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第9話
藤原詩織が見たのは、『五』が反手に骨専用ナイフを握りしめ、高橋美咲の首に突きつけたまま、彼女の家から出てきた時のことだった。
狙撃手の赤いドットが、すでに彼女の額を捉えていた。
その一瞬、藤原詩織は叫ぼうとした。
撃つな! 彼女は美咲を殺すつもりはない!
しかし、すでに遅かった。
ナイフの切先が高橋美咲の体に突き刺さる。
狙撃手が引き金を引いた。
弾丸が『五』の眉間に命中した。
十数年間彼女の傍にあった骨専用ナイフが地面に落ちた。
彼女が倒れ、その顔には、どこか安らかな微笑みが浮かんでいた。
藤原詩織は、事態が違うことに気づいた。これは彼女自身が仕組んだ結末だったのだ。
警察官たちがなだれ込んだ。
藤原詩織は、高橋美咲が毛布に包まれ、救急車に運ばれていくのを見た。
彼女の目元は赤くはれ、瞳には涙があった。
恐怖のせいのようでもあり、そうでもないようでもあった。
藤原詩織は呆然と遠くを見つめていた。
二十年ぶりに、テロリスト鈴木浩平グループの最後の一人が射殺された。
しかし、すべての手がかりは断たれ、藤原詩織は最後まで『五』と言葉を交わすことも、事件の来龍去脈を問い質すこともできなかった。




