《雄峰王之逆鱗(マウンティガスケイル)》〜ジュリア・アルフィートの視点〜
『それでは第二ブロック予選………試合開始ぃ!!」
私の声と同時に、武闘会場に備え付けられた大鐘が鳴り響き、男達が雄叫びと共に自身の得物を抜きます。
その目にはギラギラとした光が宿り、観客たちもその荒々しい光に当てられたかのように歓声をあげました。
………………くぅ〜〜〜〜〜〜っ!これですよこれ!
弾ける筋肉!ほとばしる汗!炸裂する魔法!火花を散らす両手剣!
100年前に全世界を震撼させた『魔王』の出現、その時颯爽と現れ世界を救った領域王に選ばれし『五宝の勇者』ーーーーーーーーー
ーーーーーその『強靭な力』というものに魅せられて、競争倍率の極めて高い国家公認の冒険者ギルド職員なんて仕事に就いた私ですが(いかんせん私に戦いの才能はありませんでした)、こうして冒険者ギルドと『武装騎士団』の共同主催による騎士選抜大会において、おそらく私以上にこの大会を知り尽くしている人間はいないだろうと自負できる自信があります!
……………しかし、そんな私をもってしても、この試合は前代未聞のものとなってしまいました。
それは、解説役に招いたチェリン・ポルカルト様の一言から始まりました。
「ジュリアちゃんは注目してる選手とかいんの?」
「はい!第二ブロックでしたらやっぱりギルドランクAにも所属してる『大爆拳』のゴードン・ゴリズンさんか、北方の軍事国家ローシェ出身の凄腕用心棒『暗刃』のシューター・アーノンさんでしょうか!」
「へぇ、『大爆拳』のオッサンはともかく、『暗刃』もこのブロックなのか。」
「はい!今回シューター・アーノンさんにインタビューした所、10年前この大会で殿堂入りを果たし、見事部隊長としての座と『魔王』討伐隊入りを果たしたチェリン・ポルカルト様にリベンジマッチを申し込みたいと、静かな闘志を燃やしておられました!」
「10年も前の事まーだ根に持ってんのか、ははっがんばれよー」
「チェリン様、拡声魔法拡声魔法!」
「あー、悪い悪い」
ちなみにインタビューは私の個人的な趣味だったりします。
まぁ役得ってことで、えへへ。
私がそんなことを考えてると、チェリン様がふと妙なことを言い始めました。
「ん?確か予選ってブロックごとに50人で行われるんだよな?」
「はい、そうですよ?今回の参加者は全部で400人丁度でしたので、8ブロックに分かれて行われておりますが?」
「じゃあ何でこのブロック、『49人』しかいねぇの?」
「へ?」
チェリン様のその言葉に私はがばっと武舞台を覗き込みます。
………う〜〜ん?混戦になっていてよくわかりません。
というかチェリン様もよくこの状態で人数なんて把握できますよね……流石は《白金剣聖》ミルシィ・スターライト様の側近!
でも、どうやら場外になった人は見受けられません。それくらいだったら私でもわかるはずですし……………。
と、その時でした。
チェリン様がふとこんな言葉をつぶやいたんです。
「………………何かくるな。」
「へ?何かって………?」
チェリン様の声に私は一瞬疑問符を浮かべます
しかし次の瞬間、その言葉の意味を理解しました。
「ーーーー《万物名工》!!」
その言葉と同時に武舞台に向けて、空から風が『落ちてきた』のです。
ーーーーーーーーーー◯ーーーーーーーーーー
唸りを上げ『落下』してきた暴風に、武舞台にいた全ての参加者たちは投げ出されました。
観客席は予め設置されていた守護の魔法障壁でどうにか被害が出ずに済みました。
しかし、武舞台にはもう誰一人として残っている人はいませんでした。
「な………なにが起こって………?」
私はこの突然起こった不可思議な『災害』を目の当たりにして、予選のやり直しも頭によぎりました。
しかし、チェリン様は武舞台に指をさしながら口角を上げました。
「………見ろよ、生き残ってる奴がいたぜ。」
「えっ……?」
私もつられてチェリン様の指先を目で追います。
するとそこには、いつの間にか石で出来た扉のようなモノが武舞台のど真ん中にくっついていました。
よく見ると、その扉からひょっこり人の腕のようなものがはみ出ています。
するとーーーーー
「ふぅ〜、終わりました?」
ーーーーー漆黒の服に身を包んだ何者かが、扉の中から現れました。
あの人は確か………最後あたりに受付に来ていた男の子……………!
私は手元の書類を漁って、彼の参加登録書を確認します。
「あった………!シューゴ・アヅマ………?」
そうです!変わった名前と格好だったので印象に残ったのを覚えています。
あの人が………今の『暴風』を………………?
あっけに取られていた私に、チェリン様がにやりと私を見つめました。
「勝利宣言してやればどうだい?アイツも困ってるみてぇだぜ?」
「………あっ!は、はい!」
危うく仕事を忘れるところでした。
私は大きな声で宣言します。
「第二ブロック予選っ!栄えある決勝トーナメントに駒を進めたのはぁぁっ!シューゴ・アヅマァァーーーーーッ!!」
これは、私の要チェックリストに新たな名前を刻む必要がありますね。
私は、あの髪も瞳も服まで真っ黒な、不思議な青年に興味を惹かれました。




