。)
そう考えた吾妻秀吾は《異界読本》に相談し、ダウンバーストで自分以外の参加者をまとめて吹っ飛ばす戦法を完成させたのだ。
「…………でもなぁ……。」
結果は大成功だったが、吾妻秀吾は周囲を見渡しつつ、二度とやらないと誓った。
なぜならーーーーーーーー
「……うぅ……」
「いでぇよぉ……」
「が………は……」
「治療班!急いでっ!」
「もう大丈夫ですからねー」
「………………や、やり過ぎた………………。」
ーーーーーーーーー穴から外に出てみれば、そこは地獄絵図になっていたからだった。
そう、この『下降気流』、威力の加減ができないのだ。
吾妻秀吾は遠くで伸びている親切なおっちゃんに「(受け身で済ませられなくてすいません)」と、心の中で謝罪の言葉を述べながら、一人控え室へと帰っていった。
ーーーーーーーーーー◯ーーーーーーーーーー
「いやぁ〜〜〜っ!すごい人が現れたもんですね!…………って、チェリン様どこ行かれるんですか?」
ジュリア・アルフィートはフンフンと鼻息を荒くしながら隣にいるはずのチェリン・ポルカルトに話しかけようと横を向いたのだが、チェリン・ポルカルトはいつの間にかこっそり席を立っていた。
チェリン・ポルカルトは振り返りながらジュリア・アルフィートにしゅっと右手を上げながら微笑む。
「悪い!ちょっとトイレ!!すぐ戻るからよ」
それだけ言い残すと、そそくさとチェリン・ポルカルトはどこかへ行ってしまった。
ジュリア・アルフィートは頬を膨らませながら両腕をぶんぶん振り回す。
「ちょっ……もぉ〜〜〜〜〜っ!もう第三ブロックの予選始まりますよぅ!!」
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー
「………………俺だ、チェリン・ポルカルトだ。」
「…………如何なされました?チェリン。」
薄暗い武闘会場の空き部屋で、チェリン・ポルカルトは背中に背負っていた杖を空中に展開しながら、虚空に浮かぶ『誰か』の虚像と話をしていた。
声の主は幼く、若い女のようであった。
「あぁ……………実はな…………」
チェリン・ポルカルトは一拍置いてから、虚空の声に向かい、市意見な面持ちで呟いた。
「……………多分、見つけたぜ。『正体不明の異物』をよ……………………………………『ミルシィ嬢』……!」
「…………何……っ!?」
虚空の声の主、通信魔法によって繋がったスカイジア城の玉座に座る幼き『勇者』、ミルシィ・スターライトは声を詰まらせた。




